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第四話 ビーストモード

 秋の夜長にお付き合い願い、ありがとうございます。


 段々、PV数が増えてきて、ポイントも奪取したので、今年の阪神タイガース並みにギリギリでクライマックスシリーズ行けるぐらいに頑張ります。


 尚、私は阪神ファンではありません。


 悪しからず。


 今夜もよろしくお願い致します!




「大阪府警がピョンヤン・イェオンダエのアジトを強襲?」


 ブリーフィングルームにそのような一報が入って来た時には隊長の小野澄子は怒り心頭と言っていい表情になり、副隊長の夏目と稲城も驚きを隠せずに隊員達はどよめきに包まれていた。


「私に一報を入れないなんて、府警は随分とふざけた真似をしてくれるわね?」


「そうは言われましても、府警のISATも独立した権限を持つ部隊ですし、大体が我々だって、勝手に出動したりとかあるじゃないですか・・・・・・」


 庶務の富永楓警部補が小麦色の肌に不安げな表情を見せながら、そう言うと、小野は「それは私たちが東京にいるから、サッチョウのフォローを受けやすいという側面があるのよ! それを勝手にあの、こてこての関西人の隊長が点数稼ぎで勝手なことをやって!」と怒鳴りつける。


 小野がそう怒り出す中で、第一小隊長の出口が「府警ISATの小倉隊長の東京嫌いがここまでひどいとはなぁ・・・・・・」と不安げな表情を浮かべる。


「確か、小倉隊長って、大阪府警一筋のノンキャリで、警視長にまでなったたたき上げですよね?」


 亜門がそう言うと、出口は「ノンキャリでそこまで行くのは凄いけど、やしきたかじん並みに東京嫌いだから、うちとの合同訓練の時は本気で潰しにかかりに来たからな・・・・・・神奈川県警ISATの方がまだ、友好的だよ」と言いながら、資料をぱらぱらとめくる。


「やしきたかじんって誰ですか?」


「俺も詳しくは知らんが、昔の大阪を代表する芸能人で東京が大嫌いで有名だったらしい。俺も爺ちゃんから聞いたんだよ?」


「そうですよね・・・・・・出口小隊長も何気に三〇代だから、ジェネレーションギャップも僕とちょっと、ズレるぐらいですものねぇ」


「お前や他の隊員と話していても、時々、自分が年寄りなんだなと感じることがあるよ」


 まぁ、そんな世代間の話はどうでもいいのだが・・・・・・


 問題は大阪府警の独断行動だ。


 本来、警視庁と他の地方警察の間、捜査部門はとにかく、ビにおいてははドラマで描かれるような現場間のいざこざは無いに等しいと言うのが、現状だ。


 そもそも論として、抱えている管轄が違うのと、住む世界がパラレルワールド並みに違うと言う意識もあるが、ともかく、驚くほどにいざこざは無い。


 しかし、府警ISATの小倉隊長は個人的に大の東京嫌いの為、サッチョウでも扱いにくい人物であると言われているのは事実だ。


 それに元々が生粋の警察官なので、自衛隊出身の小野を外様と言って、憚らないのは自分たち、警視庁の面々としては見ていて、あまり、気持ちのいい物ではなかった。


「向こうは純警察組織で構成された、ISATだからな・・・・・・それよりも何故、府警がピョンヤン・イェオンダエの動向を知れたかだよな?」


 津上がそう言うと、亜門は「メシア、レイザ、調べられるかい?」とだけ聞いた。


「お上も俺たちの動きを最大限注視しているから、難しいぞ。隊長殿はJCIAと接触をしているらしいし、どうやら、今回、一連の事件はアメリカの陰謀が絡んでいるそうじゃないか?」


 先ほどまで続いていた、ブリーフィングでは、ハムが内偵をするほどに危険と言われる、旧北朝鮮系マフィアのピョンヤン・イェオンダエの戦闘員とおぼしき人物たちが、アメリカの外交官を襲撃して、その内の二人を拉致したという一報が出たが、詳細を追うと、それがアルテミス学園での事件での関係者である、高校生二人であると知り、すぐにⅠSAT各員とSATにハムがピョンヤン・イェオンダエの事務所を強襲したが、すでにもぬけの空になっており、足取りは不明で、公安外事三課が追跡を始めていると聞いてはいた。


 でも、ここまで早くに連中の潜伏先が分かるなんて・・・・・・・


 いくら、なんでも、事が上手く行きすぎじゃないか?


「恐らく、ピョンヤン・イェオンダエ内に内通者がいたんだろうな。もっとも、首領格で自身を大佐と呼ばせている、李民智がそれに気づかないとは思えないが?」


「随分とそいつを高く評価しているじゃないか? メシア?」


 広重がそう言うと、メシアは「世渡りが上手いんだよ。連中は在日ネットワークと世界最大の新興宗教団体である、地球友愛教の庇護の下で、犯罪行為を続けている。意外と多いからな。企業や市民団体に与野党の政治家にも現在の南北統一された韓国系のシンパが多くいる。それをバックに裏で、シノギを数々と行い、ヤクザともつるむ。そして、軍人どもの集まりでソルブスまで保有するほどの軍事力を持ち、商才にも長ける。底冷えのする悪党どもの集まりじゃないか?」と楽しそうに語る。


 地球友愛教は霊感商法などで信者から、金を巻き上げて、私腹を肥やす、宗教の名を借りた詐欺師の集団とも言われているが、信者たちを中心とした組織力と反共の方針から、保守派与党の自明党政権とは切っても、切り離せない関係と言われて久しい。


 アメリカにも保守派において、その影響力は大きいと言われていて、今では日本よりもアメリカの方が影響力は激しいとされているが、日本においては時の首相が暗殺された事件をきっかけに地球友愛教に対する、反発心が生まれ、自明党は手を切ると宣言していた。


 しかし、実態としては未だに付き合いがあるというのが現状だ。


 だが、国民の多くは政権交代により、世の中が大きく変わる事のリスクの方が大きいと判断していて、未だに政権交代が起きないというのも事実であると、亜門はメシアから聞かされていた。


「随分と楽しそうだな? メシア」


「光栄なことだよ。本物の悪党と戦えるのだから? だが、問題はアメリカの関与だな。まぁ、今は隊長殿が激怒しているのが喫緊の課題だが?」


 メシアがそう言った後に小野を見ると「本部へ向かいます! 夏目副隊長はヘリコプターで大阪府警本部まで行って、厳重に抗議するように!」と言って、部屋を出ようとした。


「待ってください! ヘリで大阪まで行って、抗議ですか?」


 稲城がヒステリーにも似た、声音を上げる。


「そうよ。夏目副隊長は関西にパイプがあるし、ハートも強い。一人でも大丈夫でしょう」


「隊長、さすがに夏目一人ではーー」


「行きましょう」


 行くんかい。


 さすが、強心臓の夏目副隊長。


「というワケで、私と夏目副隊長は本部へ向かいます。稲城副隊長の指示で動くように」


 それを聞いた瞬間に隊員たちが騒めく。


 最悪だ・・・・・・


 チキン野郎の指揮下に一時的とは言え、入るなんて。


「とにかく、全員、首都の守りは怠るな! 隊長が本部で府警と連絡を取れば、俺の指揮は解除される」


 そうですよね?


 そうであって、欲しいですよ。


 チキン副隊長。


「一旦、解散にしよう。今日はみんな、泊りだから、帰るなよ」


 全員が庁舎に残るか・・・・・・


 久々に危ない時間帯だな?


「解散!」


 そう言って、隊員たちが立ち上がり、皆が皆、ブリーフィングルームから消えていく。


「庶務の富永警部補に鍋作ってもらおうかな?」


 亜門がそう言うと「富永主任は結構、忙しいと思うぞ? 暇なときは俺たとに鍋作ってくれたけど?」と出口が面倒くさそうにあくびする。


 すると、後ろから富永が「亜門君? たまには恋人にやっているみたいに料理作ったら?」と言いながら、やって来た。


「富永主任の鍋が食べたいんです!」


「俺もです!」


「あんたたち、富永主任はお母さんじゃないからね?」


 亜門と津上と海原がそう言うと、富永は「他の小隊の面々には内緒だけど、後で、チゲ鍋でも作るよ」と言って、ウィンクした。


「うぉぉぉぉぉぉ! 富永主任は女神です!」


 津上がそう言うと、富永が「亜門君は手伝うよね?」と言ってきた。


「えっ? 僕は待機任務がーー」


「手伝うよね?」


 富永の無言の圧が亜門を襲う。


「・・・・・・はい」


「じゃっ、庶務の仕事終わったら、持ってくるね?」


 そう言って、亜門は富永に引きずられるようにブリーフィングルームを去る。


「亜門君の分もしっかり休んでおくよ」


「あぁ~、僕の休みが・・・・・・」


「大丈夫、大丈夫、庶務の皆で手伝うから?」


 そう言って、亜門を引きずる富永の周りでは庶務や整備班に隊員達が慌ただしく駆け巡る。


 こんな状況でチゲ鍋なんて、作れないだろう?


 時刻は午後十時三十四分。


 緊張感と夜食を食べたい気分がないまぜになっていた。



 治道はフェンリルを駆って、大阪府警が扱っているソルブスを投げ飛ばし続けていた。


「こいつら、警視庁のソルブスと違って、性能が・・・・・・」


「ガーディアンセカンドか? 警視庁は一世代最新型のガーディアンサードを使っているが、そこが警視庁の優遇ぶりを表しているな? それよりも、少年、気になることは無いか?」


 後方ではピョンヤン・イェオンダエが保有する、韓国製ソルブスのアグモングが射撃をして、府警のソルブスを射殺し続け、格闘戦に特化した同国製のソルブスのサセウムがガーディアンセカンドの胴体を切り裂く。


「本気で戦っていない。東京の連中は本気で殺しにかかって来るって聞いたのに、こいつらは・・・・・・」


「生け捕りにするつもりなんだろうな? 警察は本来そうあるべきだろうが、武装したテロリスト相手にそんな道理が通じるわけがーー」


 そう言った瞬間だった。


「少年! 上だ!」


 上空から飛行したソルブスが日本刀を振りかざして、こちらに飛びかかって来た。


「メェェェェェェェェン!」


 治道はすんでのところでよける。


「剣道か・・・・・・」


「よく分かるな?」


「柔道部は剣道部とご近所同士なのが相場なんだよ」


「お前、その動き、柔道やろ?」


 そう言って、日本刀を持ったソルブスは治道に話しかける。


「投降せいや? ワシらは警察や? 東京の連中みたいに軍事作戦言うて、パンスカと人を殺したくない。大阪は義理と人情を大事にするからなぁ?」


「ここ、京都なんだけど?」


 そう言って、治道は日本刀を持ったソルブスに突進して、右ストレートを放つ。


 顔面にクリーンヒットした。


「見事なパンチやな? だが、お前、警察官殴ったから、公妨でパクるのは確定や?」


 そう言って、日本刀を持ったソルブスは「ドォォォォォ!」と言って、治道の溝内を切りつけようとするが、治道はすぐに地面に伏せて、それを避ける。


「なんやと?」


「攻撃の時にいちいち声を上げていたら、分かっちゃうよ。オジサン?」


 そう言って、治道はカニばさみを行い、日本刀を持ったソルブスを引き倒す。


「お前・・・・・・汚いで!」


「犯罪者がフェアプレーを守ると思う?」


 そう言って、治道はマウントを取り、延々と顔面を殴り続ける。


「ぐはぁ!」


「こいつ、どっかで見たことあるな?」


「警視庁で装備されている、レイザの簡易量産型のレイザダガーだ。オリジナルと違って、自立志向型AIが搭載されていない」


「てことは弱いってわけか?」


 そう言って、治道はそのレイザダガーをマウントから殴り続ける。


「お前ぇぇぇぇ!」


 骨が砕ける音が聞こえる。


 恐らく、顔面は骨折しただろう。


「少年、結構、ひどいことするな?」


「俺、警察嫌いだし、第一、こういう正義感押し売りする奴はもっと嫌いだもの?」


 そう言って、レイザダガーの顔面をぼこぼこになぐり続けるが、治道は背後に銃口を突き付けられるのを感じた。


「動くなよ。お前を逮捕する」


 しかし、その瞬間をアグモングの銃撃が治道の背後に回った、ガーディアンセカンドを襲った。


 ガーディアンセカンドは絶命した。


「治道君!」


 ジョンソンが救援に向かう。


「ジョンソンさん! 助かりました」


「早く、脱出しよう! 指揮官が無能だから良いが、こんな数じゃあーー」


 すると、次の瞬間にジョンソンが銃撃され、脳みそが弾け飛んだ。


「ジョンソンさん! ジョンソン!」


 治道がジョンソンの亡骸にすり寄ろうとした時だった、


「治道、そういう時に仲間の亡骸にすり寄ると、巻き添えを食らうぞ?」


 そう言った後に治道は何者かにレバーを蹴られることになった。


「グゥ!」


「治道、試合中は油断するなと言っただろう?」


 この声・・・・・・


 いつも、論して、人を納得させるだけの説得力と情熱を持って、部員に相対していた、あの人の声だ・・・・・・


 でも、こんなに冷たい感覚は初めてだ。


「山井先生?」


「正解だよ? 治道?」


 そう言って、治道の肩の肩甲骨付近を足で抑えた、そのソルブスは銀色のスタイリッシュな風貌だった。


「大尉、この少年はいかほどにしますか?」


「フェンリルは確保したいが、中身は殺しても構わないな。こちらで処理するよ、アーサー」


 まさか、山井先生が着ているソルブスって・・・・・・


「自立志向型AI搭載型の米軍の最新鋭ソルブス、アーサーを着るとはな。ジーク・フリート・セキュリティのエドワード・ナガタの噂を聞いていたが、ここまで残虐とはな?」


 フェンリルがそう言うと、山井であった、存在のナガタが「一生徒を殺すのは、忍びないがね? ただ、府警との関係があるから、生け捕りもつまらないが・・・・・・そこののびている、お巡りにでも、献上するか?」と軽い口調で言い放つ。


 すると、そこにアグモングの銃撃とサセウムの加勢が入る。


「治道君!」


「野郎! 俺たちの跡取りに何する!」


「使えない連中どもめ。俺が相手してやるよ」


 そう言った、ナガタは「治道、これは授業だ。警察を殺せ」とだけ言って、アグモングとサセウムと交戦に入る。


「山井先生! 何で、こんなところにいるんですか!」


「俺がアメリカ政府に雇われているからさ? とりあえず、宿題をやれ」


「そんな・・・・・・山井先生!」


 すると次の瞬間だった。


 治道は足を撃たれた。


「ウッ!」


「足、貫通したで!」


「よし、捕獲や! あの傭兵さんが来る前に一機だけでも、捕獲せなあかん!」


 こんなところで・・・・・・俺は警察に捕まるのか?


 レイチェル、みんな・・・・・・ごめん。


 自信の命運が尽きると感じていたその時だった。


「治道、ビーストモードを使うか?」


 フェンリルが初めて、自分の名前を呼んだ。


「ビーストモード?」


 何を言っているのかが分からなかった。


 しかし、フェンリルは冷静だった。


「簡単に言えば、五分間だけ、リミッターを外した状態で、筋力、スピードなどの能力が上がるが、代償として、終わった後に生きている保証は無い。何よりも・・・・・・」


「何だよ、何が問題なんだよ?」


 治道は痛みで意識が混濁する中で、フェンリルに問う。


「理性を失う。その結果、味方は守れても、多くの人々が死に、お前は一時的とは言え、人でなくなり、大罪を犯す。その覚悟はあるか? それともこの場で全てを終えるか?」


 何を言っているのかが分からなかった。


 だが、この瞬間にも仲間たちが窮地に陥っているのだ。


「フェンリル・・・・・・」


「やるのか?」


「やらせろ、こいつら、ぶっ殺してやる」


 そう言って、治道は銃弾の貫通した右足を引きずりながら、立ち上がった。


 治道の周囲には大阪府警のガーディアンセカンドが囲んでいた。


「さて、お前、逮捕や?」


「意外とあっけないな? こいつ米軍のーー」


 そう警察官が話している最中だった。


「言え! 治道! リミッター解除! ビーストモード起動と!」


「リミッター解除! ビーストモード起動!」


 そう言うと、フェンリルで見えるCG補正された、画面にノイズが走る。


 すると、体中に激痛が走り、フェンリルの白いフォルムから、装甲が外される。


「何や・・・・・・こいつ、装甲が取れた?」


「これ、筋肉が丸出しやないか?」


 府警のソルブスが驚く中で、先ほどのレイザダガーが「人工筋肉言う奴やな。まさか、それをむき出しにしてーー」と言った瞬間だった。


 その時、以降は治道の意識はマシンにのっとられていた。


 次の瞬間には一体のガーディアンセカンドの顔面がつぶされていた。


「山田!」


「何や、こいつ・・・・・・いきなりーー」


 そして、今度は心臓を抉り出す。


「グルルルルゥ!」


「こいつ、おかしくなったんか?」


 もはや、治道の意識は介在せずに治道の体を媒体としたオオカミをかたどった怪物が月夜の下で目覚めた。


「ウォォォォォ!」


 フェンリルが動きを始めた瞬間に再び、警察官の肺が貫かれた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「何や、こいつ! キメラやないか!」


「こいつ・・・・・・まさか・・・・・・」


 隊員の一人が気づいた。


「ソルブスにキメラの要素を科学的に入れ込んどるんか?」


 そう冷静に分析する中でも、次々と警察官たちが惨殺され、残ったのはレイザダガーだけだった。


「こいつ・・・・・・全員、殺しおった! 隊長! 隊長!」


 レイザダガーは誰かと通信をしているようだった。


「隊長、こいつ、今までにない、ソルブスですわ!」


 やり取りは続くが、その様子は治道にはまるで聞こえていなかった。


「えっ? ここまで来て、逃げろってどないなーー」


 次の瞬間だった。


 フェンリルはレイザダガーに一瞬で近づくと、日本刀を折り、右手を掴みと一気に引っこ抜いた。


「うわぁぁぁぁぁぁ! 腕がぁぁぁぁぁぁ!」


「アァァァァァ!」


 倒れたレイザダガーの足をフェンリルは取ると、それも引っこ抜き、そこから胴体に手をかけ、体を貫き、内臓という内臓を抉り出していた。


 もう、その瞬間にはレイザダガーの装着者は明らかに絶命していた。


 レイザダガーの頭部に装備された通信機器も次の瞬間には踏みつぶされて、頭部は砕け、脳みそまみれになっていた。


「うぉぉぉぉぉぉ!」


 月夜の下で惨殺が行われ、大阪府警ISATが全滅をした瞬間だった。



「清田ぁぁぁぁ!」


 小倉の絶叫がトレーラーの中に響く。


「嘘やろう! 何で、あいつがあんな殺され方せなあかんねん! あいつ、まだ若いやん!」


 小倉が大粒の涙を流しながら、そう言うと、警備部長の近藤は「小倉・・・・・・」と声を掛けることが出来なかった。


「部長、隊長。サッチョウからテレビ電話です」


 とうとう、来たか。


 大阪府警ISATの全滅を招いて、アメリカともやり取りしていたことが果たして、どのように評価されるか?


(警備局長の木村です。今回の貴官らの独断専行はどういう経緯があったのかを聞きたくて、こういう形で話をしている次第です)


 サッチョウの警備局長の木村がそう言うと、小倉は怒りを声音に滲ませながら「東京の部隊は散々ぱら、好き放題やっているやないですか!」と言い放つ。


(小倉隊長。君の大阪府警一筋のノンキャリアで警視長にまでなった、努力は認めるが、警視庁の保有するISATが超法規的活動を行えるのは、位置関係的にサッチョウが近いこととタカ派政治家の庇護の下で動けるからだよ。テロ対策という形で大阪府警にもISATを設置したが、やはり、準軍事組織の指揮官にはたたき上げの警察官ではだめかもしれないな?)


「待ってくださいよ! 準軍事組織って何なんです! うちらは警察やないですか!」


 それを聞いた、木村は冷徹な声音で(時代遅れのサッカンが。ISATは自衛隊が出動出来ない場合のソルブス犯罪に備えた、警察内の準軍事組織だ。君が好きな義理と人情などは軍事作戦には不要だ。よって、言いたいことは一つ)と言って、一拍を入れる。


(辞職してもらいたい。君は軍事指揮官としては無能だ。そこにいる近藤君も同様だが、良いね? ただし、聴取でサッチョウから要員を送る。それまでは官房付という形で残ってもらうが、どういう経緯でアメリカと接触したかも全て、話してもらうよ?)


 それを聞いた瞬間にトレーラーの中には沈黙が走る。


(まぁ、君の経歴ならば、ビルの警備員ぐらいは雇って貰えるだろう? 府警本部に警視庁の夏目副隊長が抗議に来るから、よろしく。まぁ、もう、君には関係の無いことだがね?)


 そう言った、木村のテレビ電話は一方的に切れた。


「これが、連中のやり方なんですかぁ!」


 小倉がそう言うと、近藤は「・・・・・・俺たちの負けだよ。現に部隊は全滅だ」とだけ言わざるを得なかった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 小倉が年甲斐もなく、ただ、泣き叫ぶ様子がトレーラーに響いていた。



 アーサーを着た、山井ことナガタはピョンヤン・イェオンダエの若いメンバー達を惨殺した後で、ビーストモードを解き放った、フェンリルの下へと向かった。


「警察官を殺して、満足か? 治道?」


「ぐぅぅぅぅぅぅぅ!」


「強制的に精神と肉体のリミッターを解除する悪魔のシステムである、ビーストモードか? 科学的に作られた、メカキメラとも呼ばれるが、その代償として、倫理的思考が使えずに戦場で暴走をしかねない、諸刃の剣」


「うぅぅぅぅ!」


「そんな説明するだけでヤバい、システムを使って、人で無くなったか? だが、もう五分だ」


 すると、フェンリルの外れた装甲が自動的に戻り、元の白いフォルムのソルブスに戻ると「タイムアウト」と言う電子音が聞こえた。


 そして、治道の装着は解けて、そのまま倒れてしまった。


「はぁー! はぁー! はぁぁぁぁぁ!」


「過呼吸を起こしているか? だが、驚いたな。あんなおぞましいシステムを使えば、精神と筋肉のリミッターが戻らずに最後は死ぬのだが・・・・・・死んでいない? お前、もしかして・・・・・・」


 まさかな?


 あの存在は今までの前例ではデザイナーベイビーでしか、現れなかった。


 もし、治道がそのような存在ならば、人類史上初の存在となるが、今はそんな感傷に浸っている時ではないのをナガタは知覚していた。


「治道、苦しいところ、悪いが、フェンリルドライブを渡せ。そうすれば、お前を殺さない」


 治道は「はぁ! はぁ! ひぃ!」と過呼吸を続ける。


「治道はもう私の相棒だ。私は米軍には戻らない」


「フェンリル。君の意識を修正することも出来るんだぞ? 口の利き方に気を付けろ? アーサーに比べて、お前は生意気だ」


「そんな玉無しAIと一緒にされても困るな?」


 フェンリルがそう言うと、ナガタは「アーサー? どう思う」とだけ言った。


「何とも思いません。大尉の思うままに」


「そうか、治道は惜しい生徒なんだがな?」


 そう言って、治道に手をかけようとした時だった。


 上空からボグスジャ一機が現れると、瞬間的に治道を連れ去り、そのまま、上空へと消えて行った。


「李民智か? あの歳でソルブスを巧みに操っていやがる」


「大尉、追跡を行えば、彼らを殲滅できます」


 アーサーがそう言うが、ナガタは「止めておこう。米軍が日本国内で展開する理由も作れた。ミッションコンプリートだよ。深追いは禁物さ?」と言って、装備を解いた。


 そして、タバコを吸う。


「キム中尉は迎えに来るか?」


「忙しい方ですし、あの方はナガタ大尉を嫌っています」


「あの子ほどに良い子はいないのだがな?」


 そう言って、ナガタは焼け野原となった、京都の右京区の住宅街で、タバコを吸い続ける。


「行こうか? 迎えはどこに来る?」


「京都府警は押さえているから、捜査はされないと思いますが、市街地は行きますか?」


「観光かい? アーサーが冗談を言うとは思わなかったよ」


 そう言って、ナガタは右京区の住宅街をひたすら歩き続けるが、そこに一台のバンが現れた。


「エドワード・ナガタ元大尉だな?」


 後部座席に乗っているのはハリー・ベリーズ少佐だった。


 欧州送りになった、ジェイコブスの後任のCIAの少佐殿か?


「何だよ、男かよ? キム中尉は?」


「苦情が来た。彼女はもう君とは組みたくないと言っている」


「本当かい? 彼女もまんざらではなかったぜ?」


「仕事だからだよ。君がいくら、高額で雇われていると言っても、アメリカではセクハラになる。だから、私の指揮下に君を直接入れる」


「ジェネシス・フォースか?」


「そうだ、米海兵隊最強のソルブス部隊が欧州からやって来る」


 そう言う、ベリーズは不敵な笑みを浮かべていた。


「あんた・・・・・・」


「・・・・・・何だ?」


「モテないだろう?」


 それを聞いた、ベリーズは左手の薬指を見せる。


「あら、物好きがいたものだ?」


「言葉に気を付けろ。前任者が異常なプレイボーイだっただけだ」


「少佐の奥さんは良い人だ」


「殺すぞ。私は妻を愛しているがな」


 そう言われながら、ナガタはバンへと乗り込んだ。


「山を焼く奴を再現したな?」


「大文字焼きか? あれは伝統に基づいた行為だが、貴様はそれを冒涜するか?」


 ベリーズの厳しい目線が飛び交う中でナガタは「あんたとはやりにきいよ? ちなみに京都の地元では大文字焼きでは無く、五山の送り火と言わないと怒られるらしい。祖先を送る、盂蘭盆のしめくくりだからだそうだ。もっとも、俺たち、アメリカ人は京都の連中からしたら、よそさんと言われる外様だがな?」とだけ言った。


「とぼけたふりをして、私以上に京都に詳しいのが腹が立つな?」


 時刻は午前二時を超えようとしていた。



 京都での騒動から数日、大阪から戻って来た、夏目を加えて、小野は警視庁警備部長の本田と相対していた。


「大阪府警のISATにアメリカから雇われたという傭兵が情報を渡して、ピョンヤン・イェオンダエを強襲したらしい。尚、これは大阪府警のビと府警ISATの単独行動で、本部長の家永は知らなかったらしい」


 本田は苦々しい表情で、資料を机に投げ飛ばす。


「アメリカが何故、サッチョウを通さずに大阪府警に直接、情報を手渡したのでしょうか?」


「さぁな? 官邸の方もだんまりだ。おそらく、アメリカは何か、恐ろしいことを考えているようだが、ハムとも連携が取れないのだから、我々は何も情報を得られんよ?」


「夏目、小倉は何か、言っていなかった?」


「小野隊長と警視庁への恨み言をただ、壊れたように言い続けているだけでした。近藤府警警備部長もアメリカ関連の話には、かなり口数が少なくなります。要するに府警ISATが我々の真似事で、独自行動を取ったものだと思われます」


「・・・・・・本格的に小野のような人材を地方に配置しなければならないか?」


 本田は頭を抱えていた。


「神奈川県警ISATの井辺隊長は優秀ではありますが?」


「井辺君は東大卒のサッチョウの若きホープと言われ、将来の総監、長官候補と言われる逸材だからな? 県警のISATは腰掛けだよ。君は旧ソルブスユニット創設時からの功労者で、その為に雇われた存在だが、今回の一件で分かったのは軍事知識がある人間でなければ、ISATの隊長が勤まらん事だ」


「まぁ、大阪府警は優秀な組織ですが、隊長の人選を決めた上層部の目に問題があったと言う事ですね? かといって、外部から隊長を雇うとなると、値段が高いでしょう?」


 小野がそう言うと、本田は「脇坂内閣が予算を下ろさないが、地方のISATの人材難は痛いな? 全て、統合して、君らが遠征した方が早いかもな?」と苦笑いをした。


「それは隊員たちの負担になるんじゃないですか?」


 本田は笑い出した。


「今頃、あいつらは鍋でも食っているんだろう?」


「あら、耳が早いですね?」


「本来であれば、あんな学生風情の組織など、嫌いでしょうがないが、日本人離れした功績と知識に実力を兼ね備えた連中だ。あんなクソガキどもに頼らないといけないのが、我々、警視庁の実情だよ」


 本田は頭を抱える。


「地方の人事はどうする? もっとも、それはサッチョウの話だが、全国一体が警備部の方針だ。神経質になるよ」


「心中、お察しいたします」


「君も他人事で捉えないでくれよ。東京にも関係のある出来事なんだぞ?」


 本田はますます、頭を抱える。


「まぁ、アメリカが果たして、何をするかだが、そうすれば、我々、警察の出番がどうなるかだ? 私はそれを危惧している」


 なるほど。


 警備部長は主役交代の危機を懸念しているのか?


 日本国内の治安維持を担うのは警察だけでいい。


 それが日本の警察官僚の偽らざる本音で、自衛隊や海上保安庁にも敵意を燃やす、警察官僚がいるのも事実だ。


 そして、官邸へ出向になれば、秘書官やNSSの局長ポストを巡る争いが防衛省と外務省との間にある。


 これら、相次ぐ、テロ事件を防げず、マル被(警察内部で使われる、容疑者の隠語)を取り逃がし続けて、主役が警察から自衛隊なり、アメリカ軍になれば、警察の信用は国民と官邸からの失墜を招き、何らかの更迭人事が行われる可能性があるのだ。


 そうなれば、自分自身の責任も問われるだろうから、他人事ではいられないだろうな?


 小野は自嘲気味に笑いたい気分になったが、本田の前なので自重した。


「まぁ、我々の人事を巡る事態だ。あのガキどもに鍋食わしている暇があったら、警戒態勢に入るように言い渡せ」


「はっ!」


「陸自式の敬礼はいいから、さっさと、大手町に戻れ。私はこれから忙しい」


 そう言って、本田は手で小野達を払いのけた。


「失礼します」


 そう言って、小野と夏目は警備部長室を出て、秘書室へと向かい、そのまま廊下へと出て行った。


「隊長は本当に爺殺しですね?」


「そうねぇ・・・・・・極端なのよ。私のことを好きになる上司と嫌いになる上司の比率が?」


「小倉からは嫌われていましたが、本田警備部長は相当、小野隊長が好きみたいですからね? それが救いです」


 夏目は「ひっひっひっ」と笑う。


「旦那さんの真似?」


「可愛いんですよ? あの笑い方?」


 どこが・・・・・・


 小野はそう思うと同時に「鍋、残っているかしらね? 私たちは体面的に食べられないけど?」とだけ言った。


「庶務が作る、鍋は絶品ですからね? こっそりと作らせます?」


「ダメよ。庶務の子たちは口が軽いんだから」


 そう言って、小野と夏目の靴の音が廊下に響くが、隊員たちが庶務の作る、鍋を今頃、たんまりと食べ続けているのだと思うと、階級が下であることが若干ではあるが、うらやましいと思う自分がいる事を小野は知覚していた。


 腹が減っていた。



「大阪府警のⅠSATは全滅したらしい」


 小隊長の出口が庶務を総動員して、作らせた、チゲ鍋を頬張り、白米にがっつきながら、日本警察を震撼させた事件について語る。


「相変わらず、庶務の作る、鍋シリーズは絶品ですけど、その絶品料理を食べていて、話すような話題ではないですね?」


 亜門がそう苦言を呈するが、津上と海原はチゲ鍋の豚肉を白米に乗せて、それを頬張る。


 完全な体育会系の食事だ。


「何でも、ピョンヤン・イェオンダエが使っていた、米国製のソルブスがキメラになったという話があるらしい」


「装着者がキメラだったってことですか?」


「知らん。大阪府警のウェアラブルカメラの画像を解析しようにもハムが持てったから、俺たち、ビは蚊帳の外。整備班なんて、その話を聞いて、興味津々でメシアとかにハッキングを依頼したいらしいぜ?」


「おぉぉう! 技術者魂が燃えている!」


 広重が白米のお代わりを取りに行くと、メシアは「断る。俺は整備班が嫌いだ」とだけ言った。


「根岸さんだろう? あの人とお前の不仲ぶりは有名だからな? 旧ソルブスユニット時代から」


「奴が俺に最大限の土下座をして、一生の忠誠を誓うならば、考えてもいい」


「・・・・・・超、人権無視の鬼条件じゃん」


 海原が爆笑しながら、豆腐に手を伸ばす。


「戦場で人権があると思うか?」


「無いな? だから、戦争はダメですよねと言う話ですねぇ」


 海原は自嘲気味に笑う。


 おおよそ、高校時代に長崎の高校生平和大使をやっていたとは思えない、発言とも思えるが、年月がそうさせたのか、警視庁内での冷遇が彼女をここまで、歪ませたのかは分からないが、亜門は今、現時点での海原しか知らないから、彼女が過去に反核運動に参加していたイメージを抱けない。


 別に海原が平和を訴えて、正義感の強さから、警視庁入庁を志したのは分からなくないが、高校生平和大使は社会主義も含めた、主義主張を問わずに反核を訴える、平和的な運動であると言う部分に警視庁は問題意識を抱いたのかもなぁ・・・・・・


 主義、主張を問わないってことは警察と敵対する勢力ともつるむって事だから、警視庁の偉い人からすれば、眉を顰められるよな?


 まぁ、優秀だし、それだけで入庁拒否はいろいろと問題あるから、入庁後に徹底的に干すという形を取ったところをジンイチの進藤係長がISATに送り込んだ経緯があるが・・・・・・


 海原が反核運動ね?


 今の様子だと考えられないな?


 亜門はそう思いながら、鍋に入っている牡蠣に頬張る。


「亜門、牡蠣は気を付けろよ。待機任務中に食あたりを起こしたら、鍋、食っていることがバレるからな?」


「生ではないからなぁ・・・・・・」


 と、そこに第二小隊隊長の磐木と第三小隊隊長の浜口がやって来る。


「第一小隊は随分と良いもん食っているじゃねぇかよ?」


「こっちはカップ麺だぞ? 俺らにもよこせ」


 それを聞いた、出口が「庶務の富永主任にお願いすればいいだろう?」とだけ言った。


「富永主任は高値の花だから、話しかけずらい!」


「そうだ! ISATの全男子隊員は富永主任のことを女神だと思っている!」


「よって、お前ら、第一小隊は堂々と富永主任と会話できるなどとは・・・・・・許せねぇ!」


 磐木と浜口がそう言うと、後ろから第二小隊と第三小隊の面々もやって来る。


「リンチかい?」


「第一小隊がそこまで、富永主任から寵愛を受けている、要因は奴しかない!」


「一場ぁ・・・・・・第二小隊と第三小隊は全力でお前を暴行する!」


 第二小隊と第三小隊の面々が拳をこきりと鳴らす。


「何で、そうなるんですか・・・・・・」


 亜門が頭を抱えると二人の小隊長は「恋人いるのにナチュラルにモテるとか、極刑だ!」や「法が裁けないなら、俺たちが裁く!」と言ってきた。


「・・・・・・責任ある大人の発言ではないな?」


 メシアが鼻で笑いながら、そう言う。


「んだとぉ!」


 その時だった。


「つまらないことで喧嘩をしない!」


 当の富永が庶務の女性警察官や若い男性警察官を従えて、やって来た。


「ちゃんと、みんなの分まで作っているから、亜門君をイジメない!」


「富永。仮にも俺たち、警察学校の同期だろう? 何で、こんな冴えない奴を下の名前で呼ぶんだよ!」


 磐木がそう言うと、富永が「決まっているでしょう? 亜門君が可愛いからよ?」と言って、ウィンクしてきた。


「はぁ?」


「こんな、モブキャラみたいな奴が?」


 そうですよねぇ・・・・・・


 モブキャラみたいに地味ですからね?


 亜門は気にしていることを二人の小隊長に言われたので、憤りを覚えていた。


「そんな事より、隊長が戻って来るらしいよ?」


「マジか! 俺たち、食えねぇじゃん?」


「作り置きしてあるから・・・・・・後で食べればいいじゃん。夏じゃないから痛まないよ?」


 すると、隊員達が「くそぉ~! アツアツの出来立てを食いたかったぁ!」や「生の富永警主任・・・・・・女神だぁ!」などと野太い声を上げる。


 男子校だ・・・・・・・


 もはや、ノリが男子校だ。


 亜門はそれに相対す、富永がまるでジャンヌ・ダルクのように思えた。


「富永・・・・・・恩に着るよ」


「お前は男所帯のISATでは女神でしかない!」


「いいから、早めに戻りな? 待機任務中に鍋食っているとなるとかなり、問題だよ?」


「そいつら、どうする?」


 磐木が鍋に指を指すが、後の残り、三分の一が無くなりかけているタイミングだった。


「いや、もうほぼないじゃん?」


「・・・・・・さすが、精鋭中の精鋭、第一小隊」


「食事の面においても、凄まじいクレージーぶりを発揮する・・・・・・男の鏡だ」


 富永と磐木に浜口がそう言うと、海原が「女いるんですけど? 第一、令和の世の中で男だ、女だとか、禁句ですよ」と苦言を呈しながら、ニラと豚肉を白米に乗せて、頬張る。


「いいから食え! 隊長来ちゃうだろう!」


「富永主任! 白米無くなりました」


「頑張れ~! 後は鍋だけだよ!」


 こいつら・・・・・・


 この光景を見るだけではおおよそ警察官ではない。


「亜門?」


「何だよ、メシア」


「お前が入った頃と比べて、随分と緩くなったな? ここも?」


「規模は小さかったけど、あの時は大人ばかりだったからなぁ・・・・・・今は、学校だよ」


 そう言いながら、亜門は白菜とニラに豚肉を頬張り、スープを飲む。


「亜門、スープは残せ。喉が渇くぞ?」


「このスープは後で卵とじにして、インスタントラーメンを入れようと思ったのに、隊長来ちゃうから、急いで食べないと」


「何・・・・・・美味そうな殺人的な・・・・・・」

 

 磐木と浜口が唾を飲み込む音がこちらまで聞こえる。


 そして、第一小隊の面々は鍋を食べ終える。


「ごちそうさまです!」


「庶務班! 急いで、鍋回収! そして、ばれないように洗浄!」


「富永主任、僕も鍋と食器洗い手伝いますよ?」


 亜門がそう立つと、富永が「あなたたちは戦うのが仕事。私たちはそのバックアップが仕事なのよ? いいから、休んでな?」と言って、亜門に投げキッスする。


「貴様ぁ! 許せん!」


「俺達の富永を恋人がいる身でありながらぁ!」


「何でぇ!」


 大事件が起き続けていて、厳戒態勢の東京において、ここまで男子校的なノリで良いのだろうか?


 亜門はそう思いながら、磐木と浜口を始めとする、第二、第三小隊の面々に睨まれ、怒鳴られ続けていた。


 富永は笑いながら、庶務の班員と共に鍋を片付けていた。


 時刻は午後二時四一分。


 隊長たちがまもなく、戻ってこようとしていた。



 李治道は目覚めると全身の激痛に襲われた。


「気が付いたか?」


 そう言って、氷枕を与えたのは警察のゼロとか言う秘匿部隊からうちに来た、五十嵐と言う男だった。


「・・・・・・五十嵐さんですか?」


「ビーストモードを起動して、生き残るなんてなぁ? バーンズ特務少尉も驚いていたよ」


 点滴をされている様子から、ここは病院なのか?


 いや、病院では足が付くか?


「回復したようだな?」


「周先生、おかげで助かりましたよ」


「君が言うようにその少年はもしかしたらだな? 解剖したいぐらいだ」


「私は構いませんが、彼の父親があなたを殺すかと?」


「冗談だよ。治り次第、すぐに合流だろう? 安静にさせろ」


 そう言って、周と呼ばれた男は奥の方へと消えて行った。


「ここ、どこですか?」


「神戸だ。中華街の裏ルートで中国人の闇医者に君を診てもらった。代金は君の父親が払うそうだ。俺はその護衛だ」


「また、闇勢力か・・・・・・」


 治道は大人しく、安静にすることにした。


 食欲も湧かないので、何もすることがない。


「五十嵐さん、スマホとかは?」


「普通のスマホはアメリカから逆探知されるから、没収だ。君はスマホ依存症か?」


 だろうなぁ・・・・・・


 しかし、ぼんやりとした中で治道は山井がアメリカ軍に雇われていた一件を思い出した。


「・・・・・・」


「何だ?」


「学校の柔道部の顧問の先生がアメリカの傭兵として、雇われていて、俺と戦いました」


「・・・・・・エドワード・ナガタか? 奴は傭兵としては優秀だがな。そんな学校に潜入などとスパイまがいのことまでするか」


「五十嵐さんは何を知っているんですか? 大体、警察からうちに潜入した時点で、大阪府警のISATが来る時点で、五十嵐さんが漏らしたとしかーー」


「日本政府は君らの存在が無ければ、立ち行かんよ。アメリカとの違いはそこにある。俺は君たちを守る為に日本政府から密命を受けて、監視と潜入を行いに来た」


 日本政府が俺たちを守る・・・・・・


 どういうことだ?


「それってーー」


「大人しくしていろ。今、鎮静剤を持ってくる。喋るな。寝ているんだ」


「待って・・・・・・まだ、話が! 俺は人を殺したんですよ! あなたの仲間である警察官も!」


 そう言った瞬間に全身に激痛が走り始めた。


「ぐぅぅ!」


「治道、今は安静にしろ」


 フェンリルがかばうようにそう言う。


「フェンリル。何を知っているんだ? お前が俺たちの側に付くのも一体ーー」


 治道がフェンリルにそう言う中で五十嵐が椅子を取り出し、目の前に座る。


「これは戦争だ。結果的に人を殺してでも自分たちが生き残ることを優先しろ」


「何で、五十嵐さんは平然としていられるんです・・・・・・俺はあなたの仲間を!」


「大阪府警は俺の仲間ではない。第一、ハム、君に分かりやすく、通常の言葉で言えば、いわゆる公安部は公安部以外の警察官を信用していない。君こそ、多くの仲間を殺された。黒幕がいるならば、仲間を殺した奴に対して、報復をしたいと思うのが、人間の普通の情だと思うが?」


「人が死んでいるのに、平然としていられるんですか?」


「警察側の損失は無能な指揮官どもがクビになって、それに付き従う、警察官が死んだだけ。君は学校の仲間や君を慕う、兵士たちが死んだ。異常な事態だが、君とバーンズ特務少尉が生き残る必要がある。人を殺してでも生き延びたいと思わないと死ぬ。これが戦争だと、いい加減に分かれ」


 治道は頭を抱えていた。


 戦争?


 相手は軍隊じゃなくて、警察じゃないか?


 何が戦争だよ!


 結果的に大事な人を守る為とは言え、人を殺したんだ!


 そんなのが許されるわけがない。


 俺は犯罪者なんだ・・・・・・・


 そう、治道が苦悩する間に、五十嵐が注射器を取り出す。


「何を・・・・・・」


「寝ていろ」


 次の瞬間には治道は鎮静剤を打たれて、深い闇に落ちることになった。


 乱暴すぎるだろう。


 治道は意識が朦朧とする中で涙を浮かべ始めていた。


 レイチェル・・・・・・父さん。


 俺はどうすればいいんだ?


 意識が混濁する中でも疑念を抱き続けていた、治道だった。



(Fumihiko? I am disappointed ,To your shallow and sweet ideas?〈文彦? 私は失望しているよ、君たちの浅はかで甘い考えに?〉」


 ギルバートは冷笑を浮かべているだろう、日米テレビ電話会談で見える、声音と態度は怒りと言うよりは何かを楽しんでいるかのように思えた。


(It seems that you were thinking about police-led operations until the end, Will the result be the annihilation of ISAT in Osaka city police? Should we honestly rely on the U.S military〈君は最後まで、警察主導のオペレーションを考えていたらしいが、その結果が、オオサカシティポリスのISAT全滅か? 素直に我々、米軍を頼ればいいものを〉)


「ギル、頼むから、米軍の展開だけは止めてくれないか? 日本の問題は日本で片付ける。だからーー」


(I told you this is a diplomatic issue. You are right. Special Lieutenant Barnes was robbed, and his responsibility to recapture it. And Pyeongyang Yeong Dae is a crisis in the world. That`s what our sponsors say, too? 〈これは外交問題だと言ったはずだ。バーンズ特務少尉が強奪され、その奪還が責務だ。そして、ピョンヤン・イェオンダエはもはや、世界の危機と言っていい存在だ。我々のスポンサーもそう言っているんだよ?〉」


 スポンサーだと・・・・・・


 まさか・・・・・・・


「ピースメーカーか? 奴らがまた、関与しているのか?」


(Thera is no politics in this world where peacemakers are not involved, right? And Pyeongyang Yeong Dae is only a disturbing existence from the new world that they make. Because you are influenced by the rulers of the past world, right? 〈ピースメーカーの関与しない政治などはこの世界には存在しないのだよ? そして、ピョンヤン・イェオンダエは彼等の作る、新世界からすれば、邪魔な存在でしかない。過去の世界の支配者の影響を受けているからな?〉)


 ピョンヤン・イェオンダエの資金源の一つと言われているのが、地球友愛教だが、この数十年での霊感商法などの影響とピースメーカーなどの台頭で、アメリカ国内では聞かなくなって、久しいが、日本国内では未だに保守政治家を中心に力の根源となっている、反社会勢力。


 神格教と比べれば、テロ行為に走っていない分、目立たない存在だが、反社会組織であることには変わりない。


 しかし、その集票能力から、政治家が頼りにする、反共世界の裏の支配者と言ってもいい、存在。


 まさか、アメリカの狙いはーー


(Our goal is to dispose of the suspicious antisocial forces and their executive force, Pyeongyang Yeong Dae, who are hiding. There is no need to show mercy on them when they kidnap Special Lieutenant Barnes. We will send an army and annihilate them.〈我々の目的は君らが匿う、怪しげな反社会勢力とその実行部隊である、ピョンヤン・イェオンダエの処分だ。バーンズ特務少尉を拉致した時点でも奴等には慈悲はかける必要は無い。我々は軍を送り、奴らを殲滅する〉)


「そんな事をすれば、世界のバランスが崩れるぞ! 裏の世界を支配する者同士が戦争をするつもりか?」


 脇坂がそう言うと、ギルバートは高笑いを始めた。


(That`s right. The people who rule the underworld are using us to make proxy war, aren’t they?〈その通りだよ。これは裏社会を支配する者同士が我々を使って、代理戦争を行っているのさ。我々はピースメーカーの側に立って、奴らを消す。君はどちらの側に付くんだ?〉)


 脇坂は考えていた。


 アメリカとの同盟を切るわけにはいかない。


「・・・・・・陸上自衛隊のソルブス歩兵連隊を君ら、米軍の支援に向かわせる」


(That`s a good answer. I was waiting for it. Soon, the army will come to Japan Let`s stop here for today.〈良い返答だ。それを待っていた。すぐに軍を日本に来日させる。今日はここまでにしよう〉)


 そうして、電話は切れた。


「総理・・・・・・本当によろしいのですか?」


「警察を使え」


「しかし、自衛隊まで動かすと・・・・・・・」


「これでは、世界が終わってしまうよ。それを防ぐ可能性があるならば、私は勝負を捨てたくない。警視庁の連中を常時、動かせ!」


 脇坂は怒鳴らざるを得なかった。


 もはや、時間は無い。


 脇坂の顔面は秋、真っ盛りの中で、脂汗に塗れていた。


 この国で、日本で再び、大きく、異質な戦争が起ころうとしていた。


 続く。





 次回、機動特殊部隊ソルブスウルフ


 第五話 星条旗の戦士たち


 星条旗の暗殺者たちが少年に襲い掛かる。


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