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十三月の離宮に皇帝はお出ましにならない~自給自足したいだけの幻獣姫、その寵愛は予定外です~  作者: 氷雨そら
本編

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幻獣と正妃 2


 三月の離宮は、花の一つもなかった。

 その代わり緑豊かで針葉樹の森にいるようだ。森の中心が切り開かれ、闘技場が設置されていた。

 お茶会が始まると、三月の離宮の妃であるジェニット様が闘技場の中心で舞を披露してくれた。


 美しくも凜々しいそれは剣舞だった。


「そういえば、ソリア様のご母堂は踊り子だったそうですわね」


 シャーリス・シルベリア様が扇を拡げて意地悪そうな笑みを浮かべた。

 もちろん、私の母が踊り子であったことを卑下しているのだろうけど、毒を盛ったりしてくる他の妃に比べれば可愛い意地悪だ。


「そうなのです……。母は東方ウェリンズ出身の踊り子です。では、陛下にも縁故あるウェリンズの舞を披露いたしましょう」

「陛下に縁故ある……」

「……やるわね」


 十二月の離宮の妃、レイラン様がにっこりと笑って私に耳打ちしてくる。


「陛下の縁あると言ってしまえば、ソリア様の踊りに難癖をつけることは不敬になるものね」

「そ、そうですね」


 私はにっこりと微笑んで曖昧に返事をした。

 残念ながら、そこまで考えていたわけではないのだ。


 ……ああ、でも踊るのは久しぶり。お母様に教えていただいた踊りを誰かに披露できるのは嬉しい。


 母は、踊り子だと周囲に笑われていたけれど、父王に所望されれば皆の前で舞った。

 黒い髪と瞳の母の踊りは、とても神秘的なものだった。


『幻獣に感謝を捧げる意味がある踊りなのよ』


 母はそう言っていた。

 きっと、陛下のお母様、シーラ妃の舞も美しかったに違いない。

 でも、今この場所で東方の踊りを踊れる人は、私しかいない。


 本来であれば鈴を身につけて踊るのだ。

 まるで幻獣になったように、しなやかに、ただ鈴の音だけを響かせて……。

 鈴を身につけていないから、音もなく踊る私の周囲は静寂に包まれる。

 衣擦れの音だけが響き渡る。


「……」


 踊り終えても、お茶会の席は静寂に包まれたままだった。

 目を開ければ、驚いたように見開かれたジェニット様のグレーの瞳が目に入る。


 妃たち全員の視線がこちらに向いている中、ジェニット様の視線だけが私の足元に……。

 ……アテーナがドレスの裾から出てしまっている!?


 慌てて裾の中にアテーナを隠す。

 踊りに夢中になって、アテーナが裾から出てしまったことに気がつかなかった。


 もしかして、ジェニット様には見えてしまっていたのかと視線を送ると、何事もなかったように響き渡った大きな拍手。

 ジェニット様が拍手をすると、妃たちから大きな拍手が起こった。


 ……見えていなかったみたいね。それはそうよね。アテーナがあえて姿を現わさなければ、見えない人がほとんどだもの。


「素晴らしい舞だったわ!」

「レイラン様、ありがとうございます」

「次は私の番ね!」


 レイラン様は、南方の踊りを披露した。

 南方の踊りは華やかで明るい印象でレイラン様のイメージによく合っていた。

 和やかな雰囲気の中、次々と妃たちが舞う。

 厳しい訓練を受けてきたのだろう。どの妃の舞も素晴らしいものだった。


 ほっとして壇上から降りる。

 ジェニット様が鋭い視線を再び私の裾に向けていたことに、私は気がつかなかった。


 そして、花が咲かない樹木ばかりが植えられたジェニット様の離宮にいた私は知らない。

 私の踊りに呼応したように、一足早く春の花々が王都中で咲き乱れてしまったことを。

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