昭和二十年 八月九日 実方辰顕 尚顕の子供達
利助と尚顕は帰って行ったが、喜久と五人の子供達は、病院の母屋で暫く寝泊まりする事になった。
辰顕達の日々の生活に、三男二女が加わった。
辰顕は、実方分家の此の五人の子供達と、其れ程面識が無かった。
十歳の賢顕、九歳の伸顕、八歳の顕悟、五歳の弥涼、四歳の弥生。
最早容易には見分けが付かない数の子供達が、家中を大喜びで駆け回っている。
御世話になるのが申し訳ないから、と、尚顕が食料を掻き集めて持って来てくれたのが、土間にドッサリと置いてあった。
明日から毎朝、尚顕が出来るだけ食べ物を運んでくれるらしい。
辰顕と紘は、五人の子供達に囲まれて、誰?誰?と言われた。
―あ、紘の事、教えない方が良いのかな。周ちゃんとか治さん達も。…今更だけど。
しかし、紘は、子供達の目の高さに屈むと、微笑んで、坂元紘です、と言った。
「御母さんの遠い親戚だよ」
―あ、名乗っちゃった。もう良いか。
辰顕も、紘に倣って、屈んで言った。
「実方辰顕だよ。御正月に本家で会った事が有るかな?」
子供達が喜んで、しんせきー、わからない、などと、わいわい言っている。
五人の声が高いので、辰顕は内心耳が痛かったが、耐えた。
其処に貴顕が駆けて来たので、更に大騒ぎになった。
辰顕は、更に耳が痛かった。
「伸ちゃん遊ぼう」
「あ、貴ちゃんだ。何して遊ぶ?」
「賢兄、弥生が転んだわ」
「悟兄が脚を踏んだのよぉ」
貴顕に遅れてトコトコやって来た了が、仲間に入りたいらしく、オロオロしながら六人の様子を見ている。
囲炉裏端にやって来た顕彦が、整列!と言った。
「右から、背の低い順に並べー」
七人の子供が、ササッと一列に並んで、静かになった。
―流石元教員、手慣れている。助かった。
辰顕は、屈んでいた姿勢から立ち上がり、ホッと胸を撫で下ろした。
紘も立ち上がって、クスクス笑って、其の様子を見ていた。
「お?貴と伸は、ちょっとだけ貴の方が、背が高いかな?」
顕彦は、ニコニコしながら、貴顕と伸顕の頭を撫でた。
現状は全く良くなっていないのだが、一時的にでも、子供と食料が増えて、見た目だけでも活気付いた。
忙しそうにしている分には、初も何だか楽しそうに見えた。
喜久達には怪我も無く、全部が未だ悪くなったわけでは無い。
誠吉が明日、如何するのかは分からないが、何かが良い方に変わると良いな、と辰顕は思った。




