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大陸の縮図 5


 ◇◇◇


 そして、ドレスが完成してから、一週間が経過した。

 持参するのは、収穫した果実で作ってもらったジャムだ。

 ……それにしても、どうして離宮のお茶会には、食べ物や飲み物を持ち込むのが慣例なのかしら。


 離宮の妃たちは、言うなればライバル関係であり、敵同士でもある。

 離宮の歴史は、毒とともに語られる。多くの妃が、毒で命を落としているのだから。


 いつもであれば、毒を飲んでしまっても癒しの力である程度なら問題ない。

 でも、今の私は陛下にアテーナがついて行ってしまったこともあり、ほとんど魔力を持たない無防備な状態だ。


 そっと、胸元に手を添える。

 胸元に輝くオニキスの宝石。そのペンダントは、裏に薬が隠せるように細工されている。

 ……陛下にいただいた薬、意外と早く使うことになるかも。


「出発するには、まだあと少し時間があるわね」


 エントランスホールの高い本棚にかけられたはしごに、寄りかかる。

 今日は、さすがに早朝から畑仕事をするわけにはいかないと、磨き上げられ、化粧されたあとはエントランスホールで、本を読んで過ごしていた。


 離宮の歴史は長く、ここの置かれた本もこの場所について書かれたものが多い。


 先ほどまで読んでいた本は、以下の一文で始まった。

 ――――離宮とは、歴代皇帝が生まれた場所であり、歴史の始まりでもある。


 大陸全土から妃を集めてくることで、ここまで帝国は大きくなったと、その本には述べられていた。


「――――確かに一理ある。各国の王族や貴族は、古来から独自の力を持つ人が多いもの」


 例を挙げるなら、私が生まれたレーウィルの王族には、癒やしの力を持つ人が古来から多く生まれる。

 私の幻獣に関しては、今は帝国に併合された東方の国ウェリンズに古来から続く力だ。


 古来から各国の王族たちは、力の強い者を頂点に置くことで、その力を受け継いできた。

 しかし、亡国となったレーウィル王国に関しては、近年治癒の力は最上とされず、爵位や利害に基づいて婚姻が繰り返され、純粋な力を失いつつあった。


 最近では、癒やしの力を持って生まれたのは私だけだ。


『絶対に、アテーナを誰にも見られてはいけないわ。そして、誰かのケガを治せることも、知られてはいけないの』


 母は、私が利用されることを恐れ、幻獣と癒やしの力に関しては、隠し通すように幼い頃から言い続けていた。


 たくさんの資料を読んでいて分かったことだけれど、このガディアス帝国の離宮では、もちろん身分や流れる高貴な血は大切だけれど、それよりも大きく純粋な力を持つことが重要視される。


 実際に、公爵家の令嬢は氷の強い魔法を使うことが出来るし、二月から六月の離宮の妃も、生まれの高貴さだけでなく、持って生まれた力により選ばれた。


「大きく純粋な力を持った妃を長きにわたり集め、誰にも負けることがない力を持ったものが、皇帝になる。それがガディアス帝国の歴史」


 だから、この場所は、たった一つしかない皇帝の椅子を奪い合う、戦場ともいえる。

 ――――陛下も、あの瞬間移動の能力に命を救われたのは三桁はくだらないと言っていたもの。


 後ろ盾を持たないと言っていた皇帝陛下のお母様が、東方の出身であることは、最新の資料からすぐに分かった。東方の国リアン、私と同じその血を半分受け継いでいる陛下。


 ――――私の母は、レーウィル王国の国王に見初められる前はさすらいの踊り子だったけれど、東方の国ウェリンズが先代皇帝によって滅ぼされ、併合されたときに逃げてきた貴族の娘だったという。


 ウェリンズ王国は、未開の地と言われていて、その資料も少ない。幻獣に関しては、一般の人はほとんどがその存在すら知らないだろう。


「陛下は、私に生き延びろと言った。この場所で、陛下も生き延びてきたのだというなら……」


 ドレスの裾が汚れないように、そっとつまんで外に出る。

 すでに、ビオラとデライト卿は、玄関の前で控えていた。


「行きましょうか」


 過去、長い歴史の中でお茶会は、華やかにそしておぞましく語られている。


 ――――それにしても、この場所で自給自足しながらのんびりする夢は、どうにも叶いそうにないわ。

 一つだけもいだ、赤く小さな野菜を軽く拭って口にする。


「んんっ、酸っぱい……」


 予想よりも酸っぱいその味を堪能したあと、ドレスの裾をひるがえし、私は用意されていた馬車に乗り込んだのだった。

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