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第十四話  出迎える方法

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「まあ!アンシェリーク様!お顔もまともに洗わずにいるなんて、レディとして信じられませんわ!」


 巫女の候補は八人いるけれど、ボスマン伯爵家の令嬢であるコルネリア嬢はかなり好戦的な性格をしているみたい。


 朝食の後、部屋でゆっくりとした後に巫女候補たちはお茶会をするのが通例なのだけれど、一人だけ食堂を使えない私はここで巫女候補たちに始めて顔を合わせることになるの。最近、気に食わないことがあるとコルネリア嬢は私に難癖をつけて、水やお茶といったものを頭からかけるようなことをする。


 ベルナール王子は赤毛で美人のコルネリアにも手を出しているので、もしかしたら王子はヘンリエッタお姉様ではなく、自分を巫女として迎え入れるのではないかと淡い期待を持っている。


 だけど、ベルナール王子は最近になって趣向を変えることにしたみたいで、身もちも堅いブラリュネ子爵家の令嬢に手を出した。以降、体調不良を理由にブラリュネ子爵令嬢は部屋に引きこもりの状態らしいのだけれど、このことはコルネリアのプライドを大きく傷つけることになったみたい。


 本来ならこの怒りをブラリュネ子爵令嬢にぶつけてしまいたかったのでしょうけれど、令嬢は部屋から外に出て来ない。コルネリアとしては、巫女候補の末席に位置する私に苛立ちをぶつけても問題ないだろうと判断をしたのでしょうね。


 最初はわざとらしく足を踏みつける程度のことだったのだけれど、姉のヘンリエッタが何も言わないことを良いことにエスカレートしてしまったの。面白いことに私に悪意をぶつけてくるような人間は、必ず足の骨を折るような事故に遭うのだけれど、巫女候補のコルネリア嬢自身には何も起こっていないのよ。


 大神官ヘルマニュスは私の言うことは何でも聞いてくれるところがあるため、外との出入りも多い神官見習いの少年を一人、私の為に付けてくれたの。名前はマルクと言う十二歳の少年なのだけれど、この少年が持ってきた情報を聞いた私は、思わず笑い出してしまったわ。


 私は女神様のお力添えなんてものは一切、信じることなどなかったのだけれど、この世の中には世にも不思議な出来事というものが存在しているのかもしれないわね。


「それじゃあ、老夫人の葬儀は一昨日、行われたということになるのね。コルネリア嬢はその葬儀に参加していたということかしら?」

「いいえ、コルネリア様は葬儀には参加しておりません」


 マルクはモジモジしながら喋る子なのだけれど、顔立ちはかなり整っている方だと思うのよ。いつだってモジモジしているから、他人の警戒心を解いてしまうのだと思うわ。


「その日はベルナール殿下が神殿を訪れる日となりますので、殿下のお心を自分のものにするチャンスは逃せないということで葬儀には顔を出さず、父親の方もそれで良いと判断されたようです」


「それで?その日、ベルナール王子は誰とベッドを共にしたわけ?」

「お祖母様を亡くしてしまったコルネリア様をお慰めするということで、コルネリア様の部屋に2時間ほど滞在されたようです」

「本当、死ねば良いのに」

「お嬢様、不敬で捕まりますよ」


 お亡くなりになったのはコルネリアの母方の祖母だった。ボスマン家は夫婦仲が悪いことでも有名なので、父親が葬儀に出なくても良いと言い出すことはなんとなく分かる。だけど、そういうことだけじゃなくて、コルネリア自身が自分の母親方の血筋を軽視しているところがあるのではないかしら。


「そういえばアンシェリーク様、遂に専属護衛騎士がお嬢様にもつくことになったとお聞きしたのですが、その護衛騎士が平民出身だというのは本当ですか?」


 マルクは貴族家の子息なので、平民身分の者を軽視しているところがある。

「貴族騎士は誰も私の護衛にはつきたくないと言うのだから仕方がないことじゃない?そんな訳で、あなたの仕事も今日でおしまいということで構わないわ」


 マルクの手の平にいつもよりも多めの金貨を握らせながらそう言うと、マルクは心の奥底からホッとしたような笑みを浮かべた。貴族の身分に生まれた者は、激しく平民を侮蔑するようなところがある。平民と貴族は流れている血からして違うのだと嘯く者も多いし、同じ空気など吸っていられるかと考える者すらいる。


 爵位を継げない為、幼いうちから神殿に移動したマルクのような見習いでも、その考えは根付いている。だからこそ、平民の護衛騎士が付くような私に少しでも仕えることは気に食わない。


 金貨を握って走り去るその後ろ姿を見ながら、本当にこの国は根本から間違っていると思わずにはいられない。


「お嬢様、そろそろお茶会の時間となりますが」

 粗末な部屋の粗末な扉を叩いて声をかけて来たのは、ようやっと専属の護衛騎士となったフィルベルトであり、

「ええ、分かったわ。一つ、手紙を書いてから部屋を出ることにします」

 と、答えて座り心地の悪い椅子から立ち上がる。


 シャリエール伯爵邸に居た時は、一応、これでも伯爵令嬢ということになるので、それなりの部屋を与えられていたのよ。私はほぼ巫女だと言われる姉のヘンリエッタの妹だもの、女神様のご加護の切れっぱし程度は届く存在ということで、みんな、それなりに大事にはしてくれたのよ。


 だけど、神殿に入ってからはそうなっていない。

 実に面白い、ああ、面白くて仕方がない。



       ◇◇◇



 ヘンリエッタにとって、妹のアンシェリークに専属の護衛騎士がつくことは非常に気に入らないことだったけれど、それが平民騎士だというので我慢をすることにした。


 みそっかすのアンシェリークには平民身分の者が付き従うのが丁度良い。自分よりも遥かに下で、ヘンリエッタの慈悲に縋って生きているような妹。神殿に移動してからというもの、アンシェリークは自分の身の程をわきまえることになったのか、日に日に顔色が悪くなっている。


 両親からアンシェリークもまた巫女候補として神殿に上がるのだと聞いた時には、どうしてやろうかと思ったものの、気性が荒いコルネリア嬢が自分の分までアンシェリークを虐めてくれるので、ヘンリエッタは悲劇のヒロインよろしく涙を流して、妹思いの姉を演出することが出来るのだ。


 最近では、ベルナール王子がコルネリア嬢と仲良くすることもあるようだけれど、

「僕が愛するのはヘンリエッタ、君しかいないんだよ」

 と言ってくれるし、

「僕の心を蕩かす太陽、どうか死ぬ間際まで僕の手を握り続けておくれ」

 と言ってくれたのだもの。殿下は巫女である私を妃に迎えて、エレスヘデンの王位を継ぐおつもりなのだわ!


 だから大丈夫。最後に選ばれるのは私なのだから大丈夫。とにかく今日は余裕を持って、平民騎士を護衛として連れて来るアンシェリークがどんな顔をしているか見てやらなくちゃならないわ!


 平民騎士を護衛とすることは、神殿から平民と同じ程度にしか思われていないということを意味しているし、巫女候補たちはどれだけ位の高い騎士を護衛としてつけるかで、常に争っているようなところがある。アンシェリークと平民騎士は、お茶会の場に現れるなりバケツの水をかけられた。まずはその平民臭い汚臭を何とかしろというメッセージを含めて荒っぽい出迎えをしたわけだ。


過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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