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7)お隣からの救援要請

評価やブクマをありがとうございます!今日は夜にも二話投稿します。




 四か月後。

 風狼の群れをようやく斃し、しばしの休憩をとる。

「もう、しっかり魔獣の森だ」

 ラメルが思わず零した。

 怖れていた「急激な増加」の時期が来てしまったようだ。

 アレシアたちはここのところ、毎日、森で魔獣の間引きに励んでいた。

「バルゼー王国の側はどうなっているんだろう」

 アレシアは母国の有様が気になった。

「今まではどうだったんですか」

 ジーノが振り返って尋ねた。

「すごく多かったよ。地脈の影響が濃くなっているのなら悲惨だな。地脈がこちらに動いたのなら違うが」

 悪化が原因なら、バルゼー王国はもっと酷いはずだ。それでなくとも、昔から魔獣が多い国だ。だからバルゼー王国は熱心に魔獣の森の間引きをする必要があった。

「その辺は、国がバルゼー王国に問い合わせすれば簡単にわかるんですけどねぇ」

 ジーノが疲れた顔でぼやいた。

 アレシアたちは西の森に近い村には対策を施していた。

 急ごしらえではあるが、避難所も設け、魔獣除けの薬草を移植したりもした。

「ログリア王国はきっと調べているだろう」

 アレシアは期待を込めてそう応えた。

「結果待ちですね」

 ジーノは密かに『あまり期待はできないだろう』と思いながらも気休めしか言えなかった。

(とりあえず今は、これ以上、被害が出ないように間引きを続けるしかないな)

 アレシアたちはしばしの休憩を終えて剣を握り、立ち上がった。


◇◇


 急激に増えていた魔獣は、同じように急激に下火になった。今は小康状態といったところだ。

 アレシアが人質としてここに来てから、早一年と三か月が過ぎた。

 二十一歳となった誕生日のおりには心尽くしの祝いをしてもらった。

 ただの人質でのん気に過ごすつもりが、だいぶ違っている。

 ジーノとラメルもだろう。アレシアの護衛兼、見張りというより、魔獣討伐の同士みたいになっている。

 ジーノは良い年なのでてっきり結婚しているだろうと思ったら、妻の浮気が原因で離婚していた。気の毒だから、詳しくは聞いていない。

 男前の近衛が浮気されて離婚なんて、バルゼー王国ではありえない。

(なんだか、どこに行っても魔獣退治をしている気がするな)

 今日も森の討伐を終えて、ようやく帰還した。

 ランデルエ公爵領の屋敷では、イクシーがディアレフ王子に何度も連絡を取っていた。だが、返答がない。

 ディアレフはマメな人間ではないので、定期連絡というものはない。面倒だが、ディアレフが領主なので彼の了承が必要なことがある。

 場合によっては、ディアレフの側近に代わりに了承を取っておいて、後から話を付けて貰っている。ディアレフには領主としての責任感など皆無なので、他にやりようがなかった。

 連絡を入れているのは、国が掴んだであろう情報が欲しい、というのが理由だった。こちらの状況も、ずっと報せ続けている。

 アレシアは以前は、すぐにも情報はもらえるだろうと思っていた。

 地脈の変動は国の一大事だ。

 アレシアの考えでは「きっと大騒ぎで調べてもらえる」し、「情報を寄越すだろう」と期待していた。

 だが、アレシアの期待は外れた。なんら、返答のないままに月日が過ぎていく。もう、すでに一年以上放置だ。

 アレシアは、領内の経理の情報も少しずつ把握していた。関わり合ううちに、知りたくなくとも知ってしまう。

 アレシアは、自分が関わるのなら知りたいと思っているために自ずと踏み込むことになった。

 イクシーは、領内の経理情報をごまかして申告していた。

 初め聞いたときは「真面目なイクシーがなぜ?」と疑問だった。イクシーを信頼していたので、何か理由があるのだろうとは思った。

 実際、理由はあった。

 このログリア王国では税の割合が高い。真面目に払うと領地運営ができないほどに。そのためにごまかさざるを得ない。どこもそうやって申告している。それが当たり前だという。

 驚愕の事実だ。

 それなら、税の割合を低くできないのか? とアレシアは尋ねた。

「法律がどうしても改正できないのです」

「税など、時と場合によっては弄らなければならないものだろう。法改正が必要なのか」

「そうなんです」

 イクシーが辛そうに目を伏せた。

 新参者のアレシアでさえも思うのだ。有能で国を想う者なら誰でも考えることだろう。どこかに致命的な欠陥があるのだ。

「国王でも?」

「出来ればやっていただきたいんですけれど。出来ないようです」

 イクシーは、諦め顔で答えた。

(この国、大丈夫か?)

 アレシアの胸に不安が過った。

 おまけに、例の地脈の調べが待てど暮らせどなされない。

 ランデルエ領では魔獣の数はここのところは小康状態で止まっているから良いが、手に負えなくなれば救援が欲しいところだ。

 イクシーは村長たちからの情報をまとめて、傾向を見ている。

 資料を基に情報共有をするため、今日は村長らにも集まってもらった。

「魔獣の増加はもう十年以上も前から始まっています」

 イクシーは説明をしながら資料を指し示した。

 部屋にはジーノやラメル、衛兵隊長もいた。町を管理しているコレイユ子爵、近隣の村長も同席している。遠方で来られない村長にはのちに知らせる予定だ。

「そのようですね」

 村長らが頷く。

「地脈の影響は、規則正しく起こるわけではないです。揺れたりぶれたりしながら魔獣の変動は起こります。ただ、広い範囲の情報を集めて判断すればわかりやすい。やはり、国に調べてもらったほうが良いです」

 イクシーが告げた。

 アレシアからそう聞いていたのだ。この一年半の間、領地の様子を見てもその通りになっている。

 イクシーの調べでも地脈の動きを予測するには「広範囲の情報が必要」となっていた。

 地脈の知識はアレシアが詳しかったおかげで助けられていた。

「越権行為はできませんから、ひとつの領地ではここまでしか手を打てません。一応、こちらの有様を知らせてはありますし、要望は伝えてありますが返答はありません」

 イクシーが半ばあきらめ顔で報告し、村長らは頷いた。

「仕方がありません。我が領は、国にはあまり期待をしないで、対処していくしかありません。とりあえず、重点的に西の森に近い村を守る方策を立てます。村の魔獣避けの強化と魔獣の間引きですが。アレシア様とジーノ隊長、ラメル殿を中心として、腕の立つ狩人と衛兵とで班を組んでいます。彼らの派遣は報告を受けてから判断しています」

 ジオンが西の森近くの村長らに視線を移した。

 派遣してほしい村長は真剣に聞いていた。


 村長らを交えた打ち合わせの数日後。ようやく王都から通信が入った。

 知らせを聞いてイクシーは慌てて通信室に駆け込む。ジオンがたまたま用事で来ていたので同席してもらった。

 イクシーの他にジーノとラメルもいた。最新情報を知ってもらうためだ。

 アレシアにも同席してもらいたいところだが、アレシアは今日は魔力切れぎりぎりまで狩人たちの治癒をしていたために休んでいる。明日の昼くらいまでは休んでもらった方がいいだろう。

 通信の魔導具のあちら側はディアレフ王子の側近ガロアだった。

 イクシーはガロアは信用していた。声しか聞いたことの無い相手だが、若いが切れ者だろうと思う。

『どうやら、地脈の変化があったらしい』

 ガロアの口調が重い。ガロアの眉間にはさぞかし皺が寄っていることだろう。通信の魔導具では届くのは声だけで画像は見えないが。

 ガロアの報告にいつも平静なイクシーが思わず苦痛に耐えかねるような表情を浮かべたが、ジーノとラメルはわずかに眉をしかめただけだ。

 とっくに知っていたからだ。

 イクシーが顔を歪めた理由は、対応があまりにも遅かったからだ。今更、「地脈の変動があったらしい」などと悠長すぎる。

「なるほど。状況は悪いようですね」

『ああ。魔獣の被害はあちこちで悪くなっている』

「地脈の影響であることは確かなんですね」

『これだけ広範囲だからな。酷いところと、そうでもないところと、変化のないところと。様様だが地脈で間違いない』

「そうですか。では、魔獣対策を根本から立て直さなければなりません」

『そういうことだ。ちなみに、バルゼー王国からの情報によると、バルゼー王国の東の森、つまり、我が国からすれば西の森は、瘴気の範囲がずっと東にずれたそうだ。それでバルゼー王国では魔獣の討伐の隊を他の地域に回している』

「・・つまり、魔獣の森の瘴気が我が国の方へ来てしまった、ということですね。バルゼー王国は、おかげで国境となっている魔獣の森の間引きをする必要がなくなった、と」

『そうだ。代わりに我が国は西の魔獣の森対策をしなければならなくなった』

「仕方有りませんね」

『そうだ。仕方ない。国境沿いの魔獣の森に沿ってある領地は皆そうだ。国に支援を求めている』

「我がランデルエ公爵領も、求めます」

『先週、報告を貰っていたので、もうすでに申請はしてある』

「ありがとうございます」

『ただ・・』

「なんです?」

 イクシーは、ガロアの声を待った。

『ディアレフ殿下は、国に助けを求めるのは不本意らしい』

「は? なにを仰っている。国に助けを求めなければ、どうすれば良いと?」

『対案は無いらしいが』

「・・無いんですか」

『だが、領地を賜って早々に助けを求めるような体裁の悪い真似はしたくないらしい』

「でも、国に支援を求めるんですよね? それに、賜って早々とおっしゃいますが、もう二年近くにはなりますよ」

『殿下の言をそのまま伝えると、「人質を娶って早々にこういう事態になったのだ。人質が悪運を呼んだ。人質を処刑すべきだ」』

 ガロアの言葉に、ジーノとラメルの表情が固まった。

「ひどい冗談です」

 イクシーの声が棒読みになっている。

『さすがにそんな理由で他国から来た王女を処刑などできない。ただ、そういう意見を殿下が仰っていた、というだけだ』

「・・わかりました」

『それから、隣のビスフェル領から、ランデルエ公爵領へ救援要請がきている』

「は? こちらは国に助けを求めている状態ですが? 余所まで人を回す余裕はありませんよ」

 イクシーが思わず目を剥き、ガロアの暴言にジーノとラメルは呆気にとられた。正しくはディアレフ王子の暴言かもしれないが、ガロアの口調には一欠片の容赦も無かった。

『そうかもしれないが、殿下が引き受けられた』

「・・無理でしょう」

『アレシア様に行ってもらいたいそうだ。これは命令だ』

「なんてことを・・」

 イクシーは思わず拳を握ったが、指の震えを治めることは出来なかった。

『ビスフェル領のレティア・ビスフェル伯爵令嬢は、殿下の愛人のひとりだ』

「そんな理由で?」

『殿下の交友関係を「そんな理由で」などと臣下が言って良いと思うのか』

「私の仕事は領地の世話です。アレシア様が抜けたら、この領地の守りの要が抜けることになります」

『そちらこそ、そんな理由では、殿下は約束を取りやめることは決して無い。もう殿下は引き受けられたのだ。妃には明日にも出発してもらってくれ』

「ガロア殿!」

 通信の魔導具はぷつりと切られた。

 イクシーは、ガロアは信用できると思っていたが、そうでもないことを知った。



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