58.古代兵器ぴーちゃん④
ショートクリーム卿と別れた私とメイルくん。
そのまま舞踏会の会場へ案内されるよ。
廊下さんを歩く。
はあ、それにしてもペルペル伯爵。
思ったより太刀悪さんだな。
嫌いな相手にはとことん言うタイプ。
普通、嫌いでもそれを表に出さないようにするのが大人だよ。
人間として嫌いだな。
『今は抑えて』
メイルくんのアイコンタクト。
分かってる。
癪だけど、今は感情を表に出してる場合じゃない。
少しでもこの人から情報を引き出さないと。
そうお願いされたし。
追い出されたショートクリーム卿のためにも頑張るよ。
「着きましたぞ」
大きくて派手な扉の前。
この先が、
扉が音を立てて、ゆっくり開く。
「うわ~」
すごく広い。
天井には大きなシャンデリアさんが3つある。
飾りも派手で豪華だし、色々と煌びやかだよ。
何より人がいっぱい。
みんなキラキラしててすごいよ。
「護衛のお嬢さんはお気に召しかな? まあ無理もない。それなりに金は掛けている。滅多に見られない光景であろう」
「はえ~、食べ物がいっぱいあるよ~」
夢にまでみたキラキラさん。
それが会場いっぱいに広がってる。
「……ゴホンッ、そっちにも掛けてはいるが」
どれも豪華で美味しそうだよ。
早く食べたいな。
「どれ、あちらにいるのは富豪マダム=ジェラシー、最近この街に越してきたことで有名。ペットのカトリーヌちゃん、その可愛さも健在だ」
もしかしてマダムさんかな?
人が集まってて全然見えないけど、たぶんカトリーヌちゃんもいるね。
へえ~、マダムさんも参加してたんだ。
たしかにこういうところ好きそうだよ。
派手好きだし。
「その隣にいるお嬢さんは、宝石街のダストリラ家。一見少女のような見た目ではあるが、その年齢はメイル殿のお父上より上ですぞ」
ヒソヒソ
「あちらは代々魔法に精通し、優れた魔力を持つ者も多い名門ラズラール家。そして武闘派と名高いガルスロード家。他にも名家が勢揃いだ。これは関係を持つ絶好のチャンスですぞ、メイル殿」
なんかヒソッてるけど、丸聞こえだよ。
メイルくんに吹き込まないでほしいな。
「確かにすごい。色んな人がいるや」
「その通り。これを人望と言わず何と言うか」
人脈を誇る人って、ロクな人がいないと思うな。
「ではメイル殿、また後で」
って言って、伯爵さんはマダムさんのところへ。
マダムさん人気者だね。
人が集まってて姿が見えない。
ちょっとしたサイン会みたいになってるよ。
「んじゃ、さっそく食べようかな」
伯爵さんの案内も終わったことだし、パーティを楽しもうかな。
目の前に広がるキラキラさん。
う~ん、どれから食べるか悩ましいな。
「と、その前に。僕らもあいさつしよう」
「えっ、あいさつ?」
ペルペル伯爵みたいに人脈さん広げるのかな?
「せっかくの交流の場だ。今のうちに慣れておいて損はない。何人か知り合いもいるし、食事はそれからだ」
そっか。
メイルくんはこの街1番の貴族さん。
やっぱり交流も大事だよね。
分かってるよ。
こういう場では作法に気をつけないと。
食べるのは程々に。
「じゃあ、私もマダムさんにあいさつしておこうかな」
カトリーヌちゃんも。
久しぶりに抱っこして前足クチクチしたいな。
「それにしてもミチル、なんだか慣れてるね」
「ん? なんでかな?」
「全然緊張してないみたいだし。ここでの振舞いもそうだけど、もしかて初めてじゃない?」
そうかな?
う~ん……
「ううん、そんなことないよ。ちゃんと初めてだよ」
気のせいだと思うな。
「ほらっ、そんなことよりも行くよメイルくん。早くしないとお料理無くなっちゃうよ」
「あっ、ミチル」
パーティさん開始だよ。
──それから、ある程度あいさつを終え、時間も過ぎ、
「うん、これ美味しいな」
ある程度交流も終わって、今はお食事中だよ。
色々気疲れしちゃったから、もうお腹がペコペコだよ。
「見た目はアレだけどこれも悪くないかも」
これも、あれも、あとそれも。
どれも高級食材を使われてるのが分かる。
滅多にお目にかかれないお料理の数々だよ。
周りの目があるからあんまりガツガツいけないけど、それでもお釣りがくるレベル。
来てよかったな。
はあ~、美味しいな。
「んっ? メイルくん、どうしたのかな?」
私の隣にいるメイルくん。
手が止まってるけど、食べないのかな?
「もうお腹いっぱいかな? なら私がそれもらうよ」
せっかく盛られた食べ物が可哀そうだから。
ス~って、お皿をこっちに、
「ミチルはどう思う?」
「うん? そうだね、どれも美味しいよ」
品を維持するのが大変なくらいには。
「違う。料理のことじゃない。周りを見てどう思うか、そう聞いてるんだ」
えっ? あっ、そう言うこと。
「う~ん、どうだろう。ザッと見た感じ、特に怪しい人はいないかも」
強いて言うなら私たちが一番怪しいかな。
ずっと周りを見張ってるし。
「今のところは大丈夫みたいだ。何もないならそれに越したことはない」
「だね、メイルくん」
たしかにそうだよね。
ぴーちゃんのこともだけど、今はペルペル伯爵とその周辺を見ておかないと。
そのために来たんだから。
油断してると何か起きた時に対応できないよ。
んっ、お腹も膨れて冷静になってきたから、見張りに集中するよ。
じ~っ
見てるよ。
メイルくんと2人で。
バレないように、さりげなく、じ~って。
「ハッハッハ! まさしくおっしゃる通り……おっと失礼、少し席を」
あっ、伯爵が席を立ったよ。
「会場を出るみたいだけど、お手洗いかな?」
「とりあえず後を追おう」
「了解だよ」
会場をさりげなく抜け出すよ。
廊下。
ペルペル伯爵を尾行する私たち。
サッ、サッ
一見さんすごく怪しいけど、気にしないでほしいな。
「どこに向かってるかな。お手洗い場はもうとっくに過ぎたよ」
会場からどんどん遠ざかっていく。
自分の屋敷だから迷子になってるとかじゃないだろうし。
「僕らの他に怪しい人はいないみたいだ」
「うん、って言うか誰もいないよ」
使用人も見張りの人も誰もいない。
普通、賊を警戒するなら見回り人くらいいるはずなんだけど。
良いのかな。
接触するなら絶好のチャンスだよ。
それでも来ないってことは、もう教団は来ないんじゃないかな。
「あっ、奥の部屋に入っていったよ」
屋敷の端っこまで来た。
「位置的に物置部屋だ」
「そんなところに一体何の用かな?」
中から話し声がするよ。
他に誰かいるのかな?
「ドアから少し覗いてみよう」
「うん」
音が鳴らないようゆっくりドアノブを捻って、チラッ
中には2人いて、1人はペルペル伯爵。
んで、もう1人が、
「えっ……」
「ミチル、静かに」
いや、でも、
うそ……
2人いる。
ペルペル伯爵が2人いるよ。
「──始めようか。ペルペル伯爵」
どういうことかな?




