皇帝陛下と十三月の妃 5
ご覧いただきありがとうございます。
今朝は2話投稿していますので、まだの方は一つ前からご覧下さい。
◇◇◇
今日も、畑の野菜の生育は良好だ。
けれど、本来であれば浮き立つであろう私の気持ちは、なぜか沈んでいた。
植えてもらった大きな果樹は、根を下ろしたのだろう、生き生きと葉を茂らせている。
この地域は、冬でも雪が降ることはまれで、暖かい。けれど、ほとんどの野菜の植え付けには季節外れだから、透明なガラスの温室が、畑の真ん中に建てられた。
「陛下は、お元気かしら……」
ここ一週間、陛下のお顔を見ていないのだ。
もちろん、目の前のガラスの温室が、陛下の指示により作られたことは分かっている。
私のことを気にかけてくれていることも分かる。
……でも、お会いしたい。
身の程は弁えているつもりだったのに……。
もう一度、ため息をつく。どんなに会いたいと思っても、もはや国の後ろ盾もない亡国の姫には、陛下にお会いする資格なんて本来であればないのだ。
……せめて、十二月までの離宮だったなら、年に一回であろうと、お会いできるのに。
また、酷い頭痛に悩まされていないかしら、とてもお疲れではないかしら、けがをしたりなんて……。
考えてしまうのは、よくない想像ばかりで、ツンッと、鼻が痛くなる。
こんなにすぐに泣きそうになるなんて、お皿を洗うときのどんな冷たい水だって、周囲からの嘲笑だって耐えられた強い私は、どこに行ってしまったのだろう。
「……っ、きゃ!?」
その時、急に現れた大きな気配に、頬をべろんと舐められた。
慌てて頬を押さえると、今度は勢いよく押し倒されて乗り上げられる。
「ラーティス!!」
相変わらず低くて威厳があるけれど、珍しく慌てたような声だ。
すぐにでも起き上がってその顔が見たいのに、重さがないはずのラーティスに、なぜか完全に押さえ込まれてベロベロ顔を舐められる。
「ラーティス!! 今すぐ離れろ!!」
その声に、耳をピクピクと動かしたあと、尻尾をへにゃんと落としてラーティスは、ようやく私から離れた。
そして、いつの間にか姿を現したアテーナとじゃれ合いながら走り去る。
「……大丈夫か?」
なぜか、ためらいもなく地面に膝をついた陛下が、地面に寝そべる私に手を差し伸べる。
「汚れてしまいますよ?」
「はは、君ほどではないだろう」
私が手を掴むのをためらっていると、驚いたことに陛下は私の隣にごろりと横になってしまった。
「へ、陛下!! こんなところ、誰かに見られたら」
「……人払いしてある」
確かに、先ほどまで騒がしいほどあふれていた人が、誰もいなくなっていた。
近くに控えているのは、無表情なままのビオラだけだ。
「……子どもの頃は、よくこうして空を眺めたものだ」
「そうですか。……クシュンッ!」
この寒空で、地面に横になっていたせいか、体が冷えてしまったのだろう。
勢いよく起き上がる気配が隣でしたかと思うと、なぜか私は抱き上げられていた。
「わっ、きゃ!?」
皇帝陛下は、どちらかといえば小柄な私と違って、とても背が高い。私は、いつもより高い場所から地面を見下ろしていた。
「冷えるな。そう、図書室がどうなったか気になっていた。見せてもらおうか」
「陛下……」
高く抱き上げられ、肩の上に腕を回すと、汚れてしまった背中が見えた。
気になってしまい、無意識のうちにポンポンとその背中をはたく。
「……とても、会いたかったです」
なぜか、そんな私を抱き上げる腕の力が強くなったから、思わず本音を言ってしまう。
そんなことを言える立場ではないと、後悔した直後、「俺もだ」と耳のすぐ横で告げられた声は、緊張しているように少しだけ掠れていた。
最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。




