三国とお茶会 2
◇◇◇
今は滅んでしまったレーウィル王国、そしてルビア王国とファントン王国には、もともと上下関係というものはない。
三国は、協力し合ったときもあれば、争っていたこともあるけれど、ガディアス帝国が台頭してくるまでは、長い年月その均衡を保っていた。
「――――レーウィル王国がなくなったのに、私がここに存在するのもおかしいし」
どうしてこんなにも、華美なドレスを身につけているのだろうか。
「王国があったときですら、こんなドレスを着たこともないのに」
おそらく、ここにいる妃たちも私に関する情報はほとんど持たないに違いない。
レーウィル王国の名もなき姫。それが私の前身だ。
「ザード様は、いったい何のつもりでこんなドレスを用意したのかしら」
(まさか、正妃になれというのは冗談ではなく本気……?)
二月の離宮、お茶会の会場は、やはり美しく着飾った美女たちであふれている。
小柄で貧相な私なんて、どんなに着飾ったところで、他の妃たちとは比べようにないだろう。
それでも、首元まで包む豪華なレースと、艶やかな白いドレスは、他の妃たちよりも明らかに豪華だ。
そう、日々領土を広げ続けている、このガディアス帝国で、皇帝陛下の次に権力と財力を持っているというシルベリア公爵家出身の妃、シャーリス様よりも。
(うう……。なぜか、周囲の視線が集中してる)
髪の毛の色も白銀なのだから、今日も私はすみれ色をした瞳の色以外は、真っ白に違いない。
太陽の日差しを浴びて、キラキラ輝くドレスと、視界の端に映り込む白銀の髪の毛。
自分の姿については、考えないことに決めて、周囲に目を向ける。
一月から六月までの離宮で暮らす妃たちは、シャーリス様を中心に座っている。
その中で、茶色の髪と瞳、美人なのにどこか所在なさげな印象なのが、フィルス伯爵家の次女であり、二月の離宮の妃、カティア様だろう。
「ソリア様」
「……あ、えっと、リーシェル様」
会場に入って改めて席に座る妃たちを眺めていた私の目の前に、いつの間にか七月の離宮の妃、リーシェル様がいた。
カティア様と同じ茶色の髪と瞳をした彼女は、けれどピンッと背筋を伸ばして、知的な印象の瞳で私をまっすぐに見つめた。
(毒に倒れた彼女を助けてから、ひと月が経つけれど、お元気そうでよかった)
ニッコリ笑うと、一瞬大きくその茶色の瞳を見開いて、リーシェル様は、すぐに頭を下げる。
会場の視線が、私たちに集中する。
そう、レーウィル王国はもうないし、あったとしても三国は平等だ。その立ち位置をずっと示すことで、調和を保っていた。
けれど、この場所で、ルビア王国の姫が私に頭を下げる。
(その意味が分からない人には、見えないのに……)
「……よろしければ、一緒に座っていただけませんか?」
「は、はい。喜んで」
「レイラン様も、よろしければどうぞ」
「ええ」
私のことを誘おうとしてくれていたのだろう。
エメラルド色の瞳を鋭くしたままのレイラン様も席に着く。
(まるで、現在の帝国を表しているようだわ)
帝国の旧家である一月から六月の妃たち。
けれど、そこの席に八月の妃が加わっている。
ルビア王国とファントン王国が手を組んだという情報は誤りだったと陛下は言っていた。
(きっと着いた席が、そのことを表している。もう、隠す必要もないということかしら。先月のお茶会では、八月の離宮の妃は、七月の離宮の妃、その横に座っていたのに)
ゴチャゴチャとした情報を整理する。
たぶん、陛下がいたら正確に状況判断したのだろうけれど、私はそういう分析は、得意ではない
「……もしよろしければ、十三月の離宮に伺ってもよいですか?」
「えっ?」
顔を上げると、リーシェル様が美しく微笑んでいた。
「実は、珍しい野菜の苗を手に入れましたの」
「大歓迎です!!」
レイラン様のため息は聞こえない。
私は、会場のピリピリした空気も忘れて、まだ見ぬ野菜の苗に思いをはせるのだった。
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