表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十三月の離宮に皇帝はお出ましにならない~自給自足したいだけの幻獣姫、その寵愛は予定外です~  作者: 氷雨そら
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/52

幻獣と皇帝 5


「……は、なぜここにいる。……ソリア」

「陛下!!」


 皇帝陛下の部屋にある暖炉から、煤まみれで現れた私を見た陛下の表情。

 たぶん私は、一生忘れない。


 ザード様は、「ここまで来れば安全でしょうから」と途中で引き返してしまった。

 その、大陸中の技術全てを集めた豪華な衣服。

 汚してしまうことに罪悪感を覚えても、抱きつきたいというその衝動に抗うことは難しい。


「……陛下!」

「ソリア……。どうしてここに?」

「……会いたくて」

「はは。会いたいと思いすぎておかしくなったか?」


 その言葉を聞いたとたん、衣服を汚してしまうなんて遠慮は掻き消えて、いても立ってもいられなくて、思いっきり飛び込む、その胸に。


「陛下!!」

「……ソリア」


 呆然としながら、私のことを抱き留めた陛下。

 その胸板は、たくましくて、暖かくて、愛しくて、ずっと待ちわびていたという気持ちを抑えきれずにすり寄る。


「会いたかったです」

「は? 俺に……?」

「当たり前です。陛下に会いたくて、会いたくて、たまらなかったに決まっています」

「そ、そうか」


 陛下の部屋に、誰かが訪れたのは初めてなんて、まだ私は知らない。

 この部屋には、何もなくて、私に与えてくれたたくさんのものが何一つないなんて、知りたくなくて。


 苦しいほど抱きしめられて、会いたかったことを再認識したせいで泣きたくなる。


「会いたかったです」

「俺も、だ」


 今さらながら、離れていたことが辛かったとでも言いたげにラーティスが陛下に、その白銀の毛をすり寄せた。


「お前な……」

『ガウ! ガウガウ!』


 ラーティスが訴えていること、私にはわからない。


「だが、ソリアを守ってくれたこと、感謝している」

『ガウ!!』


 自慢げなラーティス。

 それはまるで、陛下の気持ちを代弁したとでも言いたそうなのは、私の思い込みなのだろうか。


「……本当は、俺がそばにいたかった」

「っ、私も、陛下のそばにいたかったです!」

「は、そんなことを言うな。この手から離すことが出来なくなる」


 抱きしめられて、陛下の置かれた人生と境遇に思いを馳せる。

 全てをその手にしながらも、本当に欲しいものを何ひとつその手にできなかった人。


「うっ、言ってもいいですか?」

「何を?」

「ニンジンよりも、野菜よりも好きです」

「……うん?」


 それは、私にとって、命を繋いでくれる全てに優先されるという意味だ。

 けれど見上げた陛下は、何度も瞬きをして納得しているようには見えない。


「陛下?」

「せめて人を引き合いに出してほしいというのは、俺のわがままか?」


 もう一度、抱きしめられた。

 そう、私が生きるよりも優先する場所は、ここなのだ。

 そのことを思い知らされるように。

最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 煤まみれのソリアを見た時の陛下と、 「会いたいと思いすぎておかしくなったか?」のセリフがお気に入りです♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ