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4.

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。とても今更な話ですが、タイトルの"令嬢"は若年で未婚の女性に対しての呼称の意味で使ってます。

「入学おめでとう。君達がいずれこの国を更に繁栄させる、素晴らしい大人になってくれることを私は強く願うよ」


 前世何度も経験した式典での偉い人の話。

 ダラダラ喋って長時間こちらを立たせて文句言われてたなぁと懐かしむこともなく、校長の話はそれだけで終わった。最高かよ。

 入れ替わるように、おっとりとした見た目の女性が壇上へと歩を進めていた。


「皆さん、入学おめでとうございます。既にお話を耳にした方もいると思いますが、来年度、隣国モンレスの学校との交流会が行われることが決まりました。その交流会に参加する為の条件も同時に聞いているとは思います。」


 彼女の言葉に周囲が少しだけざわつく。新入生は知らなかった人間の方が多いらしい。


「参加出来るのは各校の成績優秀者それぞれ十五名です。実は…その為の試験は既に始まっていまして」


 続いた言葉に今度は在校生の方でも空気が変わった。自分も勿論驚いている。

 既にっていつから?寮のご飯が美味しくてついデザートおかわりしちゃったの駄目だった?


「試験は授業で学ぶことを基準としていません。ですので、いくら勉学で優秀な成績を修めていようと選ばれることはありません。」


 やはり授業の内容はそこまで重要視されないようだ。最高学年の生徒達は関係ないからと面白そうに下級生に視線を向けてきていた。


「最終試験以外の内容は公表しません。定期的に成績表をお渡ししますので、皆さん頑張ってくださいね」


 にーっこりと微笑んで女性は下がっていった。

 え、待って。内容が分からないって対策しようがないじゃないか。

 ざわめきはそのままに新入生から退場を促される。ホールの入り口で教師から自分のクラスを聞いて、それぞれ移動するようだ。


「ピスコさんは…Aクラスね」


 Aと聞いて内心ホッとする。ちゃんと一番上のクラスだ。

 前後に同じクラスの子がいなかった為、一人で廊下を進んでいく。上級生も解散となったようで後ろがザワザワし始めた。


(対策しようがないの辛い。でも、新入生にそれっぽいヒロインはいなかった)


 新入生の中で話題となっている生徒はいたが女の子ではなかった。まだ確定ではないけど少し肩の荷がおりた気がした。

 一つ上の学年にいる可能性も低そうなので、あとはラヴェンダ姉さんの同級生にいるか、後輩として入ってくるか…。


(とりあえず今日は授業がなくて早く解散出来るし、早く部屋に戻ってメルディに手紙送ろう)


 Aと書かれたプレートが貼られた扉を緊張から睨みつけしまい、慌てて左右を確認して目撃者がいないことに安堵する。

 頑張るしかない。



 ◇◆◇



「まさか、Aクラスが六人だけなんて…」

「ビックリよね。BとCは二桁いるのに」

「モンレスからもフレイヴァからも来てるわけだし、そこそこの人数いるのにな」

「留学生用の試験ってベルトラムの人間が受ける試験より難しいんだろ?」

「らしいね。だからほとんどがCクラスにいるとか」

「へぇ。まぁ入学出来てるわけだし、Cだからって馬鹿には出来ないよね」


 食堂の個室を一部屋借りて顔を突き合わせているのは私含めたAクラスの生徒六人。

 生徒の少なさに驚いている私に同意するシュクリ領主の娘ミレイさん。

 式に参加していた新入生の数を思い出しているモンレスからの留学生エルネスト・アペール君に、試験の難しさを尋ねるワイエス領主の息子カーティス君。

 カーティス君の質問に答えるフレイヴァからの留学生マーヴィン・ジオネ君に、自分達より下だからと馬鹿にせず評価するルッツ・オーレシア君。


「女子が少ないなんて…。つまらないわ」

「なかなか交流は難しそうだよね」


 あまりのAクラス生徒の少なさに早々に仲良くなった私達は、入学式の翌日からほぼ毎日お茶をしている。

 食堂の個室は学年毎に二つずつあって、事前申請すれば最終下校時間まではいつでも使用可能だ。他クラスの子達とも仲良くしたいのだが、どうも自分達は近寄り難い存在らしい。

 最初はクラスでお喋りしてたけど、個室の存在を知ってからはここに入り浸っていた。


「マーヴィン君とエルネスト君はなんでうちの学校に?」

「こっちの方がレベル高かったからね」

「僕は交流会の話を聞いて面白さからつい」

「つい、で試験受けて合格する奴がいてたまるか。というか、モンレスとの交流会なんだからそっちでも良かっただろうに」

「友人と枠を取り合うのは心苦しくて」

「ニヤニヤしながら言うことか?」


 隣国から来た二人に質問してみたら、エルネスト君からとんでもない返しが。カーティス君が呆れるのもよく分かる。


「ルッツはどこの領出身?」

「僕はジュペ領だよ」

「あぁ、あの」


 ルッツ君の返答に反応したミレイさんに不思議そうにしてれば、苦笑して続けてくれた。


「Bクラスにジュペ領主のところの三男がいるの」

「ノエルだっけか?」

「そうそう、とっても残念な男」


 ミレイさんとカーティス君が顔を見合わせて頷いている。二人は顔見知りらしい。

 残念な男が何を意味しているのか。彼女がとても嫌な表情をしているから残念イケメンですら無いんだろうな。


「やっぱり皆交流会メンバーに?」

「それは勿論。このクラスにいて狙わない人なんていないでしょ?」

「十五人中六人がここにいる人間として、他に選ばれるとなると…」

「一つ上の学年に第二王子殿下とその側近候補が二人いる」

「それで九人…。他に気になる人っている?」


 私の質問に皆が急に黙る。候補が見つからない意味での沈黙ならありがたいんだけど。


「来年度を考えると一人」

「あぁ、一時期話題になってた子?」


 カーティス君の言葉に心当たりのあるらしいミレイさんが反応する。因みにこの二人は婚約者同士で付き合いが長いらしい。

 他三人もそれぞれ婚約者はいるので、ボッチは私一人。悲しすぎる。

 だがそれよりも気になる、彼女の放った単語。


「ユリア・カルミナのことかな」

「ルッツ君知ってるの?」

「うん、同じジュペ領の子。ケイティ領とは真反対の位置にあるから、そっちまで噂が届かなかったのかもね」


 なかなか珍しいギフトを持ってるらしいよ。

 続いた一言に悲鳴をあげなかった自分を褒めたい。全力で頭を撫で回したい。

 それ、絶対ヒロインじゃん?


「珍しいと言っても、それを確認出来ている外部の者は城の鑑定関係者以外いないんだろう?噂だけで実際目にした奴がいるとは聞いたことない」

「それでも私のギフトよりは…」

「いや、ピスコちゃんのこれ凄くいい。追加で欲しい」

「あ、うん。どうぞどうぞ」


 エルネスト君のお願いに私はポケットを叩く。取り出したプレーンのそれに、食堂の人から貰ったクリームをたっぷり付けて口に含む彼は甘いものが大好きらしい。


「まるで昔の貴族令嬢のように麗しいと噂のピスコさんのギフトがこんなにも可愛らしいものだったなんて」

「フレイヴァにまで私の存在が知られているのに驚きしかないんだけど」


 マーヴィン君も手を出してきたのでもう一度叩いて取り出す。昔はビスケットがそのまま現れていたけど、今じゃ可愛くラッピングされた状態で出せるようになった。衛生面対策バッチリ。

 そんな成長の仕方でいいのか私。


「ケイティ領がそもそも有名だからね。ご両親の領地経営が気になって隣国から足を運んだ人もいるって聞いてる」

「ピスコちゃんは孤児院で見かけることが多いって聞いていた。子供達と一緒に楽しく遊んでいる眩しい姿に声を掛けたがっている男がいっぱいだとも」

「それは初耳。そもそもそんな人達見たことないよ?」


 低めの柵で囲われただけの孤児院の庭を思い出す。青空の下でおやつの時間を過ごしたこともあるけど、向こう側から誰かが見ているなんてことはなかった。シスターもそんなこと言ってなかったし。


「とにかく、折角縁あって同じクラスになったわけだし、全員で交流会選抜頑張ろ」

「私は婚約者も決めないと…」

「ピスコなら大丈夫でしょ」

「ミレイさん…!」


 隣で自信満々に言ってくれる彼女に抱き着いたら頭撫でられた。恥ずかしいけどニヨニヨしてしまう。


「でもピスコちゃん、婚約の打診きてるんだよね?」

「そう、隣国」

「もしモンレスだったら僕が素行調査してあげようか?」

「え!いいの?」

「フレイヴァなら俺がやるよ。」

「神がいる」

「ピスコ、見た目と中身の差が激しいよな」

「お友達相手だからでしょ。見た目の圧が凄くて近寄るの躊躇ってる他クラスの人間は勿体ないことしてるわよね」

「まぁ実際美しすぎて近寄れないって子は少なくないし」


 留学生組からの提案に嬉しくなって更にポケットを叩いてビスケットを渡す。そんな私達を横目にミレイさん達が何か言っているが気にならない。

 最初は彼女達にも完璧な姿をと気を張っていたのだけど早々に化けの皮が剥がれてしまい、自分達は気にしないと言ってもらえたので遠慮なく素でいかせてもらっている。

 だって実は入学式の日に扉を睨んでた姿をルッツ君に見られてたとか。なんで教室までの道のりでギフト使ってるのっていう。

 隠密、恐るべし。


「全然話変わるけど、明日の全体授業ってなんだと思う?」

「入学して十日経ったし、他クラスとも仲良くしましょってやつじゃないの?」

「先輩から聞いたけどそんな感じらしいよ。学校裏の山で何かするって。毎年やること違うから内容までは分からないけど」

「へぇ。人数差があるからその辺考慮されるのかな」

「六人で出来ることなんて限られるしね」


 カーティス君が横から手を出してビスケットを奪い拗ねるエルネスト君に、すぐポケットを叩いて新しいのを渡す。孤児院の子達を相手にしている気分だ。


「全体授業は交流会試験に含まれそうよね」

「通常の授業と違うからね。コミニュケーション能力とか見られてそう」

「だろうな」


 山でやる全体授業とか、もうキャンプとかそっち系しか思い浮かばないんだよなぁ。皆で協力してテント設営しましょう!的な。あとは皆でカレー作りましょう!みたいな。

 カチャン、とコーヒーカップを置いて立ち上がると五人が一斉に視線を寄越す。いや怖いって。


「私先に戻るね」

「何か用事?」

「山でやる授業なら動きやすい格好が良いだろうし、ちょっと持ってきた服とか確認しようかなって」

「確かに。俺達も行くか」

「今なら足りないものあっても外出間に合うしな」

「じゃぁ僕食器片付けるよ」

「手伝う」


 基本買い物は寮にある購買で事足りるけど、服とか靴ってなるとやはり学校外で買うしかない。生徒の校外への外出時間は決められているけど、今から戻って確認した後に急いで行けばまだ間に合う。

 ルッツ君とカーティス君に片付けをお願いしている間に軽く部屋の掃除をする。鍵はマーヴィン君が返しておくと、ミレイさんと先に戻るように言われた。女子の荷物の方が多いだろうから確認に時間かかるでしょって。エルネスト君も頷いて残りの掃除を引き受けてくれた。

 きっと片付けている二人もそう思ってのことなんだろう。イケメンやしないか君達。


「このクラスで良かった」

「いきなり?」


 溢れた言葉にミレイさんが笑う。心から思ったことなんだから良いじゃないか。


(メルディもこうやって皆でワイワイしてるのかなぁ)


 ちょっと想像して、そこに自分がいないことが寂しいと感じてしまう。エルネスト君の交友関係に彼がいないことは既に確認済みで、ちゃんとやってるのか少しの心配もあるけど。


「ピスコ?」

「ん?あぁ、ごめんね。早く戻ろうか」


 先に行ってしまっていたミレイさんに呼ばれて急いで追いかける。

 まずは明日。何事もなく終わりますように。


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