52.ある奥さんからの依頼⑩
ピカーンッ!
これは、魔法⁉
これはアレかな⁉
暗闇を照らす便利なヤツだよ!
ピカーンピカーンッ!
それを正面から数人で照らされて、まぶしいよ!
ヤバいよ! また見つかっちゃったよ!
せっかく脱出できたって言うのに!
あの部屋はもう嫌だよ!
「──待って下さい」
んっ?
ライトがちょっと控えめに。
「──お若い女性が2人、それに子どもではありませんか。教団の者とは考えにくい」
集団の奥から誰か出てきた。
「おや? その恰好……仮装パーティの帰りか何かですか?」
頭以外は最低限の軽装に、一般的な剣を装備してる。
顔は紳士感漂う普通のおじさん。
生え際がちょっと厳しいかも。
でもそれも不思議と似合ってる。
アレかな、ジェントルマンさんって言うのかな。
そんなおじさんだよ。
この人の部下さんたちでいいのかな?
全員が同じ恰好に統一されてるよ。
頭にも防具を装備して、リーダーっぽい人以外の顔は分からないけど。
えっと、この人たちって、
「ショートクリーム卿だ」
「えっ? ショートクリーム卿?」
メイルくん、それって、
「この街有数の貴族で、自分の家来を率いて自警団をやってる人だ」
「知ってるよ。ここら辺じゃ有名だもん」
変わった貴族の人がいるって。
普通、貴族の人って美味しいモノを食べたり紅茶を飲んだり、屋敷で優雅に過ごしてるイメージだよね。
一般ピーポーさんとは隔絶されてる感じ。
「おや? 私のことをご存じで」
でもこの人の場合、勝手に街の警備を請け負ってる。
わざわざ自分の家来さんを使って街の治安を守ってるんだ。
そういうのってギルドのお仕事だと思うんだけど。
治安が良いのはこの人たちのおかげでもあるよ。
ショートクリーム卿。
はえ~、実物を見るのを初めてだけど、言われてみれば貫禄あるよ。
そんな人がなんでこんな所に。
「お嬢さま方はここで一体何を? こんな暗い時間に子どもを連れて、もう当に寝かしつけている時間では」
「やあ、ショートクリーム卿。こんな所で会えて光栄だよ」
「おや? そのお声にそのフォルム、よく見るとメイル様ではありませんか」
あっ、普通にお知り合いなんだ。
貴族同士だしそれもそうか。
「なぜそのような恰好を。真夜中に屋敷を出ていては父上が心配しますよ」
「その話はまた今度で。キミたちこそここで何をしているのさ」
うん、気になるよ。
「ええ。見ての通り彼らを薬物濫用の件で取り締まっています。最近とある教団が何やら怪しいモノを仕入れてると、部下から情報が入りまして。少々強引ではありますが、立ち入らせて貰いました」
ふむふむ。
「彼らを率いる教祖には逃げられました。しかしこれで幾分かの情報は引き出せます。まずまずと言ったところでしょう」
そうだったんだ。
たしかにほとんど捕まってるよ。
旦那さんもしっかりグルグル巻きにされてるし。
落ち込んでるのが目に見えてわかるよ。
なんだか可哀そう。
でもちょっぴり清々しいような。
なんだろう、立場が逆手したって言うか。
私たちを閉じ込めるからそうなるんだよ。ふんっ
「そっか、なら先を越されたね」
「おや? と言うことはメイル様も薬物の強制取り締まりを?」
「いいや、そう言うワケじゃないんだけど」
メイルくんが経緯を、ペラペラさん。
「僕らだけじゃどうにもできないから、あとはギルドに証拠だけ提示して任せようと思って」
「そうですか、ギルドにですか」
「物は回収したし、あとは帰る所だったんだ。でも取り越し苦労だったね」
どうせ補導されてるんなら、こんなに頑張る必要なかったよ。
トホホさん。
「そうですか。それは出過ぎた真似を」
「いや、助かったよ。実は僕らさっきまで捕まってたんだ」
「おや? それは大丈夫だったんすか?」
「まあちょっと尋問されたくらいで別に。見張りがどうにも邪魔でね、あのままキミたちが来なかったら強硬手段に出ていたかもしれない」
強硬手段って……
一体何するつもりだったんだよメイルくん。
クイッ
えっ、ロザリアさん?
メガネさん光ってるよ。
「なるほど、それは大変でしたね。教祖とは会いましたか?」
「うん。顔は隠れて分からなかったけど、思想がえらく偏ってると思ったよ。自分を身に染める者だって、そう自称してた」
今思えばなんだか痛い人だったな。
「身に染める者……ここ数か月、独断で彼の動向を探っているのですが、これが雲を掴むように難しい。実体はあることは確かなのですが、我々の前では一向に姿を現さない。ようやく訪れた機会もこの通り逃げられてしまいました」
難しそうな顔をしてるよ。
そっか、ショートクリーム卿。
私たちよりも前から追ってたんだ。
「知っていますか。最近、この近くの森にヘルハウンドが出没したという話を」
「あっ、知ってるよ! だってその当事者だもん!」
「おや?」
それ報告したの私たちだよ
実際にヘルハウンドに襲われたよ。
「あの時はフェチョナルさんがいたから助かったけど、もしそうじゃなかったら……」
「ミチル、抑えて。今は話を聞こう」
「う、うん……」
わかったよ。
「ヘルハウンド、通常現れるはずのない魔物です。自然界に何か異常が発生しているのか、あるいは人為的なモノなのか。噂では一人の男が、街の外で謎めいた儀式のようなモノをやっていたとか。もし後者だった場合、彼、身に染める者が関与しているだろうと睨んでいます」
つまりあの人がヘルハウンドを発生させた張本人。
黒魔術か何かを使って呼び寄せた。
そう言いたいのかな。
でも、なんでそんなことをしたのかな。
「ここにいる者も全員ではありません。彼を含む何人か、おそらく他にも集会場があるはず。放っておけば今後被害は増えるでしょう」
ヘルハウンドの件もそうだけど。
もし街中に薬物が広がったら、スラム街みたいになっちゃう。
良い街なのにそれは嫌だな。
「仲間を集っているのも気になります。おそらく近いうちに何か起こすつもりなのか。ギルドが動かない以上、事が起こる前に我々で何とかするしかない」
未然に防げるならそれに越したことないよね。
「しかし、こちらとしても人員が不足しています。今は少しでも多くの協力者が欲しい」
「なら僕らも出来る範囲で協力するよ」
メイルくん、気軽に返事してるね。
少しは考えようよ。
まあもうガッツリ関わってるし今さらかな。
うん、私も協力するよ。
「心強いです。さて、今日はもうお帰りください。こんな時間に外にいると知られたら、お父様もさぞ心配なさるでしょう」
たしかに、めっちゃ怒られるよ。
メッセさん門限に関しては怖いもん。
「一つ言い忘れたけど、僕はメイルブルー。メイルじゃない。以後間違わないように」
「おや?」
ショートクリーム卿がキョトンしてる。
まあそうなるよね。
「……なるほど、そういうことでしたか。これは失礼」
「いや、分かればいいんだ」
内緒にしてくれるってことかな。
「ではお父上によろしくお願いします」
そう言って、ショートクリーム卿が軽くお辞儀。
私たちもそれに返す。
ペコリさん。
んじゃ、帰るよ。




