第十五話 足を折る
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平民身分のフィルベルトと共にお茶会に参加すれば、何かしらの嫌がらせを受けることになるだろうとは思ったものの、出だしからバケツの水を頭からかけられることになるとは思いもしなかったわね。
フィルは平民で黒髪でも乙女みたいな顔だから、身分なんか関係なくうっとりとするような令嬢でも出て来るかしらと思ったものの、まずは顔をきちんと見る前に、水の洗礼を受けさせることにしたみたい。
心傷ついたブラリュネ子爵令嬢は部屋に引きこもりとなっているため、テーブルについた五人の令嬢は嘲笑うように私たちの方を見ているのだけれど、姉一人だけはまるで悲劇のヒロインのように立ち上がり、瞳に涙を盛り上がらせながら、
「アンシェリーク!大丈夫?」
と、声を上げたのよ。
そうして、キッとコルネリア嬢を睨みつけながら怒りの声を上げる。
「私の妹にバケツの水をかけるなんてどういうことなの?淑女としてあり得ない行為ですわ!」
今、巫女候補はヘンリエッタお姉様とコリネリア嬢で令嬢たちの派閥を作り、どちらがどれだけベルナール王子に愛されているかというくだらない争いを続けている。
もちろん、優勢なのは女神の化身とも言われる容姿のお姉様、次点が真っ赤な髪の美女コルネリア嬢という感じみたい。
「お姉様、お怒りにならなくても結構ですわ。今日は皆様にお話したいことがありましたので、それだけ話したらすぐにお暇させて頂きますので」
そこで私の後ろに立つフィルベルトの方へ、周囲の視線は一気に集まる。なかなか専属の護衛が決まらなかったアンシェリークに護衛の騎士がつけられた。それが、まるで乙女のような顔をした十七歳の平民騎士だというのだから、ぽっと頬を染めながらフィルベルトを見つめている巫女候補だっているみたいだ。
私がいつもの末席にずぶ濡れのまま座ったので、隣の令嬢はギョッとした様子だったけれど、そんなことは無視して姉のすぐ近くに座るコルネリア嬢の方へ視線を向けた。
「お話をしたいというのは、コルネリア様が私にお茶をかけたのが二回、水をかけたのが三回、わざと噴水に落としたのが一回、今のバケツの水がコルネリア様の手配によるものだとしたら、それも一回追加されることと思います」
専属の騎士がつけば、必ず巫女候補が集まるお茶会で紹介されることになる。騎士の家柄によって巫女候補の格というものが示されるらしくて、非常に重要な発表の場ということになるらしい。だけど私は、コルネリア様の方へ指折り数えながら微笑みを浮かべて言い出した。
「私のお姉様は、巫女の化身と言われるほどに美しいでしょう?我が伯爵家では女神が遣わした巫女はお姉様に違いないと断言しておりますし、そうなると女神が遣わした巫女の妹である私にも、ついでとばかりに女神様も視界に入れているような状態だと思うのです」
「アンシェリーク!あなた、またそんな妄言を言うつもりなの?」
一瞬、額に青筋を浮き上がらせたお姉様は、その後には憐れを装い、ハンカチを自分の目尻に当てながら言い出した。
「私の憐れな妹は、私が巫女だから自分にも女神様の加護がカケラ程度には与えられていると断言するのです。決してそんなことはないというのに・・本当にごめんなさい・・妹は妄想癖があるみたいで」
「いいえ、お姉様、妄想でも妄言でもありませんわ」
私は頬に手を当てて小首を傾げながら言ってやったわ。
「私も神殿に上がってから何もなかったので、今までのことはやはり気の所為だったのかと思っていたのですけれど・・一昨日、コルネリア様のおばあさまの葬儀が神殿で行われたので、あらあ?と、思ってしまいましたの」
自分の涙を拭うような素振りをしていたお姉様は、明らかに顔色を変えて、私の方を凝然とした様子で見つめ出した。
「お姉様もご存知でしょう?巫女の加護を受けているお姉様のおこぼれに預かっている妹の私に悪意を向けると、誰しも足に大怪我を負うことになるって」
ずぶ濡れの私は扇子を取り出してオホホホホと笑いながら言ってやったわ。
「一昨日、葬儀をあげたコルネリア様のおばあさま、椅子の足に自分の足を引っ掛けて転んで、ポキリと足を折ってしまったのだけれど、その足を折った日というのが、コルネリア様が私に向けて初めてお茶をかけた日だったのよ」
神官見習いのマルクが用意してくれた報告書をフィルベルトがテーブルの上に載せてくれたので、
「まあ!これは水に濡れなかったのね!良かったわ〜!」
と、言いながら、私は報告書とメモ用紙を照らし合わせていく。
「これを見ると、コルネリア様が私を噴水に突き落とした時に、おばあさまは高熱を発して生死を彷徨うことになったみたい。やっぱり大きなことをすれば、大きな仕返しが返って来るということかしら?水やお茶をかけた日には、折れた骨の周囲がどんどんと腐って症状が悪化したみたいですわね!」
呆然とした様子で、顔が真っ青となっているコルネリア嬢の方を見ながら、
「神殿というのはやはり何かを守る力があるのでしょうね?本来なら、コルネリア様に向かうはずの女神様の天罰が、お血筋であるおばあさまに降りかかることになるなんて・・」
両手で口を押さえながら言ってやったわ。
「このことはすでにコルネリア様のお母様の実家、ストクフィス伯爵家にお手紙でお知らせしているの。だって巫女の妹である私をあなたが虐めたことで、これほど恐ろしい天罰が降っているのですもの。その他の家族だって何があるか分からないのだから自衛の意味で備えなければなりませんものね!」
「嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ!」
姉が立ち上って言い出した。
「女神様がそんな無慈悲なことをするわけがないじゃない!アンが言っていることは全て嘘だわ!」
そう言って、心配そうに寄り添う護衛騎士の胸を借りて咽び泣く姉の姿は美しいと断言出来るでしょう。
「ですが、女神様の怒りは私たちのお父様の足の骨すら折ってしまったではないですか」
みんなが咽び泣く姉の方に視線が集中しそうになっていたので、私は爆弾発言を投下しましたとも。
「それに最近なってですが、私たちのお母様も足の骨を折ったそうです」
「はあ?私!そんなこと聞いていないわよ!」
「それはそうですわ!お母様だって巫女たるお姉様に心配をかけたくなくて黙っていたのですから」
神殿の外に出て行くことが多い神官見習いのマルクに、最近、貴族の中で足の骨を折ったような人はいないか探るように命じたのだけれど、私もまさか、自分の母親が骨折しているとは思いもしなかったわ。
「私はこの神殿に来てから、満足に食事が与えられていませんし、部屋だってどんどんと粗末な部屋へと移動されていますもの」
これはお姉様のお手配のものであることは証明されているので、今回はお姉様への罰がお母様に飛び火したということになるのでしょう。
「以前にもこういうことがあったじゃないですか?ねえ?お姉様?」
いつもは賑やかなお茶会の席がシンと静まり返ってしまったので、
「うっふっふっふっ」
という私の笑い声だけが響いている。
六人いる護衛騎士ですら顔が土気色なのだもの。特に、私にバケツで水をかけた二人の騎士は目に見えるほどガタガタ震えちゃっているわ。今日から私の専属護衛騎士となったフィルベルトはどんな顔をしているのかしら?とりあえず、彼は私の後ろに立っているので顔色を確認することは出来ないのだけれど。
「とにかく、お姉様の妹であるおかげで私は無事でいられるのです。お姉様、本当に有り難うございます」
椅子から立ち上がった私はそう言って、深々と頭を下げると、
「これほど立派な姉が巫女としているというのに、妹の私が巫女の候補として存在するのも烏滸がましいと思いますので、今日をもって私は巫女候補を降りさせて頂くこととなりました」
と言って満面の笑みを浮かべる。
「一応、大神官様の計らいで護衛騎士はついたままとなりますが、もう私は巫女の候補ではありませんので、このような場に現れることもありません。ただ、巫女の決定までは神殿に滞在することが決められているようですので、何処かで顔を合わせた時には、どうぞ良しなにお願い致しますわ」
そう言ってずぶ濡れの私とフィルベルトは退場したのだけれど、そのあと大騒ぎになったのは仕方がないことですわよね。
過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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