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山行かば 『瀬原集落聞書』  作者: 櫨山奈績
第二章 昭和二十年 八月
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昭和二十年 八月四日 実方辰顕 仲間

「さて、締めっぽい話は終わりだ。切り替えていくぞ。紘、頼む」


 陶冶が、まるで自分は湿っぽい話に泣かなかったかの様に、サッパリした口調で、そう言うので、辰顕は、吹き出しかけた。


―治さんも、相当泣いていたけどね?


 紘も、クスクスと笑いながら、はい、と言った。


 今日は綜も居る。


 綜は、周の寝台に、陶冶は紘の寝台に、薫陶は辰顕の寝台に腰掛けている。

 こんな夜に、一人で居る気にはなれない辰顕は、今は皆で、こうしているのが一番落ち着く、と感じた。


 何時(いつ)か皆、辰顕の目の前から居なくなってしまうのだとしても、今此の時は、皆が自分の味方で、自分も皆の味方だった。




 好子が、おやつを作る場面は、皆を喜ばせ、懐かしがらせた。

 吉雄が謝っているのに好子が許さない場面は、皆の笑いを誘った。


 坂元吉雄の残像は健在であった。


 好子の失敗は、時に皆を笑わせ、時に皆を泣かせた。


 手違いで、好子と月子の友情は、月子の母、槍谷夫人によって裂かれてしまうのだ。

 学校で吉雄に会いたくはないが、学校に行かねば月子に会えなくなってしまった好子は、学校に再び登校し始める。


 吉雄の好意が()()ねられ、引き裂かれる程に引き合う月子との友情が深まる度、聴衆は笑い、涙した。


 好子が、月子の妹、皐月の命を救い、槍谷夫人から感謝され、好子と月子の交流を、夫人が認めるところで、本日は終わったが、終わる頃には、清水の双子と周が号泣していた。


 紘は、其れを見て、そんなに気に言ってもらえて良かった、と、また言った。


 綜も、号泣する三人を見て、目をパチクリさせてはいたが、()く出来た話だ、と言った。


 こういう架空の話を、綜は滅多に褒めないので、かなり上級の賛辞だと言えた。


 辰顕は、綜の様子が可笑しくて、クスッと笑った。


 笑って終われたから、辰顕には、今日は良い日になった。

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