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第五話  再会

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 神聖なる女神の泉を愛妾アンネリーンに言われたからと言ってボート遊びが出来るように手を加えることになった結果、急拵えの湖は決壊して周辺の村落は土砂災害で埋もれ、大きな被害をもたらすことになったのだ。


 女神の怒りを買うことになった大惨事に、王家は批難の目が向けられるのを恐れたのだろう。王に対して陳情に訪れた平民の男が、国への反抗の意を示すために湖をあえて決壊させたのだとエレスヘデンの王は宣言をして、分かりやすい悪者に仕立て上げたフィルベルトの父を処刑処分にした。


 平民の男はリェージュ大陸から火薬を輸入して無理やり拡張した湖を決壊させたのだとしているが、平民の男がどうやって火薬を購入出来るというのだろうか?考える頭がある人間であれば、フィルベルトの父が王家によってスケープゴートになったのだと判断しただろうが・・

「「「お前のせいで村が沈んだんだ!」」」

「「「殺せー!湖を壊した男など殺してしまえー!」」」

 処刑場に集まった人々は、フィルベルトの父に罵声を浴びせ、雨のような石礫を投げつけたのだった。


 王に寵愛される妾妃が冗談のように、

「私、ここで船遊びをしたいですわ」

 なんてことを言い出さなければ、こんなことにはならなかっただろう。

 しかも妾妃が破壊した場所は女神が与えた神聖なる泉なのだ。


「処刑台に上がるべき人間は他にいるだろう!」


 振り上げられた大斧で父の首が切断されるまでの間、興奮する民衆の中でフィルベルトは揉みくちゃにされていたのだが、そんなフィルベルトの腕を掴んで助けてくれたのが外套を深くかぶった、燃えるような紅目の少女だったのだ。


 父親の処刑には多くの貴族たちが見物に来ていたのだが、アンシェリークも親に連れられてやって来ていたのだろう。あれから五年も経過しているけれど、彼女の燃えるような紅い瞳は今でも変わらず輝いて見えた。


 だけど、処刑場で会ったことがあるなどとフィルベルトが言うわけがない。

 フィルベルトはこれからこの巫女候補を使って自分の復讐を進めるつもりだ、ここで自分の父が冤罪で死んだなどと知られるわけにはいかないのだ。


 肉と野菜を挟んだパニーノをアンシェリークの前に差し出したフィルベルトは、

「昨日、巫女候補様のベッドに寝ていたら身体が凍るように寒くなったので、風邪をひいては困ると思い、新しい寝具を用意しておきました」

 と言って、ベッドの上に置いた毛布に向かって顎をしゃくると、アンシェリークは嬉しそうに言い出した。

「それは有り難いわね、このまま冬を迎えたら確実に風邪をひくことになると思っていたから」


 アンシェリークはそう言ってテーブルの上に置かれたパニーノを手に取ると、フィルベルトを紅色の瞳で見つめながら言い出した。


「それと、見るからに私と貴方って同じくらいの年齢よね?だったら、私のことは巫女候補様ではなくアンと呼んでくれて良いわよ」

「アン様?」

「アンでいいわ、私に対して敬う人など誰もいないのだから様なんかいらない」

「ですが」

「・・・」


 有無を言わさないアンシェリークを見て、フィルベルトはため息を吐き出した。

「誰もいない時にはアンと呼びましょう。俺はフィルベルト、平民騎士ですが、今日はお嬢様の専属騎士として推薦して貰えないかと思い、お願いにあがりました」

「私の専属騎士ですって?」

 アンシェリークは呆れ返りながらもう一度言った。

「この私の、専属騎士ですって?」


 フィルベルトとアンシェリークは同じ年の十七歳。王太子であるベルナール王子が一年後に二十歳となるため、八人いる巫女候補の中からそろそろ結婚相手となる巫女が選ばれることになるだろう。


「実は俺は神殿騎士で終わるつもりはないのです」

 自分の家族が死ぬきっかけとなった妾妃の家は燃やすことが出来たが、これから妾妃の実家だけでなく、王家に対しても復讐をしなければ気が済まない。


「巫女候補様となればベルナール殿下と顔をあわせることも多いことでしょう?巫女候補様の護衛騎士となれば殿下とお近づきになれるかもしれません。私の目標は王宮騎士となることなのです」


 王宮騎士とならなくてもベルナール王子の近くまで接近する機会があればそれで良い。神殿にあがった七人の令嬢にはすでに専属の護衛騎士が付けられているのだが、未だに護衛が付いていないのはアンシェリークだけなのだ。


「俺は平民です、周りの人間も貴女様の護衛が平民であれば許すのではないでしょうか?」


 アンシェリークが姉のヘンリエッタに疎まれているのは神殿では有名な話だ。

 女神の化身とも言われるヘンリエッタに蛇蝎の如く嫌われているからこそ、アンシェリークは周りの人間からも疎まれていく。


 おそらく家の中でもそうだったのだろう。

 一人だけこんな粗末な部屋を与えられ、満足な食事を与えられていなくても飄々としている姿は、このような待遇に慣れていることを意味していた。


「私の護衛をしたいだなんて変わっていること」

 アンシェリークはハンッと鼻で笑うと、

「貴方には昨夜も助けられたし、大神官様に相談してみましょうか」

 と言って躊躇なくパニーノを頬張ったのだった。



       ◇◇◇



 有力貴族である二つの家が炎上したという報告を受けた後のこと、大神官ヘルマニュスは大きなため息を吐き出した。

 神官エトとヘイスの様子を見に行ったのだが、二人は目も当てられないような状態だったのだ。積年の恨みを叩きつけた結果を見たようで胃がすくむような思いをすることになったが、二人はそれだけのことをされる程の行いをしていたのだ。


 貴族出身の神官たちは、自分たちは何をやっても咎められないと思い込んでいるところがあるし、エトとヘイスは姉が側妃、妹が妾妃ということもあって特に増長したのは間違いない。彼らの暴力に屈した乙女は数えきれないほどになるだろうし、女神を信仰する神殿のあり方自体を疑問視する声も増えてきていた。そんな時にパン屋の娘が自殺したのだ。


「は〜っ、どうしたものか・・」


 有力貴族と言われるカウペルス家とダンメルス家の邸宅が全焼するほどの大火事に見舞われたため、両家の当主は今の所神殿に構っている暇はないだろうが、間違いなく側妃と妾妃は黙っていないだろう。


「まあ、仕方がない」

 大神官ヘルマニュスは口がうまいことで有名で、その舌先三寸で周りを丸め込んで来た実績が認められて最高位の地位に就いたような男なのだ。時には大胆なことも行う老いた大神官は上級神官であるレオンを呼ぶと、民衆に発表することがあるから、今すぐ発表の場を設けるように命令をした。


 そうして、瀕死の状態の二人の神官の元へと再び向かうと、

「今すぐ二人を神殿の外へと連れて行きなさい」

 と、無慈悲に命じたのだった。


 エトとヘイスは女神様が決して許さぬ行為を行った。それも一度だけでなく、何度も、何度も、か弱き女性の魂を傷つけるような行為を行い続けたのだから、彼らは民衆が言うような悪魔を信奉する信者に仕立てても良いだろう。


 カウペルス家とダンメルス家が全焼したのも全ては女神様の裁きによるものとして、神官たちを引き連れて神殿前へと歩み出たヘルマニュスは、

「この二人は悪魔の使いである!女神様はお怒りになり、二人に天罰を与えることにしたのです!」

 と、大声を張り上げた。


「ただいまより、女神の怒りが下されることになったカウペルスとダンメルスを破門処分とし、今後、神殿の保護、女神の庇護を一切、受けることは叶わないと宣言いたします!」


 今まで王家と貴族の意志におもねり続けた神殿が大胆な判断を下したのだ。集まった民衆は驚きと共に轟くような歓声を上げる。そうしてヘルマニュスは満身創痍の二人の神官を神殿の外に放り出すと、

「悪魔の使いに天罰を与えよ!」

 と言い捨てて、神殿の中へと戻っていく。


 老いた大神官はこれから目の前で行われる残虐な行為に目を向けたくはないという思いがあったのは間違いないし、二つの有力貴族を神殿が切り捨てることへの余波に備えて動かなければならないため、頭の中がいっぱい、いっぱいの状態だったのだ。


 神殿からの破門処分は今後一切の女神の庇護を受けることは叶わず、また、女神への慈悲を願うことが出来なくなる。エレスヘデンで神殿から破門されたとなれば、行き場を失って大陸へと移動することを余儀なくされる。もちろん、大胆な決断をくだした大神官の元には即座に国王から召喚状が届けられることになったのだ。


 明朝一番に王宮に出仕するようにということなのだが・・

「あら、大神官様、大きなため息をついておられますね」

 もう夜中だと言うのに、いつの間に部屋に入って来ていたのか、巫女候補であるアンシェリークが頭を抱えるヘルマニュスを見て心底楽しそうな笑みを浮かべた。


過去編となりまして、裏切りとか、策謀とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でいますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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