72.身に染める者③
煙さんモクモク。
これはやったかな。
「ミチル、すごい……」
私の後ろにいるメイルくん、
無事みたい。
良かったよ。
むっ、そう言ってると煙が、
「シェ、丸盾……」
教祖さんが出てきた。
やっぱり守ってたよ。
紫色の魔法盾を前方に張ってる。
そうさせるようにわざとゆっくり撃ったって言うのもあるよ。
威力も見せかけだけで結構手加減してた。
ちゃんと捕まえないとだし。
「くっ、はあ、はあ……」
もうこれで十分だよ。
流石に戦えないよね。
全身の至るところが焼け焦げてる、プスプスさん。
煙も出てるし、しばらくはまともに動けないと思うな。
「バカな! 完全状態の私がっ、たかが一魔術師にこんな……」
まだ言ってるよ。
フルパワーがどうとか知らないけど、私をナメてかかるからこうなるんだよ。
そこのところ、身に染みて分かったかな。
「この程度だと言うのか、私は」
まあ、一般人にしてはやる方だと思うな。
もう分かってるとは思うけど、私こう見えて結構強いんだよ。
だからそんなにショックさん受けなくても良いんだよ。
「キミの負けだ、諦めるんだ」
メイルくん。
うん、これ以上痛い目に会いたくないなら、大人しく投降してほしいな。
「ごっこ探偵と甘く見ていたが、私の正体に自力でたどり着くほどの頭脳、いざという時のための戦闘員まで。なるほど、抜かりない。あの悪霊を倒した件も頷ける」
今さら気づいても手遅れさんだよ。
「素直に認めよう。メイル君、今回は私の完敗だ」
私は?
「さて、それを認めた上で一つ断っておく。私は人殺しはしない。単にそういう主義と言うのもあるが、どんな悪人であれ同じ人間、命を奪うなど過ぎた行為だ。あくまで別の手段を取るべきだと、そう思っている」
なにが言いたいのかな。
命乞いさんかな。
「だが、例外もある。それは目的のためにやむを得ない場合……いや違う。自分の身が危険な状況、あるいはなりふり構ってはいられない、絶体絶命とも言うべきか」
むっ、空気が冷たくなってきたよ。
「狭いところは苦手でね。彼もきっと許してくれるだろう」
空が、暗くなって、
「ミチル、これって……」
ボワンッ
ボワッボワッ、ボワンッ
闇で覆われた紫の炎。
ロウソクに火が一つずつ、教祖さんの周りを囲むように。
「同胞たちを紹介しよう。彼らは地獄の番人と呼ばれる魔物、ヘルハウンドだ。その名に相応しい力を持っている。なんと1匹でこの私に匹敵するほどの戦闘力だ」
知ってるよ。
「何よりこの数だ、キミ程度ではどうにもなるまい」
景色が開けてるからかな。
あの時よりも多く見える。
「ミチル」
「うん、メイルくん」
ちゃんと分かってる。
「最後に、私はもうルイスではない。いつまでも彼でいるのは失礼だろう。そこですでに別の名を用意している」
教祖さんが手をあげた。
「改めて、私の名はドット。ドット=スタークレット。せめてもの情けだ、冥途の土産に持っていくがいい」
ヘルハウンドが一斉に態勢を低く、
「では、さらばだ」
来るよ!
──キュイイイインッ!
「──はああああ!」
ヘルハウンドが、綺麗に真っ二つに、
「またコイツらか! いい加減にしろ!」
待ってたよ、フェチョナルさん!
心強い味方だよ!
「──おらっ!」
ん? 他にもいる?
「はあ、俺は一体何をしてんのかねえ」
あっ、おじさんだ!
プロソロおじさんも来てるよ!
「おいおいおい、コイツら噂のヘルハウンドじゃねえか! 冗談じゃねえぞおい!」
「なんだ、まさか怖気づいたのか? それじゃ師匠ヅラは務まらないな」
「うっせーぞブロード、こちとら実戦は久しぶりなんだよ! それがいきなりヘルハウンドはねえだろ」
おじさん、文句言いながら戦ってるよ。
「遅い、今まで何してたんだ」
メイルくんに同感だよ。
私が到着してから結構経つ。
危ないところだったよ。
なにやってたのかな。
「細かいヤツだ、間に合ったから良いだろう。気にするな、ワタシも気にしない」
「まあそう言うこった。だが期待すんじゃねえぞ。なにせ俺はもう現役じゃねえからな!」
「言い訳か? 悲しいヤツだ」
「うるせえ! 話してる余裕ねえっての!」
ザンッ!
2人がヘルハウンドの群れに。
「はあああああ!!!」
フェチョナルさん。
軽くて豪快な身のこなし、魔法槍の扱い、動きを完全に見切ってる。
この一刀両断っぷりは、相変わらずのヘルハウンドハンターさんだよ。
「多すぎんだろ! 息つく暇もねえぞ!」
「任せておけ。骨くらいならステューシーに届けてやる」
「そいつを聞けて安心したよ。ケッ」
おじさんも。
大盾さんを構えながら慎重に。
囲まれてる状況でも被弾しないで、確実に仕留めてる。
本人はとっくに引退したって言ってたけど、まだまだ十分現役さんだよ。
すごい、みるみる数が減っていく。
一網打尽さんだよ。
「バ、バカな、相手はヘルハウンドだ、これほどまでに容易く……」
「──そこまでです」
あっ、ショートクリーム卿。
いつの間に。
教祖さんの背中に剣を突き立ててるよ。
「ショートクリーム卿、貴様……」
ヘルハウンドが一掃されたよ。
あっという間だったよ。
「終わりです、身に染める者。いえ、ドット=スタークレット」
あとは教祖さんだけ。
全員集合だよ!
「妖精もいるよ」
チェックメイトさん。
完全に追い詰めたよ。
教祖さん、茫然としてる。
流石にもう打つ手はなしって感じだよ。
「……なるほど、またしても妖精か。苦労させられる」
妖精さん?
そっか、メイルくんがみんなにこの場所を教えたんだ。
妖精さんにお願いして。
私の時もそうだったし。
「メイル=アドレウス、これほどの駒を揃えていたとは」
「いいや、全然違うよ。別に僕は、はなっからキミと勝負していたワケじゃない。ただみんなにお願いして、力を貸してもらっただけ。実際、僕1人じゃ何もできなったよ」
そうだね。
私たちだけじゃ絶対無理だったよ。
ここまで来れたのは色んな人たちのおかげだよ。
「だから敢えて言わせてもらう。この勝負、僕らの勝ちだ」
うん!
私たち、みんなで勝ち取った勝利さんだよ!
「仲間の力というヤツか……フッ、所詮は人が作った概念だ。最後は裏切られて皆終わる」
むっ、まだ言ってるよ。
負け惜しみさん。
しつこいね。
「だが、負けたのも事実。今は受け入れるとしよう」
観念したみたい。
「では」
手錠さんカチッ
そのままショートクリーム卿が連行するよ。
……ふう、終わったよ。




