第五話 星条旗の戦士たち
第五話です。
本日もお付き合いいただき、ありがとうございます。
ポイントもゲット出来て、PV数も段々と上がっているので、この調子で頑張ります。
本日もよろしくお願い致します。
1
一月某日の米軍横田基地に無数のMH-60Sヘリコプターが下りた。
「欧州の街並みと違って、東京は近未来的な感じだが、横田ぐらいになると、田舎だよなぁ?」
アメリカ海兵隊のソルブス部隊、ジェネシスフォース、チームフォーのピート・トライアングル大尉は率直に思ったことを口にする。
すると、それを自身とバディを組む、自立志向型AI搭載型ソルブスのキッドが「日本って狭いからさ。こんな田舎じゃないと、基地が作れないんだよ?」と日本をバカにした口調で話す。
「市街地のど真ん中に基地があるのも大問題だぞ? ここは田舎だが?」
ブラッドリー・サンダース二等軍曹がそう言うと、カレン・ミッチェル少尉が「私、ラーメン食べたいなぁ? 東京のど真ん中行きたいんだけど? 渋谷とか?」と言い出す。
「良いねぇ? 俺は歌舞伎町でヤクザシリーズの世界観を体現したい」
エリック・ジョー曹長が相槌を打つと、ピートは「日本名では龍が如くとか言うんだろう? あのゲームは良いよな?」とだけ言った。
そして、小隊長のパトリック・レンサー少佐が全員を睨み据える。
「俺も連れていけ」
「もちろんです」
東京のガイドブックを持参しながら、全員が横田基地へと降り立つと、CIAのベリーズ少佐がやって来た。
「ひどいな? お前ら、観光気分か?」
「えぇ、祖国を離れて、遠征するんですからね? 旅を楽しむぐらいじゃないと軍人なんて、やっていられませんよ?」
「それが中東の砂漠でも言えるのか? 貴様らは?」
ベリーズが鋭い眼光でそう言う。
「無理ですね? あそこは何もないもの?」
ジェネシス・フォース・チームフォーの全員が大笑いする中で、ベリーズは笑い声一つも上げない。
冗談の通じない奴・・・・・・
こんな奴と仕事するのか?
「まぁ、とにかく、欧州戦線からご苦労だった。休んだら、ブリーフィングだ。君たちには世界の危機とやらがかかっている。仕事は重要だぞ」
そう言って、ベリーズは離れて行った。
「世界の危機ねぇ? コリアンマフィア組織がそんなに危ないかね?」
「何でも、世界を裏で牛耳っている、宗教団体が絡んでいて、そのマフィア組織とやらが、実質的な軍隊的な側面を担っているらしいけどなぁ・・・・・・俺たちを欧州から、この東洋の島国まで遠征させる、理由が分からんな?」
「フェンリルだろ?」
エリックとブラッドリーがそう冗談めいた口調で言うと、パトリックがそう言う。
「あれはかなり、マズイ代物らしいからな? バーンズ特務少尉の奪還。それが出来ない場合の破壊も俺たちのミッションだ。仕事は仕事、遊びは遊びで真面目に行こうじゃないか?」
「俺、レイチェルのファンだったんだけどなぁ? パツキンでポン・キュ・ポンとか、アメリカ人が一番好きな奴じゃん?」
「遺伝子操作で、偉い高官と言う名の変態どもが自分の好き好みに容姿と体をいじったんでしょう? 存在自体が悪趣味極まりないんだけど?」
ピートがそう言うと、カレンがそう手厳しい表現をしだす。
彼女は保守系なので、デザイナーベイビーのレイチェルを忌み嫌っているのだ。
もっとも、それ以外の要因はあるだろうが、自分は感知しないことにしていた。
女同士のいざこざに男が介入したら、痛い目に合うからな?
「キッド? 東京のラーメントップテンを教えて?」
「寿司は食わないのか?」
「高いじゃん? NFLとかぐらいの年俸無いと食えないんじゃない?」
「そこまで、高いとこ行くのか?」
「あの少佐殿は年中行っているだろう? 偉い人と飲んだり食ったりで?」
ピートとエリックがそう言うと、カレンが「スキヤキとかウナギが気になるんだけど?」と言い出した。
「オォォウ! スキヤキ? あれ、生卵を肉に付けるんだぜ? ウナギは分かるけど、俺はロッキーになるつもりはないから、それ、勘弁だわ?」
欧米では生卵をそのまま食す、習慣が無く、不衛生だと思っている人間も自分を含めて、多くいるので、スキヤキは出されても生卵は付けないつもりだった。
「じゃあ、お好み焼き?」
「ノォォォ! 鰹節って言うのか? あれが温度の影響で揺らめくらしいが、虫のように見えて、俺は勘弁だ!」
「お前ら、日本詳しいな? そして、ディスっている。俺の出番はないようだ?」
ピートとカレンとキッドがそう言うと、キッドは続けて「練り物は止めておけよ? あれは日本人にしか分からん文化だ」とだけ言った。
「何それ? 美味しいの?」
今から、作戦そっちのけで日本での食事の話に終始していた、ジェネシスフォース、チームフォーだったが、この横田で六年前に襲撃事件が起きたことを思い出した、ピートはふと、怒りが込み上げて来た。
米軍に楯突いたら、どうなるか、教えてやる。
たとえ、美しいこの国の住人でも・・・・・・
時刻は午後四時二三分。
今晩は基地での食事は確定的だった。
2
「JCIAとの接触の結果、今回の事件はピースメーカーとピョンヤン・イェオンダエの背後にいる、地球友愛教のゼロサムゲームによって起きたという背景があるそうです」
小野澄子特務警視長はリモート形式で警備部長の本田と相対す。
(それは・・・・・・穏やかじゃないな? 自明党の有力な票田じゃない? ということは当然、政府はピョンヤン・イェダンエを守りたいわけだ?)
「えぇ、政財界では何気にあの教団は大きな役割を担っていますからね? 前に問題になりましたが、結果的には時間が経過したと同時に再びくっつき始めたのが現状ですからね? それと、アメリカ側が本気でピョンヤン・イェダンエを潰しに来る、動機は裏にーー」
(ピースメーカーだろう? 六年前の事件の時も暗躍して、結果的には大元は取れなかったからね。つまりは・・・・・・西洋最大の世界の監視者たる死の商人どもの集まりと、東アジア非共産圏の影の支配者の代理戦争の構図になっている訳だ)
本田は自嘲気味に笑う。
実際にJCIAに出向している、小泉警視正からも『今回の案件は闇が深いから、関わらない方が利口ですよ?』と忠告はされていた。
これは日本と世界の闇を暴くことになる、大事件だ。
ここで黙って、米軍と自衛隊が日本でドンパチをするのを見ているか、その手伝いをすれば、火の粉が降りかかる事は無いが・・・・・・
いや、すでに事態が事態だから、全てが終わった後に自分たちもまとめて、お払い箱と言うことも有り得るか?
何よりも現政権がハト派だからな?
小野は本田の前でなければ、爪の一つも噛みたい心境だった。
そして、その様子を夏目と稲城が沈黙を保ったまま、見つめていた。
「李治道にレイチェル・バーンズが接触し、最新鋭機のフェンリルが譲渡された理由が内側からのピョンヤン・イェオンダエ崩壊を招く事。ビーストモードと呼ばれる、あの機能は李治道を自壊させるための切り札だった。そして、それを使った上で跡取りを失った、ピョンヤン・イェダンエに対して、レイチェル・バーンズを起点に米軍が攻め込み、瓦解させるのが狙いだったそうです。しかし、彼はあのような非人道的なシステムを介しても、生命を維持し、レイチェル・バーンズとフェンリルまで知らず、知らずの内に自陣に組み込んだ。詳細は不明とはしつつもーー」
(とんだ、女たらし且つ人たらしだな? その李治道という高校生は?)
本田は鼻で笑い始める。
(・・・・・・どうする? 米軍や自衛隊が関与して、主役交代になれば、我々は飛ばされるぞ?)
「JCIAは官邸が未だに警察による事件解決に執着していると断言しています。脇坂総理は自身の手による、軍事的解決を望んでいないというのが結論です。何としても、警察の手で解決をしろと、サッチョウの跡部長官と瀬戸総監に下命をしたそうです」
(つまりはまだ、我々は退場しないか・・・・・・)
果たして、腹黒い事で有名な瀬戸総監がどう我々に命令を下すか?
跡部長官は私には好意的だが、公安畑から警視総監のポストを射止めた、瀬戸はいまいち、心の読めない人物だった。
(君が独自に情報を収集しているおかげで、兵士たる、我々、警備部も動きやすくなるが、ハムに目を付けられるのは怖いな?)
「ハムはもう目を付けていますよ? その内に来るでしょう? 我々のところに?」
そう言うと、小野の机に内線が入る。
(客のようだな? とりあえず、私も耳に入れたから、安堵したが、お互いに気を付けないと命すらも危ういだろうな?)
「肝に銘じておきます」
(とりあえず、お開きだ。十分、注意しろ)
そう言って、本田とのオンライン面談は終了して、すぐに内線を取る。
「小野です」
庶務の富永警部補だった。
(隊長。お客様です)
「どのような方?」
(・・・・・・ハムですね)
「了解。すぐに通して」
そう言うと、同時に小野は内線を切り、椅子から立ち上がった。
「お客様よ? 案外、早くにやって来て、助かったわ?」
そう言って、小野は隊長室を出て、二人の副隊長もそれに続く。
すると、そこにスーツを着た男が一人でいた。
「噂通りのフットワークの軽さだ。小野特務警視長」
「落ち着きが無いのよ? あたし?」
そう言って、小野は男をそのまま、招き入れる。
「言っとくけど、皆、聞き耳立てたら、殺すわよ」
そう言った瞬間に第一小隊の面々は隠れていたところから一気に退散していった。
「何と言うか。若いですねぇ?」
「あなた、嫌いなのね? あぁいう、騒がしい子たちが?」
「・・・・・・入りましょうか?」
そうして、小野と男は名刺を交換する。
ー警視庁 公安総務部管理官 警視 雪村英司ー
公総(公安総務課の略)か・・・・・・
公安総務課は日本の共産主義政党などの監視と違反行為があった場合の逮捕を行う、部署であるが、実質的には国家の治安維持を名目にありとあらゆる、事件に手を出す、警視庁の何でも屋と言ってもいい、存在である。
その公総が来る時点できな臭いな・・・・・・
「五十嵐警視って、今、どうしてんの?」
「さぁ? どうでしょうね? 興味ないので?」
そう言って、雪村は小野に促されるまま、椅子に座る。
「我々が準軍事組織たる、あなたたちに接触をした用件は・・・・・・分かりますか?」
「さしずめ、国家の存亡とか?」
そう言うと、雪村は笑みを浮かべる。
「ピョンヤン・イェオンダエを利用し尽くし、しゃぶり尽くすのです」
部屋がひんやりと冷える感覚を覚えた。
3
蓮杖亘一等陸尉はスマートフォンをしまうと笑いが堪えられなくなっていた。
「面白いことがあったのかよ?」
村田准尉が「くっくっくっ」と笑いだす。
奥の席で本を読んでいる、相川祐樹二等陸曹は黙ったままだ。
「喜べ。戦争が起きる。相手はコリアンマフィアだが、米軍と共に俺たちの大好きな戦争をこの日本で再び行うことが出来る」
蓮杖はそう言いながら、高笑いを浮かべる。
「蓮杖中隊長。その発言は問題があるかと?」
新しく、陸上自衛隊ソルブス歩兵連隊に配属された、磯野三等陸曹がそう言いだすが、周囲の部下が「磯野、相手は中隊長だぞ!」と口を揃えて、制止する。
「磯野三等陸曹・・・・・・君は何故、自衛隊に入った?」
蓮杖はそう言いながら、磯野に近寄る。
「国民の人命を守る為です」
「正義漢か・・・・・・嫌いだな?」
そう言って、蓮杖は磯野を払い腰で投げ飛ばすと、顔面を踏みつける。
「フグッ!」
「我々、自衛隊は左翼が何と言おうと軍隊だ。旧日本軍の正統なる後継機関なんだよ? それを理解せずに災害派遣と言う名の営業活動の煽りを受けて、人命を救いたいから、自衛隊に入る・・・・・・ちゃんちゃら、おかしいな?」
蓮杖はひたすら、磯野の体を踏みつけ続ける。
「俺は戦争がしたいから、自衛隊に入った。良い時代だ。今は俺のような狂った戦争狂が入隊しても、すぐに戦争が出来る環境が揃っている。この六年は警察が市街地戦という実戦を経験し続ける中で、我々、自衛隊は秘密出動こそあれど、回数としては開きがあるこの状況。お前のような腑抜けまでこの部隊に来るぐらいの小康状態に飽き飽きとしていたんだ。マフィア相手にドンパチを起こせるなんて、米軍に感謝だよ?」
蓮杖が笑いながら、磯野をひたすら蹴り続けると、磯野は「あなたは・・・・・・間違っている!」と大声を上げる。
「だから、言ったろう? 見当外れの空気の読めない正義感が大嫌いだと!」
そう言って、蓮杖は馬乗りになって、磯野の顔面の眼球付近を殴り続ける。
「隊長、さすがに目はまずいかと・・・・・・」
「何だ、お前ら? 俺は戦争が出来る、高揚とこの六年のうっぷんをこの坊やにぶつけている。谷川連隊長の部隊で戦えるというのに、貴様はこのガキを庇うのか?」
蓮杖が延々と眼球付近を殴り続けていると、隊員は目を反らす。
「痛い! 痛い!」
「痛い? あれだけの大口叩いて、泣き言を言うのか? 貴様はそれでも軍人か?」
「僕は軍人じゃない! 自衛官だ!」
それを聞いた、蓮杖は磯野の目に指を入れ始めた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「貴様のような平和ボケした日本人は自衛隊には害悪でしか過ぎない。除隊しろ」
そう言って、蓮杖は馬乗りを解いた後に磯野の腹を思いっきり踏んづけた。
「磯野・・・・・・お前、何のためにこの部隊に入った?」
「うぅぅぅ! ふぅぅぅぅ!」
泣きわめく磯野に隊員達が駆け寄ると、蓮杖は「貴様ら、そいつの介抱をすれば同罪とみなす」とだけ言った。
隊員達はすぐに磯野から離れて行った。
「亘、何を苛立っている」
相川が蓮杖に駆け寄る。
「この六年だ。この六年、俺たちは警察に大きく、実戦経験で差を付けられた。警察の連中は年中、出動する中で俺たちは少々の秘密出動と訓練だけだ。いくら、普段は気取っている俺でも、イライラが募る。それがあんな、知能指数の低い、ガキがウチの精鋭部隊にいたとなれば、尚更だ。谷川連隊長に頼んで、飛ばす。もしくは除隊させる」
「磯野が無能なのは分かるが、あんな雑魚相手に苛立つのは亘ではない。自重してくれ、俺たちの中隊長なんだから?」
相川がそう言うと、蓮杖は「三人だけだった実験部隊の頃が懐かしいな?」とだけ言った。
陸上自衛隊ソルブスユニットはソルブス歩兵連隊として生まれ変わり、陸上総隊直轄の部隊になった。
自分は今、その中の歩兵中隊長の身分にあるのだが、いかんせん、ハト派の政府が予算を下ろさないから、未だに三個中隊規模でしか、歩兵が作れずに制服組が要望する、三個連隊の編成が出来ないのが現状だ。
だからこそ、こんなクソガキがこの部隊にいる事自体が、何かバカにされているような感覚を覚えるのだ
「本当だな? 予算拡充と同時に人員が大量導入されて中隊に格上げされたが、数だけだ。こんなガキどもを俺達の部隊に加えるならば、俺たち、三人で十分だな?」
村田は磯野を嘲るように言い放った。
「全員に聞こう。俺が間違っていると思っている奴は今すぐ、除隊しろ。俺に付いていきたい奴だけが部隊に残ればいい」
そう言うと、大半の隊員が騒めく中で、一人の女が前に出る。
「自分は蓮杖中隊長にお供します」
確か、名前は瀬野未来で階級は三等陸曹か?
骨のある奴だとは思っていたが、腑抜け揃いのウチの部隊には似合わない。
しかも、この暴行の瞬間を見た後で、大した肝っ玉の据わりようだ?
「良いだろう? 付いてこい。他の連中はお留守番だ」
蓮杖がそう言うと、隊員たちは俯いたままだった。
「これが士気の低い軍隊と言う奴か? 全く、警視庁の連中のほうが勇敢だよ。お前らよりも優れた部隊だと言わざるを得ない」
「追い詰められた時のロシア軍のようだな? ウクライナ侵攻の時は正規軍が崩壊するほどに士気が低下したが、今のウチの部隊はまさしく、それだな?」
村田はわざとらしく、ため息を吐く。
そして、蓮杖は谷川に電話をかけた。
(何だ? 私は忙しい)
「部隊が腑抜け共の集まりでどうしょうもありません。これが精鋭部隊ですか?」
(ただでさえ、陸自は志願者が少ないからな。警視庁の連中の方が実戦経験を積んで、結果的に優秀な連中が集まっている事実は私も頭が痛いよ)
「自分の国を守ろうと思わずに公務員風情になりたいが為のだけに志願した、クソガキどもが・・・・・・」
(口を慎め。上官だぞ)
「失礼いたしました」
蓮杖がそう言うと、谷川は(疑似政権交代によって、政権が我々と警察に予算を与えなくなったというのがあるが・・・・・・ひどいな? 戦死するんじゃないか?)と嘆き始めた。
「人員を整理して、少数精鋭で作戦を行うつもりです。それと明日の朝に資料を送るので、何人かを飛ばして、精鋭を揃えていただきたい」
(お前の過度な要求で、部隊の再編はこれで三度目だ。まぁ、良いさ? 今度は辛抱しろよ)
そう言って、谷川との通話は切れた。
「喜べ、腑抜けども。君らはクビだ」
隊員たちはただ、俯くだけで、何も言わなかったのが、蓮杖をさらに苛立たせていた。
4
「横田の動きが怪しいそうです」
大阪のセーフハウスでテレビを観ていた、李民智は側近のソ・ジェンウ大尉の報告を聞いていた。
「米軍か? わざわざ、マフィアごときを退治する為に最強の部隊を揃えるとはな。我々は実質的な世界の支配者の軍隊であると言うのに?」
民智は笑みをこぼしながら、夕方のニュースを眺め続ける。
自分たちが身を潜めている、関西経済は反社会勢力とは表裏一体である。
昔から旧北朝鮮系のヤクザがごろごろといたのは有名な話なので、そのネットワークを通じて、関西ではこうして、潜伏生活が出来るのだ。
「議員先生方はなんと言っている?」
「アメリカの現政権は教団を完全に潰すつもりです。ピースメーカーこそが世界の支配者として相応しいとの警告もあるかと?」
実質的にはピースメーカーは軍需産業や世界の富裕層からなる、世界の監視者且つ死の商人どもの集まりだ。
自分たちのバックにいる、教団はしょせん、哀れな信者から金を巻き上げるだけの宗教をかたどった、集金マシーンの詐欺師集団にしかすぎない。
元軍人を実力部隊として、利用しているのは単純に金になるからだ。
自分たちのような教団の実力部隊が傭兵産業や途上国の軍事支援などの軍需産業に旧北朝鮮時代からの産業である、麻薬や偽札作りなど、ありとあらゆる違法産業に従事した。
だが、相手はスケールが違う。
犯罪ではない。
戦争を起こすのが目的の富裕層の集まりだ。
平和を唱えて、弱者から金を巻き上げる小悪党とは違う。
戦争を起こし、自分たちの都合の良い、現実を作り出して、欧米主導の世界秩序を作るというある種の理想を抱いている。
詐欺師の集団が果たして、勝てる相手か?
だが、勝算はある。
レイチェル・バーンズとフェンリルが我々の仲間になったのだ。
彼女は我々に拉致されたふりをして、スパイとして送り込まれた存在だが、直感で感じていた。
彼女は軍人としては優しすぎるのだ。
故に工作活動をするにも問題があり、元が優しい性格だからこそ、治道に情が移り、レイチェルを好いている、あのAIも同様に治道の仲間になってしまった。
アメリカが彼女の真の人間性を理解せずにただ単に兵器として扱ったからこそ、起きた、イレギュラーだ。
私の計算通りだ。
結果的にあの子とあのソルブスを自陣に引き入れた。
心という側面でアメリカを出し抜いたと直感した。
そう思うと、民智は笑いが堪えられなかった。
「第二次朝鮮戦争の事を覚えているか?」
第二次朝鮮戦争は旧北朝鮮がアメリカ目掛けて、大陸間弾道ミサイルをあえて、透かす形で撃ったことが始まりだが、歴代の政権が大人の対応をした中で、時の大統領がそれを許さずに北朝鮮にアメリカ軍を進行させ、一週間で国が崩壊したという笑い話としか言えない話だ。
民智は当時、本国で粛正の対象だったが、ギリギリで、アメリカが侵攻して、処刑を免れ、戦争終結と同時に日本へと渡り、韓国料理店を立ち上げて、軍隊時代の部下たちや妻と治道と平和に暮らすつもりだった。
そこに教団の連中が現れ『また、軍人をやるつもりはないか?』と言われたのが、始まりだった。
そして、旧北朝鮮軍時代のノウハウと人脈を頼りに教団の実力部隊である、ピョンヤン・イェオンダエは誕生した。
次第に北朝鮮系のヤクザ者や半グレを吸収して、組織は肥大化して、今では日本の政財界は我々無しでは動けないぐらいの存在になった。
闇の世界では順風満帆。
誰もが、そう思うが、妻はそうは思わなかった。
韓国料理店での平凡な暮らしが一番好きだったと言って、別の男と一緒に韓国へと戻って行った。
治道と自分を置いて。
せめて、治道は連れて行くべきだろう。
そう思ったが、治道は堅気にしたいという願望を含めつつも、跡取りになる可能性も鑑みて、教育はしっかりと受けさせた。
ヤクザや半グレにまでなる、人間の大半は社会からスティグマを張られた、貧困損の悪ガキが大半だ。
治道にはそんな道を歩ませたくなかった。
故にアルテミス学園に進学した時は本心では泣いて喜びたかった。
治道はもしかしたら、堅気になれるかも知れない。
この組織は自分の一代で消滅するかもしれない。
そのような希望を抱いた、二年間だった。
それが今、崩れようとしている。
私の大事な治道を道ずれに・・・・・・
「ひどい、戦争でした。まるで、遊びのように同胞の軍人たちや家族が殺されたのは今も覚えています」
「今もアメリカが憎いか?」
ジェンウにそう言うと、同人は歯を食いしばりながら「本心ではそうですが、戦力と技術力、経済力では我々の母国は敵わないと言うのは事実です・・・・・・今度の戦争も恐らく負ける」とだけ言った。
「日本社会の闇が炙り出されようとしている。あいつらは欧米主導の新世界を作る為にパンドラの箱を自ら開いて、日本を再び統治下に入れようとしている。そうしたら、変わるさ? 社会の膿は炙り出される、俺たちや治道の犠牲とあの女の子が兵器としても人としても破壊され、殺される形で?」
しばしの沈黙の後で民智は葉巻を吸い始める。
「それでも、勝てない戦争を行うのですか?」
「母国自体が勝てない戦争の連続を行っていた。そして、破滅をしたんだ。貧乏な亡国の愛国軍人としては似合いの終わり方だろう?」
民智は葉巻を吸い続け、煙と共に香しい香りが広がる。
「だが、治道とあの女の子の将来だけは渡さない。治道は特にだ、奴は私の希望だ。悪に手を染めた、私にとって、いつの日もこれからも。奴がいなければ、私は現実を受け入れられずに自害していただろうさ? 私の希望は渡さんよ」
そう言って、葉巻の煙が揺らめく。
すると、そこに五十嵐が入って来る。
「どうだ、治道は?」
「回復は順調だ。彼はアムシュだよ」
「アムシュ?」
ジェンウが怪訝な顔を見せる。
「そうか、それは良いな?」
「民智、さらに朗報だ。ウチの会社がお前と話をしたいと言っている」
民智はニタリと笑わざるを得なかった。
思った通りだ。
日本政府は教団との関係を捨てきれない。
これまで、吸ってきた甘い汁だ。
自信を育てた父親のような国であるアメリカが相手になるとは言え、新世界など、既得権益層からしたら、良い迷惑だ。
それは政治家だけではない。
この国の平和を当たり前に享受し、平凡な日常を普通に謳歌できて、今日と明日の事を考えるので精いっぱいの多くの普通の日本人という既得権益層の集団も無関心という形で、教団の存在を許容し、新世界が到来することを歓迎などはしていないのだ。
それがこの結果だよ。
私は強運だ。
ここに来て、交渉する相手がいるのだから?
「要求が聞きたいな?」
「悪い話ではない。どう転ぶかは分からないがな?」
そう言って、民智の笑いはとうとう高笑いへと変わり、部屋の中で響いていた。
時刻は午後五時前。
テレビの夕方のニュースでは日本人のメジャーリーガーの動向が報じられていた。
5
治道が起き上がると、レイチェルが洋書を読んで、傍らにいた。
「起きた?」
「・・・・・・あぁ、快調だよ」
あの戦闘から、五日が経過して、体は完全に回復した。
「治道・・・・・・」
フェンリルが静かに問いかける。
「どうした、猥談の一つでも言ってみろよ?」
「私とレディはお前を破壊して、ピョンヤン・イェオンダエを壊滅させる為に送り込まれた。だが、お前はビーストモードを使っても死ななかった。それに閉口している」
「・・・・・・何か、裏があるんじゃないかと思ったよ」
治道は笑みをこぼしていた。
「怒っていないの?」
「怒るよ。ただ、レイチェルやフェンリルに悪意が無いから、怒鳴らないんであって、五十嵐さんだったら、殴っている」
「何それ? 友達を結果的に殺して、あなたを慕う人も殺したのよ? 私とフェンリルは?」
「レイチェルとフェンリルはやらされていたんだろう? 何て、言うか、悪意を感じないんだ。ヒリヒリとか底寒いような感覚を感じる悪意をそっちから。もしかしたら、レイチェルとフェンリルとは分かり合えるんじゃないかなと思えてさ?」
治道がそう言うと、レイチェルは涙を流し始めた。
「泣くなよ・・・・・・」
「治道君を殺そうとして、みんなを殺したのに・・・・・・何で、そんな風に優しく出来るの?」
「・・・・・・レイチェルとフェンリルだからだよ。五十嵐さんだったら、ぶん殴っている」
治道がそう言うと、レイチェルは「意味が分かんないよ」と泣き続けていた。
フェンリルまで泣き続けていた。
お前は機械だろう・・・・・・
「だから、言ったじゃん。やらされていたんだろう? 俺だって、泣いて叫んで、戦争なんて嫌だと思うし、五十嵐さんには率直にそう言ったけど、本当に戦わなきゃいけない相手がいると思うんだよ。そして、レイチェルとフェンリルとは分かり合えると思っているから、それを利用した奴らに怒りを覚えているんだ、だから、レイチェルとフェンリルに怒るのは筋違いだと思うんだ」
そう言って、治道は起き上がろうとすると「父さんは?」とだけ聞いた。
レイチェルは泣き続ける。
「・・・・・・父さんは?」
「・・・・・・五十嵐さんと話している。アメリカが結構、見張っているから、用心しないと・・・・・・と言っても、衛星使って、一発で分かっちゃうけど?」
「あれは映画の話かと思っていたけど、本当に衛星で分かるんだ・・・・・・」
「それにフェンリルドライブも元々は米軍の物だし・・・・・・ただ、五十嵐さんが細工して、位置は分からない様にしているけどさ? 一応はダミーの車列とかを走らせて、衛星を紛らわせているけど、アメリカがその気になったら、どうなるか分からないよ?」
「じゃあ、何で・・・・・・」
「ピョンヤン・イェダンエは背後に地球友愛教の存在がある。強襲するにも、日本政府と調整しなきゃいかんのさ?」
地球友愛教・・・・・・
フェンリルから発せられたその組織の名に怒りを覚えていた自分がいた。
父親の組織のスポンサーの詐欺師の集団。
あんな、狂信的な連中は嫌いだ。
そんな奴らのせいで、父さんは韓国料理店を辞めて、麻薬や偽札などの旧北朝鮮軍のやっていた、違法事業に手を出したんだ。
あんな奴らのせいで・・・・・・
「五十嵐さんから、ある提案をされたんだ」
そう思いながら、治道はレイチェルにぽつりとだけ言った。
「・・・・・・何?」
「俺が組織を継いだら、学歴や身元の保証をするってさ? 俺の一番欲しい、学歴と身元の保証をする代わりに犯罪者の親玉になれって? 政府がどれだけ、教団とズブズブなのかが分かるよ」
「受けるの?」
レイチェルは深刻な表情の青い瞳でこちらを見つめる。
「こんな体験したら、もう元の学生生活になんて、戻れないよ。嫌いとは言え、警察官だって、大量に殺した。それに俺の好きなアルテミスはもう無い。ならば、後は自分が困るから、適当に学校行って、適当に卒業して、裏でマフィアの親玉をやって、私腹を肥やす方がまだ、良いかなって?」
「柔道はどうするの? 韓国のチームからも誘いがあったんでしょう?」
治道は首を横に振って「それこそ、受けるつもりはないよ。あそこでも、日本でも俺は外国人でしかないから」とだけ言った。
そして、暫しの沈黙が二人の間に流れる。
「レイチェル」
「えっ?」
「俺と一緒にピョンヤン・イェオンダエに来ないか?」
「何で・・・・・・」
レイチェルが困惑した表情を見せる。
「アメリカがもし、レイチェルを傷つけているならば、俺と一緒にピョンヤン・イェオンダエで日本の黒幕として君臨し続けないか? そうすれば、君の安全だってーー」
「こんな時に口説き文句・・・・・・」
「口説いてんじゃない。俺はレイチェルが戦力になるから誘っているんだ。レイチェルが必要なんだよ」
治道がそう言うと、レイチェルは「そうだよね? こんな時に口説き文句なんて?」とだけ言う。
「・・・・・・そういう軟派な奴が嫌いなんだよ」
「治道君は意外とそういう純粋なところが格好いいと思うよ」
そう言って、レイチェルは治道の頬にキスをした。
「ほっぺ?」
「うん。何か、勢いで・・・・・・」
そう言って、二人は笑わざるを得なかった。
「貴様・・・・・・レディにキスをしてもらうなどと・・・・・・」
「お前はAIだろう?」
治道がそう言うと、立ち上がり、冷蔵庫へと向かい、韓国で販売されている麦で出来た炭酸飲料を飲み始める。
慣れてはいるが、日本の味にある程度、接している身からすれば、独特な味であることは否めない。
「ここで米軍来られたら、終わるな?」
「一応、護衛は付いているらしいよ?」
「そうだけどーー」
すると、セーフハウスに激震が走る。
大砲の爆音と共に近くからも火災が起きた。
「何で、場所がすぐ分かるんだよ」
「あるいは私たちが来るのを見越して、米軍が意図的に住宅街を攻撃しているかのどちらかだよ。行ったら、場所がバレる。行かなければ、報道統制で私たちがやった事になる。ここは悪人として、無視するのがベターだけど、流れ弾が飛ぶ」
治道が外に出ようとすると、レイチェルが「治道君、行くの?」とだけ言った。
「流れ弾が飛んで来たら、死ぬだろう? それに俺が無理しないとさ?」
そう言って、治道は外へと走り出していった。
「治道君!」
レイチェルがそう言うと、治道は振り返る。
「まだ、謝っていないんだから、帰って来てね?」
「行ってくるよ」
すると、神戸の住宅街にあるセーフハウスの周りは火災が起きていた。
最低の野郎どもだな?
人権重視とか言っておいて?
「フェンリル・・・・・・行くぞ」
「治道、私たちがお前を利用しようとしていたのを知っていて、そう言うのか?」
「償いは今、一緒に戦う事だ」
「分かった・・・・・・行くぞ」
「装着!」
治道がそう言うと、白色の閃光が体を包み、燃え盛る住宅街に白色の姿を現した。
そして、そこに米軍製と思われる、ソルブスが現れた。
「特殊部隊用のボーンズか? 気を付けろ、強いぞ?」
「素人だけど、勝っちゃうんだろう? 俺?」
「自尊心の強さだけは凄いな? 行くぞ!」
そうして、火災が起きている住宅街でフェンリルと米軍のソルブスによる戦闘が始まった。
火災で家を失った、子どもたちの泣き声が辺りに響いていた。
6
「ターゲットに砲弾は着弾。引き続き、攻撃を行う」
相川始が着た、ゴウガが重装備の形態で砲弾を発射して、蓮杖と村田と瀬田の三人が着た、モスプレデターと呼ばれる、新型ソルブスでピョンヤン・イェオンダエの保有する韓国製ソルブスのサセウムなどを惨殺し続ける。
「ゴロツキどもが?」
蓮杖はそう言いながら、手持ちのM16A2でサセウムの大軍を惨殺し続ける。
「雑魚どもは俺たちが掃討する。例の狼は米軍に任せろとの事だ」
「俺たちは露払いかよ」
蓮杖と村田がそう言いながら、戦闘を続ける中で、周辺にヘリコプターが飛び始める。
味方機ではないか?
通常、登録されたヘリコプターであれば、自衛隊のレーダーの対象になるが、自衛隊機で無いのにここまで来る時点で、相手は敵だ。
すると、敵ヘリコプターから土色のアンバランスな人型のソルブスが現れた。
「驚いたな? 韓国製最新鋭ソルブスのボグスジャだよ」
「今さらながらですが、韓国政府や軍もあのマフィアに肩入れしていますね? どうします? 殺ります?」
「瀬田、お前は中々の過激派だよ。欧州戦線に俺たちが向かうならば、推薦してもいいぞ?」
「光栄です。軍人として戦場に迎えるのは」
やはり、骨のある奴だ。
俺はこういう奴を待っていた。
そう思う中でボグスジャの大軍が小銃を照射する。
「気を付けて、祐樹君。連中の動きはプロだよ」
ゴウガの自立志向型AIがそう警告を発する。
ゴウガの自立志向型AIは何故か、子どもなのだ。
「旧北朝鮮系の軍人どもか? 骨のある連中続きだな?」
そう言って、蓮杖を始めとする、三人はそれぞれ、バラバラの位置で、遮蔽物に隠れ初めて、銃撃戦に興じ始めた。
白昼の神戸の住宅街が戦場となった瞬間だった。
7
「神戸の住宅街で銃撃戦?」
亜門はメシアからそのような一報を聞いた後に第一小隊の面々と一緒に休憩室にある、テレビを点けた。
すると、ワイドショーで上空から銃撃戦が中継されていた。
「ピョンヤン・イェオンダエか・・・・・・米軍が掃討作戦に出るとは聞いていたが、血生臭いことを」
メシアがそう言うと、広重が「でも、これだけのことやったら、米軍が悪いのが一目瞭然じゃないか?」と言った。
「報道統制という奴さ? 速報で流した情報は後で修正されて、米軍は正義のヒーローで銃撃戦はピョンヤン・イェオンダエが仕掛けたことに塗り替えられる」
「それ、日本でやるの?」
海原がそう言うと、レイザが「日本の大手メディアは裏で政府と繋がっているからねぇ? 反政府的な報道は歴代政権がガス抜きとして黙認している節があるし。もっとも、若い記者とか末端の記者は知らないけど、上に行けば行くほどにマスコミと政府の構図が分かってくるのよ?」とだけ言った。
「実態としてはそういう統制が行われた上での平和なんだよ。日本は? だから、俺たちもこんな活動が出来る」
メシアがそう言うと、第一小隊の面々は沈黙をせざるを得なかった。
すると、そこに富永が走ってやって来た。
「亜門君、津上君! 大至急、隊長室に来て!」
珍しく、息の荒い、富永に面食らった、亜門だが、すぐに応じることにした。
「こんな感じだと、ヘリコプターで現場に急行して、戦闘に混ざれとか言われかねないですね?」
「そんなウィットに富んだ会話している場合じゃないから! 急いで!」
そう言って、亜門と津上は富永に強引に連れ出されて、隊長室へ向かった。
「警視庁のヘリを使うから、至急、神戸へ向かうように」
案の定、予想したとおりに隊長からそう言われた。
「上空から、降下して、ソルブスの飛行能力を使って、そのまま、戦闘に参加ですか・・・・・・自衛隊と米軍が混ざっている中で揉めるんじゃないですか?」
「それはサッチョウが対応するから、とにかく、ヘリを本部に準備しているから、屋上で装着して、そのまま本部のヘリポートに向かってちょうだい」
「えっ? 民間人に写真撮られないですか?」
「正当な作戦行動よ。それにここがISAT庁舎であることは周知の事実。何か、文句ある?」
小野がそう言うと、稲城が「いいから、早く、屋上行って、本部向かえ! 事態は切迫しているんだ!」と怒鳴る。
「了解!」
そう言って、亜門と津上はそのまま屋上へと走り出した。
「稲城の野郎・・・・・・無能なくせに怒鳴りやがって! 偉そうに!」
「津上、走りながらしゃべると、体力持たないよ」
そう言って、二人は屋上へと向かうためにエレベーターを使おうとするが、これが遅いのである。
「何で、こんな時に限って、遅いんだよ・・・・・・」
亜門がそう地団太を踏むと、津上は迷わずに非常階段を使う。
「津上!」
「急げ! ヘリに乗れば、休憩できる!」
渋々、亜門も非常階段を駆け上がる。
六年前の三流大学生だった時に比べれば、多少は鍛えているので、息が上がることは無いが、それにしても全速力で非常階段を駆け上がるのは地獄のような苦しみだった。
そして、屋上へと向かう。
二人とも、まだ戦闘前なのにすでに体力を使い果たしそうだ。
「一場・・・・・・先に行け、本部」
「休みたいからって、そういうの良くないよ・・・・・・装着!」
そうして、亜門の体の周りに赤い閃光が走り、メシアを装着した後にそのまま本部のヘリポート目掛けて、飛行を始めた。
遅れること、十数秒。
下の方では青い閃光が弾け、すぐに津上の着た、レイザがやって来た。
そして、二人は高速で飛行を続け、すぐに警視庁のヘリポートへと到達。
「ご苦労様です!」
二人がそう言うと、地域課のヘリコプター部隊の面々は面を食らった表情を浮かべる。
そして、二人は装着を解除して、ヘリコプターに乗り込む。
「あぁ~! しんどい!」
「これから、戦闘か・・・・・・小野隊長は本当にエグイよな、やることが?」
「あぁ、見えて、正義感は強いんだぞ? 小野は? やることが無茶過ぎるのと正義感の強さが災いして、自衛隊を追い出されたが?」
非難の嵐を抑えきれない、亜門と津上の二人に対して、メシアが釘を刺す。
「いいか? 着いたら、即、降下で戦闘だぞ? 休憩がてら、戦場の地形は理解しておけ!」
メシアとレイザがそう言って、スマートフォンに現場の情報と写真に地形の図を示してくる。
「待て、待て、待て! いつものことだけど、無理やりでハードすぎるだろう!」
「僕ら、生身の人間だから、さすがに連続で詰め込みはきついよ」
亜門と津上がさらに非難をすると「情けない。最近の若者は・・・・・・これだから、戦場を知らないガキは嫌いなんだ」とだけ言う。
「そうねぇ? あなたも人間ならば、十分、オジサンだものね?」
レイザがそう言うと、メシアが「あぁ、お前はババアだ」とだけ言って、一瞬、沈黙が流れる。
「スバル、こいつは後ろから撃ってもいいわよ」
「ちょっと、待て! 今、必死で暗記しているから!」
そう言いながらも、ヘリコプターは離陸を始めて、すぐに警視庁を離れた。
「これ、覚えるの?」
「朝飯前だろう? 準軍事組織ならば、地図は読めて、当たり前だ」
と言っても、それは東京とか限定の話であって・・・・・・
そう思いつつも、亜門は神戸の地形を必死で覚え始めていた。
東京の街並みがどんどんと小さくなっていくのを横目に感じていた。
8
フェンリルはボーンズがカービン銃でくり広げる銃撃を避け続け、接近して、格闘戦に持ち込もうとするが、すぐに弾幕が張られて、後ろに下がることの繰り返しだった。
「素人が? 格闘戦なんて、ナンセンス!」
そう言いながら、小銃を照射し続ける、ボーンズの一機。
フェンリルはひたすら、住宅街を飛行しながら、接近戦に入れる機会を待つ。
どうにか、銃撃の間を突破出来ないか?
「フェンリル、銃撃を避けて、接近戦に持ち込むにはどうすればいい?」
「滑空をしながら、不規則な軌道で銃弾を避けて、攪乱。そしてーー」
そう言いながら、治道はフェンリルを駆って、滑空飛行を続け、銃撃を避け続け、住宅街のブロック塀を足掛かりにスピードに乗って、一気に距離を詰める。
反動でブロック塀は粉みじんになった
「壁を伝って、一気に加速して、自立志向型AI抜きでは、反応できない攻撃を展開。ボーンズは強いが、自立志向型AIが搭載されていないからな?」
「御託は結構!」
そう言って、治道はボーンズの一機の顔面に右ストレートを放つ。
一機は失神して、のびてしまった。
「マジで・・・・・・」
「クレイジーだろう? 戦場で格闘戦なんてさぁ?」
そう言いながら、もう一機のボーンズは拳銃をすぐに構え、発砲するが、それをコンマ一秒で避けると、その手を取り、一本背負い投げでボーンズを投げて、腹を思いっき踏んづける。
「ぐはぁ!」
「・・・・・・本当にこいつら、精鋭なのか?」
「いや、本丸が来ていないな? 来るぞ?」
そこにアメリカ人の若い男と柔道部の顧問だった山井、今はエドワード・ナガタという名前の傭兵がそこにいた。
「カレン、ブラッドリー? 何を遊んでいる」
「野郎! マフィアのくせに米軍に楯突きやがって・・・・・・」
若い男は憤怒をこちらに向けて来るが、ナガタは拍手をしだした。
「素晴らしい。素人なのに米軍の精鋭を半殺しにするなどとは! お前は優秀な生徒だ! どうだ、俺の会社に来ないか? 治道?」
ナガタがそう言うと、治道は「山井先生、何で、アルテミスはあんなことになったんですか?」と聞いた。
「簡単だよ。あの学校は世界の支配者たるピースメーカーの幹部育成校だが、東京校は世界基準で言えば、圧倒的に偏差値が低くてね? 始末を命じられて、あの冴えないガリベンをキメラにして、廃校にした。それだけだよ」
「そんなことの為にみんなは犠牲になったのかよ・・・・・・」
治道は飛行を始め、二人に高速で詰め寄る。
「ぶっ殺す!」
「残念だな? 大尉、戦争を始めるぞ? 装着!」
「米軍の敵が・・・・・・こちらもぶっ殺してやるよ! 装着!」
若い男からは金色の閃光が走り、ナガタの体からは銀色の閃光が走り、スタイリッシュな外見と同時に何かを組み立て始める。
「気を付けろ! ガトリング砲だ!」
次の瞬間にはガトリング砲の掃射を受けるが、それを飛行でかわす。
「どうした、ビーストモードにならないのか?」
「あんたは・・・・・・部活気取りで、こんなことをするのかよ!」
そう言って、治道はガトリング砲の照射を避けるが、後ろから金色のソルブスが西洋の剣で殴り掛かって来る。
それを避ける。
「驚異的!」
「黙れ! アメ公!」
そう言って、格闘戦に持ち込もうとするが、ナガタはセーフハウスの方に向かう。
「あいつ!」
そう言って、ナガタの駆る、アーサーの方へ向かおうとするが、キッドの猛攻が止まらない。
「こういう接近戦はやっぱ、近接戦闘用の武器が一番だよなぁ?」
そう言いながら、迫る若いアメリカ人には応対せずに相手が剣を振り回した後に一気に下へともぐりこみ、そこから右アッパーを放つ。
しかし、若い男はそれを避けて、拳銃を構える。
「はい、残念」
次の瞬間に腹が撃たれた。
「うわ! うぅ!」
治道は上空から、墜落すると、装備は解け、そこにキッドが現れ、足蹴にする。
「情けねぇ! ガキが、図に乗るなよ!」
そう言って、銃口を向けた時だった。
「治道君!」
レイチェルが駆け寄る
「おぉぉう! お久! レイチェル」
「トライアングル大尉。あなたが、戦争をゲーム感覚でしか考えられないのは相変わらずですね?」
「あぁ、天職さ?」
そう言う中でナガタが「バーンズ特務少尉、俺たちに同行すれば、この少年は殺さない」
そう言われた瞬間にレイチェルは「目的は私の抹殺ですか?」と聞いた。
「クローンはたくさんいるんだよ? 治道と純粋に戦いたいから、彼を釣る為に君には囚われの姫になってもらう」
そう言われた、レイチェルは「撤収は?」と聞いた。
「まぁ、上次第だが・・・・・・ちょっと待っていろ、聞いてみるから? ベリーズ少佐!」
ナガタがそうどこかと連絡を取る間にも金色のキッドは治道のフェンリルを足蹴にして、動かせない様にしている。
「あぁ~撃ちてぇなぁ? クソガキの脳髄をグチャグチャにしてぇよ?」
「レイチェルに何をするんだよ!」
「彼女が俺たちに同行すると言っているんだよ。お前の出る幕じゃないんだよ! バァァァカ!」
それを聞いた、治道は怒りをあらわにして、キッドの足を持つと、足関節をとりはじまたが、キッドは飛行をして、それを宙づりにすると住宅街のブロック塀にフェンリルを蹴りつける。
「ぐぅぅ!」
「はぁ・・・・・・嫌だ、嫌だ。ヒロインの窮地に怒り出すとか、少年漫画かよ? マジで殺してぇわ?」
そう言って、治道はそのまま倒れてしまい、装着も解けた。
「レイチェル・・・・・・」
「バーンズ特務少尉。君を回収したら、米軍は撤収するそうだ。おかげで世間がピョンヤン・イェオンダエと教団を敵視する土壌が整い、潰せる口実が出来た。帰るぞ」
ダメだ。
レイチェル。
行っちゃあ、ダメだ。
行ったら、レイチェルが・・・・・・
そう言いながらも、必死で立ち上がろうとすると、キッドの黄金のボディの足が、鎖骨を蹴り上げ、そのまま折れた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
そして、治道の装備が解ける。
「こいつ、殺してぇなぁ?」
「トライアングル大尉。そいつは見逃してやれ。教団とピョンヤン・イェオンダエを抹殺する口実が出来たからな? そいつはどっちみち、世界を敵に回すし、破滅する」
痛みに悶える中で、ヘリコプターの羽音が聞こえ、上空から赤と青の閃光が走る。
「全軍撤収だ! 後は警察に任せればいい!」
そう言って、ナガタのアーサーとトライアングルと呼ばれた、男の着る、キッドがそのまま撤収を始める。
レイチェルはナガタに抱きかかえられる形で住宅街を去っていく。
「レイチェル・・・・・・レイチェル・・・・・・」
「李治道だな?」
青色のソルブスから声が聞こえる。
「殺人と公務執行妨害の容疑で逮捕する。時刻は?」
「午後六時五七分。確保」
そう言って、赤と青のソルブスの二人は装着を解くと同時に手錠を治道にかけた。
「こんな子どもが大阪府警のISATを全滅させたのか?」
「どんな理由があれど、尋問はさせてもらうよ? 分かっているね?」
二人がそう言うが、鎖骨が砕けた、痛みから、何も考えられず、ただ、頭がぼんやりとしていた。
住宅街の燃える匂いと炎の熱さが肌に嗅覚と肌にこびりつきそうだった。
ヘリの羽音もそこに加わり、聴覚も支配していたが、すぐに治道の意識は闇に落ちたのであった。
そして、兵庫県警が辺りを包囲し、米軍は撤収を始める中で、家と家族を失った、人々と子どもたちの断末魔の叫びが住宅街にこだましていた。
続く。
次回、機動特殊部隊ソルブスウルフ。
最終話 混沌への開戦
少年が少女を救済する時、新たなる混沌の戦端が開かれる。