57.古代兵器ぴーちゃん③
ペルペル伯爵がいる部屋。
その扉の前。
コンコンってノックするよ。
「ショートクリームです。失礼します」
失礼するよ。
部屋はいたって普通に豪華。
よくある貴族の一室って感じ。
メイルくんの屋敷にも同じような部屋があるよ。
でもなんか色々飾ってある。
絵に彫刻、観賞用の武器防具、よく分からない骨董品やら、おまけに悪趣味な壺さんまで。
色々集めてるのかな。
騙されて購入してそうなのがチラホラあるよ。
「うむむ、アレは王都の名家レオストレイト、それにあっちはバーテンダーク……ほう、ついに我が地に足を踏み入れたか。なんと! レジエンド家もいるではないか!」
窓を望遠鏡で眺めてる人がいるよ。
上から来場者さんをチェックしてるのかな。
後ろからでも分かるくらいには太ってる。
「これほどの、これほどまでの……素晴らしい。今夜は素晴らしい舞踏会になる。そうは思わないか、ショートクリーム卿」
こっちを向いた。
クルンッてなった髭をいじってる。
なんか手にグラスを持ってて、如何にもブルジョワさんって雰囲気を出してる。
丸顔でつり目だし。
絵にかいたような悪徳貴族さんって感じだよ。
「お久しぶりです、ペルペル伯爵。お元気そうで」
ショートクリーム卿のあいさつ。
「ああ。キミはどうだ、懲りずに自警団をやっているそうだが」
「ええ、まあ半々です」
「それはご苦労。フン、流石冒険者上がりだけのことはある。平民を相手に高尚なことだ」
なんか嫌な言い方だよ。
「そちらのお子さんは、はて? ショートクリーム卿、いつの間に子をこしらえて……」
「やあ、ペルペル伯爵。久しぶり」
メイルくんのあいさつ。
「ほう? 失敬、一体どちら様の」
「メイル=アドレウス。昔父さんと一緒に会ったことあるはずなんだけど」
「メイル=アドレウス。アドレウス、あのアドレウス家か……おお! これはこれはメイル殿、また大きくなりましたな。よくぞ我が舞踏会にお越しを」
「さっき下から目が合ってたよね」
歓迎されてる。
一瞬怪しかったけど。
「そちらの方は?」
「彼女は僕の護衛兼、付き人」
ドレスの先を軽くあげて、ペコリさん。
よろしくだよ。
「ほう、美しく気品のあるお嬢さんだ。これで護衛とは……ふむ。流石はアドレウス家と言ったところか。うちのむさ苦しい男共と変わってもらいたいくらいだ」
美貌も実力も、フフンッ
ちゃんと兼ね備えてるよ。
「はて、お父上が見えないが、どちらの方に?」
「悪いけど父さんならいないよ」
「ほう、ではメイル殿だけでこちらへ?」
「舞踏会がどんなモノか興味が沸いてね。少し見学させてもらおうと思ったんだ」
一見さんそれっぽい理由だけど、いけるかな?
「それは素晴らしい。いや、その歳で興味を持たれるのは素晴らしい事だ。流石アドレウス家のご子息と言ったところ。今夜はぜひとも楽しんで行ってくだされ」
あっ、信じたよ。
結構単純さんだね。
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
取り入ろうしてるのが見え見えさん。
もう貴族の探り合いは始まってるんだ。
「ペルペル伯爵、今回折り入って相談が」
「見れば分かる。まさかそれでダンスをしに来たワケではあるまい」
別件で来たって感づいてる。
「なぜ私がキミの話を聞くために、貴重な時間を割かなくてならない? しかも今日、この舞踏会という大事な日に」
「重々承知のつもりです」
むっ、なんかショートクリーム卿にだけ当たり強くないかな。
「タイミングというモノがまるで分からないようだ。それで貴族が務まるはずが──」
「僕からもお願いするよ、ペルペル伯爵」
「……フン、まあいい。聞くだけなら聞いてやらんこともない。だが私は忙しいんだ、なるべく手短にな」
一々鼻につくよこの人。
人によって態度変える人って最低だと思うな。
二重人格さんかな。
なに食べたらこんな性格になるんだよ。
「古代兵器ぴーちゃんについて、場所をご存じだとお伺いしましたが」
「フン、何を言うかと思えばぴーちゃんか。如何にもこの私の所有物だ。それがなんだ?」
自分のなんだ。
あっさり言いきったよ。
「教団についてはご存じですか?」
「教団? ああ、例の薬物乱用、その布教活動をするカルト教団のことか。噂には聞いているが、近頃の平民はどうなっている。まったく物騒な世の中だ」
もう結構世間さんに浸透してるね。
ギルドのおかげだよ。
「名前はたしか、目がしみる、何と言ったか」
「身に染める者たち、そう名乗っています」
「おお、そうだ、そうだったな。しかしそれがどうしたと言うんだ。回りくどいな」
せっかちさん。
「単刀直入に申し上げます。その古代兵器を教団が狙っています」
「ほう、我がぴーちゃんをか」
「部下からの確かな情報です。現在ぴーちゃんの在処を知っているのはあなただけ。だとすれば」
「私が狙われていると? そう言いたのか」
「可能性は高い。そこで我々があなたを護衛します。彼らは我々との衝突を避けている。簡単には手を出せないはずです」
頼もしいな。
「護衛と言ったな。具体的にはどうするつもりだ」
「部屋の前で部下を待機。屋敷内、外にも数人配備させます。また外出時は私も同行します」
厳重さんだよ。
「もしよろしければ、兵器の方をこちらで一時保管させて頂くと言うのもご検討を」
「ほう……」
納得してくれたかな?
伯爵さんにとっても悪くない話だと思うけど、
「フン、話にならん」
えっ
「教団が私を狙っている? 実にくだらん。仮に貴様の言う事が本当だとして、私がぴーちゃんの場所をそう易々と教えるとでも? バカバカしい、バカバカしいにも程がある」
ちょっと、なんで急に怒るんだよ。
意味が分からないよ。
「教団がどうした。わざわざ貴様を頼らずとも、たかが一賊などどうにでもなる。恩を着せようとしているつもりだろうが生憎そうはいかん」
いや、私たちも協力するよって話で、
「どさくさ紛れてぴーちゃんを奪う気だろう。賊がいるとすればそれは貴様の方だ。黙れんぞ! 貴様のような下賤な者を敷地内に半日でも置いてみろ。何が消えるか分かったモノではない!」
うっわ……
「平民の分際で生意気な。いいか! ここは本来貴様のような冒険者崩れがいて良いような場ではない! 今すぐ敷地内から出て行け。そして二度とその不快な顔を見せるんじゃない!」
どんだけショートクリーム卿を認めたくないんだよ。
出て行くよう、すごい剣幕な顔でジェスチャーしてる。
はあ、お話ができない人ってたまにいるよね。
しかもそれが貴族だと厄介極まりないよ。
ちょっと勘弁してほしいな。
「ではメイル殿。ささっ、会場はこちらですぞ」
手を重ねてゴマすろみたいに。
また二重人格さん。
「失礼いたします」
ショートクリーム卿はあくまで平常。
これ以上は無駄だって分かった感じかな。
出ていく寸前、こっちにチラッとアイコンタクト。
メイルくんが同じく目で答える。
コクリさん。
うん、任せてほしいな。




