60.古代兵器ぴーちゃん⑥
会場。
あれから少しして、みんな落ち着いたよ。
「うわ~、窓さん割れてるよ」
上の方にある大きな窓ガラスが思いっきり割れてる。
まだ破片さんがポロポロ落ちてて危ないよ。
封鎖されてるし、近づかない方が身のためかな。
「あそこから脱出したんだ」
メイルくん。
そっか、あんなところから強引に。
「でもここ2階だよ。結構高いけど大丈夫なのかな?」
私みたいに風さんがあるならともかく、普通に降りたらまず助からないと思うな。
「一応周辺も捜索してみましたが、すでに手遅れのようです」
ショートクリーム卿。
そっか、逃げられたってことか。
無念だよ。
「まさか偽物だったとは、驚きました」
まあ、そうだよね。
目的の人物に変装してるなんて思えないもん。
「一体いつ頃から成り変わりを?」
「最初からだ。僕らが屋敷に入る前から別人にすり替わっていた。逆にそれが気づけなかった要因でもあるよ」
たしかに。
最初から偽物の方がバレにくそう。
「あちらの方が早手でしたか。言われてみれば、いつもより若干トゲのあるような気も。しかし元々あのような方でしたし」
あっ、本物もマウント取ってくるんだ。
心中さんお察しするよ、ショートクリーム卿。
「ホントに危ないところだったよ。あと少し遅かったら、みんなに薬物さんが行き渡るところだったよ」
貴族の人に薬物中毒者が出てたかも。
そうなったら大変だよ。
世の中に拡散的に広まっちゃうと思うな。
「兵器の在処を知るついでに薬物をばら撒くつもりだったのか。本当に油断できない」
うん、抜け目ないよ。
「たぶん教団のボスだよ。声とか話し方も同じだったし」
「うん、アイツで確定だ」
だよね、メイルくん。
雰囲気的にも絶対そうだよ。
「身に染める者……教祖自ら、それも単独で」
「詳しい事は分からない。まだ出来たばかりの教団だから、信者たちとの繋がりは薄いのかもしれない」
「はい。あるいは自身が出向いてまで手に入れたい代物なのか」
うん。
「古代兵器ぴーちゃん、本当に実在するのでしょうか?」
「分からない。アイツは信じてるようだけど、僕としてはまだ噂の域を出ないというか」
どうなんだろうな。
「頼みの彼も、あの様子じゃ頼りにならないだろうし」
ペルペル伯爵さん。
隅っこで1人怯えてるよ。
こっちに丸いお尻を向けてブルブルさん。
「知らない、知らない、ペルペル何も知らない……」
なんかブツブツ言ってるよ。
可哀そうに、よっぽど怖かったんだね。
「まあ今回は僕らや教団、みんな彼の嘘に踊らされていた。そういうことだね」
「そうだね、メイルくん」
無事だったんだし。
ウソついた代償さんってことで、心をケアした方が良いと思うな。
「しかし、まだ疑っているようでした。護衛は続けた方が良いでしょう」
「それがいい。また来るような言い草だったし」
伯爵さんしか手掛かりがないから仕方ないんだけど。
でも本人はもう知らないって言ってるよ。
来ても意味ないんじゃないかな。
ただの捨て台詞さんだと良いんだけど。
「んっ、じゃあ古代兵器ぴーちゃんはどうするのかな?」
よく分からないけど、教団の手に渡ったら危ないよ。
「これから探すのかな?」
なら早めにこっちで確保した方が良いよね。
「いや、探さないよ」
「なんでかな?」
「なんでって、あるかも分からない物を捜索するほど、僕らは暇じゃない」
十分暇だと思うけど。
「気になるって気持ちも分かるよ。でもさっきも言ったけどただの噂の1人歩きだ。確証がないんじゃ探しようもない。探したけど結局何も出ませんでした~。なんて事になったらバカみたいだ」
たしかに、リスクさん高いよ。
存在の確認から始めないとだし。
「探すならどうぞご勝手に。僕は邪魔しないよ」
見つかればいいね。
応援してるよって、そういう感じかな。
なるほどだよ。
ちょっと冷たい気もするけど、メイルくんの意見はよく分かったよ。
時間がいくらあっても足りなさそうだもん。
要はぴーちゃんの件はもう終わりで、あとはペルペル伯爵の護衛だけ。
それはショートクリーム卿に任せるってことだね。
良い考えだと思うな。
「それでいい? ショートクリーム卿」
「はいメイル様、もう大丈夫です」
依頼はこれでおしまいかな。
今回、ペルペル伯爵はぴーちゃんの在処を知らなかった。
相変わらずあるかどうか分からずじまい。
何もなかったってことでいいんじゃないかな。
薬物を阻止できたのはお手柄だと思うな。
あとはショートクリーム卿が護衛する。
うん、何だかんだで一件落着さんだよ。
「他にも内通者がいるかもしれないから気をつけて」
「はい。メイル様もどうかお気をつけて」
また何かあったら頼ってほしいな。
──会場、屋敷を抜けて、馬車さん。
ユラユラ揺れながら帰ってるよ。
「大丈夫かな、パーティ中断しちゃったけど」
主催のペルペル伯爵があの様子だし。
もうパーティどころじゃないと思うな。
「どうだろう。それなりにお金は掛けてるし、ペルペル的には中断したくはないと思う。でもまだ狙われてるのも事実。落ち着くまでは流石に大人しくしてるんじゃない?」
そっか。
まあ、どのみち私たちは今日までだから関係ないんだけど。
「それにしても楽しかったね、パーティさん」
ああいうの子どもの時以来だけど、やっぱりいいね。
人がたくさんいて華やかで、それでいてお食事も美味しい。
のどかなのも好きだけど、たまには悪くないよ。
機会が会ったらまた参加したいな。
「食事目当ての人もいたみたいだけど」
「誰のことかな」
ちょっと分からないな。
いや、だってタダ飯さんだよ。
無料で食べるご飯ほど美味しい物はないよ。
しかもあんなに豪華で量も多くて、例え貴族の集まりでもおつりがくる。
参加しない手はないよ。
はあ、邪魔が入ったのがホントに残念だよ。
「大丈夫だよ、食べた分はちゃんとダンスで消費させるから」
それでチャラさん。
「僕はもう勘弁。やっぱり人混みは苦手だ」
「そっか、ロザリアさんと同じだね」
「まあ、そう……」
メイルくん、大きくあくびしてる。
いつもならもう寝る時間だもん。
眠たいよね。
あっ、そうだ。
「メイルくん。はい、どうぞだよ」
んっ、膝さん、パン
「えっ、何してるのさ?」
「なにって膝枕さんだよ。メイルくん眠そうだから、特別に膝さん貸してあげるようかなって」
屋敷まではもう少しかかる。
だからそれまで私の膝さんで寝るといいよ。
「急に何を言い出すんだ。なんで僕がそんなことを」
「遠慮しないでほしいな」
「いや、遠慮とかじゃなくて。別に膝枕をして欲しいなんて僕は一言も」
「でもメイルくん眠そうだよ。ウトウトして頭とかぶつけたら大変だよ」
硬いところで居眠りするのは危ないよ。
私ボディガードだし、何かあったら困るんだよ。
「着いたらちゃんと教えるから、そこは安心してほしいな」
屋敷のみんなにも見られないようにするよ。
だから、はい。
どうぞだよ。
「いいって」
「別に子ども扱いしてるんじゃないよ。ただ眠そうにしてるから優しさで」
「分かってる。でも僕は大丈夫だから」
う~ん……
「それが嫌なら肩さんに寄りかかっても──」
「いいってば」
あっ、顔をぷいって窓さんに。
怒っちゃった。
……ちょっとくらい良いと思うな。
2人っきりだし。




