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ただ幸せに、なりたかった2(オスカーハピエンバージョン)  作者: 香田紗季


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読みに来てくださってありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

 オスカーは、ドニャソル川に沿って国境を越えた。グランス国内の川沿いの町には、クレアはいなかった。とすれば、ロターニャにいるはずだ。


 「氷狼の騎士」となったオスカーは、ロジャーと話し合い、一年の時間をもらった。表向きはロターニャでの遊学だが、真の目的はクレア探しだ。年が年だからと結婚式は挙げずに籍を入れたロジャーとジュリアの元に辞表を持ってきたオスカーを、二人は止めた。「氷狼の騎士」となったオスカーには、王都の貴族からも誘いがかかっているようで、近衛騎士団の団長からも引き抜きの打診があったという。


「こういう煩わしいことから離れたい。クレアに会いたい。」


 オスカーとロジャーの妥協点が、一年の調査旅行だったのだ。


「出張だからな、給料もちゃんと出る。心配するな。」


 オスカーは川沿いの町を一つ一つ訪ね歩き、去年の冬の初めに女性が流れてこなかったか聞いた。誰一人、見た覚えがあるという者はいなかった。そして、とうとう海沿いの町にやって来た。ここにいなければ、もう海の中に沈んでいるということになるだろう。


 オスカーは初めて見る海に感動していた。こんなに大きなものなのか。山に囲まれたグランスが、故郷の町が、小さなものに思えた。世界は広いのだと、海だけでも思い知った気分になった。


 ずっと海を見ていたからだろうか、漁師に声を掛けられた。


「そんなところに突っ立って、どうしたんだい?今日泊まるところがないなら、うちに泊まるか?」

「いいのか?」 

「ああ、いいよ。その代わり狭いぜ。」

「助かる。どうしようかと思っていたんだ。」


 漁師は日に焼けた顔で笑って言った。


「そっか。声かけて良かったよ。」


 連れて行かれた家には、母だという女性がいた。


「パット、あんたお客さん連れてくるならそう言いな。」

「帰り道に、この人が海辺でぼーっと突っ立ってたからさ、気になって。」

「そうかい。本当にあんたはよく人を拾ってくるよ。」

「人を拾う?」

「ああ、冬の初めには若い女の子を連れてくるし、その後も迷子の男の子を連れてきて誘拐騒ぎになったこともあるよ。」

「待て。冬の初めに若い女と言ったか?」

「ああ、岸辺に打ち上げられていたんだ。川に流されてよく生きていたよな。」

「その人は、今どこにいる!」

「え?」

「クレアだ。クレアに違いない!」

「ああ、クレアだよ。で、あんた誰?」


 女性・・・アンジェラの目が厳しくなった。


「俺は、クレアの婚約者だった。クレアを探しているんだ。」

「ああ、妹に転んだっていう婚約者があんたか。」


 二人から軽蔑の視線で見られ、オスカーは俯いた。


「俺は、惚れ薬でスカーレットを愛するように操作された。周りの人たちが助けてくれて、今は惚れ薬の影響はない。」

「なんでそんなもの飲んだんだい?」

「スカーレット・・・ああ、クレアの妹だが、スカーレットが違法な店から買ってきて、飲み物に混ぜたんだ。クレアから俺を取り上げたかったらしい。」

「全く馬鹿な妹だね。今その妹はどうしているんだい?」

「死んだよ。持っているだけで死刑になるような違法薬物を使ったんだ。親子三人死刑になった。クレアはこんな話を聞いても喜ばないだろうし、俺も心が晴れたわけじゃない。それでも、あの処刑は必要なことだったと思う。」

「で、あんた何しにロターニャまで来たんだい?」

「クレアを探しに。生きていればきっと騎士団にいたときのように魔法薬師をしていると思うんだが。」


 アンジェラとパットは目を見合わせた。

「クレアが魔法薬師?」

「ああそうだ。」

「自分にできる仕事は下女しかないなんて言っていたのに。あ、でも薬師が何とかって、職業斡旋所で話していたような気もする。」

「生きているのか?本当に?」

「クレアは生きているよ。でも死んでいるのと同じだ。」


 パットの言葉の意味が分からない。


「クレアは魔法薬師だったんだね。そんなこと一言も言わなかったよ。恋人を妹に取られて、職場でも針の筵で辛かった、死んでしまいたかったって泣いていた。でも、こうやって生きているんだから何かすべきことがあるんだろうって言ってやったら、働く、もうグランスには帰れないって、あるけが人のお世話係になった。」

「どこにいるんだ?」

「秘密にしてくれるかい?うちがクレアを知る唯一の家だっていうことで、私たちだけが知っていることなんだ。」

「分かった。騎士として約束は守る。」

「今、クレアはある場所に匿われている。クレア自身が昏睡状態にあるんだ。だから、場所も言えないし、もし分かっても会えないと思うよ。」


 アンジェラの言葉に、オスカーはそれでも微笑んで言った。


「今この瞬間まで、クレアの生死が分からなかったんだ。生きているって分かった、それだけでも、今の俺には本当にうれしい情報なんだよ。」


 あんたたち二人、似ているんだね。


 アンジェラもパットも、同じことを考えていた。オスカーの微笑みは、クレアが無理に笑っていた時のものと全く同じだったから。それと同時に、アンジェラとパットは思った。オスカーが元通りになったと知ったら、きっとクレアは喜ぶだろう。傷ついたクレアを癒やせるのは、きっとこの男だけだ。クレアが目覚めたらどんな顔をするだろう・・・。


 オスカーはかすかな微笑みを湛えている。似合いの夫婦になるだろう、とアンジェラは思った。そして、少しだけ残念に思った。


 うちのパットじゃ、この騎士様には勝てないな。


 クレアが嫁になってくれないかとほんの少しだけ期待していたアンジェラの気持ちは、パットにもオスカーにも気づかれぬままだ。

読んでくださってありがとうございました。

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