エピローグ
畑に行けば、季節ごとに実ったお野菜がツヤツヤと輝くように豊作だ。
見目麗しい花々も色とりどりの宝石みたいに咲き乱れている。
「……はあ」
土いじりをしながら私は小さくため息をついた。
十三もの離宮があるガディアス帝国。
その一つ一つに暮らす美しく賢い妃たち。
その中でたった一人選ばれる正妃。
選ばれて5年経った今、ようやく私の周囲も落ち着きつつある。
正妃になってからというもの、皇帝陛下の正式な妃として政に顔を出す機会が増えた。
もちろん、幻獣や私が治癒の力を持っていることは伏せているけれど、ことあるごとに帝国中の花が咲き乱れるせいで私は豊穣の妃と呼ばれるようになってしまった。
そしてもう一つ。本宮で一夜過ごした結果、アテーナは大きな豹へと姿を変えた。
もう隠しておくことは難しい。それなのにアテーナときたら子猫サイズだったときと何ら行動が変わらず自由気ままなのだ。
『ガウ!』
「アテーナ、もうドレスの裾に隠れるのは不可能なのよ……?」
アテーナが頭を突っ込んでいるせいで、不自然に膨らんだドレスの裾。
幻獣の姿が見えなくても、これだけ不自然に裾が広がっていれば周囲は不審に思うだろう。
「アテーナはお留守番よ?」
『ガウ!?』
ショックを受けたように見えたアテーナだけれど、黄色い蝶がひらひら飛んでくるとそれにつられて畑を走り出してしまった。
アテーナは心は子猫のまま、大人になってしまったようだ。
「幻獣が主の姿を映すというのは本当なのですね」
「ザード様!?」
振り返ると、何やらたくさんの紙袋をかごに乗せたザード様がいた。
「それは?」
「……陛下から、東方の種だと」
「東方の……種!!」
陛下はお忙しく、帝国全土を飛び回っている。
ようやく戦乱の日々は収束しつつあるけれど、大陸全土のほとんどを手中にしたガディアス帝国の皇帝としてすることは山積みだ。
「まだ陛下はお帰りにならないのでしょうか」
「まもなく戻られるでしょう」
……一生掛かっても終わらないかもしれない。
そう言って陛下は笑っていた。
けれど私は知っている。陛下は東方までの地域を平定し、一時ではあれこの大陸に平和をもたらしたかったのだ。
幻獣アテーナの本来の力。
それは、未来を見通す力だ。
この未来を実現させるために、母はレーウィル王国に踊り子として現れ、国王の妃の一人となったのだろうか……。
走り回る子どもたち、大切なお野菜の苗がこのままでは潰れてしまうだろう。
『ガウッ!!』
その時、子どもたちと戯れていたアテーナが勢いよく走り始めた。
視線の先で微笑んでこちらに手を振るのは……。
「陛下っ!!」
私は走り出す。
まず最初に子どもたちが次々と抱きついた。
「こら! 走るなと言っているだろう!?」
陛下が子どもたちをぶら下げたまま走り寄り、私のことを抱きしめる。
その瞬間、浮かんだ未来は幸せに満ちあふれていた。
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