55.古代兵器ぴーちゃん①
幸せって何のなのかな。
ほらっ、趣味とか生きがいとか。
やってて素直に楽しいって思うこと。
私の場合は主に食べることだけど。
でもそれは常に幸せかって言われるとそうじゃない。
味が微妙な時もあるし、足りなくて満足できない時もある。
ぶっちゃけ何度もお腹が減って不便だなって、そう思ったこともあるよ。
そういう時って不幸に感じるよ。
何が自分にとって幸せか。
それって決める必要あるのかな?
状況や価値観で変わるモノだし。
何か変わらない幸せとかがあればいいんだけど。
う~ん、考えれば考えるほど分からなくなるよ。
「それでショートクリーム卿、話って何さ」
「はい。ではメイル様、”古代兵器ぴーちゃん”、というモノをご存じですか?」
ここは事務所。
いるのは私とメイルくん。
ロザリアさんは休暇でいないよ。
お客さん。
今回の依頼主は、ショートクリーム卿。
ほらっ、この前に自警団を率いて教団を補導してた人だよ。
貴族なのに冒険者みたいな恰好してる。
厳しい生え際も不思議と似合ってる紳士的なおじさん。
会うのはアレ以来だから一か月ぶりかな。
紅茶はもう出してあるよ。
「古代兵器ぴーちゃん? なにかな?」
私は初見さんだよ。
「聞いたことがある。大昔にいたらしい超魔法使いが作り出したとされる兵器の一つで、一度使えば世界を根本から変えることができるって代物らしい」
「はえ~、超魔法使いさん、それに世界さん……」
いきなりスケールが壮大だよ。
「でも実際にあるかどうかは分からない」
「んっ、どういうことかな?」
「詳しい文献がどこにもないんだ。一説では空を飛ぶ球体だって言われてるし、まだ未知の生き物だったり、土地そのモノだとも言われてる。見たことある人はいるって話だけど、その証言がまばらでどれも信憑性に欠けるモノばかり。たぶん今日の今日まで本当に見た人はいないんだと思う」
誰も見たことないのか。
不思議だね。
「生物なのか物質なのか、はたまた魔法の一種なのか、その姿形は一切不明。噂の1人歩きとも言われています。本当に実在するのかも怪しい代物です」
「はえ~、なんかすごいね。ロマンあるよ」
要は都市伝説さんってことでいいのかな?
メイルくんこういう話好きそう。
今回はそれが依頼かな?
ショートクリーム卿はそのぴーちゃんがほしいのかな。
「噂ではペルペル伯爵が所有しているとのことですが。いえ、正確にはその在処を知っていると言った方が正しいでしょう」
ペルペル伯爵。
この街に住む貴族の一人。
悪人さんとかではないんだけど、ちょっとお金や権力にがめついって噂だよ。
「ペルペル伯爵か、また思いきったことを言うね」
メイルくんとはお知り合いみたい。
お父さん繋がりかな。
「はい。強欲な彼のことです。これを手札に少しでも自身の立場を有利に、と考えているのでしょう」
そっか、権力が欲しいんだね。
まあ、貴族だから色々あるよ。
「ふ~ん、一見さん根も葉もない噂だと思うんだけど、そんな話を他の貴族さんがまともに相手するのかな?」
暇じゃないだろうし。
些か疑問だよ。
「確かにあんまり意味ないかもね。僕はともかく、父さんがそんな話を取り合うとは思えない。『古代兵器? だから何?』で一蹴されるのがオチだ」
メイルくん家がこの街一番の貴族。
メッセさん毎日忙しそうにしてるし、あんまり構ってられないよね。
「それで、そのぴーちゃんがどうしたのかな?」
今のところ問題はないように聞こえるけど。
「先日、私の部下が極秘である情報を入手しました。それは身に染める者たち、彼らがこの古代兵器を狙っているとか」
身に染める者たち……
まだ記憶に新しいよ。
薬物、廃教会、教祖。
あの教団が。
「教団に古代兵器。分からないことは多い。しかしペルペル伯爵が危険です。行動を起こすとすればおそらく彼を狙うでしょう」
「ゼロから探すよりは知ってる人間に聞いた方が手っ取り早い。本当に知ってるのかどうかは怪しい所だけど」
たしかにそうだよ。
「貴族の件にギルドは介入できません。彼らにとっても好都合」
一応ボディガードさんは雇ってるだろうけど、ギルドが来ないのは大きいかも。
教団としてはやりやすいよね。
「そっか。じゃあまずは伯爵の言ってることが本当なのか、調べる必要があるね」
「はい。私は事情を説明次第、彼の護衛を。その間メイル様には事の真偽を確かめて貰いたい」
「分かった、こっちは任せて」
メイルくんはやる気満々だけど大丈夫かな。
ペルペル伯爵の言ってることがホントかどうかを暴くんだって。
なんだか難しそうだよ。
「知らなかった場合は良いとして、もし本当に知っていた場合どうしようか」
「早急に見つけ次第、事が収まるまでは我々で保管します」
「そうだね。彼が素直に譲ってくれたらだけど」
ふ~ん。
「つまり盗むってことかな?」
バレないようにこっそり回収する。
2人とも曲りなりも貴族だよね。
貴族が貴族にそんなことしていいのかな。
「古代兵器はみんなの物だ。独占するのは良くない」
メイルくんが何か言ってる。
そもそもだよ。
古代兵器に所有権さんとかあるのかな。
「盗むのではなく、あくまで保管。問題はないはずです」
う~ん……
まあいいよ。
考えてもお腹が減るだけだし。
要はその、ペルペル伯爵が在処を知ってるっていう古代兵器と、それを狙う教団。
これを何とかすればいいんだよね。
なんか内容が複雑さん。
早くも面倒なことになるのが確定だよ。
「分かったよ。んで、これからどうするのかな?」
ペルペル伯爵の屋敷に行くのかな?
メイルくんとショートクリーム卿。
いきなり押しかけても怪しまれるだけだと思うな。
「それについては私に考えが。明日の夜、彼が主催する舞踏会があります。それに参加しましょう」
「んん?」
舞踏会さん?




