表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十三月の離宮に皇帝はお出ましにならない~自給自足したいだけの幻獣姫、その寵愛は予定外です~  作者: 氷雨そら
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/52

幻獣と姫 3


 ◇◇◇


 会いたいときに、陛下はいない。


(本当にお忙しいから仕方がないにしても、お野菜の種と苗さえ与えておけば良いと思われているに違いないわ)


 そんなことを思いながら、耕して肥料を混ぜ込み土壌改良に勤しんできたおかげでフカフカになった畑に苗を植える。


「この苗からは、見たことがない淡いピンクの苺がなるらしいわ……」


 アテーナは、子猫の姿で私の横でゴロゴロと土に転がっている。本当の子猫ならこのあと洗わなければいけないけれど、幻獣は汚れたりしない、便利だ。


「……うう。それにこちらは、見たこともない青菜の種」


 その種は、なぜかピンク色をしている。

 初めて見るその色に、鳥に全部食べられてしまうのではないかと心配になる。


「わかっている……。陛下は、私に苗と種を与えておけば怒れないって!」


 でも、怒っても良いと思うのだ。

 だって、一方的に正妃にすると宣言しておいて、今度は一ヶ月近く放置なんて。


 そんなことをしている間に……。


「ソリア様!! もう、着替えて行かないと!!」

「……3月の離宮のお茶会の日が、来てしまったわ」


 種と苗と一緒に送られてきたのは、触っただけでその素材が特別だとわかるフワフワ軽やかなドレスだ。


 なぜか陛下は、いつも私を真っ白に飾り立てたいらしい。真っ白なパールにダイアモンド、白いレースとリボンがあしらわれた少々子どもっぽい印象のドレスを着た私は、幻獣みたいに真っ白だ。


 私のことをなぜかじっと見つめていたアテーナは、『ニャ』とひと声鳴くと、私の裾に潜り込み、そこで姿を消した。


「アテーナは、一緒に行けないのよ?」

『ンナ!!』


 否定の声を上げたあと、アテーナはどんなに呼んでも返事をしなくなった。

 断固として自分の意志を押し通すところ、いったい誰に似たのだろうか。


「……本当に、あの幻獣は妃殿下によく似ておられるな」

「っ、グラン・ウェリンズ様」


 振り返ると、陛下が年を重ねたらこうなるのではないかという、渋みのある男性が立っていた。


 その色合いは、真っ黒で私と正反対だ。

 いたずら好きの少年のように笑いかけてきたグラン様は、それでいて大人の色気をまとっている。


 不覚にも胸がときめきかけて、首をぶんぶんと振る。


「あの、どうしてこちらに?」

「父が娘に会いに来て、何か問題でも?」

「……義理のです」

「はは。冷たいな。そんなところも、彼女に良く似ている」

「え?」


 グラン様は、そう言って一瞬遠くを眺めたあと、先ほどと違い、少し苦しげに口元を歪めて笑った。


「これを君に、渡さなければいけないと思ってね」

「……これは」

「遠い昔に、君の母上が身につけていたものを譲り受けたんだ」


 キラキラ光るイヤリングは、肖像画でしか見たことのない母がつけていたらしい。

 母がウェリンズを発ってから、すでに20年近い歳月が流れた。

 その間、ずっと大切に持っていたのだろうか。


「娘である君の元に渡り、きっと彼女も喜んでいるだろう」

「あの……。母はどんな人でしたか?」

「君のように明るく、優しく、行動力がある人だったよ」


 そう言って、グラン様は手ずから私の耳にイヤリングをつけてくれたのだった。


 

最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ