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クレアは清々しい気分で目覚めた。夜明け前だが、これなら魔法薬を作れるだけの余裕はある。クレアは素材を用意すると、体内にある魔法を解くための魔法薬を作った。不死鳥の呪いがどれほど強いか分からないため、後から追加で魔力を調整できるように、呪いが埋められた場所を見つけたらそれを知らせる魔法も組み込む。
思いの他素材が余ったので、傷を修復する魔法薬と、やけどの箇所を冷却する魔法薬(これは湿布だが)も作った。それでもあの希少な素材が少し余っている。クレアは少しだけ考え、フレデリックの顔を思い浮かべた。そしてフレデリックへのお礼を込めて、ある魔法薬を作った。
できあがった魔法薬を持って別館に向かおう森を歩いていると、目の前にジュードが現れた。
「あら、ジュード、どうしたの?」
「クレア、お前どこに行っていたんだ?」
「森の奥よ。お休みをいただいたから、少し薬を作ろうかと思って。」
「へえ、クレアは薬が作れるんだ。」
クレアは、ジュードの視点が定まらないのに気づき、不信感を持った。
「薬って言っても、素人が扱える薬草で湿布を作ったり、製油をクリームに足したり、ハーブティーを作ったりする程度よ。たいしたことじゃないわ。」
「でも、それって商売になるよな?」
「どういうこと?」
「クレア、お前、俺と結婚しないか?大切にするから。」
その目で大切にすると言われても、信じられない。クレアはジュードが怖くなった。
「なあ、あんな団長にいいようにされるんだったら、同じ平民どうし、きちんと結婚して責任持って一緒に歩いて行けるパートナーの方がいいと思わないか?」
「何を言っているのか、分からないわ。」
「お前、団長の女なんだろう?」
「違います!団長はそんな方ではありません!」
「あんなに二人でいちゃいちゃしておいて、隣どうしの部屋で、二人っきりで別棟に住んで、男女の関係がないって?クレアがいくら言っても、きっと誰も信じちゃくれないだろうよ。」
それはそうかもしれない。それでも、クレアとフレデリックに間には何もないし、クレアはフレデリックを父のように慕っているだけだ。
「構いません。私は誰とも結婚する気はありませんし、一生一人で生きていくと決めていますから。」
「強がらなくてもいいって。俺の所に来いよ。」
「いいえ、お断りします。」
ジュードの目が次第にギラついたものへと変わっていく。
「いちいちうるさいんだよ。俺が来いって言ったら来いよ。しっかりかわいがってやるからさ。」
「いやっ」
手を伸ばしてきたジュードを振り払うと、クレアは走った。走って逃げたが、今度はシャルロットがあらわれた。
「あら、クレア。いいところに来たわ。団長が呼んでいるの。一緒に行きましょう。」
「団長が?」
「ええ、クレアがいないって大騒ぎだったのよ。」
シャルロットの目もおかしい。クレアはシャルロットから離れようとして、後ろから来たジュードに捕まってしまった。
「シャルロット、ありがとう。」
「何言っているのよ、クレアは連れて行くわ。」
「ふざけるな、クレアは俺のものだ。」
「いいから。あいつを苦しめてやればいいのよ。最終的にはあんたのものになる。」
「本当だな?」
「楽しいと思うわよ。」
シャルロットとジュードに捕まったクレアは、そのまま別館に向かった。だが別館の様子がおかしい。
焦げ臭い?
シャルロットはいつの間にかナイフをクレアに向けていた。
「あんたには団長をおびき出す囮になってもらう。ほら、団長を呼び出しなさいよ。」
戸惑うクレアの頬に、鋭い痛みが走った。
「早くしないと、そのきれいな顔にどんどん傷がつくわよ。」
「どうして?」
「いいからさっさと団長を連れて来い、この愚図!」
左腕に痛みが走った。どうやらシャルロットに切られたようだ。
「三人で行った方が早いぜ。」
ジュードが言う。シャルロットは鼻を鳴らすと、ナイフでクレアを突ついた。歩けということらしい。クレアが先頭を歩く。その横を歩くジュードが腕を捕まえている。クレアの後ろを、ナイフを差し向けたシャルロットが歩く。別棟の扉を開けようとして、別棟が柱を残してほぼ燃え尽きた状態になっていることに気づく。
「どういうことなの?」
「昨日の晩、スタリオンの工作員が団長を始末するために入ったの。だけど全員返り討ちに遭った。残っているのは私だけ。」
「シャルロット?」
「ああ、ジュードにも言っていなかったわね。私はスタリオンから逃げた難民だったけど、団長に家族も友達も皆殺しにされた。私だけが生き延びた。工作員にはなれなかったけれども、こうやって団長の傍に潜り込んで情報を送るくらいのことはできたわ。チャーリーとジュードがいろいろ手伝ってくれたから助かったこともいっぱいあった。ありがとね。」
ジュードがうなり声を上げた。
「シャルロット、お前俺たちを騙していたのか!」
「騙される方が悪いんじゃない?どっちも鼻の下伸ばして、二人で貢ぎ物を争うように団長のこと教えてくれてさ。」
「ふざけるな!おい、チャーリーはどこだ?」
「ああ、昨日戦闘に巻き込まれて死んだわ。」
「巻き込まれて?」
「そ。隣の部屋にクレアがいると思って、連れてきてって頼んだんだけど、いなかったじゃない?戻ってくる時にやられちゃったのよね。全く使えない男だったわ。」
「クレアをくれるって約束も、反故にする気だな?」
「そんなことないわ。団長がどう動くか次第だけど。」
「つまりシャルロット、お前が裏切り者だった訳だな。」
突然違う声が割り込んだ。フレデリックが怒りに顔をどす黒くしている。
「クレアを離せ。」
「いいえ。あんたが死ねば、クレアは解放する。あんたが拒否して時間を稼げば、その分、この場でクレアに傷を付けていくわ。」
クレアとフレデリックの目が合った。クレアの頬の傷、腕の傷の順に視線が動き・・・そしてその目が完全に飛んだ。同時に、フレデリックの身体から炎が噴きだした。
「クレアに触るな!離せ!」
クレアとフレデリックの間にいたシャルロットとジュードに、フレデリックの炎が直撃した。ぎゃあ、という人とは思えない叫び声が聞こえる。図らずも二人の背に守られる形になったクレアは、二人の下敷きになって倒れ込んだ。直撃は免れたが空気は燃えるように熱い。息をするのも苦しい。クレアは爆風が収まったのを確認して、二人の下から這い出した。
シャーロットとジュードは、フレデリックの方を向いていた面が黒焦げになっていた。クレアもかすった所はやけどをしている。二人の息が既にないことを確認してから、クレアは立ち上がった。そして、フレデリックを探した。
「団、長・・・」
クレアはフレデリックを見つけた。周りは火の海になっている。その真ん中に、フレデリックが剣を杖のようにして、自身も重度のやけどを負って、辛うじて立っている。火の鳥の炎の翼が、その背に広がっている。炎の翼を広げた騎士の姿が、そこにあった。
「団長!」
クレアはフレデリックに駆け寄った。そして、その熱い身体に抱きついた。クレアの身体も焼かれるが、離れたくなかった。
「クレア、無事だったか。良かった。」
クレアを見つめて微笑んだフレデリックは、しかし次の瞬間意識を失ってくずおれた。
「団長、しっかりしてください、団長、生きて!」
その時、上空が明るくなった。はっと上を見たクレアは、そこに見たことのない、炎に包まれた鳥がいるのに気づいた。
「不死鳥?」
不死鳥は上空からホバリングしながらじっとフレデリックを見た。
「不死鳥様。どうかお願いです。団長を助けてください。団長はスタリオンの暗殺者やその指示を受けた者から私を守ろうとしたのです。人を守ったのに呪いをうけるだなんて、あんまりです。必要ならば私がその呪いを引き受けます。どうか、団長をお許しください!」
(この男は、私が祝福を与える前に、自ら進化した。お前を守るために。)
「守ろうとしてくださったことは事実です。」
(お前はなぜこの男を癒やそうとしたのか?)
「団長は私に、幸せというものは一つではなく、いろんな形で存在するのだと教えてくれました。家族の愛を知らない私ですが、団長とお話している時、きっと世の中のお父さんってこんな感じなんだろうなと思えました。ご飯をしっかり食べ、ゆっくり眠れる環境を与えてくださいました。団長にも仕方なく犯してしまった罪があるように、私にも防ぎぎれなかった、守り切れなかった人がいます。お互いに、お互いを大切にすることでその罪を償おうとしていたのかもしれません。」
(そうか。)
不死鳥は何か考えているようだった。
(いいだろう。この男は元々私が祝福を与えるつもりだった男。罪のない一般人を手に掛けたために罰していたが、心は腐っていなかったのだな。呪いを解こう。傷も治してやる。ただし、その治癒力はお前から取ろう。お前はしばらく意識を取り戻せないが、構わないな?)
「はい、どうぞお使いください。元々『魔女の秘薬』を使おうと思っていた所です。」
(そこまでこの男を信じるか?)
「はい。父になってくださると仰いましたが、それは身に過ぎること。ただの身元引受人でいてくだされば十分なのです。」
(よかろう。あの男は『不死鳥の騎士』とする。お前が代償を払うがよい。)
火柱を見て異変に気づいた公爵本邸の人たちが駆けつける。彼らが見つけたのは、空高く飛んでいく不死鳥と、フレデリックを抱きかかえたまま意識を失ったクレアと、それを呆然と見つめるデニスの姿だった。
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