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グランスでは、オスカーがスカーレット親子に対して裁判を起こしていた。オスカーの血液中から得られたサンプル、症状と証言により、スカーレット親子は死刑となった。オスカーとスカーレットの婚約も初めからなかったことになった。自分は悪くないと叫ぶ3人を冷たい目で見ていたオスカーは、処刑場で喚く3人に言った。
「あなたたち親子には、本当に心の底から大切にしたい人はいないんだろう。だが、俺にとってクレアはそういう人だった。クレアのことを強制的に記憶から消しやがって、クレアを苦しめて、いや、それ以前にお前たちがクレアにしていたことは虐待だ!全部あの世で償ってこい!」
三つの首が落ちても、オスカーの心は晴れなかった。行方不明のままのクレアのことを思うと心が痛かった。オスカーは惚れ薬の影響を完全に脱した後、騎士団の寮に戻った。そして、宝飾店から何度も連絡が来ていたと寮監から告げられた。
「ご注文の品ができあがりましたので、お支払いとお引き取りをお願いしたい。」
オスカーは頭を抱えた。クレアに渡すためにクレアと一緒に選び、作ってもらったエメラルドの指輪のことだとすぐに思い出すことはできた。支払いも問題ない。だが、クレアがいない。クレアがいないのに指輪を取りに行くことがためらわれた。
いつまでも来ないオスカーに業を煮やしたのか、宝飾店の店主が自ら騎士団に乗り込んできた。カンカンに怒っていたが、ロジャーとジュリアも立ち会って、オスカーが惚れ薬を飲まされて一ヶ月以上入院していたこと、惚れ薬の影響でクレアとの結婚が解消されてしまいクレアが行方不明であること、そんな自分を恥じて店になかなか行けなかったこと・・・オスカーは店主に謝罪し、代金を払って商品を受け取った。
「エメラルドって、壊れやすい石なんです。誕生石だとか、瞳の色だとか、いろんな理由で選ぶ方が多いんですが、破局するケースが多いような気がします・・・。」
店主は事情を知って気の毒がってくれた。話してくれればこんなことまでしなかったのにと言われて、オスカーは誰にも相談していなかったことに気づいた。自分で考えて対応することは大切だ。だが、相談すればもっと早く、簡単に解決することもある。オスカーは、自分が相談することを面倒くさがっていたのだと知った。そんなことも、隙に繋がったに違いないと思った。
(誰かに相談していれば、無断出勤の確認に、一人でクレアの所に行くなんてこともなかっただろうな。)
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。オスカーは、「O to C」と「C to O」と掘られた二つの指輪の内側を指でこすった。C・・・クレア。守りたかったのに、守れなかった、優しくて穏やかな人。オスカーの枕は、涙で今晩も濡れた。
翌朝から、オスカーは狂ったように鍛錬を続けた。冬山に籠もって雪ひとひらを切れるほどになった。だが、オスカーは自分を限界に追い込みすぎた。クレアを守れなかったような自分に、本当に人を、国を守れるのだろうか。クレアがどこかにいるのではないか、探しに行きたい。探しに行って。クレアに謝って、そしてまた二人で笑い合いたい。クレアを思う心で一杯になったオスカーは、人一人いない冬山で叫び続けた。そして、疲れてそのまま倒れるようにして眠ってしまった。
あまりにもオスカーの声がうるさかったのだろうか。人はいないが、その他の動物はこの山にたくさんいる。グランスの神獣氷狼も、この山に隠れていた。氷狼は疲れて眠りこけたオスカーの服を銜えて 自分の巣穴に連れ帰った。
目が覚めた時、オスカーは目の前に氷狼がいるのを見て死を覚悟した。だが、氷狼はオスカーを食わなかった。
「お前、強くなって守りたいものがあるのだろう?ならば、俺が稽古を付けてやる。」
冬山で、オスカーと氷狼が走り、転び、飛び、剣と爪を交えた。オスカーは初めて、戦うということがどういうことかを理解できた。自分が生きるために、そして大切な人を守るために、戦うのだ。そう、クレアを取り戻すために。
春になって、オスカーが氷狼と別れて騎士団に戻った。氷狼は更に奥の山に隠れる。そこには人間を連れて行けないという。
「お前は俺が鍛えた。『氷狼の騎士』にしてやろう。」
氷狼は自分の牙から生まれたという剣をオスカーに与えた。
「オスカー。無用な争いはするな。だが、大切な者は守れ。」
氷狼は去った。オスカーは氷狼に深く感謝した。
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「不死鳥の騎士」と言えば、このロターニャでは数百年に一度あらわれるかどうかという神獣騎士を指す。同様にスタリオンには「青龍騎士団」と「青龍の騎士」、グランスには「氷狼騎士団」と「氷狼の騎士」といった具合に、その国の神獣を冠した騎士団と伝説の騎士伝説がある。「不死鳥の騎士」に選ばれるのは、高潔で火魔法を極めた人物だけだ。不死鳥に呪われたフレデリックが、どうして今度は「不死鳥の騎士」に選ばれたのか。フレデリックには不死鳥の考えが分からない。だが、神獣の心中など、人間が推し量ってよいものではないのだ、と頭を切り替えた。フレデリックが「不死鳥の騎士」の姿をしている所は、クレアしか見ていない。だから、いきなり「不死鳥の騎士」になったと言わず、まずは「不死鳥の騎士」に意のままになれるように身体を慣らすべきだと思っている。
ボロボロだったから周りを見る余裕がなかったが、自分でも一目見ておけば良かったな。
フレデリックが「不死鳥の騎士」となると、不死鳥の背に乗ることが可能となるという伝説がある。その威光は国王をも凌駕する。今、下手に口にできないのは、王である兄を刺激しないためでもある。国王は小心者だ。そんな中で、王弟である自分が「不死鳥の騎士」であると名乗りを上げれば、国内情勢が混乱する。ロターニャの情勢を伺うスタリオンに、隙を見せるようなことはできない。
王都に入る前に、フレデリックは広い草原に出た。周りの騎士を遠ざけて、一人草原に立つ。青い空を見上げると、クレアの顔が浮かんだ
(クレア。君は俺から離れようとしたが、結果的に俺の庇護が必要な状態にある。俺はあくまで父として、君の笑顔を守ってみせるよ。)
強く念じて体中の魔力を練る。その魔力を火に変換して、両手を大空に突き上げる。掌から業火が火柱となって吹き出す。そのまま、維持する。魔力を根こそぎ持って行かれそうになるが、ギリギリまで放出する。団長、とクレアに呼ばれた気がした。はっとすると背中に熱を感じた。遠くで騎士たちが叫んでいる。両手を下ろしたが、背中が熱い。
「殿下、翼が・・・。」
側近の男が驚きのあまり口を開けている。翼を動かせるかな、と思ったら、翼を動かせた。火の粉が舞う。飛び上がってみた・・・そのまま空を飛べた。フレデリックは、不死鳥に乗れるという話は、この翼のことを言っているのかもしれないと思った。いずれにしても、王都で資料を探そう。
地面に下りる。騎士たちがわらわらと近づいてくる。
「お前たち、今見たものは、他言無用だ!」
フレデリックの命令に、全員が返事をした。
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同じ頃、グランスとロターニャに接するスタリオンの青龍騎士団に、一つの報告が入った。
「シャルロットと連絡が取れなくなりました。確認したところ、こちらを手引きしていたことがバレて殺されたようです。」
「そうか。ご苦労だった、リナルド。」
「はい。しかし残念でした。不死鳥騎士団の団長の傍に潜り込めたというのに。」
「仕方あるまい。こちらはこちらで新兵器が完成する。そうすればグランスもロターニャも、スタリオンの元に下るのだ。」
「はい。青龍騎士団団長。」
青龍騎士団長と呼ばれた男は振り返った。ルシファーというこの男は、スタリオンらしく魔術師で構成された騎士団の団長だ。当然ルシファーも魔術師だ。なんなら、剣と剣のぶつかり合いなど野蛮だと思っている男だ。
「全ては魔術の元にひれ伏す。魔力を持つ者がこの世界を支配するのだ。」
ルシファーは凍った大地を見つめた。海がほしい。温かな、作物の取れる大地がほしい。その夢を、今こそ実現するのだ。ルシファーの目は希望に燃えていた。
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