12.新米冒険者からの依頼②
「すまん。ワタシとしたことが、柄にもなく怒鳴ってしまった」
ふう、ようやく落ち着いたみたい。
「どうぞ」
お客さんに紅茶を、コトッ
「……ありがとう」
「うん、どういたしましてだよ」
いいんだよ。
これも助手としての大事なお仕事だから。
「はあ、子ども扱いだけはどうも我慢ならなくてな。気を付けてはいるんだが、こればっかりはどうにも無理なんだ」
「そうなんだ。かく言う僕も、キミほどじゃないけど気持ちはわかるつもりだよ」
メイルくんが理解を示してる。
「フッ、そうか。さっきは悪かったな、急に怒鳴ったりして」
「いいよ、僕の方も言い過ぎた。ごめん」
「ああ、気にするな」
どうやら丸く収まったみたいだね。
うん!
2人とも仲直り出来てえらい!
「お前、いま微笑ましくなってただろ」
ギロッ
えっ⁉
「完全に保護者の目になってたよね、ミチル」
「そ、そんなことないよ!」
ひえ~、2人とも過敏すぎだよ~。
「まあいい。自己紹介がまだだったな。オホンッ、ワタシの名前はブロード。まだ新米ではあるが一応、冒険者をやっている。よろしくな」
新米ってことは、Dランクか。
「僕はメイル、メイル=アドレウス。この探偵事務所の所長さ。よろしく」
「ミチルだよ、メイルくんの助手をやってるんだ。よろしくね」
あとは……チラッ
「ロザリアです。どうも」
あっ、ボソッと言ってすぐ本に引っ込んだ。
「ごめん。彼女はローズ。僕のもう一人の助手なんだけど、見ての通り人見知りなんだ。でも別に邪険に扱ってるワケじゃないから安心して」
ロザリアさん。
私の時と全然違う。
メイルくんがいるからかな。
使用人なのにカバーされてるよ。
さっきのこともそうだけど、果たして良い大人がそれでいいのかな。
「冒険者ってことはミチルの後輩だね」
「なんだ? ということはお前もそうなのか?」
ふんっ、よくぞ聞いてくれました!
「うん。まだなったばかりだけどBランクだよ」
さりげなく、フフンッ
「おおっ! お前Bランクなのか! すごいじゃないか! トロそうに見えるが意外とやるんだな!」
「う、うん……」
ト、トロいって……
「うむ、やはり人は見た目だけでは測れないモノだな!」
この人……
正直って言うか、遠慮がないって言うか。
アレだよ、ナチュラルに失礼だよ。
「それで、ブロード。今日キミはどういった要件でここへ?」
メイルくんが本題を切り出した。
「そうだね。ブロードさんのお悩み、私たちに聞かせてほしいな」
この探偵事務所に来たってことは、何か悩みがあるってことだよね。
ようやくお仕事の話だよ。
「ああ、それがだな……ん、ちょっとコイツを見てくれ」
何やら背負ってる杖を取り出すブロードさん。
そのまま杖を、コトッ
テーブルの上に置いた。
「この杖がどうかしたのかな?」
杖にしてはやけに長い。
持ち主のブロードさんよりもそう。
杖と言うよりは武闘家が持つ棍とかに近いかも。
でも先端に大きな水晶らしきモノがついてるから、杖ではあるんだろうけど。
うーん。
この辺ではあまり見かけないデザインかな。
「ミチルが持ってるのとはだいぶ違うね」
「うん、そうだねメイルくん」
私のは木製。
先端がうずまき状になってるごく一般的なヤツ。
クセがなくて使いやすいし、魔術師と言われたらこれが無難かな。
「ワタシは魔法使いだが、少し特殊でな」
ふむふむ。
「ワタシは杖に魔法を付与して戦う。適切な表現は難しいが……そうだな、いわゆる付与魔術師と言ったところか」
付与魔術師……?
「えっ? ちょっと待ってよ。聞き間違いかな? ブロードさんって付与魔法ができるの?」
「ああ、まあな」
えぇ、そんな……
なにあっさり言ってくれてるのかな。
「やけに驚いてるけどミチル、その付与魔法って何? そんなにすごいの?」
「すごいなんてモノじゃないよメイルくん! 付与魔法って言うのは──」
──クイッ
「付与魔法、読んで字の如く、武器や防具といった装備品に魔法を付与するモノです」
あっ、ロザリアさん。
「別名エンチャントとも呼ばれており、効果はかけた魔法にもよりますが、単純に威力が上がったり、強度が上がったりと様々です。パーティ間における味方の戦力強化に重宝されます」
急に早口になって、どうしたのかな?
「ですが問題もあります。と言うのが、習得難易度が他の魔法と比べ異常なまでに高いことです。ハッキリ申し上げますと割に合いません」
ペラペラ
「その難易度はさることながら。相応の資質をお持ちの方、それこそ最高ランクであるAランク魔術師でさえも習得が困難と言われています」
ぺララ~
「ですが、習得さえしてしまえばご朗報。魔術協会から多大なる功績として認められ、また周囲からも無条件で絶賛されます。良かったですね」
終わったかな?
たしかに、ロザリアさんの言う通りだよ。
少なくとも私じゃ絶対無理。
一生かかってもできないよ。
だけど、正直なくても別に困らない。
良い武器防具を使えばそれで事足りるから。
あるんならあるでまあ、ありがたくエンチャお願いするよ。
冒険者の間ではそれくらいの認識かな。
だから私自身、できなくてもあんまり気にしてないんだ。
できるってこと、それ自体がとてつもなくすごい。
げんにすっごく難しい魔法だし。
私のBランクがかすむくらいにはそうだよ。
だから魔術師をやっていく上ではステータス、実力の証明になる。
そんな魔法だよ。
「へえ~、一流魔術師でも難しい魔法を覚えてるのか。ブロードって何気にすごいんだね」
「よせ、今さら褒められても嬉しくない」
めっちゃ嬉しそうだよ。
だってブロードさん、口元が緩んでるもん。
ソワソワしてるのがバレバレだもん。
そっか、私と違って単純さんなんだね。
はえ~、付与魔法かあ。
もしかしなくてもブロードさんって、まだ駆け出しだって言ってたけど、実はかなり凄い人なんじゃ……
「まあ、ワタシの場合は付与魔法に全振りだからな。しかも自分専用」
ん?
「終いにはこれ以外の魔法はロクに使えないと来たもんだ」
付与魔法全振り?
自分専用?
他には何も? んん?
「えっ、それって……」
「ああ、おかげで数多のパーティから門前払いを食らってな。仕方なくソロ冒険者をやってるワケなんだが。いや~困った困った。ハッハッハッ!」
な、なにそれ……
笑いごとじゃないよそれ。
「ハッハッハッ!」
いや、むしろもう笑うしかないのかな。
これは。