問おう、あなたが私のマスターか。
「ここは......?」
転移人の中に飛び込んだ華座理の目に映ったのは、石造りの玉座だった。
周りは煉瓦で囲まれており、柱は神殿風とチグハグな様子が見える。しかし華座理はそんなことは気にしない。
華座理は魔族の青年を探す。魔族の青年は腹から赤い血を流しながら息絶えていた。
華座理はやることがなくなった。本来であればここで魔族から説明を受けて球に触れて、魔王となるのだがその説明役がいなかった。
その時華座理はフラッと倒れる。華座理の『再演』は燃費はそこそこだが、今の華座理の体力では手刀で連続発動など厳しいことだった。
それでもここまで動けたのは華座理が疲労を気にしなかったからだ。華座理はそのまま倒れ込み———
「うぎゃっ!?」
しかし床に河瀬が現れる。そのまま河瀬の顔に華座理の胸が当たる。
「......ぶはっ!?」
河瀬は起き上がる。そのまま華座理の胸を楽しみたかったが、華座理が何も言わないので気になって起きたのだ。
「......」
「おーい?華座理ー?」
華座理の体を揺するが起き上がらない。そこで明滅していた転移陣が消滅。
河瀬は諦め、周りの探索をする。
「お......?これは......?」
しばらくすると、玉座の裏に空間があるのを見つける。
「隠し部屋ってやつかな......調べてみよっと」
そのまま河瀬は進む。少しすると一個の輝く球が置かれた部屋を見つけた。
「えーと、『勝手に触るな』?なら勝手に触れってことだよな?」
壁に書かれていた注意書きを無視して河瀬は触る。
『マスター承認中......該当例なし、新規のマスター判定中......該当なし。異常発生と認定します。仮マスター認定を開始します』
「うおお!」
すると、球から機械的な音声が響く。河瀬はこれが噂のペッ◯ー君かと思った。
『仮マスター認定完了。ようこそおいでくださいました、仮マスター。』
球は河瀬に話しかける。
「えーと、その仮マスターって俺のこと?」
『肯定』
反応が返ってきた。河瀬は感心する。
———異世界って本当にすごいんだな。
「なんで仮?仮じゃなくてマスターで良くね?」
『仮マスターは正規のマスターではありません。よって正規のマスターが認識されるまでの一時的措置としてマスター認定されました。』
「ふーん、それでそれで?俺には何ができるの?」
『まずは初期設定を行なっていただきます。前回のマスターの設定したダンジョンを引き継ぐか、全てを一掃し新しくダンジョンを始めるか。どちらにいたしますか?』
河瀬は考える。彼は中古ゲームを買って始める際、セーブデータは全て消すタイプである。
「うーん、じゃあ消しておいてよ」
『了解。削除開始......削除中......削除中......マスタールーム及びエントランス以外の全部分を削除しました。』
こうして魔王国の魔族100年の歴史は何も知らぬひとりの男によって潰えた。
「んじゃ、ちょっと待っててよ!これから華座理起こしてくるからさ!」
そう言ってマスタールームを河瀬は離れる。そのまま華座理に近づき、
「おーい、華座理ー?」
再度声をかける。すると先ほどとは違い、華座理は目を覚ました。
ムクリと起き上がる華座理。
「華座理、お前の胸最高だったぜ!」
「そっか」
河瀬の言葉に、華座理は返答する。何も華座理は感じない。そう思っていたが……
ドン!
という音がする。見てみると、華座理の腕が河瀬の胸に伸びていて握り拳をぶつけている。
そのまま河瀬の胸は打ち抜かれ、風穴を開ける。
「お、おお?」
「......?」
何故何も感じないはずの華座理がこうしたのかはわからない。華座理自身もそれはわからず、何故自分が河瀬の胸を殴ったのか、そして何故河瀬の胸に風穴を開けたことにここまで動揺しているのかわからなかった。
「おー......」
しかし、華座理に開けられた穴はすぐに塞がる。『超再生』の力だ。
「やっぱ、華座理はこうでなくっちゃな!」
「......え、うん......」
河瀬の言葉に華座理は戸惑いながら頷く。
「それでさそれでさ!さっきあの椅子の奥に丸い球があって、それ触ったらなんか動いたから華座理も触ってみてZzz......」
「ええ......?」
華座理は目の前ですぐに眠りに入った河瀬を見る。ここで戸惑いが生まれるくらいには、華座理の精神は回復していた。
(と、とりあえず丸い球って言ってたよね。それ触らなきゃ......)
華座理は玉座の裏に周る。華座理もまた、マスタールームを見つけた。
「えっと、これかな......?」
『マスター承認中......該当なし、新規のマスター判定中......判定成功。仮マスターをサブマスターとし、正規のマスターを認定します』
「わっ」
マスタールームの輝く球を触った華座理は驚く。そして球に語りかける。
「お、女の子......?」
そう華座理が聞いたのは輝く球に設定されたボイスが少女のものだったからだ。
これは昔幼女趣味の魔王が———ではなく、魔王になった幼女が友人を欲したが故にである。
『性別はございません。設定ボイスを変更することも可能ですがいかが致しますか?』
「えっと......そのままで。それで、貴女は......?」
華座理は球に問いかける。
『私の名称はダンジョンコアcordー21538です。これよりよろしくお願いいたします。マスター』
「あ......うん......」
球———ダンジョンコアは華座理に質問する。
『マスターの名称をお聞かせ願えますか?』
「わ、わたし?私は......華座理、だよ......」
『名称を登録します......登録完了。よろしくお願いします、マスター・カザリ。』
「よろしく......」
ダンジョンコアと華座理は互いに挨拶する。
「えっと......それで私は何をすればいいの......?」
華座理はダンジョンコアに訪ねる。彼女は目的が欲しかった。
『如何様にも。マスター・カザリは多くの権限を有しています。生命の創造、ダンジョンの構築、そして侵攻......どのようになさっても構いません。すべては貴女の御心のままに。』
「ええ......?」
しかしダンジョンコアは『好きにしろ』と言う。それでは華座理は動けなかった。
しかしそんな優柔不断なマスターをサポートすることもできるのがダンジョンコアだ。
『では、まずは居住区画から制作してみてはいかがでしょうか?ポイントは少ないですが、とりあえず最低限の部屋ならば製作可能です。』
「あ......住むところ......」
華座理は別にこのままマスタールームで雑魚寝でもよかったが、華座理の脳内に浮かんだ河瀬の存在が華座理を引き止まらせる。
「それじゃあ、最低限の部屋を一個作って欲しい。できる?」
『了解しました。何処に製造しますか?』
「何処に......うーん......」
その後、紆余曲折あったものの30分後には河瀬用の部屋が製作された。華座理は河瀬をお姫様抱っこの状態で運び、ベッド(スプリングなし、木の板を組み合わせただけ)に寝かせ、マスタールームに戻る。
「それじゃあ......次は何をしたらいいかな?」
『次は魔物の製造となりますが......現在は魔物が登録されておりませんので登録からとなります。
登録方法は二つ。設計図を手に入れるか、そして自分で設計するかの二つです。前者は『ダンジョンマスター御用達!MASUZONN』の使用を推奨します。』
「マスゾン......」
華座理は何処かで聞いたことのある名前を復唱する。
「じゃあ、そのマスゾンっていうのを開いてくれる?」
『了承。ホームページに移動します。』
そして華座理の前には空中に浮かぶ電子的なサイトが開く。さながらAR表示だった。
「ん......このポイントっていうのはどうすれば手に入るの?」
華座理はマスゾンの使用貨幣と思われるポイントを指す。そこには『マスター・カザリ ポイント残高10』と書かれていた。
『ポイントはダンジョン内で物品や死体が分解された場合、その生物の製造にかかるであろうポイントを計算、算出されたポイントの5割をダンジョンマスターが入手することができます。』
「へー......」
華座理はこの状況に慣れつつあった。