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大陸の縮図 4


 ようやく落ち着いて、自室に戻る。


「……賑やかになったわね」


 窓から見える庭の、野菜を植えていないスペースでは、すでにデライト卿により、騎士たちの訓練が始まっていた。

 レーウィル国が、三国に囲まれた小国でありながら、その地位を守ってきたのは、練度の高い騎士団を有していたことも理由の一つだ。


 しかし、城が陥落した日、彼らは戦いのため、半数以上王都を離れていた。

 もし、城に彼らが残っていたなら、結末はもう少し違ったのかもしれない……。


「ソリア様……。仕立屋が参りました」

「分かったわ」


 訓練の様子から目を離し、立ち上がる。

 一月の離宮で行われるお茶会には、気合いを入れて参加するようにと、宰相ザード様からのお達しだ。

 ドレスも、装飾品も、靴も、全てが一流の品だ。


 ――――ここに来るまで、そんな物と自分は関係がないと思っていたのに。


「よくお似合いです」


 鏡に映ったドレスは、大人びた濃い青色をして、ハイウエスト。

 その部分に結ばれた、私の髪と同じ白銀のリボンが、清純な印象だ。


「……変わったデザインね」


 クルリと回ってみると、フンワリと軽い素材で作られたスカートが膨らんだ。

 とても動きやすいドレスは、少し丈を短くしたならば、畑仕事だって出来そうだ。


「陛下からは、動きやすく機能的で、それでいてお妃様の美しさを存分に引き立てるようご指示がありましたから」

「……大変でしたね」

「とても楽しい時間でした」


 私の魅力を引き立てるなんて、陛下も難しい注文をしたと思う。

 それでも、このドレスはとても着心地がいいから、きっと着たい人も多いのではないかしら……。


「本当に、華奢なお体でこのドレスをお召しになると、妖精のようですわ……」


 仕立屋の言葉に鏡をもう一度眺める。

 真っ白だった肌は、この場所に来てからほんの少しだけ日焼けして、健康的になった気がする。

 白銀の髪の毛は、ビオラに毎日お手入れしてもらったおかげで、輝いている。


「――――ありがとうございます」


 たぶん、この場所で私が生きていくためには、こうして着飾ることが武器になるのだろう。

 自給自足で、誰とも関わらずに、暮らしていくつもりだったけれど、後に引くことはきっともう出来ない。

 ……だって、私、陛下のそばにいたい。


 仕立屋が去って行くと、室内には静かに控えたビオラと、青いドレスを着たままの私だけが残される。

 このドレスを着るのは、一週間後だ。


「陛下が戻られるまで、一月だって仰っていたわ」

「そうですね……。かなりの強行軍になりそうですが」

「そうね。移動と少しの時間しかないもの」


 レーウィル王国から、帝都までは馬車で約一月かかった。

 その途中にある、ルビア王国までは、急いでも二週間近くかかるに違いない。


「――――ところで、ルビア王国とファントン王国から来たという七月と八月の離宮の妃たちは、お茶会に参加するの?」

「参加されるようですよ。それぞれの国の思惑はあるのかもしれませんが……」


 窓の外は、すでに日が暮れかけていた。

 野菜のお世話を最近十分することが出来ないのが、心に引っかかっているけれど、庭師たちはとても優秀で、たくさんの野菜が収穫されては食卓に上る。

 陛下が手配してくれた使用人たちは、誰も彼も優秀で信頼の置ける人たちばかりだ。


 ……ここにいると、まるでぬるま湯に浸かったように幸せだけれど。


 忘れてはいけない。

 この離宮は大陸の縮図で、毎月行われるお茶会は、妃たちにとっての戦場でもある。

 ……七月と八月の離宮の妃にとっては、まさに戦場だわ。


 お辞儀をしたビオラが、部屋から去って一人になった部屋。

 いつもであれば、私が一人になると必ずアテーナが出てきてすり寄ってくるのに。


「陛下……」


 けれど、アテーナが陛下のそばにいるのなら、ほんの少しだけさみしさは薄れる気がするのだった。

 幻獣は、召喚した人間の魂そのものだと、陛下は言っていたのだから……。

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