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最終話 混沌への開戦

 最終話です。


 読者の皆様、ここまで、お付き合い願い、ありがとうございました!


 最終話というワケではないのですが、今回は三〇〇〇〇字を超える、てんこ盛りな感じです。


 面倒くさいかもしれませんが、ぜひ、ご拝読をお願い致します。


 本日もよろしくお願い致します!


 重たい空気の中で、アメリカ大統領のギルバート・ブライトハートは機嫌の良さげな笑みを浮かべる。


(Fumihiko Thank you for the cooperation of the self-defense force. Special Lieutenant Barnes was able to recapture it.〈文彦、自衛隊の協力に感謝する。おかげで、バーンズ特務少尉は奪還できた〉)


 日米電話首脳会談がここまで立て続けに起こるのはここ最近、続く、コリアンマフィアによる、テロ活動で米軍が鎮圧に動いたことにより、今後の対策を練るという口実があるからだが、さすがにここまで動きが派手だと、外部に漏れはしないか?


 脇坂文彦は内心では、心が穏やかではなかった。


(And It`s unfortunate news. Pyeong Yeong Dae, the executive unit of the cult you are counting on, will definitely be crushed.〈そして、残念なお知らせだ。君等、自明党が票田としている、地球友愛教とその実力部隊のピョンヤン・イェオンダエは確実に潰させてもらう〉)


 それを聞いた、官邸の一室には沈黙が走る。


「ギル、さすがに他人の国でやり過ぎじゃないか? 彼等は確かに詐欺行為を働くなどの反社会行為はしているし、我々も確かに票田としている。だが、君等、ピースメーカー側の人間がそこまで、奴等を敵視するのは何故だ?」


(It`s easy right? The upper management of the peacemaker has a project where the cult tried to take using the mercenary department of Pyeonguyang Yeong Dae. I`m breathing when I drive out the yellow monkeys that have been attacked by the rulers of the world. We, liberals, can`t stop. 〈簡単な事さ? 教団がピョンヤン・イェオンダエの傭兵部門を使って、南米の鉱山の利権を取ろうとした事をピースメーカー上層部は未だに根に持っていてね? 世界の支配者に盾を突いた、黄色いサル共を駆逐すると息巻いているのだよ。我々、リベラル派には止められない〉)


「そんな理由で・・・・・・日本で戦争を行ったのか!」


 脇坂は机を叩いて、ギルバートに怒鳴りつけた。


(You guys, Japanese people won`t understand, right? There are too many military amateurs, and there are many people who make faces just by hearing that it`s an advantage. I don`t ask for understanding from the beginning. I`ve heard that the composition of modern Japan is that easy-to-understand, the structure of good and evil is preferred. According to the plot, let`t go with the plot that the American army, which is on the side of justice, defeated Pyeongyang Yeong Dae the evil association. Disobeyed?〈君等、日本人には理解できないだろうね? 軍事の素人が多すぎるし、利権と言う言葉を聞いただけで、顔をしかめる国民が多くいる国だ。最初から理解など求めていない。分かりやすい、善悪の構図が好まれるのが、現代の日本の構図だと聞いている。ならば、その通りに正義の味方のアメリカ軍が悪の結社のピョンヤン・イェオンダエを見事に倒したという筋書きで行こうじゃないか? 不服かい?〉)


 脇坂はギルバートを睨み据えた。


「大ありだよ。あまりにも日本を馬鹿にし過ぎていないか? 我々だって、自治権がーー」


(That`s not true, is it? You are a dependent country of America forever.〈無いな? 君等は永遠にアメリカの属国だよ〉)


「No! We are human too! We have the right to decide the future!〈違う! 我々だって、人間だ! 我々には我々の未来を決める権利がある!〉」


 脇坂は怒りのあまり、通訳官を通すことなく、自身で英語を口にすることになったが、ギルバートはそれすらも、テレビ電話越しに嘲笑していた。


(Shinta called you a liberal idealist in the ruling party of the regime, and that`s right. I`m going to vomit.〈慎太は君を体制側にある自明党において、リベラル派の理想主義者と言っていたが、その通りだ。君には反吐が出るよ〉)


 安藤・・・・・・


 あの男が裏で糸を引いていたのか?


 私を傀儡として扱って、総理の座に付かせ、自身はキングメーカーとして、裏で保守派を集めて、アメリカが政権交代をした後に自身の三度目の総理再登板を目指している、元総理大臣にして、保守派の親玉のあの男が?


(Fumihiko, this is advice. Stop using the police to get in our way. Otherwise, I`ll make you pay a big price. Do you understand?〈文彦、これは忠告だ。日本の警察を使って、我々の邪魔をするのは止めろ。でなければ、君には大きな代償を払わせる。分かっているな?〉)


「・・・・・・」


(Have a good weekend.〈では、良い週末を〉)


 そう言って、ギルバートとのテレビ電話は切れた。


「総理・・・・・・どうなさるおつもりですか?」


 秘書官の一人がうろたえながら、近づく。


「ここまでか・・・・・・ここまで、我々、日本人はバカにされ続けているのか!」


 脇坂は拳を机に叩きつけた。


「警察庁にすぐに連絡しろ! 今すぐだ!」


「総理・・・・・・何をなさるおつもりです!」


「ピョンヤン・イェオンダエを支援する。確かに教団は許されない。しかし、日本が属国から脱する為にはあまりにも強大な力だ。ギルにあそこまで言われたら、私も堪忍袋の緒が切れるよ」


「しかし、そんなことをすれば、内閣がーー」


「私は事態が収束した後に総理の職を辞する。ここまで未曽有のテロが続いて、それを防げなかった時点で、腹は決まっていた。だがーー」


 脇坂は資料を眺める。


「総理?」


「李治道、レイチェル・バーンズなどの若者の人生を人柱にして、国家の永遠を約束させるというのは私の政治家としての信念に反する。たとえ、国家の安定と言う理屈があっても、差別は根絶されなければいけない」


 脇坂は幼少期、官僚だった父親の赴任先のニューヨークで現地の私立名門校に通っていた。


 そこでは現地の裕福なアメリカ人も多くいたが、東洋人である、脇坂は常に差別といじめの対象として、暴力や陰口を受けていた。


 そのような理不尽で腐った世の中を正したいからこそ、自身は政治家になり、その信念を元に総理大臣まで上り詰めた。


 しかし、自身が欲しいのは名誉か?


 保身なのか?


 違う。


 私は形だけの友好で本質的に差別され続けられる、日米関係などではなく、真の友人関係を結びたいのだ。


 故にギルには可能性を示さなければいけない。


 お前の言う、世界は血の通っていない、歪んだ物であると。


 世界はお前の言うように確かに理不尽で腐った世の中だ。


 だが、その中にも温かさや尊い、一人一人の名の無き、人間の人生がある。


 それを踏みにじった上での国家の安泰を約束させて、自身は保身に走るなど、何が政治家だ・・・・・・


 そんな現実の為に道化を演じるならば、私は辞めてやる。


 脇坂は自棄になっていた。


 自棄になっていたからこそ、最後は自身の原点に返り、その下で最後を飾ろうとしていた。


「警察庁に連絡しろ。早くにだ」


 官邸の一室は不気味なほどに静まり返っていた。



 兵庫県警本部のヘリポートに小野澄子と夏目美鈴が下りると、先遣隊として、やって来ていた、亜門と津上が敬礼をして迎える。


「待っていましたよ。隊長」


「シラベ(取り調べの隠語)は誰が行っている?」


「今は兵庫県警本部の捜査一課がやっていますけど・・・・・・そちらの方は?」


 小野の後ろにいる、色白の男は「公総の雪村だ。彼の聴取は我々に一任されている。兵庫県警には権利を譲渡するように伝えている」とだけ言った。


「ビとハムがジに嫌われる構図がここでも出来たな?」


 メシアがそう言う中で亜門と津上はヘリポートを下り、兵庫県警本部の中へと入る。


「マル被の李治道は今、病院でしょう」


「鎖骨の粉砕骨折ですが、驚異的な速度で回復しているそうです。しかも、粉砕骨折なのに形を形成して、骨が再生しているそうです」


 津上がそう言うと、小野が「李治道はアムシュという事なの?」とだけ聞いた。


 アムシュ(Around Movement Space Holder AMSH)は空間認識能力を始めとする様々な感覚と体の再生機能が異常に発達した新たな人類の可能性だが、三十年以上前のNATO諸国と日本などの資本主義陣営の軍事的な実験で集められた、被験体の少年、少女たちはそのあまりに鋭敏な感覚を極限まで高められる実験に耐え切れずに自殺者が相次いだという理由で、実験とそれに伴う、アムシュを育成する計画は頓挫したという末路を得たという存在だ。


 しかし、その空間認識能力を始めとする鋭敏な感覚と再生能力は戦場においては大きなアドバンテージとなる。


 兵士として育てるには通常の兵士と同じく、訓練をしなければならないが、このアドバンテージは大きい。


 だが、民間人ではただ単に奇病として、取られる、悲劇的な存在。


 それが、アムシュだ。


 一方で、三十年の時を超えて、亜門がデザイナーベイビーで遺伝子を調整されたという側面を持ちながらも人類初の成功体として、存在しているのが公式の記録で、六年前の「血のクリスマス事件」に至る、一連の神格教動乱は資本主義陣営がそのような非人道的な実験をしていたという事実を消す為に亜門抹殺を企てたという側面もあった。


 その人為的に作られたアムシュである亜門の存在を消すために動いていた勢力が、果たして、人類史上初のオリジナルのアムシュの成功体が誕生したことをどう、判断するか?


 亜門の命は様々な駆け引きと取引の下で、成立して、未だに狙われているという側面があるが、それすらも凌駕する存在なのかもしれない。


 小野はそう考えながら「それがコリアンマフィアの御曹司とはね?」とだけ言った。


「しかも、世界的な詐欺師集団の実力部隊のです。アメリカがどう判断するか?」


 雪村は深いため息を吐くが、亜門はすぐに「FBIは来ないんですか?」とだけ聞いた。


「赤坂のアメリカ大使館に駐屯している在日FBIは今頃、怒られているわよ。サッチョウの跡部長官が一部の捜査官が日本の警察に対して、礼を失しているとFBIのクライン長官に苦言を呈したら、スチュワート一派はすぐに外された。アメリカの捜査機関は現地の捜査機関に対して、越権行為はしないし、特に日本の捜査機関との連携を損なえば、大きな損失になると直接謝罪があったそうよ。ただし、米軍は別組織だから、日本国内で堂々と戦争が行えるけど、捜査機関同士は和解が成立」


「はぁ・・・・・・なら、いいんですけど?」


 そう言った、小野は「雪村君。一場巡査にシラベをやらせても良いかな?」とだけ言う。


「僕ですか?」


 周囲が唖然とする中で雪村は「理由は?」とだけ聞いた。


「アムシュ同士の交感を狙うのと、もう一人の少女のレイチェル・バーンズはれっきとした、デザイナーベイビーよ? 意外とジのシラベでもそういう人間性に訴えるやり方は王道と聞いたけど、いいでしょう?」


 雪村は数秒考えた後に「私も同席ならば、構いません」とだけ言った。


「一場巡査? 地域課時代に簡単な聴取はやったでしょう?」


「まぁ、兵頭警部補が所轄署までやって来て、僕を刑事事件に引っ張り回しましたからねぇ・・・・・・いい迷惑でしたよ」


 亜門はそう言いながら、自嘲気味に笑う。


「あの時は若かったなぁ、皆」


「特殊部隊行きが決まっている中で、人が資本のジのヤマに引っ張り出されるのは大変の一言だよ」


「警察の基本の上位で花形だからな? ジは? お前の人間性も高まっただろう」


 メシアが失笑しながら、そう言うと、亜門は「止めてくれよ・・・・・・」とだけ言った。


「良い報告を待っているわ?」


「そうですか?」


 そう小野と雪村が話す中で、亜門は憂鬱な心境を隠せなかった。


「兵庫まで来て、仕事漬けかぁ・・・・・・」


「当たり前だろう? 警察官なんだから?」


 メシアにそう言われながらも、亜門は取り調べの為に久々に話す為の心の準備を始めた。


 時刻は午後十一時五三分。


 日付が変わろうとしていた。



(バーンズ特務少尉の奪還は成功したが、フェンリルは何故、奪還出来ない。いや、何故、しなかった?)


 CIAの上層部にリモートで報告を行っている中で、ベリーズは「ナガタ元大尉曰く、フェンリルをここまでおびき寄せて、戦う為にあえて、彼女を人質にして、ここまで待っているそうです」とだけ言った。


(何を考えているんだ、彼は? あの時の神戸での戦いで確保していれば、君も本国にすぐ帰れたものを・・・・・・)


(あの傭兵はやはり、使い物にならんか?)


 CIAの幹部がそう言うと、ベリーズは「戦闘能力は高いですが、従順性は無いですね? 故に傭兵なのでしょう。彼の米軍時代の経歴を見ましたが、優秀ではありますが、戦場でのレイプの容認に民間人の射殺を楽しむなどで軍を不名誉除隊にされたそうです。しかし、その戦闘能力の高さから、ジークフリート・セキュリティからスカウトが来て、高給取りになったのでしょう。まだ、やんちゃなトライアングル大尉が善人に見えますね?」と自嘲気味に語った。


 ベリーズがそう言うと(だが、君はその粗暴な傭兵を自身の指揮下に入れた。自分ならば、そのような無法者ですらも従うと思ったのかい?)と怪訝な顔を浮かべる。


「使えるものは使いたいので?」


 ベリーズは自信を込めて、そう言った。


(君が野心家且つチームプレーと人の意見を尊重する事を重視する事は認めるが、全ての者が自分の思い通りに動くと思わない方がいい。あんな毒物を指揮下に収められるならば、万々歳だが、私たち、上層部はナガタ元大尉を君がコントロール出来ずに最悪の事態になることを危惧しているんだよ)


 上層部の一人のその一言に引っかかった、ベリーズは「最悪の事態とは?」とだけ、問うた。


(六年前の横田襲撃事件の再来だよ)


(あれは米軍史上に残る汚点だ。背景がどうあれ、テロリストの集団を基地内に入れ、そのテロリスト共と米軍の一部兵士が繋がっているという、忌むべき事実も浮かび上がらせた。君はその再来とも言える、事件が起きた時に責任を取れるのか?)


 あの事件は米軍内部にピースメーカーの協力者がいて、今は日本の警察にいる、一場亜門当時特務巡査を抹殺する為に傭兵部隊を送り込んで、横田で米軍や自衛隊総出での戦闘を行わせたという、米軍史上に残る、汚点とも言える事件だが・・・・・・


 それをこの私が起こすと思っているのか?


 この高齢者どもは?


「彼らの位置情報は衛星で把握しています。今は兵庫県警本部にいるかと?」


(本当に君らのいる、基地に襲撃を仕掛けて来ないと言い切れるのか?)


(君は日本の黒社会の勢力と反体制派の組織を甘く見ていないか? いくら、世界最強の装備を持った米軍でも、装備と国力の劣った、北ベトナムに大敗し、第二次湾岸戦争ではイランに手ひどく、やられたことを忘れてもらっては困る)


 高齢者どもが・・・・・・


 この私が負けるはずが無い。


(前任者のジェイコブス少佐はその点、聡明だったよ)


 それを聞いた瞬間にベリーズは苛立ちを覚えた。


 確かにフレディは常に用意周到だ。


 知識も豊富で度胸もある。


 だが、優れているが故にあいつは今、欧州戦線送りになっている。


 優秀なだけの人間は嫌われるのだ。


 自分のようにチームプレーが出来て、ナガタの意見すらも聞ける、寛容な人間でないと、このような大事は収められない。


(彼はスタンドプレーが過ぎて、欧州戦線に行けと言ったが、CIAの局員として見れば、それは栄光にも等しい、栄典だ。君は人の意見を聞きすぎる。あんな傭兵相手にでもだ。主体性が無いのか?)


(彼は戦場に行くのだからね? 我々、アメリカ人には栄誉な事だ)


 だが、奴は死ぬ。


 激戦地で、容赦なく。


 愛すべき人を悲しませて、奴は死ぬのだ。


 自分には家族がいる。


 家族に絶え間ない喪失感を味わせるぐらいならば、自分は左遷に次ぐ、左遷でも、給料を貰って、家族のいる世界へ戻ることを優先する。


(君は家族が好きなのは尊敬に値するが、軍人としての本分を忘れていないか?)


(我々は君を査定する為に今回のオペレーションを任せた。ジェイコブス少佐は飛ばされたと勘違いする奴がいるが、彼は栄転であって、永久に彼の二番手の君には結果を残してもらわなければならない)


(君はお子さんに誇れる、軍人でありたいと思わないか?)


 それを聞いた、ベリーズは「作戦は成功させます。ピョンヤン・イェオンダエの殲滅とフェンリルの奪還は必ず、行います」とだけ言った。


(結構なことだ。健闘を祈るよ)


(家族に良い報告が出来ると良いな?)


 そう言って、幹部達とのリモートでのやり取りは終わった。


 そうして、会議室からデスクへと戻り、椅子に腰かけた。


「ふぅ・・・・・・」


「お疲れのようですね?」


 メアリー・ガードナー中尉が資料の整理にやって来た。


「君は何故、日本に残った?」


「上層部から欧州へ行くことが許可されなかったからです。出来れば、行きたかった」


「フレディからの指示があるんじゃないか?」


 それを聞いた、メアリーは「自分はジェイコブス少佐を愛していますが、それ以前に米国の軍人です。祖国を裏切る真似は出来ません」と言って、こちらを睨み据える。


「口では何とでも言える。それより、バーンズ特務少尉はどうしている?」


「食事も取れて、健康体です。ナガタ元大尉が運動もさせろと言っていますが?」


「フェンリルを奴が確保していれば、今頃、全て、収まって、ラングレーに戻っているというのに? 奴はあの高校生と決闘でもしたいのか?」


「ナガタ元大尉は戦争に美徳を感じているんですよ。貴族的な戦争と言えば、聞こえが良いですが、果たして、そのような高貴な考えを持った人間が米軍在籍時にあんな残虐な行いが出来るかが、私には疑問符しか抱けませんが」


 メアリーがそう言いながら、缶コーヒーを開けて、飲み始める。


 日本に来て、ビックリしたことは缶コーヒーの存在とそれが非常に美味いと言う事だ。


 はっきり言って、ラングレーにあるCIA本部のコーヒーの味を凌駕していた。


「美味いよな? それ?」


「件のナガタ元大尉も大好きですよ。缶コーヒーは? 少佐も買いに行けば良いのではないですか?」


「君は買いに行ってくれないのか?」


「女性にパシリを頼む、男は上官でも嫌いです」


 そう行って、メアリーは何処かへ行ってしまった。


 俺が着任したことによって、フレディは欧州戦線送りだからな?


 嫌うのは分かる。


 だが、彼女の存在は怪しいな?


 フレディから、何かしらの助言を受けているのは明白だ。


 ベリーズはスマートフォンを取り出すと、SMSで部下とメッセージを取り始めた。


ーメアリー・ガードナー中尉の調査結果は?ー


ー非番の日に東京へ向かっていますー


 ビンゴだ。


ー引き続き、監視を怠るな。作戦行動に対するサボタージュと裏切りを行っている可能性があるー


ー了解ー


 スマートフォンを机に放り出すと、ベリーズは椅子にもたれかかった。


 獅子身中の虫か?


 自分の事を嫌っているが、基本は良い子なんだがな?


 ベリーズは複雑な心境を抱えながら、淹れたコーヒーを飲んだ。


 やはり、日本の缶コーヒーの方が美味いと感じた。



「シラベの基本は押さえていると思うが、世間話でもするつもりか? 君は?」


 神戸市内の病院の一室で雪村警視を始めとする、公総の面々に囲まれる中で、亜門は「時間をかけて、少しずつ、彼の警戒心を解くのもシラベのやり方の一つだと思いますが?」とだけ言った。


「一場君。我々には時間が無いんだよ。李治道を確保したのは良いが、肝心のピョンヤン・イェオンダエ本隊はまだ、無事に残っている。これは由々しき事態なのだよ。早急に連中に関する手掛かりを掴まないといけない中、本来であれば、君にシラベをやらせるべきではないのだがね・・・・・・」


「じゃあ、あの時に断れば、良かったじゃないですか?」


「君は中々に腹が立つ奴だよ。私としてもそう思うのだが、ゴリゴリのメン・イン・ブラックもどきが上から目線でシラベをしても、口を割らない可能性がある。ましてや彼は未成年で負傷をしていると来ている。そこで、君の出番だ。君は新宿署の地域課時代に少年、少女の扱いには慣れていると聞いている」


 あの話か・・・・・・


「あの件はーー」


「捜査一課のエースが一時期、君を本気で引き抜きたいと考えるのも一理ある。君は何となく、包容力があると言うか・・・・・・まぁ、良い。お手並みを見せてもらうよ」


 そう言われて、李治道がいる病室へと向かって行った。


 外には兵庫県警地域課の制服警察官が警邏で配備されていた。


「入りますよ」


 そうして、亜門と雪村は病室へと入って行った。


 二人だけという少人数の理由は未成年と言う事もあり、出来る限り、圧迫感を与えない為だ。


 ハムにはそのような細かい神経がジと違って、通っていないと兵頭警部補が言っていたな?


 そう思いながら、病室の李治道を眺めると、すでに鎖骨は完治していた。


 やはり、この子は・・・・・・


「李治道君だね?」


 そう、亜門が声を掛けても、治道はこちらを向かない。


「警視庁警備部独立特殊機甲部隊の一場亜門巡査です。こちらはーー」


「随分と仰々しい、名前だな? 普通の高校生だったら、この時点で黙ると思うよ?」


 李治道は不意に口を開き始めた。


「だろうね・・・・・・警察ってそういう神経が皆無だからね?」


「全くだよ。大体、頭固いんだよ。広報でティックトックやインスタを使うという発想自体が無いのも疑問なんだけど、そのぐらいに動脈硬化を起こしているとしか思えねぇよ」


「インスタはやっていると思うけど、ティックトックは中国資本だから、保安上、警察は使えないんだよ? LINEすらも偉い人に使うなと言われるしさ?」


「・・・・・・マジで?」


「マジ」


「イカれているぐらいに頭硬くて、強面だな? あんたの会社?」


「たまにそう思うけど、福利厚生は整っているよ?」


 亜門がそう言うと、治道は少しだけ笑った。


 笑うんだな・・・・・・


「そうだよなぁ? あんた、公務員顔のモブだもんなぁ?」


「李君、こっちはお願いする側だけど、一応は初対面という事を忘れないでね?」


 そう言うと、治道は笑い出し「お願いする側ねぇ? あんた、普通の警察官と違うな? そう言える、お巡りは中々いないよ?」と言ってきた。


「うん・・・・・・警察の独特の威圧的な風習が僕も嫌いと言うか・・・・・・」


「ふーん?」


 そう言うと、治道は一泊を置いて「じゃあ、何で、警察にいんの? 辞めりゃあ、いいじゃん?」と言い出した。


「痛いところを突かれるけどさ? 大学を中退したから、警視庁以外にまともな就職先が無かったんだよ。警察の良いところは民間企業がビックリするぐらいに学歴に無頓着な事なんだけどさ? もっとも、入ってから、警察学校はきついし、卒業しても試験ばかりで競争が激しいし、イジメやパワハラがあるんだよねぇ・・・・・・僕も他の仕事で食っていけるならば、民間で働きたいけど、結果的に警察が一番、僕の事を評価してくれるからかなぁ・・・・・・」


「あんた、やっぱり、珍しいよ。普通の警察官は威張って、正論を振りかざすもの?」


 そう言う、治道は「何か、腹減ったなぁ?」と言い出した。


「病院食があるでしょう?」


「あれ、不味いんだよ。神戸だから、中華街行って来て」


「ダメだよ。それは利益付与に当たるから、君におごるのはダメなんだよ」


「あぁ~、知っていたけど、やっぱり、ダメ?」


「ダメ」


 治道にそう言うと、当人は「はぁ・・・・・・本当に頭硬いなぁ、警察は? 俺から、組織の動向を探るのが目的だろう? 教えないよ?」と言いながら、笑い出す。


 この子は頭が良いな?


 この年齢で自分の置かれている状況を理解していて、尚且つ、逃げない。


 立場が違うけど、こういう子は往々にして、好きだな・・・・・・


「そうだなぁ・・・・・・痛いところ、突かれたな?」


「やっぱり、そうなんだ? 教えないよ?」


「・・・・・・今日は退散しましょうか?」


 それを聞いた、雪村は「ジのやり方だな? 君はコーヒーとドーナッツで相手が落ちると思っているのか?」と冷淡にこちらを見据える。


「良いデカと悪いデカかよ? ハリウッドだな? 日本風に行けば、カツ丼が良いな?」


 それを聞いた、雪村は顔をしかめるが、亜門は笑いながら「君にはやられっぱなしだよ。また来るから、体を直せよ」と言って、病室を後にした。


 その間、雪村とは無言だった。


「雪村さん、フラストレーション溜まっています?」


「とても溜まっているな? ハムのやり方でやれば、速攻だ。だが、君のシラベのやり方はジのやり方としてはソフトで良いとは思うが・・・・・・それが余計に気に入らない」


「でしょうね?」


 そう言って、二人は病院のロビーへと向かった。


 そこには小野と夏目がいた。


「どう?」


「時間がかかります。かと言って、ハムのやり方でやっても意味は無いかと?」


 それを聞いた、公総の捜査員達は亜門を睨み据えるが、雪村は「彼とはやり方が違う。だが、これが今はベターだ」とだけ言った。


「この間にピョンヤン・イェオンダエ本隊が動き始めたらと思うと、ぞっとしますよ」


「まぁ、それで良いけど、出来る限り、急いでね?」


 小野がそう言って、その場を去ろうとすると、亜門は「隊長」と声を掛けた。


「何を考えて、僕をシラベに出させたんです?」


「その方がベターと思ったからよ」


 なるほど・・・・・・


 何かを仕掛けているな?


 亜門はそう思うと同時に「分かりました。引き続き、善処します」とだけ言った。


「よろしく、県警本部に戻ってね?」


「隊長、野暮な事ですが、僕は東京に戻らなくて、良いんですか?」


「津上巡査をすぐに戻したから、あなた無しでも第一小隊は回るわ?」


 それもそれで困るんだけどなぁ?


 個人的に?


「でしょうねぇ? だから、こんな余裕を持った、スケジュール組めるんですよね?」


「頼むわよ? あなたのソフトなシラベスキルは兵頭警部補もお墨付きなんだから?」


 そう言って、小野と夏目は病院を去る。


「隊長は中華街に行かずに仕事漬けですか?」


「旧ソルブスユニット時代からの良き伝統じゃないか? 今のISATは学校臭いが、仕事になれば、セルフブラック企業になるなんて、モーレツ社員の鏡だろ?」


「流行んないよ? 今時、それ?」


 亜門はそう言って、兵庫県警の地域課のサッカンが運転するPC(パトカーの略称)の後部座席に乗って、兵庫県警本部へと向かうことにした。


 雪村はホテルに戻ると言うが、ここで気まずい人と別れるのは好都合だ。


「・・・・・・東京に戻りたい」


「関西の水が合わないか?」


「僕にはあの街が帰る場所だから」


「戦場にしか、居場所が無いか? 骨の髄まで兵士だな」


「僕はサッカンだよ。確かに東京は戦場と言える街だけど?」


 そう言いながらも、外では夕暮れが広がり始めていた。


 冬だな?


 春が待ち遠しい。


 そう思うと、どこか黄昏に浸りたい、亜門だった。



 李民智は揃った人員の数々を見ながら、来るべき決戦に備えて、最後の晩餐を行なっていた。


「みんな、ここまで来てくれて、ありがとう。私に付いてきてくれたことは忘れない。後は治道に全てを託す」


 そう言って、民智はマッコリを飲み始める。


 戦闘部隊は全て、支援者の協力の下で海外に逃した。


 ここにいるのは言わば、二軍、三軍。


 つまりは旧北朝鮮の軍人達ではなく、北朝鮮にルーツを持つ、ヤクザ者や半端者どもだ。


 こいつらは下っ端である為に自分に呼ばれた理由を分からずにいたが、周囲に頼れる大人がいない為に人に褒められるという経験が違法行為程度しかない為に、今、自分に呼ばれたことで有頂天になっている。


 多分、強制的に装着させるが、ソルブスは上手く扱えないだろうな?


 それ以前に敵前逃亡を働くか?


 つくづく、使えない連中だ。


 もっとも、今回の・・・・・・私の最後の作戦はそれで良いのだが?


 そうして、食事を食べ進めていると、外からヘリコプターの羽音が聞こえ始める。


「諸君、君らをここに呼んだのは他でもない、私の命を狙う、不届き者の米軍どもと日本の自衛隊どもを粛正してもらいたいから、ここに呼んだ」


 それを聞いた、ヤクザ者たちは唖然とした表情を浮かべるか、アルコールや料理に仕込んだ薬が回って、正常な思考が保てなくなっていた。


「私を無事に守ってくれれば、昇進は約束しよう。米軍と自衛隊の兵士を殺せ。私の為に戦え。君達の栄光の為に」


 それを聞いた、ヤクザ者達はニヤニヤとしながら、韓国製の旧式ソルブスのガンインを形成する、スマートフォンとスマートウォッチを取ると、一気に奇声を上げて、外へ出る。


「装ぅぅぅぅ着ぅぅぅぅぅ!」


 そう言って、赤緑色の閃光が走る中で銃声が響く。


 そして、外では、米軍製の陸軍用ソルブスのグレムリンとの銃撃戦が始まる。


「さて、行こうか? 治道?」


 民智はそう言うと、ボグスジャを構成する、スマートフォンとスマートウォッチを付けた。


「装着!」


 そう言って、民智はボグスジャを装着すると、セーフハウスを上の方へと突き破り、そのまま上空でグレムリンとの交戦へと入った。


 グレムリンの一機が銃撃戦で応戦する中で、ダガーナイフを取り出し、後ろへと回り込み、首の右側にそれを差し込む。


 一機目・・・・・・


 仲間のグレムリン二機が銃撃に入るが、絶命した同機の死体を盾にして、拳銃でその二体の脳髄を打ち抜く。


 三機か・・・・・・


 航空戦ならば、エースと言われて、久しい。


 だが、このメンツでは、それだけでは足りない。


 私、一人で全部隊を殲滅するか、私を含める味方部隊全てが全滅をすること。


 それが最大の目的だ。


 民智はボグスジャの左手に搭載された、鞭を取り出すと、それをグレムリンの一機の足に絡めて、空中に放り出すと、ナイフで心臓を突き刺す。


 四機目。


 全体を見回すと、味方のヤクザ者たちがどんどんと敵のグレムリンの部隊に惨殺され続けているのを確認している。


 敵は中隊規模か?


 たかだか、マフィアの殲滅ごときに仰々しい。


 そう言いながらも、アサルトライフルを取り出して、フルオートの射撃を行う。


 それにより、ヤクザ者の殲滅に気を取られていた、グレムリンの四機を射殺した。


 もはや、殺害した数を数えるのも面倒くさい。


 とにもかくにも私の目的は達せられるかもしれない。


 それが勝利であれ、敗北であれ。


 そう考える中でも、民智はフルオートの射撃を続け、さらに五体のグレムリンが惨殺される。


 そこから、上空を滑降し、ヤクザ者の駆る、ガンインを惨殺し続けているグレムリンの集団の頭上に手榴弾を投げ入れる。


 それは爆砕して、グレムリンがさらに死んだ。


 それらを繰り返す中で、何体のグレムリンを殺しただろうか?


 気が付けば、セーフハウスのある森の近くには米兵とヤクザ者の死体の数々が折り重なっていた。


「まだ、終わりではないな?」


 そう言うと、機銃が民智に目掛けて、掃射されるが、すんでのところで、民智は避けて、上空からその機銃の主へと滑空する。


「コアモードへと移行する」


 そう言って、緑色の閃光と同時に緑と白のスタイリッシュなソルブスがレーザー対艦刀を振り回す。


「相川祐樹二曹か? 陸自のエース格のご登場だ」


 レーザー対艦刀を振り回した後のゴウガに民智は銃口を合わせる。


「終わりだ」


「貴様がな?」


 相川がそう言った瞬間だった。


 後方から、フルオートでのアサルトライフルの射撃を民智は受ける事となり、ハチの巣の状態となった。


「化け物め! ようやく仕留めたぞ!」


「中隊長! やりましたよ!」


「うろたえるな。清掃班が来るまでは特殊作戦群が周辺を警戒する。残党の掃討が俺達の仕事だ。トリガーハッピーに浸るならばーー」


 これで良い。


 私の犠牲の下で、組織は保たれ、治道も守られる。


 治道・・・・・・これで、道は開いたぞ?


 お互いに生まれ変わったら、普通の韓国料理店を家族で開こう。


 そう死に際に思い至り、走馬灯のように自分の息子との思い出を思い浮かべていた、民智は笑みをこぼしていた。


 気が付けば、装着は解けていた。


 そして、ゴウガがグレッグ17をこちらに向ける。


「嬉しいことがあったか?」


「あぁ、最高だ」


 民智がそう言うと同時に銃声が響き、民智は絶命した。


 6


「あんた、デザイナーベイビーなんだ?」


 李治道は茶を飲みながら、亜門をまじまじと眺め始める。


「国家機密なんだけどね? 何というか、僕もそれを知らずにのうのうと大学生やっていたけど、知った時はショックだったよ」


「いや、国家機密、話しちゃまずいじゃん?」


 そう言って、二人は笑い合う。


「まぁ・・・・・・何というか、そのーー」


「俺が容疑者であり、日本を牛耳るコリアンマフィアの御曹司だから、そのぐらいは話しても問題ないって事だろう?」


「・・・・・・ごめん」


「謝ることないよ? あんた、警察官にしては誠実だよ」


 そう言って、治道は満面の笑みを浮かべる。


「僕は後天的にデザイナーベイビーであることを知ったけど、あのレイチェルって女の子は生まれた時から、自分の過酷な運命を知っていたと考えると、胸が痛むんだよ」


 亜門がそう言うと、治道は自嘲気味に笑いだす


「兵器として作られて、生まれた時から軍人で、高官という名の変態どもには弄ばれてさ? 普通ならばこの世界の偉い人達がしょせんは偽善者でしかないと思うようになるさ? でもさ、レイチェルは恨み言一つ、言わないんだぜ? 普通だったら、自分の祖国ごときは恨んで当たり前のところをさ? あいつは今の時代で、お国の為になんて言っているんだぜ? それを見て、助けてあげたいと思わなかったら、人じゃねぇよ」


 治道がそう言うと亜門は「助けたいんだね? 彼女を?」とだけ言った。


「あぁ、俺はレイチェルを助ける・・・・・・ちなみにこれは脱走宣言になるかな?」


「十分なるね? 上司に報告して、監視を増やすよ」


「話さなきゃ良かったな? まぁ、良いや? 今日はここまでだろ?」


「そうするよ。君の考えと脱走の意思まで聞けたからね?」


 そう言って、亜門は部屋を出ようとする。


「じゃあ、また、今度」


「ボードゲームの一つでもやらない?」


「僕は将棋に囲碁にチェスやオセロが極端に弱いんだよ。じゃあね?」


 そう言って、亜門は辞去して、一緒にいる公安捜査官も辞去する。


 一場亜門か・・・・・・


 警察は嫌いだけど、あいつは警察官らしくなくて良いな?


 何となく、雰囲気が柔らかいというか・・・・・・


 明日が楽しみだな?


 そう思っていた矢先だった。


 外にいる警邏の警察官のうめき声を聞いた。


 誰だ・・・・・・


 亜門ではないのは確かだ。


 亜門が警察官を暴行して、自分を殺しに来るわけがない。


 米軍か?


 そう思った、治道は米軍ならば、死んだなと思い、窓からの経路を一瞬で確認したが、すぐにそれは無理だと知覚した。


 すると、肩を何者かに掴まれる。


 五十嵐だった。


「肩は治ったか?」


「五十嵐さん? 何で? 父さんはどうしたんです?」


「着替えだ。すぐにここから出るぞ」


 そう言って、五十嵐は治道の手を引いて、廊下へと走り始める。


「答えてください。父さんはどうしているんです? 俺を逃がすのは良いですけど、これから、どうするつもりなんですか? 大体、俺の体制保障はーー」


 五十嵐は無言で手を引く。


「伏せろ」


 五十嵐は警邏の警察官を後ろから殴打すると、注射器を打ち付けた。


「それって・・・・・・毒ですか?」


「睡眠薬だ」


 そう言って、五十嵐と治道は気が付けば、病院の外へと向かい、ジープに転がり込む。


「フェンリルドライブは我々が保管している。君のお父さんはアメリカの衛星に堂々と引っかかるように悪目立ちして、米軍と自衛隊との交戦を行った」


「父さんが? ピョンヤン・イェオンダエ本隊に米軍と自衛隊が強襲したんですか?」


「いや、ピョンヤン・イェオンダエ本隊の元軍人どもは韓国に渡った。君のお父さんと共に戦ったのは北朝鮮がルーツのヤクザ者どもだが、全員、惨殺された。君のお父さんと共に」


 それを聞いた、治道は絶句した。


 父さんが死んだ?


 何で・・・・・・父さんは・・・・・・


「あの人員で米軍特殊部隊の中隊を相手に善戦したが、多勢に無勢だよ。結果的には数で押された」


「父さんが何で、殺されないといけないんだよ!」


 治道はそう取り乱す。


「何で・・・・・・何で・・・・・・父さんが!」


「治道君・・・・・・」


「在日だからなのか? そうやって、人の命に値段付けて、平気で殺すから・・・・・・」


「そうじゃない! 治道君! 在日だとか、日本人だとか、アメリカ人だとかは関係無い! 民智は・・・・・・君のお父さんは君に最後の希望を託すために陽動で、本隊を韓国に逃がして、君に組織を継がせる為にーー」


「レイチェルも奪って・・・・・・父さんまで、奪う・・・・・・何だよ、あいつら! ふざけるなよぉ!」


 治道は車の後部座席を殴打するしかなかった。


「今すぐ、レイチェルを助ける! フェンリルを出してくれ!」


「・・・・・・君の将来を考えれば、それは出来ないと言うところだ」


「何でだよ! 父さんまで殺されて、好きな女の子までまた苦しいことをされそうなんだぞ! こんなのいくら、身分が保証されたって意味ないよ・・・・・・五十嵐さんは分からないだろうけど、俺はこんな形で学歴とか身分とかが保証されても何も嬉しくないんだよ! 行かせてくれ! 俺は、あいつらを! アメリカの連中を許すわけにはいかないんだ!」


 そう言って、治道が後部座席をさらに叩きつけると、五十嵐は「落ち着いて聞いてくれ」とだけ言った。


「君を韓国に向かわせるのはあくまで、君の将来の為だ。だが、日本国政府としては別の選択肢がある。君という存在を壊す形だが、一応、聞こう。それでも、あの少女を助けるつもりか?」


 五十嵐は運転手が運転する中で助手席から、こちらを見据える。


「やらせてくれ。日本だとか、在日だとか、アメリカなんて、関係ない。俺はただ単にこれ以上、大事なものを奪われたくないんだ」


 治道がそう言うと、五十嵐が「君のこの行動によって、ピョンヤン・イェオンダエは新体制に移る。それが教団の望む事だ・・・・・・君は死ぬが、それでも良いのか?」と目を見据えて、言い放つ。


 治道は「構わない、レイチェルを自由に出来るなら」とだけ言った。


「フェンリルを渡す。それ以降も手引きはするが、君の責任と君の命だ。存分に使え」


 治道はどこか、怒りと共に晴れやかな気分を抱いていた。


 神戸の空は夜空で真っ暗闇だった。



 病院内は慌ただしかった。


 李治道が何者かの手引きで脱走をしたとの一報があり、PCに乗っていた、亜門は兵庫県警本部へと向かう途中だったが、急いで、病院へと戻った。


 すると、そこには小野と夏目と雪村がいた。


「隊長」


「鑑識が今、作業しているわ。マル被は警察官二名を半殺しにした後で、後ろから一名に注射器を打って、眠らせたそうよ」


「このやり口って、まるで、諜報機関のやり方ですよね?」


「ロシアの情報機関のやり方として、有名ね? ただ、治道君をロシアが拉致する事なんて、考えられる?」


 亜門と小野がそう言うと、雪村は「分かりませんよ。ロシアがピョンヤン・イェオンダエの利権に手を出す可能性も考えられる」とだけ言った。


「まぁ、あなたたちは何か、知っていてもおかしくないけどね?」


 そう言っていた、小野は不快を顔に表していた。


 やはり、この二人は何かを知っているんだ・・・・・・


「隊長、治道君は脱走をほのめかしていただけではなく、一人で米軍相手にレイチェル・バーンズの奪還を働くつもりです。彼が死んでしまいます。どうにか、助けられませんか?」


「無理よ」


「でも、こんなのあんまりじゃないですか! あの子は高校生なんですよ! 普通の子みたいにのんびりと暮らして、ゲームの話でばか騒ぎしても良い権利があるのに、彼の背負う運命が残酷過ぎて・・・・・・僕は・・・・・・」


 気が付けば、亜門は涙を流していた。


「相変わらず、あなたは優しいのね?」


「そんなことはどうでもいいんです。支援だけでも、せめてーー」


 そう言うと、小野は「亜門君。これは日本政府の方針なの。雪村警視からは後でとがめられるかもしれないけど、あえて言うわ。私たちの出番は終わりよ。東京に帰りましょう」と冷徹に言い放った。


 それを聞いた瞬間に亜門は「やはり、知っていたんですか? あなたたちは?」と小野と雪村を睨み据えた。


「一場巡査。君が優しくて、正義感が強いのは知っていたが、仮にも自分が組織の人間であることを忘れるな。彼は仮にも犯罪者だ」


「違う! 治道君は・・・・・・」


 亜門は雪村を睨み据える。


 これがハムの言い方か?


 だから、みんなが嫌う、国家警察なのか?


 こいつら・・・・・・


 治道君を・・・・・・人間と思っていないのか?


「一場亜門巡査。警視庁独立特殊機甲部隊隊長として、命令します。速やかに私たちと共に東京に戻りなさい。あなたを私たちは失いたくないの。お願いよ」


 亜門は小野を睨み据えるしかなかった。


「嫌だと言ったら?」


「張っ倒してでも、連れて帰ります」


 小野の表情は真剣そのものだった。


 隊長は非情なのか、情が厚いのかが時々、分からなくなる人だ。


 でも、今は確実に自分が国に反乱を起こそうとする事を止めようとしていることは確かだ。


 僕だって、今いる職場を離れたくない・・・・・・


 だけど、治道君がこのままだと・・・・・・


「亜門君、彼を信じなさい。彼は結果を残すわ」


 それを聞いた、亜門は涙を流し続けた。


「・・・・・・速やかに帰投します」


 非常識になり切れない自分に失望しながらも 亜門は拳を握りしめるしかなかった。



「少佐。李治道が現れました」


 ベリーズは米軍岩国基地の通信司令室でその一方を受ける為だ。


 衛星での映像で李治道が広島駅にいる様子が見て取れた。


「広島か・・・・・・李治道はここに来るつもりだな?」


「リーパー(アメリカ軍が保有する無人攻撃ドローン)を使って、爆撃しますか?」


 空軍のオペレーターが躊躇せずにそう言うが「日本では無人機を使って、爆撃は出来んよ。人口が密集し過ぎている。ここが砂漠でないと、気付くことだな?」とだけ言った。


「ナガタ元大尉。君の狙い通りだが、私としては日本の警察を使って、すぐに拘束させれば良いと思うが、不服かい?」


「ソルブスという凶器を持った、犯罪者に一般のお巡りが相対しても死人が増えるのがオチだ。神戸での事件があることと、ここ最近は秘密出動が多いから、秘密がバレる可能性がある。それ故に基地で迎え撃てばいい。報道統制で奴らのせいにできる。そして、多勢に無勢だ。米軍総出で潰しにかかって、フェンリルを奪還する方が効率は良い。罠を張るのさ?」


「CIA上層部から、米軍基地での戦闘を避けろと言われている。米軍のプレゼンスにかかわるからだ」


「だが、基地で迎え撃って、全力で潰した方が効率はいいと思うがな? どうする? 俺が人口密集地で戦闘したら、日本人の犠牲者が出るかもしれないぜ?」


 ナガタのその言葉を聞いた、ベリーズは怒りを隠しきれなかった。


「私を脅すつもりか?」


「そんな俺を部隊に組み込んだ、あんたが悪い。どうする?」


「君は彼を招き入れる為にこんなことを仕組んだのか?」


「殺すならば、殺すさ? だが、あいつは俺の大事な生徒でね? 愛着があるのさ?」


「獅子身中の虫は彼女だけでは無かったか?」


 ベリーズの決断は早かった。


「ワシントンとラングレーにお伺いを立てる。時間は無いが、確実にあのガキを潰す準備をしろ」


「あんたは頭が固いと思ったが、腹を括ったか?」


「傭兵風情が・・・・・・君は作戦から外れてもらう」


「ご自由に? どっちみち、もう止まらんよ」


 そう言って、ベリーズは通信司令室を出て行った。


 死闘の始まりだ。


 スポーツの比喩ではなく、本当に生死をかけた、戦争の始まりだ。


 それもただの、たった一人の高校生のガキ相手に米軍が総出で潰しにかかると言う、屈辱的な戦争だ。


 ベリーズはエレベーターに乗ると同時に壁を殴り始めた。


「どいつもこいつも私の邪魔ばかりして、否定をする!」


 ベリーズは自身のキャリアをかけた戦いに赴く前にプレッシャーで押しつぶされそうになっていた。



 米軍岩国基地はどこか物々しい雰囲気になっていた。


 だが、岩国基地の日本人の警備員の後藤伸介はあくびをかみ殺したい気分になっていた。


 この仕事はいわゆる、ブラックだ。


 素人なのに拳銃まで持たされる。


 シフトも八時間勤務のはずが突然、通知も無く、十二時間交代になる。


 さらにはアメリカ人からは見下されるし、英語が出来なければ、最悪の職場だ。


 だが、それでも、還暦を過ぎて尚、働かなければならない程に困窮し、自分には他にスキルは無いから、この仕事を選んだのだが、出来れば、もう仕事など辞めたいのが心境だ。


 自分には孫も居なければ、子どももいない。


 結婚もしたことが無い。


 女を知らないわけでないが、ずっと、天涯孤独に生きてきた。


 そして、そのまま還暦を超えて、こんなにも酷使される。


 自分の人生は何だったのだろうかと思う時があるが、そう思って、自棄を起こして、犯罪に手を染めるわけでもなく、自分は今日もこの理不尽な職場で働く。


 あと、もうちょっとで帰れるか・・・・・・


 そう思っていた時だった。


 バイクが米軍基地の前に止まった。


 米兵が小銃を持って、バイクに近づく。


 何だ?


 そう思っていた時だった。


「フェンリル、やるぞ」


「あぁ、後悔は無いな?」


 確かにそう聞こえた。


 子ども?


 そう思った時だった。


「装着!」


 そう少年が言った後で、白い閃光が走り、白色のフォルムのソルブスが現れた。


「What!(何だ!)」


「敵だ・・・・・・」


 そう思った、後藤は基地の外へと走り出していた。


 すると、白色のソルブスは米兵の体を拳で殴ると、それは体を突き抜け、米兵の一人が殺される形となった。


 そして、すぐにもう一人の米兵にハイキックを放つと、米兵の頭はスイカ割りのスイカのように弾け飛んだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 そう叫んで、後藤は拳銃を放り出して、逃げ出した。


「嫌だ! 俺は嫌だ!」


 悪魔だ・・・・・・


 あれは白い悪魔だ。


 冗談じゃない。


 天涯孤独の身で生涯を終えようとする最中で、あんな化け物に殺されそうになるなんて・・・・・・


 冗談じゃない!


 やっていられるか!


 そう思った、後藤は延々と走り続けていた。


 後方の岩国米軍基地では大規模なサイレンが鳴り響いていた。


 白昼の岩国で地獄絵図とも言える、戦争が始まろうとしていた。


10


「来たか?」


 ベリーズは目を血走らせながら、岩国基地の指令室で、フェンリルが基地に侵入する様子を眺める。


「予定通りだな?」


 岩国基地の司令がこちらを見据える。


「よろしく、お願い致します。多勢に無勢で攻めれば、奴の父親のように奴も潰せますよ」


 ベリーズはそう笑みをこぼすが、自分でも分かるほどにそれは強張ったものであると知覚していた。


「ジェネシス・フォース・チームフォーは待機しろ。岩国の連中が削ったところを一気に潰す」


 真剣そのもので、モニターを見る、ジェネシス・フォース・チームフォーだが、ナガタだけは「果たして、そんな悠長に構えて、大丈夫かね? あいつ、俺が柔道教えたけど、骨あるぜ?」と言って、口笛を吹く。


「君は作戦から外した。なのに何故いる?」


「みんな、俺が怖いから、拘束できんのさ?」


 そう言って、ナガタは缶コーヒーを飲み始める。


「あんたは状況を自分の都合の良いようにとらえる傾向がある。そういう指揮官の下では往々にして敗北が待っているのさ?」


「貴様、上官批判か?」


 ベリーズがそう言うと、ナガタは「悪いね? 傭兵家業は気楽なものでさ?」とだけ言った。


「この数ならば、俺たちが出なくても、あのガキは倒れるさ?」


 トライアングル大尉がそう言うと、ジェネシス・フォース・チームフォー各員は「同感だな?」や「同じく」と声を揃える。


「どっちみち、君の教え子は死ぬよ。我々に楯突いたのだからな?」


 そう言って、ベリーズは部下に連絡を取る。


「ガードナー中尉は?」


「ハンドガンを用意しています」


「余計なことをやらせるな? 彼女は危険分子だ」


 そう言って、ベリーズが言うと、ナガタが「疑心暗鬼だな? あんたも?」と言ってきた。


「また、後でかける」


 そう言って、通信を切ると、ベリーズはナガタに対して「私は冷静だよ。ナガタ元大尉?」とだけ言った。


「無能で状況を楽観視し、プレッシャーに弱い指揮官に付いた、己を恥じるべきだな?」


「ナガタァ!」


 そう言って、周囲の軍人たちがナガタを囲むが「あんたら、俺に勝てんの? 拘束すら出来ないのに? この場で皆殺しにしていいんだぜ?」と言いながら、不敵な笑みを浮かべる。


「止めろ、仲間割れする場合じゃない」


「少佐! いくら、相手が傭兵でもここまで上官批判をされたら、他の兵士への示しがつきませんよ!」


「大丈夫だ。勝てばいい」


 その軍人はバツの悪そうな顔をしたが、ベリーズは息を吐いた。


「第一関門、突破されました」


「もうか! 守備隊は何をやっている!」


「問題ない。やられたのは生身の連中だろう? ここから、ソルブス部隊が来る」


 ベリーズはそう言いつつも、内心では動揺していた。


 自分は無事に家族を帰られるだろうか?


 昇進の事よりもその事が心配だった。


11


 フェンリルを着た、治道の右手は米兵の血で染められていた。


「レイチェルは・・・・・・どうなっている?」


「米軍内部に協力者がいるから、レディは自力で脱出するそうだぞ?」


「それまでの時間稼ぎか?」


 そう言って、治道は基地内部に侵入する。


 基地ではサイレンの音がこだましていた。


「敵襲ぅぅぅぅぅ!」


 そう言って、米軍製の最新鋭ソルブス、グレムリンやゴウガスティングにランドソルジャーなどの多くが治道に襲い掛かって来るが、治道はフェンリルの狂暴とも言える、野生感溢れる、機動性で、次々と米軍製のソルブスを惨殺し続ける。


 銃弾を避け続けながら、格闘戦で米兵を仕留めている、治道は一種のトランス状態に陥っていた。


「見える・・・・・・銃弾の動きが、全て見える」


「貴様はやはり、アムシュなのか?」


 もはや、フェンリルのそのような発言も聞こえない程のトランス状態で、米兵たちを殺し続けていた。


 米軍製のソルブス達は銃弾を浴びせ続けるが、治道は大きな弧を描いて、遠くから、それを避けて、遠心力を使って、一気に五体の米軍製のソルブス五体の顔を殴り続けると、それらの顔面を潰した。


「うぅぅぅ! うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 怯えながら、銃弾を撃ち続ける、米軍製のソルブスに容赦なく、迫る、治道はゆっくりとした歩調で近づき、接近戦の距離になると、一気に一体のソルブスの肺を貫く。


「悪魔だ・・・・・・」


 そう言った、他のソルブスは敵前逃亡を続けた。


「まだだ! まだ、時間稼ぎをしないと!」


 そう言って、治道は米兵たちを追い続ける。


「治道、もういい。相手はもう戦意を喪失している」


「何としても、レイチェルを救わないと・・・・・・」


「治道! 言う事を聞け! 戦意を喪失した相手を殺せば、それはただの虐殺だ! 冷静になれ!」


 すると、初めて、その声を聴いた、治道は「冷静だよ。冷静だから、こんな事が出来る」と言い放った。


「治道・・・・・・」


 そう言った後に逃げる、米兵の一人を捕まえると、治道は背負い投げで投げ飛ばした後に米兵の心臓を抉り取った。


「ひっ、ひっ、ひっ!」


 その光景を見ていた、一人の米兵が腰を抜かして、立てなくなっていた。


 その下半身からは黄色い液体が流れ出ていた。


「・・・・・・」


 そう言って、治道はその米兵の顔をハイキックで蹴って、顔面を破裂させた。


「治道! 止めろ! 人で無くなるぞ!」


 もはや、機械であるはずのフェンリルの方がこの異常な状況で人間性を保っていた。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 咆哮を上げた後に、治道はさらなる標的を探す。


「止めてくれ・・・・・・治道。頼むから、お前は殺人鬼にならなくていい奴なんだ。頼む・・・・・・」


「じゃあ、装着を解けばいいだろう! そうすれば、俺はハチの巣で、レイチェルも救えなくなる! どうする? そうするか?」


 それを聞いた、フェンリルは黙るしかなかった。


「ビーストモードは使わない。理性を失うからだ」


「治道、それは・・・・・・」


「大事な人を守る為に人を殺さなきゃいけないんだ。最後にレイチェルを抱きしめるぐらいの理性が無いと、意味無いだろう?」


 冷静に自壊の道を歩む、治道は岩国米軍基地の中枢へと入り込む。


 米兵達の亡骸と敵前逃亡した米兵たちの断末魔の叫び声が聞こえ始めていた。


12


 レイチェル・バーンズは米兵の集団監視の下で、小部屋に入れられていたが、敵襲が来たと報告を受けた時に直感した。


 治道が来たのか・・・・・・


 ピョンヤン・イェオンダエ本隊は・・・・・・


「冗談じゃない! こんな小娘を人質にしたから、ウチの基地がこんな目に合うんだ!」


「傭兵とCIAのマイホームパパのせいでこうなるなんて・・・・・・」


 警護の米兵たちがそう言う中で、後ろにいる米兵がナイフを取り出す。


 そして、前にいる、米兵を刺し殺す。


「何だ! お前!」


「味方だぞ! 俺たちは! 頭がおかしくなっーー」


 有無も言わないうちに米兵二人が殺害されて、警備の米兵は残り、二人。


 その錯乱を起こしたかのように思える、米兵はエドウィン・キム中尉という韓国系の女性兵士だった。


「バーンズ特務少尉」


 そう日本語でキムが語り掛けると、紙くずを渡してきた。


 そして、手錠のカギを渡す。


「ご武運を。私は後から来ます。それから、家族揃って、私たちは教団の存続を願っています」


 教団の信者の米兵か・・・・・・


 残りの警備の米兵を惨殺し続ける。


「私は米兵です!」


「あなたは自由が欲しくないのですか? あんな高官どもに辱められていて!」


 キム中尉はナイフを米兵相手に構える。


「あなたを愛する人が待っています。それでも、行かないのですか?」


 それを聞いた、瞬間にレイチェルは治道の顔を思い浮かべた。


 助けなきゃ・・・・・・


 治道君を助けなきゃ。


 気が付いたら、レイチェルは走り出していた。


「警備が・・・・・・警備が錯乱を起こして、バーンズ特務少尉を逃がしたぁ!」


 レイチェルはそのような会話を背にしながら、紙切れが指定する場所へと走り出しながら手錠を外した。


 ヘリを奪って、逃走・・・・・・


 ヘリの操縦は出来ないことは無いが・・・・・・


 AH-64Dアパッチロングボウは複座式だ。


 操縦だけならば、私だけでも出来るが、火器管制やロングボウレーダーなど複合的で高性能を誇る、アパッチロングボウは二人がかりの福座式前提で初めて、スペックが発揮できる代物だ。


 前席のガナー(射撃手の意)の席に座れば、操縦も出来る。


 しかし、元来、アパッチロングボウは複座式の二人ともがヘリの操縦が出来る前提での運用が想定されているが、どっちにしろ、一人での操縦は難しい。


 無茶が過ぎるな?


 キム中尉も援護しなければ話にならない。


 しかし、攻撃用ヘリのアパッチロングボウを奪えとの事だ。


 場合によっては治道を掩護することも可能かもしれない。


 一筋の希望を胸にレイチェルは岩国基地を走り続け、アパッチがある格納庫へと向かって行った。


 途中で死亡した、米兵からシグザウエルを奪い、追尾の米兵にそれを向けて、発砲した。


「向こうはM4アサルトライフルでこっちはハンドガン一つなんて・・・・・・」


 アサルトライフルの銃撃が響く中でレイチェルは米兵にハンドガンを向けて、発砲した。


 一名の脳髄に被弾。


 しかし、依然として、敵は多数。


 手榴弾の一つでもあれば・・・・・・


 そう言いながら、頃合いを見て、また、走り出す。


 そして、銃声が鳴り響く。


 こめかみを銃弾がかすめる。


 そして、再び壁際に隠れて、銃撃戦に興ずる。


 そこに負傷した米兵がいた。


 M4があった・・・・・・


 手榴弾は・・・・・・ある。


 気が付けば、米兵の装備を全て奪い、すぐにM4で応戦をする事とした。


 気が付けば、基地内でレイチェルと米兵の銃撃戦が続けられていた。


 早く、急いで、キム中尉の支援に回らないと・・・・・・


 それと早くしないと、治道君が死んじゃう・・・・・・・


 レイチェルは焦燥感に駆られる中で銃口を米兵に向けて、トリガーを引き続けていた。


13

 

 気が付けば、米兵達は敵前逃亡を遂げて、治道は岩国基地の滑走路へと入り込んだ。


「治道・・・・・・」


 フェンリルが懸念の声を上げようとする最中だった。


 銃声がこだました。


 治道は瞬時に銃弾を避けて、銃弾を撃った相手に飛びかかり、頭部を殴り、頭を吹っ飛ばした。


「えっ・・・・・・カレン!」


 治道はその場に居合わせた、二体目にも飛びかかり、胸を右手で貫き、心臓を抉り取った。


「小隊長! カレン!」


 そこには、ナガタと一緒にいた、アメリカ人の若い兵士がいた。


「お前、何だよ・・・・・・人の基地に勝手に入って、こんなことして!」


 アメリカ人の若い兵士がそう言うと、治道は「お前らだって、俺から、大事なものを奪った! そして、今も奪おうとする! それを取り戻すだけだ!」と反論した。


「ふざけるなよ・・・・・・そんな理由で、仲間、殺されて、納得できるかよぉ! 装着!」


 金色の閃光が岩国基地内部の滑走路に走る。


 キッドだ。


「お前はテロリストだ! まっとうな正義感を口にしながらも、人から大事なものを奪う、テロリストにしか過ぎない! 俺は・・・・・・米軍の兵士として、お前を倒す!」


「そうかよ!」


 そう言って、キッドが小銃を構えるが、瞬時に治道は助走を付けて、キッドの懐に入り、ボディブローを与えようとするが、キッドも驚異的なスピードで間合いを図り、ナイフを取り出し、治道の顔面を切りつけようとする。


 しかし、寸で、治道はスウェーバック、いわゆる、しゃがみ込みで、それをよけて、けりを入れるが、キッドには致命傷にはならない。


「これが、自立志向型AI搭載型ソルブスの実力?」


「その通りさ、坊や? 君の戦闘の様子からアムシュであると推察できるが、ここまで惨殺した相手は自立志向型AI非搭載の雑魚と生身の雑魚。君の進歩は驚異的だが、私と戦って、君のRPGは終わる」


「魔王さんの到来かよ? 自分たちで悪役発言じゃん? でもなぁ、姫様が待っているから、勝たなきゃならねぇんだよ?」


 そう言って、二人はにらみ合いを始める。


「気を付けろ、治道、アーサーがまだ来ていない」


「知っている。全員、倒してやる」


 そう言って、キッドは小銃を捨てて、ハンドガンとナイフだけを装備した形態となった。


 格闘戦に応じるのか・・・・・・


 動いた方が負ける。


 そう思った時だった。


 キッドが拳銃を撃ちだした。


「チッ!」


 治道は避けるが、すぐにキッドが接近して、ナイフで切りつける。


「俺は武装していて、お前は丸腰? これで、勝てなかったら、大恥だよ?」


 そう言って、キッドを着ている若い米兵は治道の腹にナイフを差し込もうとするが、治道はその腕を抱え込み、払い腰で投げつけた。


「グフゥ!」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 治道は足で顔面を踏みつけよとするが、キッドは瞬時にそれを避けて、立ち上がり、ナイフを構える。


 治道もファイティングポーズを構える。


 格闘戦の基本は先に攻撃をした方が負けるということはフェンリルとレイチェルから、聞いていた。


 相手は拳銃があるのと、自立志向型AIがあるから、反応速度が尋常じゃない。


 そして、尋常ではない学習能力と動きの補正がある。


 勝負は互角だ。


 スーツの中が汗で塗れるのを治道は感じていた。


 白昼の岩国で治道のフェンリルと若い米兵のキッドの睨み合いが続いていた。


14


 レイチェルはフルオートでM4を掃射する。


 軽く、五人の米兵を殺害したが、それでも数が多すぎる。


 次々と、兵士たちがやって来る。


 現代戦は基本的には治道の戦法と違い、距離を取った、銃撃戦がメインで、基本は精密誘導弾のボタン一つで解決すると言うのが、定説だ。


 しかし、どうしても敵地制圧の為には歩兵を要する、陸軍の歩兵が必要なのも鉄則だ。


 どんなにAIが発達して、LAWS(Lethal Autonomous Weapons Systems 自立型致死兵器システム)のような殺人ロボット兵器が現れようとも、フェンリルたちのような元々は人間だったという前提の高性能の自立志向型AIがそれらに搭載されない限り、現段階では生身の人間が敵地の制圧を確認しなければ、戦場における倫理性が担保されずに容易に戦争犯罪が起きてしまう。


 その為に近未来の現代においても生身の歩兵というのが重宝される。


 故に外では恐らく、ソルブス同士での近未来の戦争が行われている中で、自分はこのようなアナログで前時代的な歩兵同士による銃撃戦に興ずる。


 そして、相手からもフルオートの射撃が飛んでくる。


「殺せ! 我々に反旗を翻したんだろう! あの糞女!」


「まだ、上官の命令がーー」


 米兵たちがそう言いながら、何かを投げ入れる。


 手榴弾・・・・・・


 レイチェルはとっさに部屋の中へと入り、爆発から逃れたが、爆発音で頭痛がしてきた。


「部屋の中に追い詰めたぞ!」


「袋のネズミだ・・・・・・小隊長、合図で突入を!」


 まずいな・・・・・・


 こんな大人数を相手に密室で、戦うとなると、確実に殺される。


 最悪の場合は強姦されて、殺されるか?


 いくら、上官どもが高潔なことを言っても、それが戦争と軍隊の現実であり、自分は女の兵士という都合の良い、存在だ。


 もっとも、アメリカの高官どもには子どもの頃から、弄ばれていて、半ばその為に生み出されたような存在だから、自分の命など、安い物だが?


 治道君・・・・・・


 ふと、そう考えると、胸に熱いものが込み上げてきた。


 自分が自害したら、彼は戦う意義を失うんじゃないか?


 そして、そう思った、レイチェルは立つしかなかった。


 ここで、私が戦いを投げ出したら、治道君は戦う意義を失ってしまう。


 だからこそ、どんなに過酷な結末を迎えても、自分は最後の最後まで、生きていかなければいけない。


 それが弄ばれる為に作られた、自分のこの世界に対する、精一杯の反抗なのだから。


 そう思いながら、銃口を構えた時だった。


「手榴弾だぁ!」


 米兵達の叫び声が聞こえた後に爆発音が響く。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


「目がぁぁぁぁぁぁ! 小隊長ぉぉぉぉぉぉ!」


「ママァ! 俺、こんな目に合うために軍隊に入ったんじゃねぇよ!」


 コツコツと言う軍のブーツの音がこだまする。


 そして、ドアが開く。


 そこに血まみれで、体中が傷まみれのキム中尉が現れた。


「・・・・・・支援に来ても良かったんじゃないですか?」


「あの数を一人で倒したの?」


「比喩の表現で言えば、骨は折れましたがね? ちなみに操縦だけならば、アパッチロングボウは動くでしょう。何故、私を見捨てずに?」


 そう言われた、レイチェルは「一人での操縦はあの機体じゃあ不可能よ。治道君を助けられない。あなたの力が必要なのよ?」とだけ言った。


「李治道にぞっこんのようですね? 行きますか?」


 そう言って、二人はぼろぼろの体で走りながら、アパッチの下へと走って行った。


 滑走路までは・・・・・・


 そう思っていた時だった。


「ナガタ大尉・・・・・・」


 山井か?


 治道から聞いていたが、こいつこそが全ての元凶の悪人。


 傭兵であることを隠しながら、アルテミスで教師風情をして、事件を裏で操っていた、糞野郎。


 コンディションが万全ならば、殴りたいところだ。


「キム中尉、その子と行くのか?」


「大尉、どいてください。撃ちますよ」


 そう言うと、ナガタは「ふっ!」と笑った。


「俺がソルブス持っているの分かるだろう? だから・・・・・・」


 キムは容赦なく、ナガタを撃った。


「・・・・・・君は俺のことを好きだと思ったんだけどな・・・・・・」


「大嫌いですよ、大尉」


 そう言う、キムの目からは一筋の涙が滴り落ちていた。


「バーンズ特務少尉・・・・・・俺のアーサーを使うか?」


 こいつ、自滅した?


 何だったんだ、一体・・・・・・


 キムは泣きながら、アーサードライブを受け取り、自分に差し出す。


「・・・・・・あなたはプロの傭兵です。ただ、女にだらしなかったのが、生死の境目でしたね?」


「君が望むなら・・・・・・良いさ・・・・・・アーサーを受け取ってくれよ・・・・・・アーサー、良いだろう?」


 ナガタにそう言われた、アーサーは涙声で「大尉・・・・・・私に米軍を裏切れと言うのですか?」と聞いてきた。


「そのアーサードライブには米軍の追尾が出来ない様にしてある、だからーー」

 

 ナガタは吐血して、それ以降は話が出来なくなり、そのまま絶命した。


「アーサー、頼むわよ」


「大尉・・・・・・」


「バーンズ特務少尉。ソルブスを手に入れましたが、アパッチはーー」


 茶番だな?


 とんだ、自滅行為に付き合わされた。


「使う。攻撃ヘリとソルブスだと圧倒的に前者が有利だもの?」


 そう言って、レイチェルとキムが走り出す。


「大尉が・・・・・・私の主人が!」


「その大尉の遺言を守ってもらうよ、アーサー」


 レイチェルがそう冷徹に言い放つが、アーサーはひたすら壊れたラジオのように「大尉!」と言い続けていた。


 すると、後ろから米兵の銃撃が始まる。


 アパッチロングボウの確保まで、あと少し。


 逃亡は佳境を迎えようとしていた。


 15

 

 キッドの拳銃の銃撃音が滑走路に響く。


 治道の着る、フェンリルはそれを避け続け、接近戦に持ち込むが、キッドの自立志向型AIの補正による、動きでアムシュである治道の動きに対して、互角の戦いを行う。


「お前はアムシュと言えども、しょせんは素人さ? このまま、死ねぇ!」


 キッドがそう言う中で、治道は右ミドルキックをキッドに放つが、それを掴まれて、銃弾で腹を撃たれた。


「うっ!」


「はははは! ざまぁねぇなぁ!」


 若い米兵がそう笑いながら、拳銃を治道の頭に向ける。


 終わりか・・・・・・


 そう思った時だった。


 軍用ヘリの重い羽音が聞こえる。


「何だ?」


 お互いがそれに気を取られたことを知覚した、治道はすぐに顔を背け、銃口を頭から避けた。


 キッドは容赦なく、銃弾を放つが、それを避けて、再び、距離を取る。


 しかし・・・・・・


 軍用ヘリが・・・・・・近い。


 驚異的な近さで迫る、それはキッドに対して、ガトリング砲を照射した。


「敵かよ!」


 そう言って、キッドが銃弾を避けている時に隙が生じていた。


「てぇぇぇぇぇぇぇい!」


 治道は渾身の右ストレートをキッドの心臓目掛けて、放った。


 そして、キッドは体を貫かれ、絶命した。


「アムシュと自立志向型AIに頼った人間の空間認識能力の差だ。脱出するぞ、治道」


「でも、あのヘリは・・・・・・」


 CG補正された視界を拡大して、見ると、戦闘ヘリの操縦席後部にはレイチェルが座っていた。


 何だ・・・・・・


 俺が助けに来たのに、助けられたな・・・・・・


 帰れるのか?


 帰る場所ないけど?


 でも、レイチェルと一緒にいれば、何とかなるはずだ。


 そう思って、上空を飛んだ時だった。


 銃声が鳴り響いたと同時に治道の意識は途絶えた。


 治道はスナイパーが狙撃のタイミングを計っていたことを失念していた。


 それにより、治道は絶命することとなった。


 上空では、重い羽音が響いていた。


16


「嘘でしょ・・・・・・」


 レイチェルは涙を止められなかった。


「バーンズ特務少尉・・・・・・」


「嫌・・・・・・嘘、嘘よ・・・・・・せっかく、助けたのに・・・・・・何でぇぇぇぇ!」


 レイチェルがそう叫んだ時だった。


 金属の破片がぶつかる音が聞こえた後にアパッチロングボウがコントロールを失う。


 まさか・・・・・・


「ローターの部分を狙って、狙撃した?」


「バーンズ特務少尉! アーサーを使って、離脱してください!」


 キム中尉がそう叫ぶが、レイチェルは「そんな事が出来るわけないでしょう! 死ぬのよ! あなた!」と叫び返す。


「あなたは! 生きて、生きて、治道君を殺した連中を倒さなきゃいけない!」


 そう、キム中尉に言われた瞬間だった。


 コントロールを失い、墜落寸前のアパッチのコックピットのシートベルトを解いた。


「・・・・・・ごめん、行くよ」


「ご武運を」


 もう、迷いは無かった。


「装着!」


 そう言って、レイチェルはアーサーを着ると、アパッチロングボウの後部操縦席のキャノピーを破り、そのまま上空へと飛び立ち、岩国基地を脱出し始めた。


 その一方で、キム中尉を残した、アパッチは墜落し、爆砕した。


 治道君、キム中尉、治道君のお父さん・・・・・・そして、敵側の米兵たち。


 多くの多すぎる人達が殺され過ぎた。


 これが戦争だと、言えば、そこまでだ。


 でも、何の為の戦争なんだ?


 誰の為の?


 一部の政治家たちの保身の為の?


 教団とピースメーカーの覇権争いの為の?


 そんなことの為に・・・・・・そんなことの為に私は愛する人を殺されたのか?


 レイチェルはアーサーを着ながら、スーツの中で涙を流していた。


「アーサー、あんたとの付き合いは長くなるよ?」


「・・・・・・私は気持ちの整理が付きませんよ」


 そう言って、レイチェルはただ、上空を滑空していた。


 瀬戸内海が見えていた。


 その海が見えた瞬間はレイチェルにとって、長い、地獄のような一連の事件が終わった瞬間だった。


17


「アーサーが何故、敵の手に渡っている・・・・・・」


 はるか向こうではでアパッチロングボウだった、鉄くずが燃えている。


 パイロットはまず、助からないだろうな?


 助かったとしても五体満足では済まないだろう。


 そう冷静に思考する一方で蓮杖は込み上げてくる、怒りを抑えるのを堪えるので精一杯だった。


「狙撃で、李治道は殺害した。フェンリルは回収出来るが?」


 李治道を狙撃で殺害した、相川がそう冷静な声音を返すが、蓮杖は「だが、ナガタのアホのせいで、アーサーは奪われ、女は逃亡・・・・・・自衛隊からすれば、テロリスト殺害を徹底出来たがが、米軍からすれば、大敗北だよ」と静かに言い放った。


 蓮杖はソルブスの装備を解くと、タバコを吸い始めた。


「ウォーリアーワンから、フェニックスへ。対象のテロリストの内の一人を殺害した。至急、奴の着る、フェンリルを回収して、米軍に渡してくれ、オクレ」


〈フェニクスからウォーリアーワンへ。ご苦労だった。至急、帰投してくれ。オワリ)


 そう言って、陸自の司令部は冷静な声音を返した。


「中隊長、ミッション終了ですか?」


 若い隊員たちが喜びを顔に表している。


「終了だ。米軍がフェンリルを回収したら、基地に帰投して、その後は帰るぞ」


「やっと、終わった・・・・・・」


 若い隊員たちがそう言いだす中で、蓮杖は「まだだ。作戦終了までは黙っていろ」とだけ言った。


 村田はそれを面白くなさそうな目線で眺める。


「若い奴がガチャガチャやるのは嫌いでね?」


「おやっさんがいないと、俺たちはどうにもならねぇよ」


「除隊かな? 確実に部隊の人員が変わっているからな? 老兵は去るのみってね?」


 そう言う、村田も装備を解き、タバコを吸う。


「さて、米軍は大変だろうな?」


「あぁ、あのマイホームパパは職を失うのは確定だが、高校生一人にここまで、やられたんだ。米軍のプレゼンスに関わり、米軍が極東防衛において、本当に頼りになるのかという問題になるだろうな? 中国やロシアは大喜びだ」


「もしかしたら、背景にはそういう動きもあるだろうな?」


「相変わらず、闇は深いねぇ? この世界は?」


 相川は無表情のままだが、村田はひくひくと笑い出す。


「中隊長」


 瀬田がそう口を開くと、蓮杖は「よくここまで付いてきてくれた。海外遠征の時はお前を推薦するよ」とだけ言った。


「ミッションコンプリートだ。帰るぞ」


 そう言って、陸上自衛隊ソルブス歩兵連隊の面々は撤収を始める。


 そして、上空にはブラックホークが飛び交い、李治道とピート・トライアングルの死体は回収されて、フェンリルドライブとキッドドライブの二つも回収された。


 これにアーサーが加われば、帝国の誕生だな?


 蓮杖はタバコを吸い続けていた。


18


「ジェネシス・フォース・チームフォーが全滅・・・・・・ナガタまでやられただと・・・・・・」


 ベリーズは絶句した表情を浮かべる中で、米軍と自衛隊が李治道とピート・トライアングル大尉の死体と、フェンリルドライブにキッドドライブの四つの回収を急ぐ。


「少佐、ラングレーからリモート通話が来ています」


 来たか・・・・・・


 ベリーズは背筋を伸ばして、ラングレーいわゆるCIA本部の高官の映る画面に向き直る。


(ベリーズ少佐。散々、米軍基地に奴を近づけるなと言ったはずだ)


「米軍基地で、奴を迎え撃ち、数で倒せば倒せると思った次第です」


(だが、失敗だ。これならば、ジャップどもを巻き添えにしてでも、リーパーで連中を爆撃すればよかった)


 ベリーズは黙らざるを得なかった。


(至急、本国へ戻れ。査問委員会にかけて、君は解任だ)


「・・・・・・申し訳ありません」


 そう言って、通話は一方的に切れた。


「失業か?」


 そう独り言を言っていると、そこにメアリーが現れた。


「君のお陰で、俺は失業だよ」


「そうなんですか? 何も言えることが・・・・・・」


 メアリーがそう言うと、ベリーズは「君は今まで何をしていたんだ? まさか、毛布にくるまって、コーヒーでも飲んでいたんじゃないだろうな?」と問い詰める。


「仕事していましたよ」


 そう素っ気なく言われて怒りが湧いてきた、ベリーズは「君は・・・・・・何をしていたんだ?」とメアリーの胸倉を掴む。


「少佐! 何をしているんです!」


「止めてください! 少佐! 相手は軍人と言えど、女性ですよ!」


「貴様ぁ! 貴様が裏で暗躍をしているから、私は! 私は失業してしまったじゃないかぁ!」


 そうベリーズは大勢の軍人に引き離されるが、メアリーがその時に笑っていたのを見逃すことは無かった。


「貴様ぁぁぁぁ!」


「少佐? 失業したからって、八つ当たりしないでくださいよ? 次の就職先に響きますよ? ご家族だってーー」


「黙れぇぇぇ!」


 そう言って、ベリーズがシグザウエルP220をメアリーに向けた時に同人は素早く、同種のハンドガンを取り出し、ベリーズの右肩を撃ってきた。


「うぅぅぅぅ!」


「誰か! ベリーズ少佐が錯乱を起こした!味方に銃を向けた!」


 米兵たちがそう混乱を極める中で、ベリーズは泣きながら、メアリーを眺めた。


 この女、一人を殺せないのか・・・・・・


 家族が・・・・・・私のせいで、私のせいで・・・・・・


 だが、せめて、遺族年金と保険金があれば、家族は安泰だ。


 自害ではそれらは家族の手には渡らないかもしれないが、とにかく、疲れた。


 もう、終わりにしよう・・・・・・


 そう思った、ベリーズはシグザウエルP220を自分のこめかみに当てて、トリガーを引いた。


「少佐ぁぁぁ!」


 米兵たちの叫び声が聞こえる中で、ベリーズは絶命をした。


 司令室にはベリーズの脳みそが飛び散り、血と硝煙の匂いが充満する事となった。


 そして、メアリーはひたすら、ベリーズの死をあざ笑っていた。


 また、一人、大義の無い戦争で犠牲者が出た瞬間だった。


19


 事件から、二カ月が過ぎて、三月の街は春爛漫となっていた。


 一連のアメリカ関連の事件はピョンヤン・イェオンダエが起こしたものと言う形で報道統制が敷かれて、ピョンヤン・イェオンダエを実力組織とする、地球友愛教がとうとうテロリズムに走り始めたという批判が日本中に沸き起こり、脇坂内閣は一連のテロ事件を防げなかった責任を取り、総辞職。


 新たな総理大臣として、前総理大臣の大須が再登板する形となり、早速、与党自明党は教団との一切の関係を断ち切り、教団の解体に踏み切ると宣言をした。


 一方でアメリカ軍が教団の実力部隊相手に米軍基地に侵入を許し、岩国基地の全滅を招いたことにより、米軍の極東防衛のプレゼンスは大きく停滞。


 米軍は果たして、日本防衛に寄与するのか?


 そのような在日米軍懐疑論が日本国内に漂うようになった、昨今の社会情勢だ。


「亜門、まだ、李治道の事を気に病んでいるのか?」


 丸の内のビジネス街にある、ハワイ料理店で亜門は瑠奈と待ち合わせをしていた。


 本人から話があると聞かされて、場所まで指定された次第なのだが・・・・・・


 治道君の件があるから、慰めてくれるのだろうか?


 もしくは気まぐれな瑠奈の事だから「飽きた」の一言で、振られるという事も考えられなくはない。


 今から、心臓バクバクだがそれはとにかくとして・・・・・・


「治道君を助けられなかった・・・・・・」


「お前のせいではないと何度も言っているだろう? 瑠奈と一発ヤって、元気出せ!」


「下世話だなぁ・・・・・・」


 それを期待している、自分のスケベ心があるのも事実だが、それにしても・・・・・・


「ねぇ、メシア?」


「何だ? 変態?」


「殺すよ?」


「まぁ、良いさ? 真面目な話だろう?」


 そう言った、亜門は少しだけ、笑った。


「今回の事件で中国とかロシアが関与しているんじゃないかって聞いたけど?」


「教団は裏で色々なマフィアと繋がっているからなぁ・・・・・・ピョンヤン・イェオンダエがコリアンマフィアの元締めと言っても、コリアンマフィアは関東と関西とでグループが違うからな? それに全体的には北朝鮮の崩壊もあり、勢力が減退して、チャイニーズマフィアの傘下になる事態もあるらしい。そして、旧北朝鮮系のマフィアはロシアンマフィアとも繋がっているのが相場だ。ピョンヤン・イェオンダエの宗主、李民智が案外、教団だけではなくて、中国とロシアの意向を受けて、一連の事件を仕掛けていたとも考えられる」


「教団って、自明党と裏で繋がっているんだろう? なのに、中国にロシアの意向を受けて、ピョンヤン・イェオンダエを動かして、反共の代表国のアメリカを追い落とすなんて・・・・・・」


 亜門がこの世界の闇の一端の可能性をメシアに教えられる中で、メシアは「自明党の教団とネンゴロの連中は北朝鮮がまだあった頃に拉致問題の交渉とやらで、同国のルートを重宝していた奴がいるらしい。それが今の統一された韓国ルートになり、そこが中国とロシアと繋がっていて、外交的にも私利私欲的にも利権に繋がり、それを構成する教団の信者どもも票田になる。政治家って、良い職業じゃないかという話さ? 隊長からの受け売りだがな?」とだけ言った。


「こんなことの為に・・・・・・治道君は・・・・・・」


 そう言いかけた時だった。


「亜門君」


 瑠奈が歩いてやって来た。


「瑠奈!」


 そう言って、亜門が駆け寄る。


「亜門君!」


 可愛いなぁ・・・・・・


 目が大きくて、色が白くて、小さそうで大きくて、大きそうでいて、小さそうな形のキレイな・・・・・・


 そう思っていた時だった。


 瑠奈は、駆け寄り、亜門に近寄ると、亜門の顔面をグーで殴り始めた。


「えっ? 何で?」


 亜門がそう言う中でも、さらに五発、顔面を殴り続ける。


 中々に腰が入っていて、良いパンチだ。


 ボクサーにでもなれるかもしれない・・・・・・


 でも、このままだとKOされてしまう・・・・・・


「瑠奈ぁ! 何があったのぉ! 何か、悪いことしたぁ!」


 そう言った瑠奈は亜門の胸倉を掴むと「どうしてくれんの?」と怒りをその大きな瞳に滾らせる。


「えっ・・・・・・僕、何かした?」


「・・・・・・妊娠したの」


 えっ?


「妊娠って・・・・・・誰のーー」


「亜門君と私の子どもに決まっているでしょう!」


 そう言って、瑠奈はさらに亜門の顔面を殴り始める。


「ちょっと、待って! 人の目があるから! 落ち着こう!」


「ただでさえ、女の研修医は肩身が狭い中で、デキ婚で、戦線離脱しますなんてなったら、お前は医学の専門家なのに、付けるもん、付けなかったのかとか総ツッコミじゃん!」


 こういう時の為に付けるもんは付けないとダメかぁ・・・・・・


 そうして、瑠奈に顔面とボディを殴打される中で、亜門はカバンの中に指輪を持ってきていることを思い出していた。


 言うなら、今しかないし、瑠奈を妊娠させたなら、責任取らないとな?


 腹を括れ、亜門。


「瑠奈! 話があるんだ!」


「黙れぇ! 私の華麗なるキャリアを傷付けてぇ! 絶対に許さねぇ!」


 そう言われながら、顔面と体を殴打される中で亜門はカバンから結婚指輪を出す。


「・・・・・・はぁ?」


「もう取り返しがつかないことだけど、そのタイミングだからこそ、言うよ! 結婚しよう! 家事、炊事、洗濯、子どもの送り迎えも全部、僕がやる! 瑠奈に負担はかけさせない!」


 瑠奈が唖然とした表情を浮かべる。


「えっ? えぇぇぇ?」


「えっ? 結婚してくれないの?」


「いや、それは良いけど・・・・・・警察を辞めるの?」


「警察も続ける」


「分かっているの? 凄い、負担だよ? 主夫業を舐めていない?」


「やる! 僕がやると言ったらやるんだ!」


 亜門がそう言うと、周囲が静寂に包まれる。


 瑠奈は涙ぐんでいた。


「えっ・・・・・・ダメ?」


 瑠奈は泣き続ける。


「バカ・・・・・・こんなの私の理想のプロポーズじゃないじゃん!」


 そう言って、瑠奈は右ストレートをさらに亜門の顔面に放つ。


「グフゥ!」


 その後に瑠奈は涙を浮かべながら、満面の笑みを浮かべる。


「良いよ・・・・・・その代わり、今、言ったことを忘れるなよ?」


 それを聞いた瞬間に丸の内にいた、周りのサラリーマンとOLたちが「おぉぉぉぉぉ!」と言いながら、拍手を送る。


 えっ?


 みんな、聞いていたの?


「おめでとう! 他人のプロポーズながら、上手く行って、感動したよ!」


「幸せになるのよ!」


「久々にほっこりしたよ!」


「純愛だ! 純愛だぁ!」


「リア充はファイ嫌いだぁぁぁぁぁ!」


 何か・・・・・・一部、変なのが混じっているけど、知らない人からも祝福されているよ、僕?


「じゃあ・・・・・・局長に何て言おうか?」


「パパには殺されると思うよ?」


「だろうなぁ・・・・・・じゃあ、式はーー」


 そう言った瞬間だった。


 メシアドライブに着信が入る。


 事件だ・・・・・・


「はい、一場です」


〈一場君。アメリカ駐日大使を乗せた、車が爆発したわ。これにより、ISAT全隊に待機命令が下ったから、非番で悪いけど、大手町に来て〉


「分かりました。すぐ、向かいます」


〈それと、局長は暇があれば、あなたを殺すと言っているわよ。覚悟しておきなさい〉


 もう、局長は瑠奈を妊娠させたことを知っているじゃん・・・・・・


「至急、向かいます」


〈よろしく。それと個人的な感想だけど、デキ婚は最低よ〉


 そう言って、電話は切れた。


「・・・・・・瑠奈、事件が起きたからーー」


「稼いで来い! しばらく、高給取りの私は働けないんだから! 貧乏人の亜門君が頼りなんだよ?」


 そう言って、瑠奈は微笑みながら、サムズアップを行った。


「行ってくるよ」


「おう! 代金は任せろ! 行ってこい!」


 そう言われた後に亜門は走り出した。


「良い嫁さんだな? お前は幸せ者だよ」


「だろうね? 稼がないと」


 そう言って、亜門はバイクに乗ると、そのまま大手町に向けて、走り始めた。


 時刻は午後一二時二七分。


 亜門に守るべき存在を改めて、知覚させる出来事だった。


20


(赤坂でアメリカ大使を乗せた車が突如、爆破しーー)


(この事件を受けて、内閣は緊急招集を受けてーー)


「二カ月経って、ようやく世間に平和が訪れたと思ったら、これですからね?」


 小野がそう言うと、鬼のような形相をした久光が画面越しにいた。


(・・・・・・あのバカはまだ、来ないのか?)


「私も最低だと思うんですけどね? 一場巡査は純朴に見えて、非常識な側面がある男の子ですから?」


 久光は怒りを抑えながら、眼鏡を直す。


(私も緊急招集があるから、忙しいのだがね? あのバカを処刑しないと、気が気じゃないよ)


「後で、渡します」


(頼むよ。今度と言う、今度は許さん。娘の輝かしい医者としてのキャリアを汚した、あのクソガキだけは許さん・・・・・・本当にあのバカを連れてこい! 頼んだよ)


 そう言って、久光の通信は切れた。


「なんだかんだ言って、孫が出来て嬉しそうよね? 局長も?」


「いや・・・・・・あれがですか?」


「凄く、怒っているじゃないですか?」


 夏目と稲城が戦々恐々としながら、小野を眺めていた。


 しかし、それもつかの間だった。


 突然、テレビ画面に砂嵐が走る。


「何? 壊れたの?」


 そう言って、国営放送から、民放に変えるが、どこも砂嵐だ。


「全部・・・・・・」


 その時だった。


 黒いタートルネックを来た、レイチェル・バーンズが白い壁をバックにして、現れたのだ。


(日米両政府、国民の皆様。そして、世界中の皆様。日本語で失礼させていただきます。私は地球友愛教配下の武装組織である、ピョンヤン・イェオンダエの代表を務めます。レイチェル・バーンズと申します)


「ハッキングを仕掛けたと言うの・・・・・・テレビ局は大忙しね?」


 小野と夏目に稲城はテレビにかじりつく。


(今回の駐日アメリカ大使殺害は我々が行いました。その理由は一つ、教団がまるで世界の悪党であるかのような扱いを受けて、善良な信者たちが日本国内で迫害を受けている事への警告。そして、私の愛した、男と同志達が二カ月前のテロ事件の数々で米軍に惨殺をされた事への報復。そして、最後に・・・・・・私自身がアメリカの高官達によって、作られた生物兵器であるという事と、それを良いことに弄ばれたことに対する、復讐。これが今回の日米両政府とこの理不尽で腐った世界に対する、宣戦布告の意義であります)


 レイチェルは台本を読むことなく、自分の言葉で話している。


 その青い瞳に静かな怒りを灯らせて、よどみのない、綺麗な日本語で話している様は、敵ながらにテロリストというよりは、まるで革命を狙う、現代のジャンヌ・ダルクのようにも思えた。


 相手は敵なのに、自分は彼女に好感を覚えているな?


 小野はニタリと笑いだすのを知覚していた。


(今回の事件で、犠牲になった、日本国民の皆様には哀悼のーー)


 そこでテレビは普通の民放テレビに変わる。


(映像繋がった? 失礼いたしました。ニュースアフタヌーンエックスの時間帯でしたが、先ほど、ピョンヤン・イェオンダエを名乗る集団に国営放送と民放を含む、テレビ電波が乗っ取られたことにより、犯行声明がーー)


「前代未聞ね? テレビ局まで一時的に乗っ取るのだもの?」


「隊長・・・・・・」


 稲城が不安げな声を上げる。


「あのお嬢さんは本気で私達に戦争を仕掛ける気よ? 全力で潰しにかからないと?」


 そう言って、小野は庶務の富永警部補に電話をかけた。


「富永主任、部隊は全員揃った?」


 富永は若干、戸惑った声で答えていたが、気にせずに指示を飛ばし続ける、小野だった。


21


(これは一体全体、どういうことだ!)


 教団の教祖である、オ・ジェウンがリモート通話において、英語でそう叫ぶ。


(こんなことをすれば、私の子どもたちがますます、日本で迫害を受けてしまうじゃないか!)


「見ての通り、宣戦布告ですよ。あなたの大事な金蔓である、子どもたちを守る戦いの開戦のゴングです」


 レイチェル・バーンズはオを見下しながら、そう言った。


(これでは世界平和が・・・・・・我々が悪魔になってしまうじゃないか!)


「悪魔に魂を売ってでも、組織を守ろうとはなさらないのですか?」


(黙れぇ! ただでさぇ、日本の新政権になって、我が家族が敵視されて、君がこんなことをするから、我々が悪い印象を与える一方だ! どう、責任を取ってくれるんだ!)


 レイチェルは冷笑を浮かべながら、こう言った。


「必ず、この戦争は勝ちます。そうすれば、教祖様やその家族たちの権利や人権は守られます。さすれば、教団によるニューワールドの誕生も近いのではないかと?」


(不可能だ・・・・・・我々は表舞台でここまで・・・・・・日米両政府を相手にして、ここまでの争いをして、勝つ見込みが無いからこそ、集金に徹していたのだ! それが君らの南米での傭兵家業が影響して、ピースメーカーの怒りを買い、こんなことになったんだ! 君らの責任だよ! 全て!)


 責任転嫁か?


 小物の教祖めが?


 こんな奴を哀れな信者どもは崇めていたとはな?


 レイチェルはその汚い金をふんだくり、世界を敵に回した壮大な戦争を行うつもりでいた。


 蛇の道は蛇ってね?


 そう思った、レイチェルは冷笑を浮かべていた。


「戦争にあたって、当然、資金援助はなさるおつもりでしょうね?」


(するか! そんなもん! 君らはテロリストだ! テロリストに協力などーー)


「そのテロリストが行った悪事にあなた方が資金援助をしていたことを世界に晒しましょうか?」


 オは絶句していた。


 子飼いの兵士たちがクーデターを起こしたのだから、無理もない。


「どうされます? 我々は単独行動も今では可能ですよ? 李民智はもういないのですから?」


(・・・・・・今日はここまでだ。後日、話そう)


 そう言って、オはリモート通信を切った。


「痛快ですね? 我々を使い捨ての駒にしていた、業尽く爺がおどおどしている」


「でも、私たちの目的は教団の自壊でもなく、ましてやお金でもないのよ? 大尉」


 李民智がトップであった時代からの側近である、ソ・ジェンウ大尉にレイチェルがそう言うと、大尉は「治道君を殺されたことに対する、復讐ですか?」とだけ問う。


「私と治道君を殺し、傷つけた、この世界への復讐をするのが目的よ。世界を敵に回しても構わない。あなたたちも抜けたければ抜けていいのよ?」


 そう言うと、大尉は「ゴロツキどもは逃げ出していますが、元軍人たちはあなたと行動を共にするのが総意です。我々はしょせん、亡国の軍人でしかないのですから? 世界に対する、復讐を行うという大義を遂行する・・・・・・これだけで、自分たちは生きる意義を保っていられます」と言って、白い歯を見せた。


「さぁ、ここから、世界を敵に回したのだから、当然、次の手を考えないといけないわね?」


 そう言って、レイチェルはため息を吐いた。


「次はアメリカよ。日本だけが標的でないと世界に証明しないと?」


 そう言って、レイチェルは笑い出した。


 修羅の道。


 そうとも取れるが、私はそれで構わない。


 私の命などは安いのだから。


 だからこそ、治道を殺した日米と世界に対する復讐という形で、この命を昇華させたい。


 自分の命の値打ちと目的を決める権利は自分にしかないのだから。


 そう思った、レイチェルはジェンウと共に部屋を出た。


「衛星の問題があるので、拠点を変える必要があるかと?」


 部下の中尉がそう言い放つ。


「・・・・・・始まるよ。治道君。世界との戦争が」


 レイチェルは静かにそう言い放ち、拠点を変える為に車に乗り込んだ。


 終わり。




 ご拝読ありがとうございました。


 次回作はお正月辺りに短編を一話考えていますが、お正月に休みたい自分とバリバリに書きたい自分とで葛藤しているので、まだ、やるかどうかは分かりません。

 

 ネタと相談して、考えますが、次回作は作るつもりです。


 ここまで、ご拝読頂きありがとうございました!


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