10.マダムからの依頼⑤
夕日さんを背に、街を歩く私。
「はあ、疲れた……」
ずっと走り回ってたからもうヘトヘト。
肩さんも凝ってるし、冒険者やってた頃よりキツいかも。
「ビニャ~」
一方のカトリーヌちゃんと言えば、今は私の腕の中でお眠り中。
気持ちよさそうにスヤスヤしてる。
遊ぶだけ遊んでおいて、ホントいいご身分だよ。
「はあ、でも良かったよ」
色々あったけど、何とかカトリーヌちゃんを捕まえることができた。
ホント一時はどうなるかと思ったよ。
もう何度心が折れそうになったことやら。
でも何とかなったし。
我ながらよくやったと思う。
うん、今日の私、頑張ったよね。
花まる満点の一等賞だよ。
さてと、チラッ
そろそろ夕日さんも眠くなる頃だし、暗くなる前に事務所まで戻らないと。
すぐマダムさんにお届けしないといけないワケだし。
さっ、早く帰ろっと。
はあ~
グウゥ……
聞こえちゃったかな。
さっきまでカトリーヌちゃんに夢中で気づかなったけど、もうすっかり夕飯の時間になってる。
たくさん動いたからもうペコペコだよ。
今日のご飯は何かな~。
あっ、言い忘れてたけど、最近は毎日メイルくん家の食卓にお世話になってるよ。
もちろん三食毎日。
衣食住の提供、そういう契約だからね。
それでね、やっぱり貴族のご飯って、豪華ですっごく美味しいんだよ。
高級食材の面々に一流のコックさん。
もうホントすごい贅沢。
宿屋にいた時のご飯も素朴な感じで、アレはアレで良かったんだけど、やっぱり貴族の食には敵わない。
ご飯の時間がいっそう待ち遠しくなっちゃった。
使用人さんたちもみんな優しくて、なんだか日々自分がダメ人間になっていくような。
私、そろそろ死んじゃうのかなって。
それくらいホントもう毎日が幸せで──
ピ、ピクッ!
「ビニャッ! ニャニャッ!」
あっ! わわっ!?
し、しまったよ!?
カトリーヌちゃんが脱走した!
「ビニャーッ!」
完全に油断してた……
って言うか急に起きないでほしいかな!
もうすごいビックリしたよ!
それに、まずいよ!
だって今逃したら、もう絶対……
「ま、待っ──」
ピョ~ンッ!
「──おっと」
ん? んん?
「いきなり何かと思ったら、キミはカトリーヌじゃないか」
目の前に男の子が……って、メイルくん⁉
なにかな!?
カトリーヌちゃんのジャンプした先にメイルくんがいたよ⁉
「探したよカトリーヌ。さっ、マダムが心配してる。早く帰ろう」
「ビニャ~!」
めっちゃ懐いてる。
カトリーヌちゃんすごい甘えてるよ。
「よしよし、良い子だ。あっ、ミチル。こんな時間まで一体何してたのさ。あんまり遅いから様子を見に……って、どうかした?」
「メイルくん! 慎重に! 放しちゃダメだよ!」
絶対ダメだから!
「放しちゃダメって、急に何を」
「そのネコちゃん、瞬間移動するから!」
消えるんだよ!
目の前からいきなり!
シュンッって!
「瞬間移動……? はあ、キミは何を言ってるんだ。普通に考えて瞬間移動するネコなんているワケがない」
「へっ? あっ、いや、それはそうなんだけど……」
うぅ~、やっぱり信じてもらえない。
「そうだけど……うぅ、なんて説明したらいいのかな」
「ミチルは変なことを言うね。ん、カトリーヌもそう思うよね」
「ビニャ~」
瞬間移動するネコちゃんがうなずいてるよ。
あの、カトリーヌちゃん。
わたし何度も見てるからね。
キミが消えるところを。
すごい速さで何度も消えては現れて。
ずっと見てたんだからね。
ネコちゃんのくせにネコ被らないでほしいな。
って言うか、ホントに懐いてるね。
めっちゃスリスリしてる。
ちょっと甘えすぎじゃないかな。
私のことなんかもう眼中にないって感じ。
何なら猫じゃらし並みに夢中になってるよ
「ミチル?」
たしかにメイルくん、顔は良いけど、なにもそこまでアピらなくても。
「ああ、これ? 実はマダムから何度か屋敷に招待されていてね。その時にカトリーヌとはよく遊んでるんだ」
えっ、
「それで、何度か遊んでるうちに懐いちゃって。で、まあうん。見ての通り」
な、なにかな、それ……
普通にマダムさんとプライベートでも知り合いだったなんて。
なんでそういう大事なことはもっと早く言ってくれないのかな。
って言うかメイルくん。
あのカトリーヌちゃんをあっさり捕まえてる。
なんの苦労もなく簡単に。
これじゃ、あんなに必死にやってた私がバカみたいだよ。
むっ、誰がバカなのかな。
うるさいよ。
「はあ……」
「さっきから何さ? 大きなため息なんてついて」
「ううん、なんでもないよ。でも今はそっとしておいてほしいな」
「うん? まあいいや。それじゃ、そろそろ日が沈むし、僕の門限も近いし。早くマダムのところに行こう」
「もうそれでいいんじゃないかな」
好きにしなよ。
「なんか沈んでるね、ミチル」
はあ、トホホ……
──この後、カトリーヌちゃんを無事マダムさんのところにお届けした。
屋敷に戻った頃にはもうクタクタ。
ご飯とお風呂を早めに済ませて、ゴロンッ、すぐにベッドさん。
疲れた身体がフワフワに包まれて、自然と意識もフワフワになっていく。
そのままぐっすり眠って、そして、
あっという間に、チュンチュンさん。
朝になった。
「──みんな揃ったね。じゃあ始めようか」
今は探偵事務所だよ。
中にいるのはメイルくん、ロザリアさん、そして私。
「昨日の試験についてだけど、とりあえずは合格。これから僕の助手として頑張ってもらうよ」
合格みたい。
ほっ、よかった~。
「そういうワケだからよろしく。ミチル」
「こちらこそだよ。よろしくねメイルくん。それとロザリアさんも」
色々お世話になるよ。
まあ、すでになってるけど。
「ええ。メイル様のお世話、共に頑張りましょう」
「うん!」
頑張るよ!
「お世話って……なにこれ? まさかこれからミチルも加えて、2人がかりで僕を子ども扱いしていく感じ?」
フフッ、メイルくん。
子どもらしく不満タラタラだね。
「はあ……あっ、それとミチル。キミはこれから僕の助手になるワケだから、今後僕のことは先生って呼ん──」
「メイルくん! 早速で悪いんだけど、ここには何があるか説明してほしいな!」
私は昨日ここに来たばかりでまだ右も左も分からない。
だから説明求むだよ。
これからここが私の職場になるワケだし。
「いや、だから僕のことは──」
「よろしくだよ! メイルくん!」
フフンッ
「はあ、わかった。ごめんローズ。ちょっと今からミチルに中を案内するから、店の番をお願いしていい?」
「はい」
「じゃあミチル、こっちに来て」
手招きしてる。
嫌そうなのが顔に出てるけど、たぶん気のせいだよ。
「うん! 行くよ!」
「なんでそんなに張り切ってるのさ。と言っても、建物自体が狭いからそんなに説明することも、見せるモノもないんだけどね」
「大丈夫だよ。私、狭いの嫌いじゃないよ」
「なにそれ? まあいいけど」
フフッ、それじゃあ、
れっつごーだよ!
~マダムからの依頼、完~