2.
それからというものの。
入学までに少しでも多くの知識を!と机に齧りつき、母に頼み込んで美容にもお金をかけ、とにかくポンコツギフトをカバー出来るようにした結果。
「試験結果が四位なんて!流石ピスコちゃんね!」
本日。先日行われた学校の入学試験の結果が手紙で届いた。
順位までご丁寧に書かれた内容は文句無しの合格。手応えあったけど、トップいけるんじゃ?とは思っていなかったよ?まったく、いや嘘、ちょっとだけ思ってた。悔しくなんかないやい。
「旦那様と奥様にも報告しないと!」
「そうだね。二人の今日の予定は?」
「旦那様は一日屋敷でお仕事って言っていたわ。奥様は教会の方に用事があるって出掛けていったけどすぐに戻るって」
今日が結果発表の日だと知っている二人は昨日からソワソワしてたし、外出することはないと思っていたけど。
「あぁ、私の手紙を持っていってくれたのかな」
試験前で孤児院に向かう回数が激減してしまった私の代わりに、母がメルディの手紙をシスターから預かってきてくれていた。そして私が書いた返事も持って行ってくれていた。申し訳なかったけど、彼からの手紙は励みになっていたので感謝しかない。
一度退室するお手伝いさんに挨拶だけして、ご丁寧に書かれた試験結果詳細に目を通していると。
コンコン
「ピスコちゃん、今大丈夫?」
「平気だよ」
「奥様がさっき帰ってきてね。旦那様と三人でお茶にしようって」
「いいね!すぐに向かうと伝えてもらってもいい?」
「わかったわ。先にお庭へ行ってるわね」
窓の外を見れば、テーブルのセッティングをしている母の姿が確認出来た。私が見ていることに気付いたのか手を振ってくれている。自分も急がねば。
「っと、手紙忘れるところだった」
ドアノブに手をかけたところで肝心の手紙を忘れていることに気付いて、慌ててテーブルに戻って回収する。開いたままの窓の向こうから両親の笑い声が聞こえてきて部屋を飛び出した。
◇◆◇
「おめでとうピスコ」
「素晴らしい結果じゃない!流石私達の娘!」
庭に全員が揃って早々に手紙を渡せば食い気味に覗く両親。顔の距離が近くて少し赤くなってる母が可愛い。あ、父も耳が赤い。まだまだラブラブなようでご馳走様です。
「お父さんとお母さんのおかげだよ」
私の為に優秀な家庭教師を雇ってくれたのは二人だ。感謝してもしきれない。
ティーカップに手を伸ばす前に母から封筒を渡される。勿論メルディからの手紙だ。隣国も同じ時期に学校に通うことが決まっていて、彼も入学試験が控えていると少し前の手紙に書かれていた。ただ向こうはクラス分けの為の試験なだけで、成績に拘りがなければそこまで頑張る必要はないそうだ。進級前に同じように試験があって次年度のクラスが決まるらしい。見栄の為に最初の入学試験だけ頑張って上位クラスに入って、そこから成績が落ちる生徒はそこそこいるらしいので、結構入れ替えが激しいとか。
許可をもらって先に中を確認すると、上位クラスに無事決まったとある。良かった。
(大陸の歴史ではだいぶお世話になったよね…)
どうにも前世から歴史を覚えるのが苦手だった自分は今世でも変わらず。特に世界史が好きではなかった所もしっかり受け継がれていて、他国の歴史を学ぶのがなかなか苦痛だった。
それを手紙と一緒に分かりやすい資料を付けてくれたメルディには頭が上がらない。
「勉強も申し分ないし、ピスコは一人でだいたいのことが出来ちゃうからね…」
「明日から入寮してくださいって言われても問題ないわね…」
ちょっとだけ遠い目になった両親から視線を外してカップに口をつける。
記憶が戻ってからというものの、今までお手伝いさんに頼ることが多かった身の回りのことや家事を自分でさっさと片付けてしまい、両親が驚いていたのを思い出す。あの時の顔、凄かった…申し訳ない。
「それと、婚約者の件なのだが…」
目に見えてしょんぼりしてしまった父に更に申し訳なくなる。
このポンコツギフトがまた足を引っ張ったのだろう。なんでお見合いの釣書にギフト記載欄を設けなければいけないんだ。これではいつまで経っても婚活が終わらない。
「やっぱり私のギフトを使うしか…」
「大丈夫だよお母さん!私もお母さん達みたいにちゃんと恋愛結婚がしたいの!」
溜息混じりに言った母に全力でお断りを入れる。万が一ギフトの強制力がなくなったら大問題だし。
「あら、実はピスコにも想い人がいたり?」
「それは…まだ、なんとも…」
言い淀んだ私を父が見てきたけど何も言ってこないあたり、この言い回しで誤魔化せたようだ。
好ましいとは思うが考えるのを後回しにしている彼のことを。
これ、好きな人がいると分かった日には二人が全力で囲いにいくのが想像に難くない。
「とにかく!学校の卒業パーティーまでに婚約者が出来るようまだまだ頑張るから!」
◇◆◇
「ピスコちゃん久しぶりだー!」
「ビスケットだー!」
入学前最後の孤児院訪問は、入寮の1週間前になってしまった。もっと早く来たかったのだが、如何せん忙しかった。
早めに届いた学校の教科書に目を通して、入学以降も完璧でいられるように勉強し。母に頼み込んで更に自分の肌に合う美容グッズを揃えて。整形は存在しない世界だから顔面はどうしようもないけど、おかげでお肌はツルツルだ。
目まぐるしく過ぎていく日々の中、メルディからの手紙の回数も減り少し寂しさを覚えた頃、やっと孤児院訪問の目処がたった。
「皆久しぶり!ちゃんと自分でお勉強してたか今日はテストするよ!」
「えー!やだー!」
「終わるまでおやつは無しだからね!」
私がいない間もしっかりやっていたのは母から聞いているが、数字としてハッキリ見えた方が皆のやる気も変わってくるだろう。
お喋り禁止!と告げて各自に用紙を配ればスラスラとペンが動いている。これは期待しても良さそうだ。
解き終わった子から用紙とビスケットを交換して、シスターに手伝ってもらいながら採点をする。その間子供達は楽しそうにお喋りしながらビスケットを堪能していた。
「凄いよ皆!ほぼ満点なんて!」
細かいミスは各々あれど、予想より遥かに高い点数に嬉しくなって声が裏返りそうになる。褒められてドヤァする子達、可愛い。
「ピスコちゃんが来れない間、メル兄が来てくれてたんだ!」
「え、メルディが来てたの?」
いつの間にか横に来ていた女の子の言葉に驚く。手紙にそんなこと一つも書いてなかったのに。
(書いたら私が来るから…会いたくなかったとか…?)
もしそうならだいぶショックだ。でも手紙はちゃんと来てるし、嫌われているとかのマイナスな理由ではないよね?
顔はポーカーフェイスのまま頭の中がぐるぐるしてきた私を心配そうに覗き込んできた女の子に、ハッとして周りを見れば皆がこちらを見ていた。
「皆メルディに会えたなんて羨ましい。彼は元気にしていた?」
「うん!こーんなに背が大っきくなっててね!抱っこしてもらったらとっても高かったの!」
自分の手を限界まで上に掲げた男の子はその時を思い出しているのだろう、キラキラした瞳で語っている。僕も私もと同じように抱っこしてもらった子達がキャッキャしていた、可愛い。
(そうか、メルディは成長期…)
会わない間にどれだけ変わったのだろう。お別れの日はほぼ一緒の目線だったはずなのに。頭に手が届かないくらい背が伸びてしまっていたらとても残念だ。
おやつタイムが終わった皆は元気良く外へ飛び出していってしまった。それを横目に問題用紙をまとめているとシスターがやってきた。
「ピスコちゃん、お手紙がきているわ」
「え、メルディ?さっき私のものを渡したばかりだよね?」
「実は先日彼が来た時にもう一通預かっていたの」
見慣れた淡いブルーは勿論メルディからの手紙だ。手にとって丁寧に便箋を取り出す。
(こちらの学校と交流会?)
入学前から仲良くしている人から聞いたらしい、私の入学が決まっている学校とメルディが通う予定の学校で数年に一度あるという交流会。どうやらそれが再来年開かれるようだ。
ただしそれには条件があると続いてた。成績優秀者各校上位十五名のみ、計三十名だけだと。会場がどちらの学校になるかは十五名の合計点数が上の方となるらしい。
(これは、つまり)
つつつ、と更に下に視線を移す。
"絶対選ばれろ"
「そんな無茶な」
思わず声に出してしまった。不思議そうなシスターに話せば、クスクスと笑われてしまった。
「きっと成長した姿を見て欲しいのよ」
「そんなの、交流会じゃなくても…」
「でも、それまでは絶対会わないって書いてあるわよ?」
ほらここ、とさっきの一文のすぐ下を彼女が指す。確かに書いてあるけど…。
「実は私もこの国の学校に通っていた時期があったんだけどね」
「え!シスターも!?」
「えぇ、出身はメルディの住む国と反対の隣国だけどね。これでもそこそこの成績で卒業したの」
ギフトに恵まれず良縁を結べなかったので、だったら自分の好きにすると家を飛び出したらしい。凄い。連れ戻しに両親が来た時は教会での仕事が決まった直後で、私のお祖父様が説得して今に至ると。
「凄い…」
「三女だったからこそ出来たことよ。話を戻すけど、その交流会、私が二学年の時にあったの」
「そうなの?どうだった?」
「私の時は選抜試験があったけど、学年関係なく全員が受けたわ」
「それって、下級生が不利では?」
試験に上級生の授業内容の問題が出たらどうするのか。視線で問えば、学校の授業で得る知識からはあまり出なかったらしい。
「まぁそれも結構前の話だから。現在の仕様がどうなっているかは分からないけど…」
お茶の追加持ってくるね、とそこでシスターは退室した。
授業で習うこと以外から出る問題ってなんだ?最低限のマナーとか、王国の歴史とか?いや、歴史は授業でやるか。
それにしても絶対に選ばれろとは。完璧を目指してる私からすれば絶対に参加しなきゃいけない行事だとは思うが。
(ギフトも加点対象なら、圧倒的に不利なんだけど)
ポンッとポケットを叩いて自分用にビスケットを取り出す。この世界には存在しない抹茶味のそれを口に放って、懐かしい味に少し気分が上がる。
(生徒数がどれくらいか分からないけど…どうせ選ばれなきゃいけないなら一番を目指したい)
王子達が在籍しているとその側近も含め皆優秀だろうから確実に入ってくるだろうし、そうなると残りの枠が少なくなってしまう。これは入学早々に上級生と交流して勉強を教えてもらわないと。授業の内容はあまり関係ないとはいえ、知識は頭に入れておくに限る。
(これは彼女に頼むしかないかなぁ)
うちの領と隣の領の境目になっている川の共同管理の件で関わりが出来た向こうの領主の娘さん。何度かお茶もしているし、そこそこ仲良いと思ってるから協力はしてくれそうだけど。
(これは帰ったら作戦練らないと…)
気合の入り過ぎた手が用紙をぐしゃぐしゃにしてしまい、慌てて皺を伸ばす作業をする羽目になった私の後ろで、お茶を持ったシスターが更に後ろに向かって何かを言っていたのは勿論知らない。
「コッソリ見るくらいなら、あんなこと書かずに堂々と会えば良いのに」
「うるさい」




