67.古代兵器ぴーちゃん⑬
それから、2時間後だよ。
「もうすぐ、この丘を登ったところだ」
ホントだよ。
丘さんの頂上にポツンと、小さな家がある。
あそこにフェチョナルさんのお師匠さんがいるんだって。
頂上は見晴らし良さそうだよ。
こんな街から離れた場所で、一人で暮らしてるのかな。
たしかにここなら薬草の採取とかも捗りそうだけど。
アレかな。
スローライフさんを送ってるのかな?
だとしたらちょっと憧れるかも……
「着いたぞ。いるといいが」
ドアをコンコン、ノックさん。
「反応ないね」
待ってるけど誰も出てこないよ。
今の時間はお昼過ぎくらい。
「やっぱり寝てるのかな?」
私がそうだし。
お昼寝してても不思議じゃないよ。
「この時間は採取に言ってることが多い。そろそろ帰って来ると頃だと思うが」
「何時間でも待つよ。今はお師匠さんだけが頼りだし」
丘さん登って疲れたし、休憩には丁度いいかも。
「そうだな。あんまり遅いなら探しに──」
あっ、ドアがゆっくり開いた。
なんだ、ちゃんといるよ。
「──は~い、どちら様ですか~」
ドアから顔だけをヒョコッ
寝起きなのかな。
顔も何だかやつれてるし、声が弱々しいよ。
抹茶みたいな髪色に三つ編みさん。
瞳の色もそうだけど、顔が弟子のテナコさんに似てるよ。
髪色が違うのを除けば、テナコさんをそのまま大人にした感じだよ。
メガネも私と同じで真ん丸だし。
また妙に親近感が沸いてくるよ。
「ワタシだ。来てやったぞ」
「えっ? フェチョ、ちゃん?」
久しぶりなのかな。
目の前いるお弟子さんに面食らってるよ。
「うっ、うぅ……」
ん?
「うえええええん! フェチョちゃ~ん!」
わっ、急になにかな!?
フェチョナルさんにバッって抱き着いたよ。
「ふええええん! またダメだったの~! 何度占っても結果は変わらないの~!」
「おーおー、よ~しよし。もう大丈夫だ」
「えええええん!」
お師匠さん、お弟子さんの肩で号泣してる。
フェチョナルさんも頭をなでて良い子良い子してるよ。
なにかなこの状況。
「どうしたのかな?」
この人めっちゃ泣いてるけど。
「気にするな、いつものことだ」
いつもこうなんだ。
情緒さん不安定なのかな。
「お前だって良く泣いてるだろう」
「いや、泣かしてるのはどこのどいつさんかな」
私が泣く原因のほとんどはフェチョナルさん、キミだよ。
そこのところよく自覚してほしいな。
それに私、こんなに酷くないよ。
「独り身は嫌だよ~! フェチョちゃ~ん!」
ちょっと泣き過ぎだと思うな。
──そして、
「ごめんねフェチョちゃん、急にビックリしたよね、ごめんね……」
落ち着いたかな。
まだちょっぴり泣いてるけど。
家に入れてもらったよ。
お茶とクッキーさんを出してくれたよ。
「はあ、今年でもう27、このまま行けば一生独身コース、どうすれば……」
ズーンって、空気さん重いな。
軽くなろうね。
「安心しろ、その時はワタシが貰ってやる」
「ありがと~。でもフェチョちゃん女の子だよ、女の子とは結婚できないよ~」
「気にするな、ワタシも気にしない」
おじさんもそうだったけど、色々焦る年頃なのかな。
正直言って滅茶苦茶美人さんなんだけど。
おっとりしてて包容力とかもありそうなのに。
なんで独り身さんなんだろう。
この手作りクッキーさんもサクサクしてて美味しいよ。
「紹介する。ワタシの師匠で、テナコの姉のエクレアだ」
お姉さんなんだ。
通りで似てるなと思ったよ。
テナコさん、自分の姉を師匠呼びなんだ。変わってるよ。
「初めまして。フェチョちゃんの先生のエクレアだよ。調合師をやってるんだ~、よろしくね」
「うん、よろしくだよ」
なんだろう。
声を聞いてると安心するよ。
「ミチルちゃんでよかったかな。フェチョちゃんから聞いてるよ。お友だちになってくれてありがとね」
お母さんかな。
でもそっか。
テナコさん、こんなお姉さんがいたんだ。
こういう歳の離れた姉って結構裏山さんだよ。
優しくておやつも作ってくれる、そんなお姉さんが欲しかったな。
「びっくりしたよ~。急にフェチョちゃんが来たと思ったら、お友だちを連れて来るなんて」
「なんだ、大袈裟だな」
「ううん、全然大袈裟じゃないよ~。テナちゃん以外のお友だちができるなんて嬉しいな」
お母さんかな。
「覚えてる? 昔のフェチョちゃんは色んな人に噛みついて、いつも喧嘩ばっかりしてたよね。懐かしいな~」
「昔話をしに来たんじゃないぞ」
「でも夜になると私のところにこっそりきて甘えてくるんだ~。ねえ~、可愛いでしょ?」
「なっ⁉ その話はやめろ!」
「あの頃は可愛かったな~。あっ、もちろん今もとっても可愛いよ~」
恥ずかしそうにしてるフェチョナルさん。
何気にレアかも。
「オホンッ、今日は遊びに来たワケじゃない」
「え~、違うの~? 残念」
「協力してほしい事があってだな」
「ん~、なあに? 私にできる事なら何でもいいよ~。何たって可愛い生徒のタメだもん」
普通に良いお師匠さんだよ。
言っちゃ悪いけど、お弟子さんとのギャップがすごいよ。
甘やかしすぎじゃないのかな。
「話が早くて助かる。さっそくだが、古代兵器ぴーちゃんの場所を占ってくれ」
「古代兵器ぴーちゃん? なあにそれ?」
「知らないのか?」
「うん、知らな~い」
そっか、知らないんだ。
それなら、
事情をカクカクシカジカさん。
「そっか~。最近はそういうのが流行ってるんだ。全然知らなかったよ~」
分かってくれたかな。
「で、いけそうか?」
「う~ん、探すにしても情報が足りないな~。私の占いはテナちゃんみたいに融通が利かないし」
難しいんだ。
そう言えば、テナコさんは情報ほぼゼロの状態で探してたよ。
本人は副業って言ってたけど、結構すごいんじゃないかな。
「せめて形だけでも分かれば良いんだけど」
「テナコの水晶には白い鏡が映っていたな。あと薄暗い建物の中だ」
「壁さんは石で出来てたよ」
あと床さんも。
「って言うことはダンジョンの中かもね。ちょっとやってみるよ」
そう言って、水晶さんを両手で覆ったよ。
占いが始まるみたい。
こっちの方が雰囲気が本格的かも。
テナコさんの時と同じく、水晶さんが薄っすら光る。
しばらくすると、モヤ~って。
浮かび上がってきたよ。
「出てきたけど、これでいい?」
「アイツと同じだな」
うん。
テナコさんと同じ景色が浮かんでるよ。
「ん~、分かりにくいからちょっと範囲を拡大するね」
「はえ~、そんなことも出来るんだ」
流石テナコさんのお姉さん兼お師匠さんだよ。
「はい、これが限界だね」
「森の中か、入口は見当たらないが。結局どこなんだ?」
周りが大きな木で囲まれて、中央には一際大きな木が見える。
たくさんの枝に邪魔されて日差しがほとんどない。
深い森の中だよ。
なにかな。
この景色、なんか見覚えあるような。
「どうした? そんなに眉間を細目て」
うむむ……あっ!
「ここ知ってるよ! ここから西に少し行ったところにある森さんだよ!」
ほらっ、悪霊の件でメイルくんと一緒に行ったよ。
妖精さんが住んでる森だよ。
「知ってるのか?」
「何回かメイルくんと行ったことあるよ」
あれから妖精さんとはたまに交流してる。
一緒にお昼寝したり、おやつ食べたりして遊んでるんだ。
「ここからすぐだよ」
妖精さんが持ってたんだ。
通りでみんな分からないワケだよ。
「あれ? でもたしか……」
妖精さんは知らないって。
昨日メイルくんからそう聞いたよ。
おかしいな。
なんで嘘つくようなことを。
「どうした?」
「ううん、何でもないよ」
まっ、いいか。
何事も行ってからだよね。
「よし、さっそく行ってみるとしよう」
「うん!」
妖精さんの森へ、レッツゴーだよ。
「え~、2人とももう行っちゃうの?」
「ああ、悪いがそのつもりだ。見つけるなら早い方が良い。今日中にはケリをつけたいからな」
「そんな~、まだ来たばっかりなのに悲しいよ~」
エクレアさん悲しそう。
そんなウルウルした瞳で見ないでほしいな。
また泣きそうだよ。
そっか、やっぱりこんな所で暮らしてると寂しいんだ。
何かしら事情があるんだろうけど可哀そうに感じるよ。
でも今はお仕事中。
こればっかりは仕方がないと思うな。
「駄々を捏ねてもダメなモノはダメだ。それでいつも時間を取られるんだ」
「はあ、残念。クッキーいっぱい焼いてたんだけどな~」
「えっ、クッキーさん⁉」
今なんて言ったのかな⁉
クッキーさんまだあるのかな⁉
「テナちゃん以外のお客さんなんて久しぶりだったからつい張り切っちゃって。もう少しゆっくりして欲しいな……なんて、ダメ?」
上目遣いさん。
そこまで言われたら仕方ないな。
「お言葉に甘えさせてもらうよ!」
「やった~、ありがと~! ミチルちゃん大好き~」
わっ、抱き着かれた。
すごい速さだよ。
苦しいよ。
でも喜んでくれてよかったな。
嬉しそうだし、遠慮なくおかわりするよ。
「おい、今はそんなことしてる暇は──」
「フフッ、じゃあお茶も入れ直すからちょっと待っててね」
食べられるならいくらでも待つよ。
「何だったら昔のフェチョちゃんの話、もっと聞かせてあげよっか?」
「それはぜひともお願いしたいな」
クッキーさんの良いお供になりそうだよ。
「はあ、長くなりそうだ……」
ルンルンルン♪ ルンルンルン♪
クッキーさん♪ クッキーさん♪
ルンルンルン♪




