70.身に染める者①
「うっ、うん……?」
ここは、どこかな。
私、気を失ってたみたい。
「うぅ、頭さん……」
ズキズキするよ。
一体なにがあったのかな。
フェチョナルさんも倒れてる。
なにかな、記憶さんがあやふやだよ。
「フェチョナルさん、起きてほしいな」
ユサユサしたけどダメだよ。
完全に気を失ってる。
えっと、たしか。
そうだよ、
誰か来たと思ったら、急にぴーちゃんが光り出して……
──待て!
ん?
──今は僕だけだ! 子ども相手に逃げるのか!
メイルくんの声がする。
建物が反響してるよ。
──安い挑発だ、私が乗るとでも思っているのか
──やっと正体を暴いたんだ! 逃がすもんか!
誰かいる。
メイルくんと誰かが揉めてるよ。
焦ってる?
様子がいつもと違うよ。
──こちらの用は済んだ、私はこれでお暇しよう
それに、この声って……
「メイルくん!」
なにボケッとしてるのかな!
座ってる場合じゃないよ!
しっかりするんだよ私!
早くメイルくんと合流しないとだよ!
早く見つけないと、メイルくんが危ないよ!
──彼は悔いていた。自分の過ちを。決して他者に知られてはならない。私ではなく、その罪の意識が蝕んでいた。
ヤバいよ!
ヤバいよヤバいよ!
――過ちにただただ悔いる日々。だがある日気づいてしまった。悔いてるのではなく、バレるのが怖いだけだと。反省してなどいない。ただ罪を知られ裁かれるのが怖いだけだけと。自分の保身のために恐れている。その証拠に自白せず、周りに罪を隠しのうのうと生きている。
行き止まりさん!
こっちじゃないよ!
──自ら罪を認め贖罪する、出来る者は少ない。だが許されたからなんだ、償ったからなんだ。それで被害者が浮かばれるのか? その行いがなかったことにはならないと言うのに。もう過ぎた事だと、全て終わったかのような、まるで自分が善人かの如く振舞い出す。罪とは犯したその時点で背負い続けなくてはならない。決して忘れてはならない。ましてや自分の利のために利用するモノであってはならないのだ
また違ったよ!
もうっ! どこにいるのかな!
──どんなに善行を重ね、善に浸ろうとも、常に頭をよぎる。自分はもう善人ではない。何をしようともそれだけは考えてはならない、そうなる資格はないのだと。そう気づいた時、彼は自身の破滅を心から願った。この先、この十字架を背負って行くのは絶えられない。生きることに深く絶望していたのだ。
どこにいるんだよ、メイルくん!
──だから消したって言うのか、身体を完全に乗っ取るためにルイスさんを……キミのやったことは立派な殺人だ!
──彼が望んだことだ。私を生み出したことも。善をいつまでも捨てることのできない。善人になれないのなら、悪と割り切ればいい。それができない彼の弱さが原因だ
ん?
この光、なにかな。
これは、妖精さん?
──キミには感謝している。私では探し出すことは叶わなかっただろう。肝心のペルペルはあのザマ。まさか本当に存在しそれを見つけ出すとは
うん、わかったよ。
妖精さんに着いていくよ。
──許せない。僕らを利用して、キミの狙いは最初からこれだったのか
──メイル君、キミを調べさせてもらった。悪霊の件、妖精と手を組んでの解決、実に見事だ。実は私自身、興味本位で一度見物したことがあるのだが、あっけなく返り討ちにあってしまってね。あとにも消えない傷ができてしまった。妖精が見えるのは何もキミだけではない。彼らは起きた出来事を脳内で自由に共有できる。キミがそれを利用していたように、私も利用したまでだ
声に近づいてるよ。
──さて、ショートクリーム卿が厄介だ。キミのおかげでこの通り追われる身になってしまったからね。早々に去るとしよう
あっ、光が見えた!
やっと出口さんだよ!
「はあ、はあ……」
ここは、どこかな。
広い荒野さんに出たよ。
遠くに街が見える。
私たちが住んでる街。
妖精さんの森はあっちの方だし、結構離れた場所に出ちゃってるよ。
「──くっ!」
あっ!
「メイルくん!」
膝をついてどうしたのかな⁉
「わわっ、腕を怪我してるよ!」
早く手当てしないとだよ!
「ミ、ミチル気を付けて……アイツ、特異体質だ」
えっ、特異体質?
それって、
「──素晴らしい。力を意のままに行使できる。やはり一つの肉体に精神は一つ、こうでなくては」
目の前にいる男の人。
顔も恰好もルイスさんだけど、ルイスさんじゃない。
さっきまでとは様子が違う。
声もそうだけど何か、オーラが違うというか、まるで別人だよ。
でもこの雰囲気、知ってるよ。
これが仮面の下にあった、本当の……
「僕のことは良いから、それよりも……」
メイルくん。
怪我はしてるけど大丈夫みたい。
間に合って安心したよ。
「ここまで来ればもう追っては来ないだろう。どれ、力を試す良い機会だ」
でも、
「よくもメイルくんを! 許さないよ!」
戦うよ!
覚悟してほしいな!




