14.新米冒険者からの依頼④
そして、次の日だよ。
「いい天気だね」
「ああ、絶好の探索日和だ」
「空気も澄み切ってて気持ちいいし、たまにこういうのも悪くないね。ねっ、ミチル」
はあ……
「景色もいいし、ハイキングみたいで新鮮だ」
「おいメイル、これはあくまで探索だ。遊びにきたワケじゃないぞ」
「もちろん分かってるよ。でもあまりに平和だからつい」
はあ……
「ほらっ、ミチルもさ。せっかくのお出かけなんだし、いつまでも拗ねてないで機嫌直してよ」
あれから一日、日をまたいでの出発。
私たちは今、街の外にいる。
私とメイルくん、ブロードさんの3人で。
森さん。
隙間から日光さんがちょこちょこ照らす中、目的地に向かって進んでいる。
ちなみにロザリアさんはお留守番。
今日は外に出る気分じゃないんだと。
なにかな?
依頼には賛成していたクセに、いざそうなると自分は同伴しない。
メイルくんの見守り、ブロードさんの護衛。
2人のお世話はぜ〜んぶ私に丸投げ。
自分勝手にもほどがあるよ。
そりゃあ私だって不機嫌にもなるよ。
「のどかで良い森だね。魔物がいるなんて信じられないや」
「だな。出ないに越したことはないが、色々と拍子抜けだ」
ここは森さん。
念のため名前は伏せておくけど、街を出てすぐ近くの、徒歩10分くらいに場所にある。
近場ってこともあってか、気軽に採取できるから結構便利だよ。
魔物さんはいるにはいるんだけど、凶暴なのの大体が夜行性。
昼間も出るっちゃ出るけど、まあ私がいれば問題ないかな。
なんたってベテランさんだからね。
ここには何度も来てるし、私にとっては庭みたいな感じだよ。
知らない場所なんてないんだよ。
「目的地まであとどれくらい?」
「ああ、この地図によると、大体あと2時間くらいだな」
ホントかな。
えらくザックリとした地図だけど。
ちゃんと読めてるのか心配だよ。
この先に採掘ポイントがあるって言ってるけど、ホントにそんなポイントあるのかな?
私、聞いたことないんだけど。
しかも目的地まで2時間かかるらしい。
「はあ、長いよ……」
帰りも同じくらいかかるよね。
往復4時間はキツイな。
まあ、これくらい冒険者やってた頃はしょっちゅうだったから別に。
どうってことないかな。
ホントだよ、はあ……
「その反応、行ったことないのか?」
「さあ、どうだったかな」
知らないと思われるのはなんだか癪。
「そうか、ないんだな」
「うるさいよ」
失礼しちゃうよ。フンッ
「ミチル。ブロードは僕らの大切な依頼主だ。そんな態度は良くない」
「ふーん? でもそう言うメイルくんだって昨日喧嘩してたよね?」
もう子どもみたいに、ワーって。
自分だって人のこと言えないと思うな。
「ミチルってさ、意外と文句が多いよね。よく言われない?」
「言われないよ!」
もう、メイルくんも失礼しちゃうよ。フンッ
「ワタシのことはいい。無理言ってるのはこちら側だからな」
「ホントそうだよ」
自覚があるなら頼まないでほしいな。
……って、
「なに見てるのかな」
この人、さっきから私のこと見てる。
横目でチラチラと。
見てるのバレバレだよ。
何か気にいらないことがあるんなら、面と向かって言ったらどうなのかな。
「お前、たしかミチルと言ったな」
「むっ、それがなにかな」
ミチルだよ。
「ずっと気になっていたんだが、お前年齢は? 何歳だ?」
「16だけど、それが?」
アレかな?
年下のクセに生意気だって言いたいのかな?
たしかに私の方が年下だけど、冒険者としては2年も先輩。
敬うのはむしろそっちの方だよ。
「な、なにかな?」
なのに、まだ見てくるよ。
年上だからって別に、敬語を使わないといけないってことは──
「16か……はて、16でここまで実るモノなのか? うむむ、こう言ってはなんだが、ワタシと全然違うな……」
どこを見てるのかな。
「なあ、メイル。お前はどう思う?」
「いや、なんで僕に聞くのさ」
「そうか。はあ、コレといい身長といい、神というのは不平等だ。なぜこうも人間に差をつけたがるんだ」
神様のせいじゃないと思うな。
「いや、逆にこれは神がいないことの証明。なるほど、所詮は人間の生み出した幻想か。早くも真理に辿り着いてしまったぞ」
意味が分からないよ。
「一応参考程度に、それは一体どう──」
「知らないよ!」
もう、さっきから何なのかな!
ジロジロ見てるかと思ったら急に1人で悟りだして。
失礼にもほどがあるよ!
「すまん、ついな」
「ミチル、今日はおこだね」
「そのようだ……って、ん? アレは……おっ!」
「あっ、ちょっと!」
急に離れないでほしいな。
キミ一応、護衛対象なんだから。
「知ってるか? この草は食えるんだぞ。どうだ、すごいだろ」
「へえ~、一見何でもなさそうな雑草だけど。ねえ、ミチルは知ってた?」
知ってるよ。
薬草だからね、それ。
「まだ村にいた頃に、よく見つけては食っていたんだ。食えば魔力が上がるってボケた爺さんが言っていてな。幼いワタシはそれを鵜吞みにして、食べまくってはその度に腹を壊して……フフッ、懐かしいな」
なんだろう、ただの草も混じってそう。
「まあ何事も生は良くない。薬草と言っても所詮は野草だからね、よく洗浄してから食べないと。ローズも言ってた」
「その通りだな……おっ、アレは!」
あっ、まただよ。
「おおっ、このキノコ……コイツは高値で売れそうだ。あっ、こっちにも!」
サッ、サッ
「もう、だから勝手に動かないでほしいな」
この人、自分が護衛対象だってこと忘れてないかな?
ロクに戦えないんだから大人しくしててほしいな。
それにこのはしゃぎよう。
はあ、子どもじゃないんだから。
「ミチル、そんな肩を落とさないでよ。採取も今回の依頼に含まれている。採取中、ブロードに危険がないよう僕らで護衛しないと」
護衛って、それやるの私だよね。
「少しでも生活の足しにできればと思ってな。高値で売れるモノがあったらじゃんじゃん教えてくれ」
なにそれ。
あんまり悠長にはしていられないんだけどな。
魔物さんとの遭遇率も高くなるし。
ガサッ……ピイイイッ!
「おっ、なんだこのプヨプヨした生き物は。食えるのか?」
魔物さんを素手で触ってるよ。
「ホントだ。丸くて可愛い。いっちょ前に威嚇してるね」
魔物さんを木で突っついてイジメないでほしいな。
「ミチル、これは魔物? ずいぶん小さいけど」
「弱そうだな。よし! 今日の晩はコイツで決まりだ!」
ピ、ピィ……
はあ、早く採掘スポットに行こうよ。
そして、しばらくして、
「なあ、ミチル」
むっ、急に何かな。
私いま歩いてるんだけど。
「さっき採掘スポットには行ったことないと言っていたが、ならこの森はどうだ? よく来るのか?」
「ここ? まあよく来るよ」
最近は行ってないけど、昔はよく来てたかな。
まあ、ほとんどがミホちゃんの付き添いだけど。
「それがなにかな?」
「良ければでいいが、話を聞かせてくれないか?」
えっ?
「いや、たんに気になってな。好きなんだ、冒険者の旅先での話を聞くのが」
冒険話が好き?
「よくギルドの奴らにも、飯を奢ってもらうついでに聞いているんだが、これが中々面白くてな。つい聞き入ってしまって、せっかくの飯が冷めてしまう」
ご飯よりも……
そう。
「もちろんお前が嫌なら構わないが」
「へえ~、ミチルの冒険者してた頃の話か。僕も聞きたい」
キャッキャッしないでほしいな。
ピクニックじゃないんだよ。
……でも、
「いいよ。別に」
スポットに着くまで暇だし。
ちょっとは気が紛れるかな。
「おお、そうか。恩に着る」
じゃあ、はじめるよ。
えっと、これは私とミホちゃんが、まだ新米だった頃に──