42.おじさんからの依頼⑫
次の日、お昼ごろ、事務所。
いつものメンツ。
「ミチル、紅茶入れたけど、どうかな」
「んじゃあ、お言葉に甘えようかな」
「はい、どうぞ」
私の席に置いてくれた。
「ありがとうだよ」
「ローズもいる? 僕の入れたヤツだけど」
「いえ、私は」
「そう……」
メイルくんの入れてくれた紅茶。
一口頂くよ。
うん、ちょっと苦いけどちゃんと美味しいよ。
「はあ……」
「ダメだった? 結構上手くできたと思うんだけど」
「ううん、美味しいよ。でも……」
昨日のデート、上手く行かなかった。
良い雰囲気だったのに、フェチョナルさんと言い合いして台無しに。
「私、またやらかしちゃったな」
「ああ、それか」
「気づいたらおじさんたちいなくなってたし、その後が不安だよ」
上手く行ってると良いけど、難しいよね。
たぶん微妙な空気のまま解散して、それで……
今頃ステューシーさんも落ち込んでると思うな。
今さらフェチョナルさんの悪口を言うつもりはないよ。
そこはお互い様だし。
言っても変わるワケじゃないからね。
でも、これでもし、
2人の関係が終わったら……
「はあ……」
これじゃまったりできないよ。
「まだそうと決まったワケじゃない。予想で勝手に落ち込んでも疲れるだけだ」
「そうだけど」
「それに、僕はそうは思わない。大丈夫、2人ならきっと上手くいくよ」
「そうかな」
「うん。僕らなりにやれることはやった。当然フェチョナルもね。あとは2人を信じるだけだ」
2人を信じる……
「後悔も良いけど程々に。キミの師匠も言ってた」
おじさん?
……そうだよね。
もうできることは2人を信じるしかないんだ。
うん、それしかないよ。
「結果次第ではまだ依頼が続くかもしれない。落ち込んでる暇はないよミチル」
「わかったよメイルくん」
不安だけどネガティブさんやめる。
「切り替えて行くよ」
「その意気だ。あっ、そう言えば前にマダムからお菓子を貰ったんだ」
「ふ〜ん、マダムさんから……って、えぇっ⁉」
マダムさんから⁉
「ちょうど区切りも良いし、今からおやつにしようか」
そんな、こうしちゃいられないよ。
「メイルくん! 私、紅茶入れ直してくるよ! もうっ、なんでもっと早く言ってくれないのかな!」
マダムさんのお菓子は毎回絶品だよ。
勿体ぶらないでほしいな!
「切り替え過ぎでは?」
「いいんだローズ。こういう子なんだ」
フフッ、どの紅茶にしようかな~。
どれも合うから悩ましいな。
──チリン、チリン
んっ? ベルさん。
なんだろう、お客さんかな?
あの、今から私おやつタイムなんだけど。
なのに一体誰が、
「──お、お邪魔します!」
あっ、ステューシーさん。
「はあ、はあ……っ」
「ど、どうしたのかな、そんなに急いで」
すごい息を切らしてる。
ドアの身体を預けて今にも倒れそう。
「ほらっ、紅茶だよ。ちょうど冷めてるし、これを飲んで落ち着いてほしいな」
「あ、ありがとうございます……」
あっという間に飲み干したよ。
様子からしてかなり急いでたみたい。
やっぱりあの後なにかあったんだ。
どうしよう、半分は私のせいだよ。
「それで、一体何があったのかな?」
うぅ、聞きたくないよ。
「お……」
「ん? お?」
「お付き合いできました!」
へっ?
「お付き合いって、えっ? おじさんと?」
「はい!」
えええっ⁉
「すごいよ! おめでとうだよ!」
祝福するよ!
「僕からもおめでとう。上手く行って良かった」
「右に同じく」
「ありがとうございます! 本当は帰りに伺おうと思っていたんですが、居ても立っても居られなく、仕事を飛び出して来ちゃいました」
そうだったんだ。
別にお休みの日でも良かったのに。
「告白はどっちから? やっぱりプロソロから?」
「はい。あちらから正式に付き合ってほしいと言われて、私もそれをOKする形で」
はえ~、おじさんからか~。
やるね、おじさん。成長したね。
良かったよ。
内心気が気じゃなかったし。
吉報を聞けてホッとしたよ。
「ここに依頼して本当に良かったです、うっ、うぅ……」
また泣き出した。
「すみません、嬉しいはずなのに、ここに来たら急に涙が……」
「はい、ハンカチさん貸すよ」
「ありがとうございます」
嬉し泣きだよそれ。
感極まってるんだね。
「ちょうど僕らも今からおやつなんだ。良かったらステューシーさんも食べて行かない? お祝いも兼ねて」
「そうしなよ、マダムさんのクッキーすっごく美味しいよ」
絶対気にいると思うな。
数が減るのは残念だけど、遠慮しなくていいんだよ。
色々聞きたいこともあるし、みんなで食べた方が美味しいよ。
「すみません、そうしたいんですけど今はお仕事中でして、すぐギルドに戻ります」
「そっか、勢いで来ちゃったんだったね」
「はい、とにかくお伝えしたくて、すみません……」
「いいんだよ」
お仕事だもん。
仕方ないよ。
「また後日改めてお礼を言いに来ますね。失礼しました」
「うん、今度ゆっくりお話しようね」
「はい。あっ、紅茶ありがとうございます。美味しかったです。それでは……」
バイバイだよ。
「行っちゃったね、ステューシーさん」
あっと言う間だった。
まるで嵐さんみたいだったよ。
「でも良かったよ。無事にお付き合いできて」
ホント一時はどうなるかと。
「だから言ったよね。2人なら大丈夫だって」
「どうしてそう思ったのかな? 正直デートの内容はあんまり良くなかったよ」
前半はまあ良かったんだけど、後半からはまるでダメダメだった。
おまけに最後のフェチョナルさんとの言い合い。
「ぶっちゃけ邪魔しかしてなかったし。アレでどうやって付き合う流れになったのかいささか疑問だよ」
「ミチルはアレを失敗だって思ってるけど、僕はそうは思わない」
ん?
「ミチルは分からないだろけど、キミたちが喧嘩してる時、2人の空気が和んでた」
「どういうことかな?」
「うちの手のかかる教え子たちがごめん。それにステューシーさんがクスッて。うん、アレはアレで良い雰囲気だったよ」」
それはケンカしてる私たちを見て笑ってたことなのかな。
そんな、私とフェチョナルさんは見世物じゃないよ。
って言うか、笑ってる余裕があるなら止めてほしかったな。
なんでいなくなるんだよ、ひどいよ。
「それを見て思ったんだ。2人ならもう大丈夫だって。結果的にフェチョナルを呼んで正解だった」
ふ~ん。
「あっ、もちろんキミのおかげでもあるよ。誰か止める人がいないと行き過ぎてた思うから」
丁度いい塩梅さんって言いたいのかな。
「なんか腑に落ちないけどまあいいよ。今回の依頼も無事に達成だね」
色々あったけど結果が良ければ。
もうそう考えることにしたよ。
「安心してるところ悪いけど、まだ終わってない」
「えっ?」
「もう一つ大事なことを忘れてるよ」
「メイルくん、それって……」
チリン、チリン
あっ、またベルさんが。
「話をしていれば、来たみたいだ」
まさか、
「──おう、いるよな。邪魔すんぞ」
あっ、おじさん。
今度はおじさんだよ。
「おじさん! 久しぶりだよ!」
「やあプロソロ、久しぶり」
「ケッ、何が久しぶりだ。2人してすっとぼけやがって」
うーん、何のことかな?
「それよりも今日はどう言った要件で?」
「ああ、それなんだが昨日の……っておい、なにさっきから人の顔を見てニヤニヤしてんだ」
フフッ
「気持ち悪いぞお前」
「気にしないでほしいな。それよりも私たちに報告があるんだよね」
知ってるけど一応聞いてあげるよ。
元は言えば、私の適格なアドバイスのおかげなんだし。
「ほらっ、勿体ぶらないて教えてほしいな」
「えぇ、やっぱ言いたくねぇ」
ほらほら、恥ずかしがっちゃダメだよ。
どうせ全部知ってるから。
──おじさんの報告も終わって、それで、チラッ
メイルくん、本を読んでるね。
おじさんも帰って落ち着いたし、おやつも食べたし、そろそろかな。
「メイルくん」
「なに」
「んっ、これ」
あげるよ。
「これはマグカップ? ミチル、なんで急に」
「まあ特に意味はないけど、日頃の感謝の気持ちってヤツだよ」
毎日おやつたくさん貰ってるし、そのお礼。
「そう、ありがとう」
「一応、私と同じだよ。ちょうど新しいの欲しかったし」
メイルくんは青で私はオレンジ。
デザインは一緒で色違いだよ。
「ミチル、それって……」
「あの、私のは」
あっ、ロザリアさんが無表情で見てる。
「ロザリアさんの分もちゃんとあるよ」
「安心しました。ミチル様のことですからてっきり」
「いや、流石にそれはないよ。私をどう思ってるのかな」
大丈夫、仲間外れにしたりしないよ。
はい、あげるよ。
「黒ですか。ありがとうございます」
「うん、どういたしましてだよ」
皆さん喜んでもらえて何よりだよ。
買って良かったな。
「あれ、メイルくん、あんまり嬉しそうに見えないけど、ひょっとしてお気に召さなかったかな?」
「……いや。嬉しいよ」
あれ、
「ありがとうミチル、大事に使わせてもらうよ」
もしかして……
~おじさんからの依頼、完~




