陛下の寵妃 4
◇◇◇
結局のところ、畑の作物が一度に花開いた理由はわからなかった。
そして、もちろん花開いた根菜も、葉物野菜も、収穫時期を逃してしまった。
「……残念だったけれど」
サクリと口の中で音を立てたのは、陛下がくださったニンジンだ。
少しだけ青臭くて、甘みが強い。
「ふふふ、けれど転んでも、ただでは起きないの」
私もたくましくなったものだ。
全てを諦めて、日々生き延びることだけを考えていた日々が嘘のようだ。
そう、部屋の中にはたくさんの小袋。
その一つ一つには、なんとズッシリと作物の種が詰め込まれているのだ。
(花が咲いたあとに、すぐに枯れてしまって驚いたけれど、まさかこんなにたくさん種が採れるなんて)
口の端を緩めていると、ベロリと頬が舐められる。最近私が、作物のことを考えていると、いつもこうなので慣れたつもりでも、やっぱり驚く。
「……ラーティス」
『ガゥ!!』
こちらを見ろとでも言いたげなラーティス。
陛下がいらしたあと、アテーナは陛下の肩に乗ったまま離れようとせず、ついて行ってしまった。
「陛下は、なぜかアテーナを隠すことが出来たのよね……。ねぇ、ラーティスは、姿を隠せないの?」
しばらく首をひねっていたラーティスが、『ガゥ!!』とどこか自慢げに鳴いた。
「あ、あれっ!? ラーティス!?」
次の瞬間、目の前には、小さな白い子猫。
アテーナにそっくりな、前足も後ろ足も太いフカフカの……。
「まさか、ラーティスなの?」
『ミュッ!!』
鳴き声まで可愛いけれど、確かにその毛皮は豹の模様をしている。
そして、やはり褒めてほしいとばかりに、尻尾を揺らしながらこちらを見上げている。
「まさか、リーシェル様がいらっしゃっても、ずっとそばにいる気なの?」
『ミュッ!!』
当然だろうと言わんばかりだ。
抱き上げてみる。もちろん幻獣なので重みはない。そしてとても小さいので、明日リーシェル様がいらしても、荷物やロング丈のスカートの裾に隠すことが出来そうだ。
抱き上げて、アイスブルーの瞳をのぞき込めば、そこに映り込んだ陛下と目が合った。
「あれ?」
微妙な表情で、少し眉をひそめた陛下。
たぶん、二人は今、同じことを思ったに違いない。
(そういえば、ラーティスとアテーナが、逆に着いているのは初めてよね? もしかして、お互いのことが見えているの?)
その疑問を解決するべく、そっと手を振ってみれば、瞳の向こうの陛下も手を振ってくれる。
間違いなく、お互いの姿を見ることが出来るようだ。
これで安心ですね! という意味を込めて、満面の笑みを向ければ、なぜか陛下は今度は露骨に顔をしかめた。
「あれ? 何か仰りたいのかしら」
『ミュッ!!』
「……とりあえず、リーシェル様とレイラン様を歓迎するための準備をしましょう!」
けれど私は知らないのだ。
明日の集まりで、知らされるのは大陸を揺るがす事実だということも。
滅びてしまったはずの、私の祖国レーウィル。
ガディアス帝国と、ルビア王国、ファントン王国、それら三国に挟まれていたレーウィル王国に、復興の動きが出ているなんてことも。
すでに、その情報を陛下は掴んでいることも。
最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。




