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読みに来てくださってありがとうございます。
最終話です。
よろしくお願いいたします。
二年目の春、待ちに待ったレモンの花が咲いた。オスカーは花の付いた枝を一枝切って、クレアの枕元の花瓶に生けた。風に乗ってレモンの花びらがクレアの顔に落ちた。
「君が好きだと言ったレモンの花が咲いたよ。香りが分かるだろうか?」
深く息を吸い込むような、震えるような動きをクレアがした。オスカーは思わずクレアの手を取った。
「クレア。起きられるか?」
クレアの目が薄く開く。オスカーの顔が紅潮する。
「オスカー、様?」
かすれる声でクレアがつぶやいた。
「治ったんですね?」
女神のような微笑みに、オスカーの心は喜びに震えた。
「俺を救ってくれた女神。一生隣にいてほしい。結婚してくれ。」
「私はあなたを苦しめた元凶です。あなたのことを今でも愛していますが、隣に立つことは気が引けます。」
「クレアは何一つ悪くない。悪用したスカーレットたちがいけなかっただけだ。それに、俺を一人にさせる方が、俺に対して気の毒だと思わないのかい? グラシアールから歩いてクレアを探した。アンジェラとパットに出会って、クレアが生きていると分かって、どんなにうれしかったことか。
君がいなかったら、俺は死んでいた。俺を呪いから救うために努力してくれた君を、今度こそ守らせてほしい。クレアが好きなんだ、クレア以外じゃ駄目なんだ。」
オスカーの言葉に、目を赤くしたクレアが頷く。病み上がりのクレアに構うことなく、オスカーはクレアを抱きしめ、キスをした。
「はい、オスカー様。」
「長かったが、これでやっとクレアと一緒になれる。」
クレアをその胸に抱きしめて、オスカーは深呼吸した。
「クレアの、レモンの香りがする。」
ノックの音が聞こえた。
「オスカー、クレアの様子はどう……目が覚めたか!」
フレデリックが駆け寄ってきた。
「クレア、やっと目が覚めたか?みんなでずっと待っていたよ。全く、心配ばかりさせる娘だ。」
「あ、あの団長……」
「お父様と呼ぶように。」
「お、お父様?」
「オスカー、お前は俺に言うことがあるんじゃないのか?」
オスカーがちらとクレアを見る。クレアは何だろうと首を傾げる。
「フレデリック大公、どうかご息女との結婚をお許しください。」
ベッドの中にいるクレアは、はっとして体を起こそうとし、クロリスに助けられた。
「オスカー、お前はクレアを守りつづけると誓えるか?」
「はい、我らが神獣である氷狼に誓いましょう。」
「だそうだ。クレア、結婚には養父の許可が要ることを忘れていたのではないか?」
にやっと笑うフレデリックに、クレアは真っ赤になった。
「あの~、こんな寝起きというか、夜着のままの女性を前にする話では無いと思いま~す。」
クロリスの抗議に、全員が笑い出した。
「ちゃんとやり直そうな。」
オスカーがクレアに微笑んだ。
・・・・・・・・・・
その後、クレアはロターニャ王の叔父フレデリック大公の娘として、グラシアールの氷狼の騎士オスカーと結婚した。グラシアールに戻った二人は、王族を庇護者に持つものとは思えない慎ましやかな生活を続けた。オスカーは北方騎士団の副団長となり、クレアは魔法薬師として騎士団に復職した。
「退職届は受理されていないから、クレアは無断欠勤をしていたのよ。」
ジュリアに言われて困惑したが、それがジュリアなりの歓迎の言葉だと気づくと、クレアはジュリアに抱きついた。
「ただいま戻りました、ジュリア部長。」
「本当に心配したわ。」
年に一度はクレアとオスカーの二人でロターニャに行く。そしてフレデリックの所に「里帰り」の形で滞在する。フレデリックの体力についていける騎士は少なく、オスカーとの手合わせがフレデリックにとっての楽しみになっている。里帰り中のクレアは、そんなオスカーを見守りながら、魔法薬師がほとんどいなかったロターニャで魔法薬の作り方を教えている。クレアのことを、フレデリックを誑かした平民女と陰口を言っていた貴族たちも、魔法薬の恩恵を受けるようになるとぴたりとその口をつぐんだ。民からの人気が高まり、クレアを攻撃すると自分たちの身が危ないと気づいたからだ。
2カ国で大切にされるようになったクレアは、多くの人との関わりの中で、幸せとは一つではなく人の数だけあることを知った。そして、幸せの種類はたくさんあるからこそ、他の人から理解されなくとも、どんな苦しく辛いことがあっても、かならず幸せは見つけられるのだと気づいた。
感慨に耽っていると、オスカーがそっと後ろから抱きしめてきた。クレアはオスカーの頬に自分の頬をすり寄せる。そして二人で、クレアの腕の中にいる子どもを抱きしめる。この春生まれた、クレアとオスカーの子だ。フレデリックが会いたがっているが、次の里帰りまではまだ3ヶ月ある。
クレアはこの子に伝えたい。不幸せだと悲しんでいるだけでは、不幸せなままだ。幸せを掴もうと努力しなければならない。自分は努力を投げ出したり、失敗したりしたけれども、今、こうして愛する人と、子どもと、自分の能力を生かした仕事といった具合に、幸せを手に掴んだ。もがいたからこそ手にいれられたもの。あなたもきっと辛いことが待っているはず。それを乗り越えていくのは、自分の力だけでなく、周りの支えてくれる人たちのおかげなのよ、と。
クレアは過去の自分に言いたい。
あの時の私は、ただ幸せになりたいと願っていたけれど、私は今、とても幸せだよ、と。
読んでくださってありがとうございました。
できるだけ筋を変えないようにしながらの改稿でしたので、つじつまを合わせるのが難しいところもありました。
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