59.古代兵器ぴーちゃん⑤
どういうことかな。
ペルペル伯爵を追って部屋を覗いてみたら、ペルペル伯爵が2人になってたよ。
これは一体どういうことなのかな。
ワケが分からないよ。
掃除道具のある狭い一室。
えっと、1人は手足を縄で拘束されて、身動きが取れない状態。
目の前にいる自分にすごく怖がってる。
何とかしようともがいてるよ。
そんな相手、というより自分を見上げるもう1人の背中。
たぶんこっちが今までのペルペル伯爵だよ。
「取ってやろう。だが、分かっているな」
拘束されてる方の伯爵が高速でうなづいてる。
猿ぐつわを外されても叫ぶのを我慢してる。
青ざめてるし身体も震えてるよ。
「私が聞きたいことは一つ、古代兵器ぴーちゃんについて。噂ではキミが所有していると聞いたが」
そんな、偽物の狙いはぴーちゃんだよ。
「ひぃいい、そんなの知らない……オゴエッ⁉」
あっ!
「忠告しよう。すでに分かっているとは思うが、私は容赦しない。キミがここでどうなろうと気にしない。賢い選択をした方が身のためだ」
「うぐっ……」
いま殴ったよ。
よろけたところで髪を掴み上げて、脅迫するように。
「さて、ではもう一度問おう。古代兵器ぴーちゃんをどこに隠している?」
「し、知らない、本当だ!」
バキッ!
「おがっ⁉」
「どういった代物だ。噂では精神に干渉する兵器だと聞いたが、合っているのか」
「ゴホッゴホッ! ほ、本当だ、何も知らないんだ……アレは全て適当な出まかせで」
「見苦しいぞ」
ペルペル伯爵の顔が苦痛でどんどん歪んでいくよ。
そんな、こんなの質問じゃなくてただの拷問だよ。
これ以上はもう見ていられないな。
隣にいるメイルくんもうなづいてくれたよ。
うん。
いざ突撃――
「あまり長居は不審だ。続きはパーティが終わった後、じっくりやるとしよう」
あっ、まずいよ。
偽物が部屋を出るみたい。
「それまではここで考えを改めると良い」
隠れるよ。
近くにある銅像に、サッ
お願いだよ。
見つからないでほしいな。
早く行ってほしいな。
……行ったかな?
偽物が曲がり角を曲がって見えなくなった。
ふう~、助かったよ。
ヒヤヒヤさせないでほしいな。
「ペルペル伯爵!」
あっ、そうだった。
伯爵さんを助けないと。
「ヤ、ヤツは……」
「大丈夫、アイツならもう行った」
うわ、頭から血が流れてる。
痛ましい姿だよ。
「こ、これはメイル殿、すっかり大きくなられましたな」
「ありがとう、でも今はそれどころじゃない」
ごめんだよ。
もう少し早く助けてれば顔は綺麗だったのに。
「アイツは一体、ここで何があったのさ」
「ヤツは……」
ガクンッ
「あっ、気を失ったよ」
緊張の糸が解けたみたい。
「最初からだった。僕らと会う前からすでにすり替わっていたんだ。でもそんな、全く気づけなかった」
「まずいよメイルくん、早く会場に戻らないとだよ」
偽物を捕まえないと。
誰なのかも気になるけど、会場の皆さんが危険だよ。
何をしでかすか分からないよ。
「この事をショートクリーム卿に伝えてくる。ミチルは先に会場へ戻ってて」
「了解だよ!」
別行動さんだよ!
会場に戻ったよ。
偽物はどこにいるのかな。
あっ、いたよ。
会場にいる人と何気ない風に談笑してる。
みんな偽物だって気づいていない。
完全にペルペル伯爵として振舞ってるよ。
どうしよう、ここじゃ人が多過ぎだよ。
魔法を使おうにも誰かに当たるかもしれないし。
偽物は分かってるのに、じれったいな。
あっ、今こっちを見た。
偽物と目があったよ。
えっ、いま笑った?
談笑をやめて会場のステージさんの方へ行ってる。
まずいよ。
こっちは気づかれてる。
何かする気だよ!
仕方ないよ。
こうなったら……スッ、杖さん。
多少強引にでも、
──よろしければ、ご一緒を
えっ、なにかな?
男の人が急に声をかけてきたんだけど。
ナンパさんかな。
ごめんだよ。
今はそれどころじゃなくて、
──おいお前、見かけない顔だな。どこのヤツだ
わわっ、別の人もやって来たよ。
なんでこんな時に来るのかな。
「失礼、ご静粛に」
ほらっ、こうしてる間にも偽物がステージさんに、
「今舞踏会にご参加頂き大変感謝する。これほどまで集まるとは思いもしなかった。私としても非常に喜ばしい限りだ」
邪魔だよ、どこかに行ってほしいな。
シッシッ
「やはり貴族というモノはこうではなくては。日々泥水をすすり生きる庶民たちを傍らに、こうして優雅な時を過ごす。これも彼らのおかげだ。とても感謝している」
この声に話し方、どこかで、
「しかし、そろそろマンネリ化している頃ではないだろうか。こうして集まってもやることと言えば、クラシックの中踊るか、高級料理をかたわらに談笑するか、この場にいない者の陰口を言うくらいだ。それでは物足りない。我々にはよりふさわしい娯楽があるはず。何か新しい、そう、刺激のようなモノが」
──失礼、あまりに美しさについお声を
もうっ、うっとおしいよ!
あんまりしつこいと杖さんグイグイってするよ!
いいのかな!
「そこで、今回お越し頂いた皆様のために、とあるモノをご用意している」
指を鳴らしたら、なんか奥から出て来たよ。
料理を運んでくる時のヤツ、上にはグラスさんが乗ってる。
「これはとある辺境の地に住む部族に好まれていたモノ。何かの記念日、祝いの席などで出される特別な品だ。この滑らかさ、透き通った色合い、そして嗅覚を刺激する香り。まるで聖水のようだ。野蛮な者だけで独占するのは忍びない。ぜひ我々もたしなむべきだと」
みんなに一個ずつ配られてる。
私にも回ってきた。
「皆の手に渡っただろうか。では今宵を祝いって乾杯しよう」
このフルーティな匂い、
……あっ!
薬物さんだよ。
みんなが手に持ってる。
ヤバいよ! 早くみんなに伝え──
「──皆騙されるな! そいつは私の偽物だ!」
あっ、ペルペル伯爵。
本物の方だよ。
意識を取り戻したんだ。
急に伯爵が2人になったから、会場が騒然としてるよ。
「これは罠だ! 我々を騙し、我々に毒を」
「分離」
んなっ⁉
こんな公の場で、しかも人に向けて!?
「ぐおっ⁉」
「言ったはずだペルペル伯爵。余計なこと言えばどうなるか」
いま魔法を、
そんな、伯爵さんが崩れるように意識を失って……
「さて、バレては仕方ない。私はこれでお暇するとしよう。たまには貴族の真似事も悪くない。良い体験になったよ」
逃げる気だよ!
「──させない。放弾!」
この声、
入口の方から青色の魔法が。
それが偽物に直撃。
「……ほう、躊躇なく撃ってくるとは。余程キモが座ってるようだ。それともただの考えなしか、メイル=アドレウス」
メイルくん!
「僕の魔法はまだ、人の命を取れるほど威力はないからね」
メイルくんの撃った魔法。
腕でガードされたけど、守ったところが焦げてるよ。
シュウウって音を立ててる。
「──皆さん、彼を捕獲してください」
ショートクリーム卿。
部下さんをたくさん引き連れてるよ。
ギリギリ間に合ったみたいだよ。
入口を完全に封鎖。
これで偽物はもう逃げられないと思うな。
「くれぐれも抵抗は考えないように」
「キミはいま、完全に袋のネズミだ」
そうだよ、大人しくしてほしいな。
「これはこれは、ショートクリーム卿。相変わらず憲兵の真似事か。お仲間もたくさん引き連れて、微笑ましい限りだよ」
むっ、この状況でまだ強気かな。
余裕なフリを装っても無駄だよ。
「随分と必死に見える。だが私は違う。私にとってこれはほんの小さな、一種の余興に過ぎない」
「皆さん、彼の捕縛を。抵抗するようなら多少手荒に」
「──フッ、解除する」
わっ⁉ なにかな!?
ボンッって。
偽物の身体が一瞬膨張したと思ったら、急に爆発したよ!?
シュウウウウウって。
そこから白い煙が会場全体に広がって、何も見えないよ!
──彼が目を覚ましたら伝えておいてくれ。『次は有益な話を期待している』と
「まずい、逃げる気だ!」
メイルくん、そうは言ってもこの状況じゃ、
──古代兵器ぴーちゃん、アレは我々が持つに相応しい。
「待て!」
わわっ!?
上の方にあるガラスさんが割れたよ!
危ないよ!
どこのか分からない!
頭を抑えてかがまないと!
「ケホッ、ケホッ……」
煙さんが引いてきたよ。
「逃げられましたか」
「みたいだ」
そんな、いなくなってるよ……




