18.新米冒険者からの依頼⑧
──それから、3日後。
時間はお昼過ぎくらい。
ここは事務所で、いつものメンツ。
本を、パタンッ
「ブロードさん、いま頃どうしてるかな」
あれから顔を見せないけど、大丈夫かな。
「ブロードが心配?」
「メイルくん、それはそうだよ、だって……」
結局、あの星5の魔晶石、壊れちゃった。
私とメイルくんを守るために無理やり使って。
あんなに苦労したのに、あんなに喜んでたのに。
「本人は気にするなって言ってたけど、やっぱり落ち込んでるよね」
「そうだね。でもどちかと言えば、キミの方がそう見える」
はあ……
──あれから、ブロードさんの依頼は完了した。
星5は戦いでダメになっちゃったけど、まだ候補はいくつかある。
星4でも制限すれば十分使えるからOK、だって。
料金に関してもちゃんと支払うそう。
両耳揃えてキッチリ返す。
だから少し待ってくれ、とのこと。
「まだ傷も治ってないだろうし、まだ無理しなくてもいいのに」
これからの事とか色々大変だろうし。
「仕方ないよ。条件だった星4以上は達成している。本人もそうすると言った以上、僕らも拒否するワケにはいかない」
「それはそうだけど……」
でも、
「ブロード、すごかったね」
「……うん」
ホント、すごかった。
あのヘルハウンドを、しかもあの数。
それをたった一人で。
たしかにあの魔力を見た時、ただ者さんじゃないなとは思ったけど、まさかあそこまでやるなんて。
ホントにびっくりしたよ。
「ローズも来れば良かったのに。すごくカッコよかったよ」
本を、パタンッ
「そうですか」
「うん。あの環境を支配するような動き、流石のキミでも──」
「そうですか」
メガネ、クイッ
「毎回思うけどさ、ローズって分かりやすいよね」
「……知りません」
私、武術とかはよく分からないけど、あの棒さばき。
軽々としててまるで身体の一部みたい。
とにかくすごい身のこなしだった。
「防御を捨てた回避特化、洗練された槍の扱い。特筆すべきは一撃必殺の魔法刃。うん、改めて理にかなってる」
魔術師? なにそれ美味しいのかな?
って感じにゴリゴリの近接戦闘。
武闘家もビックリの戦いっぷりだった。
とにかくすごかったよ。
まるで歴戦冒険者みたいな感じだった。
加勢するのもおこがましいってくらい。
「アレはまさに、お見事。としか言いようがなかった。うん、やっぱり僕の目に狂いはなかった」
「そうですか。ですがくれぐれも真似はなさらないように」
「なにさ? まだ何も言ってないんだけど」
クイッ
「諦めてください。そのような戦術はメイル様には到底不向きです。何より無謀ですから」
「言い過ぎじゃない? さっきの仕返し?」
「さあ?」
「すぐ根に持つよね。そうやって」
私、見入ってた。
たぶん口を開けて、ポカンって。
メイルくんを守るのも忘れて。
足手まといはどっちかなって。
気づいた時には全部終わってた。
その時になってやっと理解したよ。
私たち、ブロードさんに助けてもらったんだって。
大事な魔晶石を迷わず使って、魔物と戦ってくれた。
もし、そうしてくれなかったら今ごろ……
私とメイルくんを恩人だって言ってたけど、それはブロードさんの方だよ。
私、色々酷いこと言っちゃったな。
頭ごなしに否定して、いま思うと言い過ぎだよね。
そりゃあ、風さんだって答えてくれないよ。
いざってなると気が動転して、なんの役にも立たない。
口だけで最低だったな。
私ってホント……
「いいですか、くれぐれもまた森に行こうなどとは考えないように」
「行かないよ。はあ、もうこれで何度目さ」
一応ギルドには報告しておいた。
森にヘルハウンドがいたよって。
対応するとは言ってたけど、正直あまり期待できないかな。
そんなに大きなギルドじゃないし、前例が全くないからね。
職員さんも困ってたし。
「父さんめ、これじゃ営業妨害もいい所だ。おかげで依頼が来ないじゃないか」
アドレウス家では当分の間、街の外に出るのは禁止。
活動はあくまで街の中にとどめることになった。
「まったく、ミチルもそう思うよね」
この件でメイルくんはプンプンしてるけど、私はそれでいいと思う。
原因が分からないうちに近づくのは迂闊さんのやること。
行かないことを強くおすすめするよ。
何より私がボディガードしやすいし。
お客さんが来ないのは、まあいつものことだし。
別にゆっくりしててもお給料はちゃんと入ってくる。
メイルくんさえ無事なら。
だから正直、何もない方がいいかな。
あっ、今のは誰にも言わないでほしいな。
ここだけの話、しっー、内緒だよ。
にしても、うーん。
暇だからお腹空いてきちゃった。
おやつの時間は、チラッ
「まだダメ。我慢して」
はあ。
どうせ誰も来ないなら、今のうちにブロードさんのところにでも、
──バンッ!
「オッス! 空いてるか! 入ったぞ!」
あっ、話をしていたら、
ブロードさん。
勢いよく入ってきて、今日も元気だね。
って言うかノックくらいしなよ。
そんな入り方する人初めてだよ。
「やあブロード、久しぶり。どう? 怪我の様子とかは」
「ああ、すっかり完治したぞ! 見ての通り絶好調だ!」
まだ包帯取れてないよ。
「まあワタシの脅威の回復力があれば、あの程度はほんのかすり傷だ! ハッハッハ……うぐっ!?」
ほら、言ってる側から。
まあとりあえず大丈夫そうで安心したよ。
「くっ、急に右腕が……って、おっと。今日はそんな話をしに来たんじゃない。それよりもコイツだ、お前たちに見せたいモノがある!」
バンッ!
ブロードさんの杖だ。
先端には例のアレがハマってる。
「新しくなってる。っていうことは完成したんだ」
メイルくんの言う通り、綺麗な魔晶石に新調されてる。
「……でも、あれ?」
見間違いかな?
「私の目だと、星さんが6つあるように見えるけど……」
おかしいな。
私、目がかすんでる。
「いや、見間違いじゃない。たしかに6つある」
えっ?
メイルくん、それってつまり、
「ああ、正真正銘、星6。世界に二つとない公麟の魔晶石だ」
「ええっ⁉ 星6!? 星6ってなにかな!?」
星5が最高レアじゃなかったのかな⁉
「聞いてないよ!」
「いや、聞いてないも何も、言ってないからな」
う、うそだよ……
だって、アレより上の演出があるなんて、にわかに信じられない。
当たったら絶対ヤバいよ。
脳汁さんドバドバ、一生頭から離れない。
人生終わっちゃうよ。
「いいだろう。元は星5だったんだが、加工するとレア度が上がってな」
「えっ、それってつまり、限界突破したってことなのかな?」
「ん? まあそうだな。ちまたでは聞いていたが、まさか星5でなるとは。ワタシにもようやくツキが回ってきたらしい」
運が良いどころの話じゃない。
星5でさえかなりシブられてるのに。
一体なんパーセントの確率なのかな。
「ミチル、やけに食いつきがいいね。何か心境の変化でも?」
絶対激シブだよ。
すごいよコレ。
「聞いてないね。まあ良いんだけどさ。それで、ブロードはどこでそれを?」
ん、たしかに。
普通に掘っても見つかるとは思えない。
一体どんな手を使ったのかな。
「ああ、ギルドからの特別報酬でな。ヘルハウンドとやらを一掃しただろう。その報酬としてコイツを貰ったんだ」
ギルドから? それって、
「ほらっ、お前たちの分も貰ってきてやったぞ」
ドサッって、袋いっぱいに詰められた金貨。
今にもはちきれんばかりの量。
目の前にいっぱいに広がるキラキラさん。
はえ~、これって一体どれくらいの量なんだろう。
「なるほど、これなら依頼料は十分だね」
「いや、明らかにオーバーだよ! この量はなんなのかな⁉ 絶対おかしいよ!」
気前良すぎて逆に怖いよ!
「依頼料とはまた別だ。そっちはそっちで今度キッチリ支払ってやる」
「ブロードさんも気前良すぎだよ! アレかな⁉ 相場とかを知らないのかな⁉」
もっとシビアに行った方が良いと思うな!
「くれるって言うんだから素直に貰っておこう。別に悪いことをしたワケじゃないんだし」
「うぅ、でもいいのかな。私たち、何もしてないのに……」
こんなにもらえないよ。
「いいぞ。元をたどればお前たちのおかげだ。遠慮せず受け取ってくれ。ワタシはコイツで十分だからな」
そう言って、星6の魔晶石を見せるブロードさん。
そうは言うけど……
「それでブロード。ヘルハウンドの件だけど、原因とか、何か分かったことはある?」
「いや、まだ調査中らしいぞ。しかしギルドのヤツら、何も教えてくれなくてな」
「なんでさ、僕たち当事者なのに」
「ああ、調査中の一点張りだ。こっちもこれだけ報酬を貰ってる手前聞きにくくてな」
原因不明なのに、この特別報酬。
まだ未解決なのに。
ギルドにしてはえらく気前良い。
「まあ考えても無駄だろうね。それよりも、おめでとうブロード。その魔晶石は正真正銘、キミの力で勝ち取ったモノだ」
「うん、おめでとうだよ、ブロードさん」
持ち主さんに相応しいと思うな。
「それと、ありがとう。僕らを助けてくれて。キミがいなかったらと思うとゾッとする。改めて礼を言うよ」
上に同じく。
ホントに助かったよ。
「よ、よせ2人とも、急に改まれても……元はと言えばワタシのせいで危険に巻き込まれたんだ。むしろ助けてもらったのはワタシの方で、礼を言われるようなことは何も……」
すごい照れてる。
真面目に褒められると弱いんだね。
「今後のキミの活躍、応援してるよ」
「そ、そうか? まあ期待していいぞ」
フンスッって胸を張って、単純さん。
「うん、僕がファン一号だね」
あっ、メイルくんがニコッって。
「ブロード? どうかした?」
「……いや、何も。気にするな」
効いちゃってるよ。
「ん?」
キョトンとしてる。
今のは反則だと思うな、メイルくん。