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第十一話  私とお姉様

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 せっかく姉に食堂で一緒に食べようと言われたというのに、無碍にして断ったということになっている私の元へ、激怒した父がやって来た。


 散々、罵声を浴びせて帰って行ったんだけど、生まれてこの方、まともに会ったこともない人だし、この人が親だったとしてもだったら何?程度にしか感じられないのよね。母親なんて髪の毛の色が小麦の穂の色に似ているっていうことしか知らないし、実にどうでも良い人たちなのよ。


 だけどタイミングが良いことに、その日の夜中に、酔っ払った父が階段を踏み外して足の骨をボッキリと折ってしまう事故が起こったの。完全に単独事故だったんだけど、その日から私を見る周りの目が変わったわよね〜。


 するとその翌日には、今までまともに会話をしたこともない母が部屋までやって来て、

「アンシェリーク、正直に答えて欲しいのだけれど・・」

 と、言い出した。


 ようするに、父が階段から落ちて足の骨を折ったんだけど、お前がもしかして何かをしたのではないかと問いたいみたい。それでは正直にお答え致しましょう。


「お母様、私は巫女とされるヘンリエッタお姉様の妹であり、女神様は巫女であるお姉様を見守るついでに、妹である私のことも視界の端に捕らえているのかもしれません」


 私は女神様にお祈りを捧げるように両手を胸の前で組みながら言いましたとも。


「私はお父様やお母様とお顔を合わせたことなど今までありませんでしたが、この前はお父様がやって来て、突然、私のことを散々怒鳴りつけて行きました。このことについては、身の回りのことをしてくれている侍女に尋ねてみても構いません。そのことで、女神様の怒りを買っておしまいになられたのかもしれませんね」


 なにしろ足の骨がボッキリ折れているので、女神の怒りってことにしても良いでしょう!


「滅多に会うこともない私を怒鳴りつけるお父様は、それは悪鬼の如き恐ろしさでした。その時の私の恐怖心を哀れに思い、女神様が私をお守りになったのかもしれません」


「何を馬鹿なことを言っているのかしら?あなたのお父様は、何故、一緒に食事をしないのか、ヘンリエッタの配慮を踏み躙ったあなたに対してお怒りになっただけで」

「殺していたかもしれません」

「は?」

「お姉様の配慮を踏み躙ったことにお怒りになり、私を殺していたかもしれません」

「そんなまさか!」


「そうですか?私はお父様やお母様がどれだけ巫女となるお姉さまを愛しているか存じております。そんなお父様が、私を疎んじて殺そうとするのは簡単に想像出来ますし、その思惑を察した女神様が罰をお与えになったのではないですか?」


 女神様は素晴らしい。

 女神様を出せば、誰でも何も言えなくなるんだもの。

 なにしろ私は、女神が加護を与えた巫女かもしれないヘンリエッタの妹ですもの。


 しかも、侍女とお父様、二人とも同じ階段から落ちているのですもの。

 侍女は私があえて落としたけど、お父様、お酒をたらふく呑んでくれて有難う。とってもタイミングが良かったと言えるでしょう。


 巫女かもしれないヘンリエッタの妹である私に何かをしたら、女神の天罰が下るという噂はあっという間に拡散したおかげで、私は満足に食事も食べられるし、生活に不自由はせずに過ごすことが出来るようになったのよ!


 姉のヘンリエッタときたら、私が満足に食事も与えられずに、食事の時間になったら自室で軟禁されているといまだに思い込んでいるの。だから、満足に食事を与えられない可哀想な私を嬉しそうに遠くから観察しているみたいだから、姉に遭遇しそうな時にはこっそりと暖炉の煤を顔に塗って、顔色が物凄く悪いように見せかけているの。


 顔色が悪いけど、ちっとも痩せてはいかない私の姿を見て痺れを切らしたヘンリエッタが、

「ねえ、なんで貴女は痩せないの?」

 と、問いかけて来た時には驚いてしまったわ!三歳も年が上なのに馬鹿なのかなって思ったけれど、女は馬鹿であるほど可愛らしいって本にも書いてあったものね。女らしさを引き継いだ、ほとんど巫女状態の姉なのだから、これくらいの低レベルの会話はご愛嬌というものなのかもしれない。


「さすが巫女と呼ばれるお姉様!私が毎日、ほとんど食事も摂れずに過ごしているということをご存知なのですね!」


 本当は巫女の怒りを恐れた使用人たちがこっそりと食事を運んで来てくれるのだけれど、姉は自分の命じた通りに食事は届いていないものと思い込んでいる。であれば、姉の思う通りに演技をした方が良いだろう。


「立っているのもきつかったはずなのですが、巫女であるお姉様の妹である私にも、女神様は慈悲をお与えになったのでしょう。食べなくても何故か苦しくないのです」


 わざとらしく涙を浮かべた私は、姉に感謝の祈りを捧げながら言いましたとも。


「普通の人間であれば餓死しているところを、女神がお姉さまに与える慈悲のおこぼれで何とか生きていられます。ですが、私は巫女となるお姉様の妹ですから、私が餓死するほど食事を与えないように差配を振るった人がどうなるのか心配でもあるのです。だって、女神の怒りを買った人々は、もれなく足に怪我を負うこととなるではないですか?」


 私の存在が胡散臭いと言った庭師の男は自分の足に草刈り鎌を落として負傷したらしい。たまたまヘマをやらかしただけの話なのだけれど、もちろん、これもまた女神様の怒りということで噂として拡散されることになったのよ。


「心配で・・心配で仕方ありません!」

「もういいわよ!もういいって!」


 癇癪を起こすように叫び声を上げた姉はすぐさま自分の部屋に引っ込んでしまったけれど、その日の夜に食事を運んできた侍女はにこりと笑って、

「正式にお嬢様へ食事が運べるようになりました!」

 と言って、ワゴンに載った料理を部屋まで運んで来てくれたのだった。


 シャリエール伯爵家は姉を中心にして回っている。姉が密かに妹には食事を運ぶなと言い出せば、そのようにするのが使用人の役目なのだけれど、誰だって女神の怒りには触れたくないもの。妹の私が困らないようにと、使用人たちがこっそりと食事を運んで来ていたの。姉が姑息な訴えを取り下げたおかげでそれももう終わりみたい。


 どうやら姉も女神の怒りが怖いらしい。

 私はこっそりとではなく、堂々と食事を食べる権利を手に入れることに成功したわけだ。


 エレスヘデン王国の人々はみんな女神リールの加護を信じているみたいだけど、歴代の巫女たちは何か特別なことをやったというわけではないのよね。だけど、彼女たちが居ることで島の実りは豊かになり、漁業も狩猟も問題なく行われるようになると言われている。


 最近ではその巫女の出現が減って来ているので、巫女の候補となることは一族にとっても誉になるとは聞いているし、女神の化身と言われるほど美しい姉が巫女候補として神殿にあがることも理解できる。


 だけど、何で私まで神殿に行かなければいけないのかしら?

 姉がまたわがままを言ったのかしら?


 女らしいお姉様が不快感を感じることがないように、私は姉が望むような不幸な妹を演じ続けていたから、可哀想な妹も連れて行くとでも言い出したのかしら?自分の立場を上にするために、あえて私を落っことすなんてことをしないではいられないお姉様だから、簡単に踏み潰せる妹として側に置こうとした?


 まあ、なんにせよ、伯爵家での生活も飽きてきたから、神殿に移動しても良いでしょう。どうせ姉が選ばれるのだから、私は端っこでジーッとしてれば良いのでしょう?



過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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