表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十三月の離宮に皇帝はお出ましにならない~自給自足したいだけの幻獣姫、その寵愛は予定外です~  作者: 氷雨そら
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/52

野菜好き妃殿下と宰相 1


「ところで、妃殿下……」

『ギャウッ!?』

「……ザード様!?」


 あの後すぐ、私を押し倒したラーティスは、小さな子猫みたいな姿に変わった。

 寝転んだままじゃれ合って、視線の先に見える青空。

 そこに映り込んだのは、私を見下ろすグレーの髪と瞳をしたイケオジだ。


「何から申し上げたら良いか、それに想定外の出来事に動揺を隠せませんが」

「……えっと、これは」


 笑顔のザード様は、きっととても怒っている。

 人の顔色を見ながら生きてきた私には、そのことが何となくわかる。

 ううん、明らかに重々しい雰囲気のまま笑っているから、誰にでもわかるのかもしれないと思い直す。


「まず、どういうことだ! 妃殿下ともあろうお方が、こんなふうに地面に寝転ぶなんて! 誰かに見られたら、陛下の品格まで疑われるだろう!!」

「ひゃっ、申し訳ありません!」


 世の中には、逆らってはいけない人がいるものなのだ。ザード様が、そのうちの一人なのは、間違いない。


「さあ、お手を」

「汚れてしまいますよ」

「……さっさとしなさい」

「はいっ」


 汚れたままの手をはたくまもなく掴まれて、強引に引き起こされる。

 書類仕事ばかりしているのかと思いきや、ザード様は、思いのほか鍛えているのかもしれない。

 いくら私が、小さくて軽いとはいっても、こんな羽根みたいに軽く立ち上がらせるなんて……。


「……軽いですね。野菜以外も、ちゃんと食べていますか?」

「……いただいたお肉、食べてます」

「もっと食べたほうが、良いでしょう」


 そう、ザード様は、時々お父さんみたいだ。

 私に愛情を傾けてくれた肉親はいないから、いっそザード様のほうが家族みたいに思えてしまう。


「さて、ところで」

「……ぴっ!?」


 瞬きするほどの間に、まるで私のことを慈しむみたいだったザード様の表情が、豹変する。

 そしてその知的なグレーの瞳は、そのままラーティスへと向かった。


「そちらの子猫には、見覚えがあります。というより、今はラーティスと呼ぶべきですか? それとも、あの頃のようにララーと? ……ほら、逃げるのはおやめなさい」


 なぜか逃げだそうとしたラーティスを容易にザード様は抱き上げた。

 シュンッとした姿は、まるで飼い主に叱られてしまった子猫のようだ。


「えっと、その……」

「そうですよね。幻獣が召喚した者と一緒に消えたからといって、人のように死ぬはずもなし。なぜそのことに気がつかなかったのか……」


 ザード様の大きな手が、自身の額と瞳を覆った。

 端だけつり上げた唇は、自嘲しているようにも、悔恨に歪んでいるようにも見える。


「……十三月の離宮の妃」

「はっ、はい!!」

「……あなたのことではありません」

「え?」

「あのお方のそばには、いつも子猫がいた。一緒に消えてしまったのだと思っていたが、幻獣にとっては姿を変えるなんて容易に違いない」


 私ではない、十三月の離宮の妃。

 そういえば、陛下はこの場所で育てられたと言っていた。ということは、ザード様の言っているお方は……。


「妃殿下の母君は、東方ウェリンズの生まれですね」

「……ええ、ウェリンズの踊り子」

「しかし、幻獣を扱う力は、王族かその地の高位貴族しか持たないものだ」

「……」

「はあ。なるほど、断片的だった情報が、だいぶ繋がりました」

「えっと」


 ザード様に、嘘はつけそうにない。

 いっそ、全部話してしまったらと考えたとき、私たちの距離は急につめられた。


 置かれた手は、痛いほど強い力で、私の肩を掴んでくる。


「……ところで、シルベリア公爵とのやり取りや、周辺諸国と旧三国との関係性の調整、さらに南方のリーンとの情報共有」

「えっと、その……」

「寝る間もなく、大変だったのですよ?」


 確かに、いつも完璧なザード様の目元には、うっすらとクマが浮かんでいる。


「っ、管理者であり後見人である私になんの相談もしないで、今、不安定な状況にある三国の姫の一人とさらに併合したとはいえ、南方で一番の発言力を持つリーン王国の姫とのお茶会を勝手に執り行うヤツがあるか!!」


 大目玉を食らってしまった私は、さすがにお忙しそうだからと連絡しなかったことについては、心から反省したのだった。

最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ザード様の怒りが炸裂! そうですよね、大変でしたよね ソリアと一緒に謝りたいと思います(汗)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ