妃たちと離宮 2
妃たちは、明らかに二つの勢力に分かれている。
公爵家令嬢シャーリス・シルベリアを中心とした、おそらく元からの帝国貴族。
そして、従属した国の王族。
けれど、妃たちの特徴からいって、帝国に従属したといっても、それぞれの力を未だ持つ国ばかりのようだ。
(……たとえば、出されたお茶一つとっても分かるというものよね。南方の手に入れにくい高級ハーブだわ。基本的には、自分が作ったもの以外は飲食したくないけれど……)
軽く嗅いだ香りには、異変はないようだ。
……もちろん、嫌がらせをされるのは予想の範囲だったけれど、妃全員が揃っているのだから、いきなり毒を盛られることもなさそうだ。
「うん。おいしいです」
「あら? このお茶が分かるのですか?」
「はい、南方で有名なハーブを使っていますよね。この、強い苦みが特徴です」
飲めない人も多いというこのお茶。
見たところ、私だけに出されたようだ。
「苦みは強いですが、滋養強壮作用がありますものね。ここでの生活にまだ慣れない私に配慮してくださったのでしょうか……」
ニッコリ笑うと、レイラン様はわかりやすく目をそらした。
このお茶は、騎士団長が遠征先のお土産に持ってきてくれたことがある。
「そうそう、滋養強壮といえば、こちらのお野菜も、とってもおすすめです!」
積み上げられた野菜から、小さな葉を取り出す。
この葉も苦いけれど、とても体にいい。
「皆さまもぜひ召し上がって下さい!」
もちろんこの葉っぱもとても苦い。
パクパク食べる私を見て、恐る恐る口にした妃たちは、口元を押さえている。
南方出身のレイラン様だけは、素知らぬ顔で食べ続けているけれど。
そして、そそくさと帰る妃たち、取り残されたのは、レイラン様だけだった。
「……今日は、ありがとうございました」
「え? 何のことですか」
「もちろん気がついていたと思うけど、今日のお茶はソリア様への嫌がらせであり、私への嫌がらせでもあったの」
(私が嫌がらせされるのは、予想の範囲だったけれど、レイラン様まで嫌がらせされていたってどういうこと?)
そんなことを考えていると、少しの間口をつぐんでいたレイラン様が、ポツリと話す。
「だって、私の国のお茶を新しく来た妃が飲めなかったり、嫌な顔をしたら、確実にあの人たち南方を馬鹿にするわ!!」
「な、なるほど……」
「それに、かぶれるような草が入った招待状を私に預けて届けさせるなんて!」
「あ、レイラン様が入れたのではなかったのですね」
嫌がらせの二段構えとは、奥が深い。
そして、あの草が手に入らないことが分かり、私は肩を落とす。
「そんな、陰湿なことはしないわ。それにしても、お返しに帝国でも最高に苦い野菜を出すなんて痛快だったわね! 皇帝陛下から賜ったものであれば、残すことも出来ないわ!」
(えっ、特にそこまで考えては……)
「あなたのこと、気に入ったわ。私のことはレイランと呼んで?」
「では、私のことはソリアと」
手を繋いだ私たち。
アテーナが怒っている気配がないところを見れば、おそらく心からの言葉なのだろう。
それは、これから私が生きていく上で、誰を味方に選び、誰と対立するかの分かれ目なのかもしれない。私がそのことに気づかなかったのだとしても。
◇◇◇
そして翌日、なぜか皇帝陛下は、またも十三月の離宮にお越しになった。
というよりも、それから毎日のようにことあるごとに訪れるようになるのだけれど……。
「あの、どうしてこちらに?」
「十三月の離宮を含めた王城、そして帝国の全ては俺のものだ。どこにいても俺にとっては変わりない」
私にとっては、変わりがあります!! と、叫ばなかった自分を褒めてあげたい。
けれど、皇帝陛下は十三月の離宮へ、私が来る前からよく来ていたのだ。
……そのことを教えてもらうには、まだ私たちの距離は遠すぎた。
だから、今は、南方のお茶を「お体にいいですよ!」と、お疲れの様子の陛下にお出しするくらいしか、私にはできないのだった。
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