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悪役公爵令嬢のご事情  作者: あいえい
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外伝 アナスタージウス・リヒターの事情

外伝その1です。可哀想な彼のことを意外と気に入っているかもしれません。

外伝 アナスタージウス・リヒターの事情



ああ、もう本当にヴァルトハウゼン公爵家には関わりたくない。


しかし、父である猊下のご命令とあっては断ることもできなかった。猊下はヴァルトハウゼン公爵とアヒム・フォン・エルトマン伯爵に、恩義を感じていらっしゃるから致し方ないことだ。それもこれも、身から出た錆だからどうしようもない。

確かに以前の俺は放縦で軽佻浮薄な放蕩者で、才能を笠に着て神官にあるまじき生活を送っていた。猊下が一人息子である俺の席を神殿から外し、還俗させるという苦渋の決断をされたのも、今となってはあまりにも当然の話と納得している。今は心を入れ替えたとはいえ、当時の猊下のご心痛を慮るだけでも心苦しい。

 それなのに俺ときたら、猊下から還俗せよと言われて改心するどころか、ふてくされて酒と女に耽溺して爛れ切った生活に身を落としていたのだ。

ミア

 平民出身でありながら聖女になった彼女と初めて出会ったのも、場末の酒場だった。腕っぷしも強くないのに、俺は数名のチンピラと些細なことで喧嘩沙汰を起こし、酒場の裏に捨てられた。何とか広場まで這いずっていったところで気を失い、早朝、神殿に行く途中のミアに助けられたのだった。

それから彼女のおかげで学園にも復帰して、次第に彼女に惹かれていった。聖女として慣れない貴族の中で必死に頑張る彼女の姿を見て、俺は自分が恥ずかしくなった。彼女は俺の恩人だ。彼女の心が欲しいなどとは言わない。でも、聖女として人々に尽くす彼女の役に立ちたい、そう思うようになった。

ミアやヴォルフガング殿下達の説得もあり、俺は猊下に神殿に席を戻してもらえるよう心から謝罪した。猊下は俺の懇願に初めは懐疑的だった。当然だろう。後で知ったことだが、そんな猊下のお心を変えてくださったのがヴァルトハウゼン公爵だったのだ。猊下の友人でもあるヴァルトハウゼン公爵は、俺に機会を与えてはどうかと猊下を諭してくださった。

後日猊下に呼び出された俺は、見習い神官としてグリゴースへ行くように命じられた。グリゴースでは魔族による被害や、彼らのもたらす疫病が猖獗を極めていた。度重なる派兵にも拘らず、はかばかしい戦果をあげることはできず、多くの軍人が命を散らしていった。そして、数ヶ月前にも王国軍と義勇軍が派遣されたばかりだった。

そんな地に一人息子の俺を派遣させるという猊下の決定に、少なからぬ人間が反対した。しかし、猊下の御心が覆されることはなかった。俺は猊下に認めていただくためにも、グリゴース行きを決意した。ミアには戦地に赴くことを告げることができなかった。

必ず彼女の元に帰ると決意していた俺は、援軍に混じってグリゴースに足を踏み入れた。放蕩者とは言え、神力は並の神官以上の力を持っていた俺は、戦場を甘く見ていたと言わざるを得ない。

グリゴースにはおびただしい数の遺体が散乱して、まさに酸鼻を極めるありさまだった。腕や足を失った神官たちが、止血もそこそこに額に汗を玉にして治療に当たっているという惨状だった。魔族と人間の死体が折り重なるようにしてあちらこちらに倒れ伏し、温暖な気候も相まって、死骸は腐れ爛れ悪臭を放っていた。幕舎の中にも腐臭が流れ込んできたが、もうそんなことを気にする者はただ一人としていなかった。昨日まで隣で寝ていた戦友の死骸が転がる横で、兵士たちは僅かな食料と泥水を漉した水をすすっていた。

増援部隊の若い神官たちはその悍ましさに胃袋の中身をぶちまけた。口の周りを吐物で汚した俺を、総司令官である第2王子殿下は苦笑して出迎えてくださった。殿下は母君の身分が低く、王位継承権を放棄していた。その後、軍人として頭角を現し、グレゴールの戦いにも自ら進んで先陣を踏んだという。

「よく来てくれた。申し訳ないが、体を休めている暇はない。夜が更ければまたぞろ魔物たちが騒ぎ出す。早めに食事を摂り、戦闘に備えるように」

俺ともう一人、殿下の御前に召し出されたのがアヒムだった。殿下は教皇の息子である俺と、ヴァルトハウゼン公爵からの紹介状を持参したアヒムにだけ短く言葉を掛けると、慌ただしく幕舎を後にした。昼間は魔物たちの活動量が落ちるとはいえ、日中も動ける魔物たちもおり、殿下は不休でその対応に追われていた。

 夜の戦闘は凄まじいものだった。俺の任された部隊の半数以上が何らかの怪我を負っており、その傷が癒えるよりも早く新たな傷をこさえている有様だった。

無我夢中で治療に当たって、気づけば朝日が昇っていた。

「第3部隊が全滅した」

 朝日が昇りきった頃、ぞっとするような報告が挙がってきた。殿下の幕下に呼ばれた俺は、伝令のもたらした報告に血の気が引いた。

「なんてことだ」

 誰かがこぼした言葉に、殿下もまた唇をかみしめた。握りしめた拳はプルプルと震えている。臣と水を打ったように静まった幕舎に、場違いなほど冷静な声が響いた。

「どうかご決断を」

 アヒムだった。彼は殿下に次の戦闘では全線力を分散させず、一つにまとめ、魚鱗の陣を敷くように訴えていた。その上で、自分を先頭に立たせるよう冷淡な声で殿下に迫った。

「しかし」

「このまま座して死を待つつもりですか」

 成年をいくつか超えたばかりの無冠の青年の、どこにこのような威を秘めていたのだろうか。どちらかというと俺や神官たちに近い、ひょろりとした体形しか持たない彼に、殿下は圧倒されているように見えた。

「公爵様の文書にも、殿下に責を負わせないと書かれていたはずです」

 それが決定打だった。殿下はがっくりうなだれると、アヒムの言うとうりにせよと軍師に命じた。誰かが反駁しようとしたが、アヒムの赤い瞳に射られると、歴戦の老将が居竦んだように押し黙った。


 その夜は朔日だった。月のない夜空は幕を張ったように暗く、異様な空気に包まれていた。魔物たちも何かしら感じるところがあったのか、気配は感じるものの、息をひそめてこちらの様子をうかがっているようだった。殿下はアヒム一人を前線に出すことを躊躇われたが、アヒムの強弁に結局は折れ、自らも最前線に身を置くことで折衝とした。

 アヒムは合図するまで動かないようにと言いおくと、何の武器も持たず、歩き出した。十歩ほどの所で歩みを止めると、深い闇に向かって静かに片手を突き出した。


「―――――――――」


 アヒムが何か唱えた瞬間、魔物たちが躍り出た。術師たちが一斉にシールドを張り巡らせ、殿下が全軍に攻撃を命じようと手を挙た時、アヒムの手のひらから膨大な量の魔力が光の束となり、次の瞬間一気に爆ぜた。周囲が白一色に塗りつぶされ、隣に立つ者の輪郭すらおぼろげになったかと思った瞬間、すさまじい衝撃波が全軍を襲った。術師たちが必死にシールドを維持しようとありったけの魔力を盾に込めるが、それもあと数秒持つかどうか、既に亀裂があちこちに広がっていた。


 パリンッ


 グラスが粉々に砕け散ったような音があたりに響いたかと思うと、爆風が一同を襲った。

「身を引くくしろ!」

 シールドが砕ける瞬間誰かが叫んだ言葉に従い、俺たちはたがいに身を寄せあうと地べたに這いつくばった。兵士たちは全てを巻き上げようとする暴力的な魔力の嵐が過ぎ去るのを、互いの体をつかみあって何とかしのぐほか術がなかった。

 どれほどの時間が過ぎただろうか、巻き上げられた砂ぼこりが落ち着いた頃、ようやく兵士たちが三々五々頭を上げると、月もない闇夜に塗り固められたようだったその場所は、今や赤黒い炎によって照らされていた。チロチロと燃える黒い塊があちらこちらに散らばり、顔を近づけてみれば、それはあれだけ自分たちを苦しめた魔物の残骸だった。

「そんな、まさか」

 ポツリと落とされた言葉に顔をあげれば、炎に照らされた殿下の茫然とした顔があった。殿下の視線は前方に注がれていた。そこには、アヒムがただ一人平然と佇んでいた。

「アヒム・・殿」

 殿下の声に静かに振り返ったアヒムの瞳は、炎を受けてチラチラと異様な光を湛えていた。彼は感情を伺わせない表情のまま口を開いた。

「全て終わりました」

 そういうとさっさと幕舎へ去っていった。

 数刻後、朝日が昇ると闇に隠されていた光景が眼前に広がった。魔物の潜む森は跡形もなく消し飛び、攻めあぐねていた断崖絶壁の峻峰は3分の2が抉れ、湿った土肌を朝日にさらしていた。アヒムが佇んでいたその場所から扇状に地面は抉れ、干上がった大河の如き様相を呈していた。勿論、魔物たちに生き残りはおらず、全てが消し炭となっていた。

 完全な勝利だった。殿下は急使を王都に発し、動ける兵士たちは残党がいないか偵察に向かい、他の者たちは食料を調達がてら、近隣の村々へ事態の収束を伝えた。俺は他の神官と共に救護者の治療に当たった。戦いを終わらせた最大功労者のアヒムはと言えば、幕舎で静かに籠っているか、殿下に連れられて遺された地形を調査に向かっていた。相変わらず無駄口もたたかず、必要以上に言葉を交わすこともなく、淡々とした様子であった。


「アナスタージウス・リヒター様、少々お時間を戴けますでしょうか」

 アヒムに初めて声を掛けられたのは、10日間ほどたった日のことだった。戦後処理もひと段落し、怪我人の治療の目途も経ったことで、殿下は国王陛下の帰還命令をこれ以上のばすことはできず、明日には王都への帰還、それも凱旋軍としての華々しい帰還が決まった。王都からの伝令は、兵士たちに家族や縁者からの手紙をもたらし、俺の元にも過去を水に流し神殿への復帰を許すという猊下直筆の手紙が届いていた。

 アヒムが向かったのは殿下の幕舎だった。大本営であるそこもまた、明日の移動に備えて荷物がまとめられ、最低限の備品が残されているだけだった。主である殿下もまたそこにいらっしゃり、どこか困惑した態であった。

「ああ、リヒター卿。呼び出して悪かったな。明日の準備はもうできたか?猊下もことのほかお喜びであるという、勘気も解けたときいたぞ」

「はい殿下。お心遣いいただき痛み入ります。猊下におかれましては、都に帰還する最後まで気を抜かず、殿下に誠心誠意お仕えするようにと仰せでございました」

 教皇猊下が放蕩息子に長年頭を悩ませ、性根を叩き直そうと最前線にその莫迦息子を送ったというのは周知の事実であった。とはいえ、一粒種の息子の大事のこと、先頭の大勝利と息子の無事に、猊下がどの親よりも早く筆を執ったのも無理からぬことであろう。

「そうか。そなたとは都では顔を合わせる機会も少なく、噂を耳にする程度であったが、どうだ。こうして苦しい中で生活を共にしてみれば、なんとそなたの勤勉なことよ。流石猊下の御血筋とあって、身分の貴賤を問わず率先して治癒に当たる献身的な姿に、都では噂に惑わされ、そなたの本質を見誤っていたと皆が口をそろえている。帰還の暁には私からも猊下にそなたの働きぶりをお耳に入れておこう」

 はははと殿下もいつになく上機嫌であった。それもそうであろう。歴代の王や将軍たちが成し得なかった偉業を、自らの手で成し遂げたのである。総司令官として、軍人としての栄誉もさることながら、基盤の脆弱な側室腹の第2王子としては、ようやく自分の価値を示すことができたわけである。20台も半ばを過ぎつつある殿下にとって、ここは何とか軍人としての能力を示し、有力貴族の後ろ盾を得たいところである。此度の勲功によって、軍の中での地位も上がり、封土の下賜もありうる。そうなれば、皇位継承権も持たぬ厄介者の王子と疎まれていた彼にも、ご令嬢との喜ばしい話ももたらされるのではないか。そう考えれば殿下の上機嫌も無理ないものだった。

「呼びたてたのは、何でもアヒムが私とそなたに折り入って話したいことがあるというからだ。アヒムの身分を考えれば猊下の子息であるそなたをこうして呼びつけるのはどうかと思うが、此度の手柄のこともある、無下にもできぬからな」

 以前の俺であれば、いくら第2王子殿下に頼まれたからといって、無位無爵のアヒムのために時間を割くなどとは考えられなかっただろう。しかし、ミアと出会い、彼女の素晴らしさに救われた俺にとってみれば、平民だからと素気無く当たることはできなかった。なにより、アヒムは今回素晴らしい能力を示して見せた。帰還すれば必ず陛下から直々に褒章が下されるだろう。一部の兵士の間では、騎士爵、いや封土を持つ男爵位すら下されるのではないかと噂されていた。

「勿論でございます。アヒムの勇姿はこの目にしっかりと焼き付いております。私に否がございましょうか」

殿下は鷹揚に頷くと、アヒムに話を促した。アヒムは淡々とした調子で口を開いた。

「私は2年ほど前までヴァルトハウゼン公爵家にお仕えしておりました。ある事情があり、この度の討伐に参加することに相成りましたが、それに際しては公爵閣下のご推薦を戴いております」

彼は手紙を取り出し、広げて見せた。ヴァルトハウゼン公爵家の印章が押されたその手紙の最後は公爵閣下の署名でくくられている。

「公爵閣下はご令嬢であるエレオノーラ様のご婚約者候補に、殿下とリヒター様お二方の名前を挙げていらっしゃいます。この縁談に関しまして、お二方のご存念を是非ともお伺いしたく存じます。どうか、よくよくお考えになってお答えください」

 口を噤んだアヒムの体からは、闘気とも冷気ともつかぬ、まがまがしい気配がゆらりと立ち上っていた。俺たちがその圧倒的な圧力に耐え切れずに一歩さがると、アヒムは静かにその距離を詰めた。縁談?一体何のことなのだろうか。俺はミアのために神殿に復帰することしか考えていない。殿下はともかくとして、ヴァルトハウゼン嬢などとの縁談など寝耳に水もいい所だ。

「い、一体何のことだ?ヴァルトハウゼン嬢などとの縁談?俺はそんな話を聞いた覚えはないし、一切望んでもいない」

殿下はどうかとうかがいみれば、顔を青白くして首を左右に振っているところを見ると、きっと殿下にとっても初めて耳にする事柄なのであろう。確かに、身分やこの度の討伐の功績を鑑みれば、ヴァルトハウゼン公爵家との縁談が出てもおかしくないのかもしれないが、俺は断じてヴァルトハウゼン嬢との縁談など望んではいなかった。

「ヴァルトハウゼン嬢、など?」

 アヒムの瞳の凶暴な光が増し、幕舎を多く圧迫感がより一層強くなった。俺は内心悲鳴をあげつつ、じりじりとあとじさった踵がコツん、と木箱に当たり、それ以上後ろに下がれないことを悟った。狂暴な力を前に、殿下と俺は地面に座り込んだ。背中に触れる木箱や、家具、幕舎全体がアヒムの放つ魔力によって小刻みに震えていた。

「ヴァルトハウゼン嬢など、とおっしゃいましたか?」

 コテン、とアヒムが首をかしげた。傾いた顔に前髪がかかり、そこから瞳孔の開ききった赤い瞳が覗いていた。

「「ひいぃぃぃ」」

 幕舎内に悲鳴が響き渡った。


 俺たちはアヒムの誤解を必死に解いた。そうしなければ、明日、都に戻るのは栄誉ある凱旋軍ではなく、二つの冷たくなった躯だっただろう。物言わぬ俺たちを連れてアヒムは陛下に謁見するに違いない。

 とにかく、俺たちは誠心誠意、これまで経験したことないほどの危機感を以て、アヒムに弁明した。曰く、ヴァルトハウゼン公爵令嬢は素晴らしい女性に違いない、我々にはもったいない方で、そのお方との婚姻など全く考えたことはなかったし、これからも考えるつもりなど、毛ほどもない。もし仮に、万が一にもそんな話が舞い込んだとしても、我々はその話を受けることなどありえない。そもそも俺は神に生涯を捧げるつもりであり、都に帰り次第、神殿で非婚の誓いを立てるつもりだった、疑いがあるのであれば、今日これからでも近くの神殿に出向いて、誓いを立てようではないか。

殿下も、皇位継承を放棄した身であり、敢えてその疑いを抱かれかねないような高貴なご令嬢との縁談は望んでいない。帰還し次第、陛下と皇后陛下に申しあげ、母妃の実家と同じ子爵家ほどの家格の家門との縁談を申し上げるつもりだった、とか何とか。

 そうして、俺たちの必死の弁明の甲斐もあり、何とかアヒムの誤解を解くことができ時には俺たちは息も絶え絶えの状態だった。

翌日には凱旋の途に就き、十数日後には都に凱旋した。しかし、この恐怖体験のせいで、アヒムが近くに控えている間、殿下と俺は食事が喉を通らず、しくしくと痛む胃と共に連日の凱旋記念の宴に臨まなければならなかった。勿論、内々にあった公爵家からの婚姻の打診に対しては、帰還した翌日にお断りの返事を書いた。その間中ずっとアヒムは俺のそばに控えていた。アヒムの目の前で封をし、それを手渡すと、あの悪魔はにっこりと笑って、窓の外に泊まっている馬車を指し示すと、非婚の誓いのために神殿に向かうよう促した。

 おそらく殿下もまた同じような目にあったのであろう。殿下はあれから1週間も経たないうちに、名前ばかりの名門伯爵家の令嬢と婚約され、半年後にご結婚された。あれから殿下とお会いすることはほとんどなかったが、先日、神殿でばったりお会いする機会があった。次の春にはお子様が生まれるらしく、その無事を祈りにいらっしゃったらしい。第3王子であるヴォルフガング殿下の側近という立場上、殿下との交流はほとんどなかったが、殿下のことは戦友だと思っている。そして、恐れながら殿下も同じではないかと推察している。あの恐ろしい伝説の魔王の如きアヒムの脅威から逃れた子羊として、俺達には奇妙な連帯意識が芽生えていた。


あの日、俺も殿下も極力ヴァルトハウゼン公爵家には関わらないと固く誓った。特にヴァルトハウゼン公爵令嬢とは何が何でも接触しない。そうしなければ、あの日の悪夢が再び現実となると、確信しているのだから。


そして今日もまた、すがすがしい朝の空気の中、厳かに営まれるミサへと向かうのだった。その数分後、予告もなくヴァルトハウゼン公爵家の馬車に押し込まれて、魔王の巣窟に強制的に連れられてゆくことなどなど知る由もなく。どこかで哀れな仔牛の歌が流れていた。

次は本編を投稿する予定です。

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