十三月の離宮のおもてなし 1
◇◇◇
せっかく、七月の離宮の妃リーシェル様と十二月の離宮の妃レイラン様が来てくださるのだから、とお野菜のフルコースを考えていたのに、昨日の花畑事件のせいでそれは出来なくなってしまった。
「……お花の茶会だわ」
料理長が腕を振るってくれた、色とりどりのスイーツ。
昨日の花を急遽、砂糖漬けにしてくれた料理長。慌てて花を摘むなんて、可愛らしいなと思っていたら、エディブルフラワーだったとは……。本当に奥が深い。
服装は、コンセプトに合わせて花柄のレースがふんだんに使われたドレスだ。
(ラーティスの瞳をのぞき込んだら、目が合った陛下がほんの少し悔しそうな顔をしていたのはなぜかしら?)
陛下から花柄のドレスが、たくさん届くのは、また後の話で……。
「ソリア様、お招きありがとうございます」
「レイラン様!」
考え事は、明るいその声に中断される。
顔を上げると、そこには南国の花の鮮やかな衣装に身を包んだレイラン様がいた。
小麦色の肌が、暖かな日差しに輝き、エメラルドの瞳がキラキラ輝いてなんとも華やかだ。
「リーシェル様は、まだいらしてないのね」
「まだ、少し時間があるから」
「それにしても、手が込んでいるわね」
「ふふ、そうでしょう!! 料理長が腕によりをかけて作ってくれたんです」
それだけ、今日のお茶菓子は、美しい。
アイシングにちりばめられたお砂糖漬けの花々は、飴でコーティングされて、歯ごたえのアクセントにもなっている。
「……本当に、色気がないわ」
「え?」
「通常、出会い頭に褒めるとしたら、ドレスでしょう!?」
「そ、そうなのですか!?」
ため息をついたレイラン様から学ぶことはたくさんある。
レーウィル王国では、騎士団長や魔術師と交流があったものの、貴族社会とは、ほとんど関わりがなかった。
「騎士団長は、いつもお菓子のお話をしてくれましたから……」
「あなたが興味を示すから、気をつかってくれたのでは?」
日頃の騎士団長の様子を思い浮かべてみる。
「そうなのかもしれないですが、今日も訓練前に料理長と何やら話し合っていたから、きっと騎士団長は、お菓子の話がお好きなのだと」
「そう。たしか料理長は、陛下が幼い頃からおそばにいたのよね?」
「ええ、そんなことを仰っていたような……」
「……」
黙ってしまったレイラン様に質問を投げかけようとしたとき、七月の離宮の妃、リーシェル様の来訪が告げられる。
(料理長に、何かあるのかしら?)
その疑問は、珍しく的を射ていた。
そのときには、もうそれどころではない、大事件が起こっているのだとしても。
「お待たせいたしました」
「時間通りです!」
「……華やかですわね?」
「そうでしょう!! 料理長自慢の!!」
その言葉を告げかけて、ふと先ほどもらった意見を思い出し、「……このドレスは、東方の職人の手によるレースを使っておりますの」と言い換えた結果、レイラン様に爆笑されてしまった。
――――こうして和やかに、妃たちのお茶会は始まる。
南方の姫だったレイラン様。そして、帝国と国境を接するルビア王国の姫だった、リーシェル様。
さらに今は亡きレーウィル王国の姫だった私。
周囲から、このお茶会の意味がどうとられるのか。
たぶん、三人の妃と騎士団長や陛下、宰相ザード様、そうそうたる主要人物たちの中で、その重要性を理解していなかったのは、私だけだったのだろう。
史実として語り継がれることになる三国の姫のお茶会は、色鮮やかな花びらと、笑い声とともに幕を開けたのだった。
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