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53.ある奥さんからの依頼⑪

 ──それから2日後だよ。

 ここは事務所。

 今はソファさんにゆったり腰をかけてる。


「はあ、それにしても大丈夫かな」


 ギルドさん。


「ミチル、またそれ?」

「うん。対応するとは言ってたけど、今頃てんやわんやしてるんじゃないかな」


 あとはギルドに任せる。

 実際にそうしたワケだけど、ちゃんと解決できるのかな。

 そんなに大きなギルドじゃないし、やっぱり不安だよ。


「どうかな。忙しいのはいつものことだ」

「まあ、そうだけど」

   

 あの後、日をまたいでギルドに証拠品を提出した。

 最初は職員さんたちも怪しんでたけど、匂いを嗅いだ途端に目の色を変えたよ。


 一度成分を調べてから入念に精査。

 世間さんに口外しないよう厳重に管理するんだって。


「いつもああだったら良いのですが」

「そうだねロザリアさん。まあ、基本的には悪い人たちじゃないんだよ」


 ただ忙しいから素っ気ないってだけで、中身があればちゃんと対応してくれるよ。

 こればっかりは激務さんだから。

 見てて分かるよ、みんな悩殺されてるなって。


 教団についても冒険者を派遣して調査してくれるそう。

 ショートクリーム卿もいるし、ひとまずは安心でいいのかな。


「旦那さんの件も、『当分の間、仕事以外での外出は一切禁止』って形で上手く区切りをつけたみたいだし」


 今度こそ無事解決。

 温かい家庭を取り戻したよ。

 しばらくは冷えてるだろうけど、時間が解決してくれると思うな。

 

「旦那様には気の毒ですが、リハビリにちょうど良いのかもしれません」

「そうだね。僕たちのことを教祖には黙っててくれたみたいだし」

 

 私たちが捕まった時に知らないフリをしてくれたらしい。

 戻ってくる見張りさんたちも足止めしていたそう。

 だから一応、酌量の余地はあると思うな。


 治るといいな、依存症。

 

 ……って、ん?

 メイルくん、どうしたのかな。

 さっきから無言だけど。

 なんだか悩みがあるって仕草をしているよ。


「少し気になることがある」


 なにかな?


「それはやはり、教祖ですか?」

「アイツの言動には違和感しかなかった。幸福についてあれだけ熱心に語っていたけど、当人的にがどうでもいいと思ってるような。どうにも腑に落ちない」

 

 考えすぎは良くないよメイルくん。

 頭のおかしな人はいっぱいいるんだよ。

 そういう人とは極力関わらないって言うのが人生の処世術さんだよ。

 

「それにアイツ、妖精が見えてるみたいだった」


 えっ、

 

「メイル様と同じですか」

「分からない。でも見えていたの確かだ。じゃなきゃ捕まるヘマはしなかったさ」 

 

 負け惜しみさんかな?


「ふ~ん、あの人も妖精さんが見えるんだ」


 物珍しい特技かと思ってたけど、案外そういうスピリチュアルな人って多いんだね。

 って言うことはだよ。

 メイルくんも大人になったらああいう感じになるのかな?

 

「ミチル、今失礼なこと考えてない?」

「別に考えてないよ。そうやってすぐ探るのはやめてほしいな」

 

 そっちこそ失礼だよ。

 まあ、もう慣れっ子だからいいよ。


「はあ、話をしてたら何だがお腹空いちゃったな。メイルくん、そろそろおやつさんに──」

 

 バンッ!


「──オッス! 暇してるだろう、邪魔するぞ!」


 あっ、フェチョナルさん。


 はあ、フェチョナルさんさあ。

 いつも急だよね。

 そそっかしいのは分かるけど、いい加減ノックの一つくらいしたらどうなのかな。


「おっ、使用人。元気にしてたか? 元気そうだな! ハッハッハッ!」

 

 なんかいつもに増して上機嫌なんだけど。

 まっ、言っても無駄だよね。


「ところでメイル、あの後どうなった。上手くやれてるか?」

「……何のことさ」

「決まっている。前にコイツとイチャついていただろう。まあ聞くまでもないと思うが」


 ん? コイツって私?

 

「なんのことかな?」


 私、メイルくんとイチャついた覚えなんてないんだけど。

 

「白を切っても無駄だぞ。前に来た時、お前がメイルにほっぺをすりすりと擦り付けながら抱き着いていただろ。『えへへ~、メイルく~ん!』って言いながら」

 

 ……えっ?

 

 抱き着く?

 ほっぺさんすりすり?

 えっ? 私がメイルくんに?

 そんなさも甘えるみたいに?


 えっ? えっ?


「まったく、真昼間から何を見せつけてくれるんだ。どいつもこいつも。この街はバカップル共が多すぎる」

「ええっ⁉ ええええええ⁉」


 私がメイルくんにそんなことを⁉

 一体どういうことだよ!


「はっ! まさか薬物さん⁉」


 そうだ、あの時、薬物さんを接種した時の……

 

 そんな、嘘だって言ってほしいな。

 だって私に限ってそんなこと……

 

 あっ、そっか。

 フェチョナルさん、また私をからかってるんだ。

 前もそうだったし、よくおちょくってくる。

 人が驚いてる反応見て楽しむ性悪さんだよ。


 危なかったよ、危うく騙されるところだった。

 残念だけどもう引っかからないよ。

 

 私をナメないでほしいな。

 だよね、メイルくん。

  

「えっ、メイルくん?」


 あれ、こっちを向いてくれない。

 って言うか今、あからさまに顔を本で隠された。

 なんでかな。

 なんで違うって言ってくれないんだよ。

 

 えっ、もしかしてホントなのかな?


「最初から怪しいとは思っていたが、やはりそうだったか。やっぱり私の読みは正しかったな」


 いや、いや、

 

「違うんだよフェチョナルさん! あれは、その、薬物さんの影響で……」 

「気にするな。この際だ、『うえええん! メイルくんが冷たいよお~!』って言いながらワタシに抱き着いたことも気にしない」


 そ、そんなことやってたんだ私。

 全然覚えてないよ……

 

「うぅ、ホントに違うんだよ。メイルくんも何とか言ってほしいな」


 本で顔を隠さないでよ。

 そんな反応されるとこっちまで……


「どうした? 顔が真っ赤だぞ」


 うぅ、まさかそんなことしてたなんて。

 どうしよう。

 まともにメイルくんの方を見れない。

 すっごく気まずいよ。

 これからどう接していけばいいんだよ。


「はんっ、何を今更。照れる必要はないだろう。仲が良いのは良いことだ。なあ使用人」

「はい。大変微笑ましかったです」

「ああ。だが如何せんラブラブが過ぎるな。終いにはほっぺにチューを――」

「うえええん! もういいよ! もう聞きたくないよ!」


 バッ!


「最悪だよ! もう薬物さんはコリゴリだよっ!」

 

 なんで誰も止めてくれなかったんだよ!

 えええ〜ん! みんなひどいよ〜!!! 


 


 〜ある奥さんからの依頼、完〜

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