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十三月の離宮に皇帝はお出ましにならない~自給自足したいだけの幻獣姫、その寵愛は予定外です~  作者: 氷雨そら
本編

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陛下の寵妃 3


 ばらまかれたニンジンにようやく気がついて身をよじるけれど、その腕の中から逃れるなんて出来なかった。

 でもそれは、陛下の腕の力が強いというわけではなく、温かくてよい香りがするその場所から、私が出て行きたくないだけだ、きっと。


「陛下……」

「……ああ、せっかくソリアのために珍しいニンジンを持ってきたのに、ばらまいてしまったな」

「いえ、洗えば問題ないかと……。元々土の中にあるのですから」

「ははっ、相違ない」


 今日の陛下は、いつもに比べて元気そうだ。

 ラーティスがそばにいないから、体に負担がかかる転移魔法を使っていないのも理由の一つなのかもしれない。


「お忙しそうでしたね? とても、ここに来る余裕なんてないように見受けられましたが」

「……今日は、騎士団長と話があってな」


 もの言いたげな陛下の様子に首をかしげる。

 そこでようやく私は、一つの事実に気がついた。


(しまった、これではラーティスの瞳を通して、ずっと陛下を監視していたみたいだわ!?)


 皇帝陛下の行動を観察していたなんて、奸計を疑われても申し開きが立たない。


「ところで、俺のことを見ていたような言い方だな?」


 意地悪げに片側だけ軽くゆがんだ陛下の唇。

 それは、非難しているというよりも、どこか楽しそうだ。


「あの、大変申し訳なく思っております……」

「なぜ見た?」

「えっ、あの……。会いたくて」

「……そうか、すまない。実は俺も、アテーナがそばにいたときには、君をいつも……」


 その言葉は待っているのに、中々続けられない。

 それなのに、なぜか陛下は私から目をそらさない。


「……あの?」

「っ、危なく連れ帰りそうになった」

「え?」


 ラーティスとアテーナが、なぜか動きを止めて私たちの様子をうかがっている。

 そよそよと吹く風は、ほんの少しだけ以前より温かみを増して……。


「ところで、なぜ急に花が咲く?」

「え?」


 急に驚いたように目を見開いた陛下。

 今さらながら、その顔だけを見ていたことに気がついて、慌てて周囲を見渡す。


 珍しいことに、いつでも冷静沈着な騎士団長まで、農作業の手を止めて目を見開いている。

 そして、訓練を積んでちょっとやそっとのことでは、動揺なんてしないはずの騎士たちも。


 気がつけば、この瞬間、一度に春が押し寄せたかのように、畑中の作物に花が咲いていた。


「……あああ、あの野菜は、花が咲く前に収穫しないと、堅くて食べられないのに!?」

「……そこか?」


 もちろんそれが、この摩訶不思議な出来事に対する私の率直な感想なのだった。

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