7.マダムからの依頼②
ここは街中、たぶん商店街。
人がいっぱいで賑わってるし。
ごめん、あまり説明してる余裕ないかも。
だって……
「待てえー!」
「ビニャー」
ピョ~ン!
わっ!?
ひとっ飛びで屋根まで⁉
すごい身軽だよ!
「ビニャッ!」
そのまま屋根を警戒に走り抜けて……
って、ええ~ん~! 待ってよ~!
追うので手一杯だよ~!
──あれからカトリーヌちゃんを見つけて、およそ一時間。
相も変わらず、景色も変わらず、メイルくんの試験、私の依頼は続いていた。
引き続きカトリーヌちゃんを追ってるワケだけど。
正直言って全然ダメかな。
捕まえられる気がまるでしないよ。
一応、周りの人には追跡してるっぽく見えてるだろうけど、その実情はただ無意味に追いかけっこしてるだけ。
なんの意味もないよ。
はあ、もう足がクタクタだよ……
「待てえ〜!」
追いついたよ! カトリーヌちゃん!
「今だー!」
ようやくチャンス!
覚悟だよっ!
「ビニャッ!」
クルッ、シュンッ!
「わっ!?」
また消えた⁉
「いた~い……」
地面さんとごっつんこだよ~!
「ビニャッ!」
「うぅ~……」
それズルいよ。
消えるのちょっとやめて欲しいな。
「ビニャ~」
のんきに前足でクシクシしちゃって。
余裕のつもりかな。
もっとちゃんと遊んでよ、ってアピールしてるみたいだよ。
くっ!
甘く見ないで欲しいな!
「隙あり!」
「ビニャッ」
シュンッ!
「ここだ!」
「ビニャッ!」
シュンッ
「風さん……っ! 見切った!」
シュンッ
「未来を読むよ!」
ドンッ!
「いった~い!」
顔から突っ込んじゃった……
もう、これ何回繰り返せば気が済むんだよ。
「ビニャ~!」
あっ! カトリーヌちゃんが止まった!
あれは、八百屋さんだ!
お野菜さんに目をやってて……チャンス!
「待てえ~!」
今度こそ!
「ビニャッ!」
「わわっ!?」
いたたた……
お、思いっきり腰を打っちゃった……
野菜さんのカド痛いよ。
「うぅ……あっ」
やばっ、野菜さんが周りに散らばってる。
あと店主さんがすごい睨んでる……
「す、すいません! すぐに戻します!」
えっと、これがここで、あれがあそこにあって……
ああ! もうワケ分からないよ!
うええ~ん! なんでだよ~!
もう~散々だよお~!
──それから、
「はあ……」
疲れた。
結局、追いかけっこだけで午前中が終わっちゃったな。
周りの人にも迷惑かけちゃったし。
なんて日だよ、ホントに。
どうしよう……
カトリーヌちゃん速すぎなんだけど。
なんでネコちゃんがあんな軽快に動けるのかな。
あんなネコちゃん見たことないよ。
って言うか絶対おかしいよ。
あれは一体なんなのかな?
あの私、瞬間移動する生き物なんて知らないんだけど。
普通に追跡するだけでもキツいのに、その上あんなことされたらどうしようもないんだけど。
まるで悪い夢でも見てるみたい。
トホホ、まさか最近のペット捜索がこんなにも重労働だったなんて……
「はあ……」
リミットさんは今日の夕暮れ。
日が沈む前にマダムさんに返さないと。
メイルくんの門限もあるからね。
今のままじゃ時間まで間に合わない。
っていうか絶対無理だよ。
あんなのどうすれいばいいんだよ。
どうしよう。
ネコちゃん一匹も捕まえられないなんて、メイルくんになんて思われるか……
でもねメイルくん。
キミに言っても信じて貰えないだろうけどね。
今から言うことは、ただの言い訳にしか聞こえないだろうけど。
だってあのネコちゃん、消えるんだもん。
あと少しってところで瞬間移動されるんだもん。
シュンッて!
なんのリスクもなく! 無尽蔵に!
こんなのまかり通っていいのかな!
冗談にもなってないよ。
「ふんっ!」
悪いけどそれが現実さんなんだ。
普通、いや、絶対無理だよ。
はあ……とりあえずまだ時間はあるし、なんとかするしかないかな。
幸いにも、こういう時に備えて作戦もいくつかあるし。
絶望してても仕方ないよ。
「よし! 休憩はおしまい!」
私、諦めないよ!
絶対この試験に合格して、メイルくんに助手として認めてもらうんだから!
そうだよ! うん!
それじゃ、まずは……
グウゥゥ
胃袋さん。
こんな時にまた。
グウゥゥ
いいよ、許すよ。
生理現象だもん、仕方ないよ。
「うん! そうだね! まずは午後に備えて腹ごしらえしないとね!」
それじゃ、なに食べようかな!