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第十八話  毒入りクッキー

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 結果から言うと足の骨を折ったお母様は、夫が不在の隙を突いて神殿までやって来ることに成功し、片足の骨を折って松葉杖状態だというのに、なんと、なんと、巫女候補の私に対して差し入れと称して毒入りのクッキーを持って来たのよ〜。


 恐ろしいことに毒入りクッキーはお母様の手作りよ!お金を掴ませた神官を使って毒入りクッキーを持って行かせることに成功したお母様は、毒入りではないクッキーを持って姉のヘンリエッタお姉様の元まで行くと、仲良くお茶を飲み始めたというの。


 私は大神官様とお仕事をしていた関係で、母の手作りクッキーは上級神官様が用意したお茶と一緒に運ばれて来たのだけれど、

「このクッキーは手作りのように見えるが、誰が持って来たものなのかね?」

 という大神官様の問いかけに、

「シャリエール伯爵夫人です、大神官様」

 にっこりと上級神官様は笑って答えたの。


 巫女候補という立場を辞退した私はこっそりと身柄を保護されているし、私が何処に居るのかっていうことは極少数しか知らないことなの。骨が折れて苦しんでいるというのに、わざわざ手作りのクッキーを持って神殿までやって来たという話を下級神官から聞いた上級神官様は、私がここに居るってことを知っている人だったのよね。


 巫女候補として神殿に上がるとなかなか家族に会うことも出来ないし、寂しい思いをしているだろうと思ってくれたみたい。


「アン様のお母様も実の娘に会うことも出来ず、悲しい思いをされているようです。せめて娘が懐かしく思う母手作りの味を持って行って欲しいと言われまして、茶請けとして持って来たのですがまずかったでしょうか?」


 懐かしく思う母の手作りの味なんて、今まで一度として食べたことなどないわ。お母様は確かにお菓子を作るのが趣味だそうだけれど、私なんて一度として口にしたことがないし、作られた物はヘンリエッタお姉様とお父様のお口に運ばれるだけ。


「アンシェリークもお母様の手作りクッキー食べたいでしょう?」


 幼い頃、姉はそう言って美味しそうなクッキーを私の目の前に差し出したのだけれど、私が手に取る前に落として足で踏みつけていたわよね。あの時の姉の笑顔ったら凄かったわ〜。あんな幼い時から『悪女』っていう感じの笑みだったもの〜。


 大神官様はちょっと考え込んだ後に、こんなことを言い出したのよ。

「ふむ、母の手作りであればさぞや美味しいのだろうな。であるのなら、お前がまずは一枚、食べてみよ」

「私がですか?」

 色白でぷくぷく太った神官様は、甘いのが大好きって感じの人なんだけれど、クッキーと私を交互に見つめながら、

「ですが、これはご令嬢へのプレゼントですし・・」

 と、言い出したの。

「いわゆる毒味という奴だよ、それなら問題ないだろう?」

「そうですか?では、遠慮なく頂きます!」


 神官は申し訳なさそうにぺこりと頭を下げながらクッキーを一枚手に取って、嬉しそうに自分の口の中に放り込むところだったのだけれど、

「ああ、待ってくれ」

 大神官様は別のクッキーを侍従に持って来させながら、

「それは毒入りのようだから、他のものを食べなさい」

 と、言い出したのよ。


 母手作りのクッキーの中にはカシアスの根というものが含まれており、これを煎じたものをひと匙呑み込めば、あっという間に血液をドロドロにして二日後には死に至るのですって。高熱を加えるとツンと鼻につくような独特な匂いがするのがカシアスの特徴だというの。


 母が足の骨を折ったのは私の所為でも何でもないし、母の骨折と私は何も関係ないとは思うのだけれど、骨を折った恨みが私に何故だか向かうことになってしまって、

「アンシェリーク!殺す!」

 という感じになってしまったのかしら?分からないけれど、手作りのクッキーに毒を仕込んで神官様を使って私に渡そうとしたわけね。


 その毒入りクッキー、運が悪いことに大神官様の前にまで届いてしまったので『大神官様を暗殺しようとした』容疑がお母様の上に燦然と輝くことになってしまったの。


「本当に、何でわざわざ神殿で殺そうと思ったのかしら?巫女が決まれば私は伯爵邸に帰ることになるのだし、その時に殺そうとすれば邪魔も入らないというのに、なんでわざわざ毒入りのクッキーなんて用意したのかしら?」


 私の疑問にフィルベルトが答えてくれたのだけれど、

「巷ではアンシェリーク様こそが女神が遣わした巫女じゃないかと言われ始めているから、姉のヘンリエッタ様を巫女にしたいお母さんの殺意に火をつける形になったんじゃないの?」

 意味不明、私が巫女ってなんじゃそりゃ。


 娘への毒入りプレゼントが大神官様の前にまで行ってしまうとは思いもしなかったお母様は、

「大神官様暗殺の疑いで身柄を拘束します!」

 と言われて神殿騎士に捕えられた時には、

「私は大神官様を殺そうとなんてしていませんわ!」

 と、大騒ぎしたみたい。大神官様を殺そうとはしなかったけれど、実の娘である私は殺そうとしたのよね。本当に恐ろしい人だわ。


 もちろん、お母様と一緒にお茶を楽しんでいたお姉様もパニック状態よ。

「お母様は足に怪我を負われているのですよ!そんな状態でどうやって大神官様が殺せると言うのですか!」

「それは毒を使って」

「毒ですって!」

 毒と聞いて、お姉様はその場であっという間に失神してしまったそうよ。


 なにしろヘンリエッタお姉様は太陽を溶かし込んだような黄金の髪を持つ、女神の化身とも言われる美しい人なので、殺人容疑がかかった母親と一緒にお茶を飲んでいた娘だというのに、神官様も騎士様も、甲斐甲斐しく失神したお姉様のお世話をしていたそうよ。


 大神官様を暗殺するところだったなんて話はあっという間にアルンヘム本島に広がって行ったし、王宮からはそのような謀反人は王宮で処分するから渡すようにとも言われたのだけれど、大神官様は渡すのを拒否。


 大神官様としてはカシアスの根というリェージュ大陸でしか採れない希少な毒を使われたということで、毒入りクッキーを用意したのはシャリエール伯爵夫人だけれど、その裏には王家が絡んでいるのではないかと考えたみたい。


 身柄を拘束されたお母様だけれど、

「大神官様を殺そうとなんてしていません!」

 と、言うだけで、後はダンマリを決め込んでいるため、その晩は神殿の地下にある霊廟横の牢屋に入れられることになったのよ。神殿には寄進されたお金目当てで泥棒が入ることもあるし、捕まえることもあるので、牢屋っていうものがきちんと用意されているのね〜。


 それにしても、無鉄砲なお母様のお陰でシャリエール伯爵家は終了のお知らせを受けそうな状態ね。神殿では最高位に就く大神官様を殺そうとしたのだもの、間違いなくシャリエール伯爵家は破門処分を受けるでしょう。最近ではカウペルス家とダンメルス家が破門されているから、もう一個破門が増えたくらいで神殿としては痛くも痒くもないでしょうしね。


 女神の化身とも言われるお姉様が巫女になるのはもう絶望的と言っても良いわね。ということで、残った巫女候補とその家族たちが大喜びしたのは言うまでもないわ。


 巫女に決定したら、それ即ち、王太子ベルナールの妃になるってことですもの。今までは容姿が飛び抜けて美しいお姉様がベルナール王子のお気に入りだったこともあって、周りの巫女候補は諦めているところだったし、側妃狙いで甘んじていたところもある。


 だけど、もしかしたら、自分が正妃になれるかもしれないっていうのだもの。コルネリア様は修道院に移動してしまったし、ブラリュネ子爵令嬢は部屋に引きこもり状態からの巫女候補辞退。私も辞退しているし、姉も巫女どころではない状態なので、残るは四人!自分の娘が王妃になるかもしれないのだから、何処の家も興奮冷めやらない状態となっていることでしょうね。


過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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