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13.新米冒険者からの依頼③

 たしかに。

 自分の杖に魔法を付与するだけの魔術師をパーティに入れようだなんて、私は思わない。

 中遠距離で戦うのにわざわざ近接用の魔法をかけるなんて。

 魔術師の意味だよ。

 

 そもそもだよ。

 杖はあくまで魔法を使う道具であって、振り回して戦うモノじゃない。

 それを魔法で無理やり戦えるように。

 理屈は分かるんだけど非効率極まりないよ。


 それともアレかな、付与だけかけて後は丸投げするのかな。

 本人は戦えないワケだし。

 あっ、でも自分専用だって言ってたし。


 っていうことは、

 

 うわぁ……

 この人、変人だよ。


「あえて杖に魔法を……うん、中々独創的で良いと思うよ」

「メイルくんはなに感心してるのかな」

 

 変な大人の影響を受けないでほしいな。


「おお! 意外と話が分かるんだな。肯定的な意見はお前が初めてだ」

「まあね、これでも一応は分かってるつもりだよ」


 いや、なんにも分からないんだけど。

 

「いや~、どいつもこいつも見る目のないヤツばかりでな。まだ実物も見てもないのに、やれバカだのやれ才能の超絶無駄遣いだの、早く転職しろだの。人を馬鹿にするにも限度がある。なあ、そう思うだろ」


 ごめんブロードさん。

 ちょっと言い過ぎだと思うけど、私も思ったよ。

 

「この前なんて……おっと、少し脱線したな。で話を戻すが、エンチャントするためには魔晶石ってモノが必要でな。ほらっ、ワタシの杖にもハマってるだろう。これがその魔晶石だ」


 手に収まるサイズの綺麗な玉だ。

 水晶玉かな?

 

 色は紫。

 鏡みたいにテカテカだけど発光とかはしてないかな。

 中には星さんが3つ浮かんでて、なんだかパチモン臭がするよ。

 

「へえ、これが魔晶石か。綺麗だね。どう? ミチルは見たことある?」

「ううん、ないよ」


 何ならそういう代物があるってことすら知らなかった。


「ロザリアさんは?」

「いいえ、全く存じ上げません」


 ふ~ん、ロザリアさんも知らないのか。


「ワタシのは我流だ。加えてまだ発展途上、今はこの魔晶石がないと付与できないんだ」


 それでも十分だと思うけど。


「だが! いずれはコイツなしでも自力でエンチャできるようになってやるぞ!」


 ふ~ん。

 

「まずコイツに魔力を注ぎながら、武器の形をイメージする。ワタシの場合は刃だな。すると魔晶石を通してイメージした魔力が放出。魔力が続く限り刃が維持される仕組みだ」

「なるほど、先端に刃を付与して槍みたいになるのか。僕はてっきり杖の周りにオーラみたいなのを纏うとばかり」


 2人とも話に夢中になってる。

 

「まあ付与にも色々あるからな。単に近接武器の中なら槍が得意ってだけだ」

「いや、なら最初から槍を使えって話だよ」


 言っちゃなんだけど。


「あーそれ、ギルドの奴らにも言われたな」


 えっ、じゃあ、


「強いて言うなら、ずばりロマンだ。ただの槍なんて担いで何になる。この方が断然ワクワクするだろう」

「うん、ミチルは分かってない」

「ああ、全くもってその通りだ」


 なにそれ。

 今のって私が悪いのかな。


「一応、杖を媒介にしてるワケだから、何と言っても軽い。筋力に自信のないワタシでも問題なく扱えるってのも利点だな」

「へえ〜、不意打ちとかに使えるかもしれないね。魔術師と思わせて、ズバッて」


 メイルくんはそう言うけど。

 ごめん、逆にそれくらいしか使い道ないよ。

 

「あー、悪いがそんな野暮なことはしない」


 ノン、ノン

 

「ワタシは真っ向勝負が性分でな。だから敵の前で正々堂々エンチャするぞ! 奇襲などもっての他だ」

「そっか。余計なお世話だったね」

「いいぞ。その方が絵面的にも映えるし、何と言ってもカッコいいからな!」


 あー、これはどうしようもないヤツだ。

 この人、ちょっと冒険者をナメすぎなんじゃないかな。


 こういう事あんまり言いたくないんだけど、はっきり言って地雷さんだよ。

 

 しかも厄介なことに、メイルくんが興味持ってる。

 はあ、面倒なことになってきたな。


「だが一つ問題があってだな。それはこの星3の魔晶石では、ワタシの魔力に耐えられなくてな。付与する前に砕けてしまうことだ」

 

 なにそれ。


「そこでだ! 今回お前たちには、ワタシの魔力に耐えうる良質な魔晶石。そうだな、できれば星5……いや、星4でいい。そいつを探すのに協力してくれないか」


 ……あー、そういうこと。


「頼む!」


 バッ!


「頼む! 店で買おうにもマニアック過ぎて置かれてないし、ギルドの奴らは薄情で誰も取り合ってくれない」


 ふーん、だろうね。


「自分で調達すればいいと思うかもしれないが、あいにくこのザマじゃロクに戦闘もできやしない。もう他に頼めるアテがないんだ!」


 頭がテーブルすれすれ。

 垂れ下がった髪が付いてるよ。

 子ども相手にすっごい必死。


「頼む! この通りだ!」

 

 助けて欲しいって気持ちは伝わるよ。


 だけどね、


「メイルくん、悪いことは言わないよ。私はこの依頼、断った方がいいと思うな」

「ん? なんで?」

「なんでって……あのねメイルくん、この人は──」

「そこを何とか! 頼む!」


 ……もう、しつこいよ。


「嫌だよ。だって意味ないもん。もし仮にその魔晶石を見つけたとして、その後どうなるのかな? ブロードさんにとって何のタメにもならないよ」


 これは他でもないこの人のため。

 あと一応メイルくんも。

 だからここは心を鬼にするよ。

 

「たしかにキミの努力は認めるよ。その歳で付与魔法なんてめちゃくちゃすごいことだし、魔法の才能に関して言うなら私よりずっとあるよ。でも冒険者を続けたいんなら、他にやることがあるんじゃないかな?」


 こんなのに付き合っていられない。


「ん? どうした? 急に褒めたと思ったらまた貶して」

「子どもみたいな考えが通用するほど甘い世界じゃないんだよ」


 キミみたいのは特にそう。

 今までたくさん見てきたから分かるよ。


 作戦を無視して1人突撃する協調性のないおバカさん。


 安全圏でただ回復しかしないクセに貢献した気になってる自称ヒーラーさん。


 挙げ句の果てには、危なくなったらパーティを即離脱する自己中さん。

 

 ホント呆れるよ。

 こっちがどれだけ迷惑してるか分からないんだろうね。

 だからああいうことが平気で出来るんだよ。

 

 そういう人はみんな長くは続かない。


「もう十分わかってるとは思うけど、厳しいんだよ、現実さんは」

 

 キミがどうなろうと関係ないよ。

 でもくだらないエゴに、周りやメイルくんを利用しないでほしいな。

 いいからその変なこだわりやめなよ。

 

「別にソロなら好きにやればいいんじゃないかな? みんなにも迷惑かからないし、それで食べていけるんなら全然良いと思うよ」


 世の中にはエンジョイ勢って言葉もあるくらいだからね。

 何事もほどほどに楽しむのが一番だよ。


「パーティを組むにしたってそうだよ。キミと同じような心ざしの人は探せばいくらでもいるよ。これからはそういう人たちと協力して──」


「──ミチル、分かった。もういいから」


 むっ、

 

「分かったから。少し落ち着こう」


 メイルくん、目を閉じてじっとしてる。

 どうしようか考えてるのかな。


「……よし」


 メイルくん。


「ブロード。キミのその依頼、しかと受け取った」

「んなっ⁉ メイルくんっ!」


 なんでそうなるのかな⁉︎

 人の話を聞いてたのかな⁉

 

「っ! ホントか!? 引き受けてくれるのか!?」

「うん、僕たち探偵事務所にお任せを」

「おお……おおっ! そのタンテイ? って言うのはよく分からんが、とにかく恩に着るぞ!」


 まずいよこの流れ……


「ちょっと! 勝手に話を進めないでほしいな! 私は反対だよ! 断固拒否するよ!」


 バツ! 両手をバッテンにして訴えるよ!


「ロザリアさんも見てないで何とか言ってほしいな!」

「いいえ。私もメイル様に賛成です」


 えっ……?


「探し物の1つや2つ、ミチル様なら何の問題もないでしょう。第一面白そうではないですか。私としても、ブロード様の付与魔法がどれほどのモノか興味があります」


 そんな、ロザリアさんまでなに言って……

 

「それにメイル様が決めたことなら従うまで。違います?」

「そ、それは……うぅ、そうだけど……」


 パンッ


「はい、多数決。決まりだね。それでブロード、一応確認だけど、キミの今回の依頼は、その魔晶石探しってことでいいかな?」


 うわぁ、最悪。

 ちょっとあり得ないかな。


「ああ。それで、その……ここまで話を進めておいてアレなんだが、実はいま持ち合わせがなくてな。支払いはその、後払いでも……」

「出世払いってことだね。うん、全然構わないよ」

「そうか! 恩に着る!」

 

 

 もう、なんでこうなるのかな……

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