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スタリオンからの宣戦布告に、ロターニャ王宮は天地をひっくり返すような騒ぎとなった。宣戦布告と同時に、スタリオンとの国境を守る辺境伯領騎士団からスタリオン侵入の知らせも届いている。フレデリックは事前にスタリオンの動きを察知して準備をしてきたが、スタリオンの動きはフレデリックの予想より5日早かった。辺境伯領から王都まで、ハヤブサ便でも丸一日かかる。辺境伯領が苦境にあることは十分に想像できた。
「不死鳥騎士団に、出撃を命じる。」
とうとう、王命が出てしまった。フレデリックはロターニャ王から、周辺の領の騎士団にも鳥便で出撃命令を出してあると伝えられた。
「『不死鳥の騎士』として、何としてもこのロターニャの国を守れ。」
(そういうあんたは、いつでも後ろの安全なところで大声を出しているだけだよな。)
フレデリックは苦々しい気持ちで出撃準備を整えた。方向が違うので、クレアの顔を見て行くことができない。オスカーはクレアの顔を見てから行くのだろうと思うとちょっと面白くなかった。
「『氷狼の騎士』様も大変だな。」
フェルディナントが公爵騎士団の見送りに来て、オスカーに声を掛けた。
「いいんです。クレアを守るために強くなりましたし、なによりここが攻められたらクレアが安心して休めませんから。」
「オスカー・・・。」
オスカーは、先発隊と出発した。それはフレデリックからの命令だった。
・・・・・・・・・・
魔術師の国スタリオンは、魔力が高い者どうしの結婚を通じて魔力の高い人材を育て上げ、様々な魔術研究を行ってきた国である。国王は代々筆頭魔術師が務め、世襲はない。いうなれば、魔術師しかいない魔術師のための国家と言える。国王を選ぶための魔術戦が毎年行われ、勝ち抜いた者が王の座に座る。研究型の魔術師というよりも、戦闘型魔術師が国を支配していることもあって血気盛んな者が多く、争いは基本的に魔術の戦いに勝った方の意向が通る。弱肉強食、魔力のないものは人間扱いされない、そういう国家だ。だからこそ、スタリオンから魔力のない者、少ない者が自由を求めて亡命し、ロターニャに難民キャンプも作られたのだった。
三日掛けて辺境伯領にたどり着くはずだった。だが、二日目にスタリオン軍と衝突した辺境伯領騎士団の生き残りに出くわした。辺境伯領騎士団はほぼ全滅し、伝令やごく一部の逃げ出した者だけが、疲れ切った様子で不死鳥騎士団に合流して状況を説明した。
「・・・つまり、遠隔からの一斉魔法攻撃により、なすすべもなくなぎ払われていったということか。」
「はい。我が国には魔術師が少なく、何が起きているのか初め分かりませんでした。伝令が戦場から遠く離れてから振り返って、何が起きているのか知った位です。」
「辺境伯は?」
「部下を守って、直接攻撃を受けてしまいました。一瞬にして黒焦げになってしまわれたのですが、おそらく電撃系の魔術を受けたのだと思われます。」
「そうか。まずゆっくり休め。」
「はい、失礼いたします。」
クレアがいたら、何か相談できただろうか?
フレデリックはそんなことを思った。だが、あの優しいクレアが、人を殺すようなことを考えるとは思わないし、戦場に連れてくるのも嫌だ。安全な所で、しっかり守られていてほしい。
そう考えた矢先、オスカーたちが到着したという知らせが入った。到着した騎士団長たちにオスカーを加えて会議が開かれた。
「ソリドール平原でスタリオンを迎え撃つ。相手は魔術で攻撃してくるため、こちらも遠距離で攻撃する手段が必要となる。何か考えはあるだろうか?」
「とにかく近づくことです!騎士たちを盾にして近づくしかない。」
「それで辺境伯騎士団は全滅した。同じことは繰り返せない。」
「攻撃力のある魔術師は我が国にはいない。」
「どうすれば・・・。」
その時、オスカーが手を上げた。
「俺と……不死鳥騎士団長の二人で出ます。」
「殿下を危険にさらす気か?」
怒号が飛んだ。だが、オスカーはひるむことなく発言した。
「遠距離攻撃ができるのは、俺と殿下の二人だけ。違いますか?」
「お前に何ができる? グラシアールの騎士がそもそもここにいることがおかしい。」
あれは確かロターニャ王腹心の、ウォルター伯爵の騎士団の騎士服だ。後でこいつは調べる必要があるとフレデリックは思った。
「俺は『氷狼の騎士』だ。殿下は『不死鳥の騎士』だ。俺たちがその力を出したところを見たくはないのか?」
オスカーはフレデリックを見た。フレデリックは頷いた。
「俺たち二人で出る。まずは様子見だ。一回くらいやらせてくれ。」
その後、第二作戦まで決めたところで解散となった。
「お前は誰が裏切り者だと思う?」
フレデリックのささやきに、オスカーは自分を誰よりも疑ったウォルター伯爵騎士団長イサークをあげた。
「おそらくあの男というよりも、あの男の主が裏切っているのでしょう。そして、魔術師を異常に恐れていることから、何か見たか、されたか。」
「そうか、俺と同じだな。」
二人はイサークを信頼できる者に見張らせながら進軍した。ソリドール平原の近くまで来た時、オスカーは何か引っかかるような気配を感じるようになった。
「デリック、気になることがある。」
「何だ?」
「青龍がいる。だが、その気配がおかしい。」
「オスカー、お前そんなことも分かるのか?」
「青龍は水を司る。氷と水は温度の違いだけだから、似ているんだ。氷狼と一緒にいた時、氷狼の気配は崇高なものだった。だが、青龍の側を探ろうとすると、なぜか黒いものに阻まれる。邪竜化したか、させられたか、どちらかかもしれない。」
「邪竜化だと?」
「グラシアールには、竜が邪竜化する伝説が多く残っている。どれも氷狼がやっつけるんだが、伝説の中には真実が隠されていることが多い。俺たちは、その伝説に奴らを叩くヒントを見つけた。」
「どうするんだ?」
「本当は魔女か氷狼がいるといいんだが、とりあえず俺が青龍の前に出て囮になる。各国の神獣は、何もない時は手を取り合うが、守護する人が争う時には自国の民を守ろうとする。俺の力でそれなりに圧力を掛ければ、青龍が出てくるだろう。青龍が邪竜化しているか判断し、その上でどう戦うか最終的に決めることになる。」
「オスカー、お前怖くないのか?」
「クレアが目覚めた時に、お前が寝ている間に戦争があったんだぜ、って笑って話したいし、なにより眠っているクレアを守れるのは、俺たちだけだろう、デリック。」
「そうだな。」
オスカーがこんなに頼りになる男だと思わなかった。こういう男だからこそ、クレアも守ってもらえると信じることができたのだろう。フレデリックは、クレアが目覚めてオスカーとグラシアールに帰りたいと言われたら寂しいと感じていたが、クレアが幸せになれるのなら、その道を進めばいい。自分はどう頑張ってもクレアより先に死を迎える。同じくらい長く生きられるオスカーなら、クレアを守ってくれるだろう。クレアが自分で自分の生き方を選べばいい。それだけのことだ。
・・・・・・・・・・
作戦開始時刻30分前に、ロターニャの各騎士団が集結した。オスカーが前に出た。フレデリックから贈られたあの軍馬に跨がって。数歩出た。
「出撃します!」
緊張感をはらんだオスカーの声が響くと、オスカーは馬の腹を蹴った。馬は勢いよくスタリオンの騎士団に向かって掛けだした。遙か遠くに、青い鎧の男が見えた。手には槍を持っている。オスカーが近づくと、青い鎧の男は槍を構えた。見る間に槍は大きく膨らみ、竜の顔が現れた。
「神獣そのものが武器化した?」
青い鎧の男は、青龍を槍のように掲げてオスカー目がけて投げた。オスカーは氷狼の剣で弾き飛ばした。弾き飛ばされた槍、いや竜は一声大きく咆哮すると、自ら進む方向を変えてオスカーに接近した。後ろから追われる形になったオスカーを見て、フレデリックが叫んだ。
「挟まれたぞ!」
次の瞬間、オスカーが氷狼の刃を大きく振るった。青龍が凍り付き、その動きを止めた。だが、数秒後、青龍は体を震わせ、氷の檻から脱した。オスカーがもう一振りスタリオン軍に振るうと、スタリオンの魔術師たちの足が地面に凍り付いた。あちこちから悲鳴が上がり、火魔法で溶かそうとしたり、たたき割って自分の足も破壊したりしている。
「デリック!」
オスカーの声に、フレデリックは炎の翼を大きく広げた。「炎の騎士」を知っていても、「不死鳥の騎士」の姿を初めてみた者たちは、驚きを隠せない。フレデリックは広げた翼にエネルギーを集めるようにイメージすると、炎の爆風をスタリオン軍にたたきつけた。動きを封じられていた魔術師たちは逃げる間もなく炎に飲み込まれていった。咄嗟に障壁を作って即死を免れたのは極僅か。青龍騎士団長ルシファーの目は、恐怖に飲み込まれた。
魔術師でもないのに、こんなことができるのか?俺は青龍を意のままに操れるようになったが、それは青龍の騎士ではないということか?
オスカーは自分を追いかけてくる青竜の槍に向かって、心の中で青龍に呼びかけた。
「俺は氷狼に認められたが、あなたはあの男をあなたの騎士とお認めになったのか?」
(認めるわけがなかろう。我は眠っているところを拘束され、無理矢理形を変えられている。あの男を殺したいが、我の力を吸い上げてあの男に流すような魔術が掛けられているようで、あの男にねじ伏せられてしまう。不愉快極まりない。)
「ならば、あの男を殺したらあなたは自由になれるのですか?」
(そうだ。)
「では、俺があの男の目の前にまで突っ込みます。俺は直前であの男の横に逸れます。そのままあの男の胸を貫けばいい。どうでしょう?」
(うまくやれよ。お前まで貫いたら、氷狼がうるさい。)
「もちろんです。お願いします。」
爆風を起こしたフレデリックに気を取られ、ルシファーはオスカーの接近に気づくのが遅れた。オスカーの剣から氷刃が降り注ぐ。やり過ごしたと思った瞬間、横をオスカーが通り抜けた。
あの男を追いかけていた青竜の槍はどこだ?
はっとした時、ルシファーは自分の胸を青龍の槍が貫いたのに気づいた。青龍の目が、怒りに満ちていた。
(神獣を魔術で操っても、心は操れぬ。人間ごときに操られた我の屈辱を思い知れ!)
そうか、俺は人としてやってはいけないことをしたのか。
ルシファーが血を吐いて倒れた。青龍の槍はその血を吸って巨大化すると、本来の龍の姿に戻った。
(生きているスタリオンの人間は、スタリオンに戻れ。ロターニャの者たち、スタリオンの人間の暴挙を許す必要はない。それから、今回の戦だが、ロターニャの王がこの戦争の引き金だ。深く関わっている。厳しく詮議すると良い。我を解放した不死鳥の騎士と氷狼の騎士よ、よくやった。我からも祝福を与えよう。そなたたちはこれより水魔法を使うことができるようになる。うまく使うがいい。)
青龍は一声咆哮すると、スタリオンに向かって飛んで言ってしまった。その場に生きて取り残されたスタリオンの魔術師は片手で数えるばかりだ。
「どうする?青龍の言葉に従うならば、解放する。まだやるなら、俺たちが相手をするが?」
オスカーとフレデリックに笑顔ですごまれた魔術師たちは、這々の体で逃げ帰った。
「呆気なかったですね。」
「こんなことなら、初めから俺たち二人が出ていれば・・・辺境伯には悪いことをした。」
あまりの戦力に、ロターニャの騎士たちが呆然としている。特にあのイサークは真っ青を通り越して今にも倒れそうだ。
「さあ、戦争は終わりだ。帰るぞ!」
フレデリックの声に、ロターニャの騎士たちの雄叫びが平原一杯に響き渡った。
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